第二章 21
「うわぁ!」
上空に上がった飛行船の観覧窓に張り付いて、シュテンが歓声を上げていた。
「そう言えば、シュテンは飛行船の移動は始めてだったね。ドラゴンやワイバーンはこんな世界を見ながら、獲物を探してるんだよ。例えば、あそこにホワイトディアがいるだろ。上空からだとこんな感じで見えるんだよ。それがハグレで一頭だったりすると、羽を畳んで急降下して一撃を加えて捕獲するんだよ。」
リュートは飛行船に少し高度を上げるように指示した。
「ほら、前の方を見てごらん。地面って真っ直ぐじゃないのが判るかい?」
「あっ!ホントだ。少し丸くなってる。」
「なんだ、ルリも知らなかったの?星はね、このボールみたいに丸いんだよ。スゴく巨大なボールだから平らに見えるけど、こうやって地面を離れて見てみると、丸いのがよく理解できるだろ。」
その説明を聞いただけでは、まだ十分に理解できるとは思わなかったが、まだまだこれからも学ぶ機会は多くあるだろう、今は興味を持ってくれれば良いと思っていた。
「空を見てごらん。」
二人は空を見上げた。今日は雲一つない快晴で、視界を邪魔するものは何もなかった。
「空も高い方へ行けば行くほど青みが濃くなっていくのが判るかい?」
二人がコクコクと頷いたのを確認してから、更に説明を続けた。
「この飛行船でも行けないくらい高い所まで昇って行くと、周りは真っ暗になるんだよ。お日様に近づくんだから、もっと明るくなるはずだと思うかもしれないけど、暗くなっていくんだよ。不思議だよね。」
というような説明を続けていたリュートの目に、地上の不思議な形をした山が目についた。
「何だ、あれは?」
前方にある山が中腹よりスパッと切断され、その上に真っ黒な石のような物で作られた四角錐型の建造物あった。一見はピラミッドのようにも見えるが、それよりも急峻でより尖った印象が強かった。
「……全部壊ちたはじゅなのに……」
「ん?ジェシカは何か知っているのか?」
暫く黙ったまま、じっとその建造物を睨み付けていたジェシカが重い口を開いた。
「あれは、わたち達の敵が作った軍事基地。勇者の使ってたあの子も、あいちゅらが盗んでった。」
「軍事基地?あいつら?もう少し詳しく教えて。」
言われたジェシカが昔を思い出すようにポツリポツリと話し始めた。
「遠い遠い昔、今から一万五千年前のお話。私達が神ちゃまとトンネルの中の片ずゅけを終わって一休みしている時に、それは起こった。」
それは今まで聞こうと思ってもなかなか切り出しにくい話だった。ジェシカが話せるようになったら、自ら話してくれるだろうと、リュートは放置していたのだが、これは良い機会かもしれないと、ジェシカの話を促した。
「わたち達は、神ちゃまがこの世界に来て、どんな暮らしをちていたのかは、あまりちりません。少なくとも、わたち達と一緒にいた時には、神ちゃまの周りには誰も居なくて、わたち達三人と神ちゃまの四人で、暮らしていまちた。」
「少し長くなりそうだから、お茶でもしながら話を聞こうか。あの近くの湖の畔に飛行船を降ろしてくれますか?」
テーブルの上には、ポテトチップやクッキー、カットフルーツが並べられ、各自が好みのドリンクを冷蔵庫から取り出して、カップに注ぐと思い思いの座席に腰を降ろした。
リュートは先程のジェシカの様子が気になったので、彼女の隣の席についた。




