第二章 20
それから半年程、レベルアップの為のダンジョン探索を続けているうちに、リュートの剣、槍、銃のスキルは武術スキルに統括され、今は武術から武士、武士より部王へとクラスアップしていた。
最初二桁だったシュテンの体力も、今では五桁まで上昇しており、当時のひ弱なおどおどしていた彼女の姿はどこにも見当たらなくなった。生えてきたスキルは、リュートと同じく剣術、槍術、銃術の三つで、相変わらず文字化けしたスキルはあったが、今では全く気にすることもなく、レベルアップに専念している。
ルリの体力は三万を超え、魔力は五万を超えていた。もはやこの世界で十本の指に入る魔導師と言っても過言ではなかった。時空魔法もより進化し、今では一片が五十メートル程の固定空間を作ることが可能になり、一キロ以内の既知の空間であれば転移も可能であった。
ダンジョン探索は、ルリ、ジェシカ、シュテンの三人と白と黒の二匹により行われることが多くなり、リュートは新しく作った一片が三十メートルのユニットハウスを作業場へと改良し、その中での作業に熱中していた。
現在、彼が製作しているのは、元の世界の対戦型バトルゲームで、ジェシカに敗北を喫した後に、二度とその悔しさを味わうことがないようにと、ゲーム上で改良に改良を重ねて製作した機体の再現である。周囲から、天上天下唯我独尊という言葉はまさにこの機体の為にこそある言葉だと称賛された愛しの愛機である『麗雅』。その機体をこの世界に降臨させる。それが、現在のリュートの最優先課題である。手始めとして手をつけたのが、最初に敗北を喫した、『灰塵』の機体の再現だった。
「ん?もうそろそろ帰ってくるかな。そろそろ食事の支度を始めようかな。」
そう言いながら、リュートは作業場を片付け、そのユニットハウスをリングへと収納した。
飛行船へと戻り、今晩の食事はカツカレーとシーザーサラダ、コーンポタージュスープとし、デザートには杏仁豆腐にカットフルーツシロップ漬けを添え、ドリンクにはストロベリーラッシーを大きなボールに氷を浮かべて準備した。
「「「だだいまぁ!」」」
「神ちゃま!ここのダンジョン制覇したよ!ダンジョンコアは、けっこう立派なものが手に入ったから、面白いものが作れるかも。」
「師匠!私も武術のスキルを手に入れたよ。体力も二万を超えて、新しい術もいっぱい覚えることができたよ。」
「私もね、やっと火魔法と雷魔法の神級魔法を二つ覚えることができたよ。しかもね、転移も距離が伸びたのと、ボス部屋以外ならダンジョン内でも転移が使えるようになったんだよ。スゴいでしょ!」
「「ウォン!ウォン!」」
「白と黒もね、頑張ったから変身できるようになってね、白は氷属性の霊獣神狼王、黒は火焔属性の霊獣神狼王に進化することができたんだよ。」
最高の一日だったようで、これは追加でケーキも準備する必要があるなと、リュートは覚悟した。
「「「「かんぱ~い!」」」」
テーブルを囲む全員が満面の笑顔で、美味しそうに食べるのを見て、リュートは満足感に包まれていた。
この世界に来た頃は、たった一人で毎日を過ごし、食べるものも魔物の肉くらいしかなく、生きるだけで精一杯だったことが頭に浮かび、今こうやって家族と呼べる程の仲間達と過ごしていることに目頭が熱くなり、涙がこぼれた。
「ん?神ちゃまはどうして泣いてる?ジェシカが隣に居て嬉しいでしゅか?」
「えっ?リュート泣いてるの?」
「師匠!目にゴミでも入ったのですか?」
三人三様のリアクションに、またまた目頭が熱くなり、両頬を真っ赤にしながら必死に誤魔化すリュートだった。
ーーー
楽しい食事タイムが終わり、今後のことについての話し合いが持たれた。
「みんなもだいぶ成長したし、これからのことを相談したいんだが、大丈夫かな?」
リュートの神妙な顔つきに、その場の全員がコクコクと頷いた。
「食糧は何とでもなるんだけど、各自の予定と現在の情勢についての情報が全く足りないんだよ。僕とジェシカはについては、せいぜい残してきたジャック達やドゥム達ゴーレム軍団のメンテナンスぐらいで、非常時にはジェシカを通して連絡が入るから心配してないんだけど、ルリとシュテンはどう?」
「私は鬼の証である角を失っています。鬼の国とは縁を切られた存在だから、これからの予定は強くなることだけです。師匠に付いていきます!」
そう言って、隣のジェシカとガッチリ両手で握手した。
「私は……鬼の王の所へ移住された民達のことは気になりますが、一番気になっているのは、リトのことです。転移の出来る魔法使いや魔導師の数は多くはありません。魔族意外と使い手で、一番可能性の高い種族はエルフだと思っています。一度確かめに行きたいです。」
ルリが少し戸惑うような表情を見せ、覚悟したように自分の思いを語った。
「この前助けた人達のことは?」
「あの人達には、セレクトやマヨルカがいます。他の大人の片達にもしっかりした人達が多かったので、心配はしていません。それにあの地を護るのは、ジャックやドゥムやゲルッグ達です。彼らなら王国軍が攻めてきても護りきれると思っています。」
迷いを振り切ろうとしての言葉だというのは判っていたので、あえて確認するようにリュートは尋ねた。
「確かにそうだけど……皇女としての責任とかは良いの?」
その言葉にルリの表情はキリッとしたものに変わると、
「私はここであなたにたくさんのことを学びました。世の中には、たくさんの政治の仕組みがあることも知りました。その中で王制の弱点も知りました。もしも、愚王が立てば国は滅びます。そうならぬように、民の力を活用して、能力に優れたものが国を背負うことが出来るようになればと考えました。」
そのルリの言葉に少し不安を感じたリュートが、言葉を足しました。
「能力があるだけでは足りないんだよ。世襲であれば、親が民を大切にすることを小さいうちから教えることが可能だけど、ある程度の年齢になって能力が開花した人には、それを学ぶ時間が足りない。自分の利益の為だけにそれを使えば、害にしかならないんだよ。それも覚えておいてね。」
そう言われたルリは、まだ十分に理解できていないのか、キョトンとした顔をしていた。
「じゃあ、次の目的地はエルフの所だね。三日後には出発するから、食糧の確保や各自の支度をしっかりしておくように。では、解散。」




