第二章 19
「はい、今日は新しいダンジョン。俗称『ホーンテッドダンジョン』でのレベル上げを行いたいと思います。引率はジェシカ大先生です。はい、拍手!」
「「パチパチパチパチパチパチ」」
「危なくなったら、わたちがいます。何の心配もちぇずに、ガンガン行っちゃってくらさい!」
「「おー!」」
そこには大中小の合わせて三体の黒い装甲を纏った騎士が立っており、大中の前で、小が無い胸を反りくり返していた。
ちなみにシュテンは、先日灰色狼を倒したことで、体力は一挙に二百台へと上昇しており、その理不尽さに、リュートが泣きながら両手で大地を叩き続けていたのは有名な話です。
「ちょれでは、二人とも刀を抜いてください。第一層は弱っちいノーマルスケルトンばかりですから、首を斬り落としゅか、魔石を破壊ちゅれば倒せましゅが、魔石は利用価値がありゅので、それぞれ二本の刀で片っ端から、首チョンパちゅるのが理想でちゅ。」
「「イエス、マイロード!」」
「突撃でちゅ!首を狩りちゅくせ!」
「「おー!!」」
「「ハッ!ハハハハハハハ!」」
ジェシカの言葉で、墓場ダンジョンへと高笑いを響かせながら飛び出していく大中を、傍らからルリと白と黒が可哀想なものを見るかのように眺めていた。
「ジェシカ、楽しそうね。」
「うん!神ちゃまとシュテンと一緒に、おままごとしてるみたいで、楽しくてたまらないでちゅ!」
その後、三十分もしないうちに、二人がジェシカの元へと帰って来た。
「第一層、ノーマルスケルトンの掃討作戦完了しました!次の指示をお願いします。」
「良ち、良く頑張ったわぎゃ精鋭達よ!次の攻略目標は第二層のノーマルジョンビでちゅ。ここも基本は首チョンパてちゅ。行くじょ!」
「「おー!!」」
三人が第一層を去り際に、ルリがこっそりシュテンの体力を鑑定すると、その体力は既に五百を超えており、魔力も三百近くまで上昇していた。
「ウカウカしてると抜かされちゃうかもね。白、黒、私達も頑張るわよ!」
そう言いながら、その一人と二匹もあっという間に姿を消した。
ーーー
その日の夕方
「はい、今日はお疲れ様でした。ジェシカも自分のスキルアップを棚上げして、僕達のレベル上げにお付き合いしてくれて本当にご苦労様でした。」
大中が、二人揃って小の前で頭を下げた。
「ここのダンジョンは雰囲気的に汚いから、そのままご飯にするより、お風呂で綺麗にしてから食事にしたいと思います。じゃあ、お風呂に行くぞぉ!」
「「おー!」えっ?」
「ん?シュテンはお風呂が苦手か?そんなんじゃ、モテないぞ!」
と言われて、大と小に両側から腕を取られて、 中は強引に大浴場へと連れていかれた。
「えっ!えぇぇぇぇぇぇぇ!」
暫くして、大浴場からリュートの絶叫が聞こえてきて、タオル一枚で大事な所を隠した彼が飛び出してきた。
「な、無かった!マジか……マジですか…まさか女の子だったとは……」
全員のお風呂タイムが終わり、食堂で一人床に正座させられたリュートが、ルリに罵倒されていた。
「クズ以外の何物でもないです!痴漢、エロ男、セクハラ上司、そんな言葉は、この男の罪の前では生温い!歴史の汚点、汚物という言葉こそが相応しいです!」
「す、すみませんでした!」
そんなリュートに人差し指を突きつけながら、ルリが言葉を続けた。
「良いですか!この世界の貴族の娘は、早ければ六歳位で婚約する子もいるんです。八歳のシュテンには婚約者がいてもおかしくないんですよ!判ってますか!」
「誠に、誠に申し訳ありませんでした。」
リュートは更に深く擦り付けるように頭を下げた。
「神ちゃま、ジェシカはこれからもいっちょに入りたいな。ちぇなかとかも洗ってもらいたいにゃ!」
「ジェシカは黙ってなさい!」
「は、はい……」
ここで、ずっと黙ったまま下を向いていたシュテンが口を開いた。
「鬼族の娘は、最初に肌を見せた殿方と結婚するという仕切りがあります。私はリュートなら構わないです。」
その言葉に焦り動転したのは、リュート以上にルリだった。
「そ、それは難しいんじゃないかなぁ。リュートは異世界の人間で、こっちの仕切りは知らなかったんだし…ん、無理よね。無理だと思うわ。」
「わたち、お腹空いた。」
「そうね、そうよね。もうご飯の時間よね。今回の問題はこれでお仕舞いね。リュートは今後十分注意するようにね。じゃあ、ご飯の支度お願いします。」
と早口で結論を急ぎ、その場を解散させてから、ホッとしたルリの姿が見えなくなった所で、
「チッ!」
と、舌を鳴らしたシュテンだった。




