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第二章 18

「ジャーン!それでは、新人ちゃんの名前を決めよう会議を始めたいと思います。最初に、新人ちゃん、挨拶をお願いします。」


不束者(ふつつかもの)ですが、よろしくお願いします。」


そう言いながら、その子は立ち上がってペコリとお辞儀をした。


「では、広く皆様より意見を求めたいと思います。よろしくお願いします。」


「ハイ!ねぇ、あなたはそれで良いの?自分の名前だよ。」


「ルリさん、発言は指名を受けてからにしてください。」


「はい!元の名前が判れば、それにこしたことはありませんが、全く手がかりがない以上、これから家族になるんだという思いも含めて、皆様方に決めて頂けると嬉しい

です。」


それを聞いて、ジェシカがその子の頭を良い子良い子するように撫でた。


「はい!」


「ジェシカさん。」


「私は、最初に私の殺気を当てられた時の印象が強いので、『おもらし』ちゃんが良いと思います。」


「「それは無しで!」」


即座に、本人とルリの否定の言葉がハモった。


「え~っ、良い名前だと思ったのに。」


「ハイ!」


「ルリさん。」


「私は森の大木の洞の中で寝ていたという事実から、眠れる森の少女という伝説にちなんで、『スリーピー』という名前を提案したいと思います。」


おいおい、その名前はペットに付ける名前だろと、その子は頭を抱えた。


「じゃあ、司会である僕からも提案するね。僕達の元居た世界にも『鬼』という一族が居たんだよ。当時の人達よりはるかに身体が大きく力も強くて、見かけも彫りが深いので、おそらくは他の国から流れて来たと言われていたんだけど、当時の支配者からは疎まれてね……迫害、追放の憂き目にあったんだよ。」


「スゴく興味深い話だけど、それとこの子の名前と何か関係があるの?」


「話はこれから何だけど、バラバラだった鬼の一族をまとめ上げて、当時の支配者階級に立ち向かった鬼の王の名前が『しゅてん』というんだ。ほら、この子の髪、白い髪の中に赤い髪の毛が纏まって両サイドに生えてるだろ。僕の国の言葉で明るい赤は朱と言って、纏めるは別の読み方で『てん』と読むんだ。だから、朱を纏める。朱が纏まるという意味で『朱纏(しゅてん)』シュテンというのはどうだろうか?」


「お、鬼の王の名前ですか……畏れ多くないですか?」


「強くなるんだろ。目標は高く持った方が良いよ。」


「これは、もう決定ね!あなたの名前は『シュテン』よ。強くなりなさい!」


椅子に立ち上がり、無い胸を反らして、威風堂々と語るその時のルリには、いつもに無い迫力があった。


「シュテン、ここに居るこの娘は、魔族の皇女様だよ。その皇女が認めたんだ。これは受けるしかないよ。」


「ちょうです!その神ちゃまの付けた名前は、この『殲滅の魔天使』のジェシカも肯定ちます。励みなちゃい!」


「魔、魔族の皇女様?伝説に出てくる超古代文明を滅ぼした殲滅の魔天使様……突っ込みどころ多すぎますが!ビックネーム過ぎて頭が割れそうです!」


シュテンは、テーブルに突っ伏して両手で頭を抱えて、呻いていた。


「神ちゃま、神ちゃま!わたちの名前はどうやってちゅけたの?」


「そ、それは……」


少し恥ずかしかったが、照れくさそうにリュートは素直に答えた。


「イメージしにくいかもしれないけど、僕はあちらの世界に居る時に、人が搭載するタイプのバーチャル機動戦士の操縦者だったんだ。デビュー戦から負け無しで、ちょっと天狗になってた頃に対戦したのが、黒銀(くろがね)のボディを持った『灰塵の戦乙女(ヴァルキリー)』と呼ばれたジェシカだったんだよ。当時の世界No.1機動戦士で、その強さは破格でね。使用する武器もあったと思うけど死神と呼ぶ人もいた。でも、僕は初めてその人に負けた時、その美しさに感動したんだ。僕には女神様に見えた。だから、僕はそんな強さと美しさを持った機体になってほしいという願いを込めて、ジェシカと付けたと思う。」


ーーー

「ヘックション!」


世界樹の聳える森にあるエルフの集落の族長の屋敷から、女性というには大胆なくしゃみが聞こえてきた。


「まぁた、誰かが私の噂をしてるのかねぇ。私も罪な女だよ。」


いやぁ、おそらくは五千歳を超えて生きているハイエルフの方に恋心を抱く輩は居ないだろうなと思い、マリナが間違いを正すか正さないか迷っていると、部屋の入り口に誰かが現れた。


「アリアナ様、魔皇国関連の追加報告が入りました。」


その言葉を聞いて、アリアナの片眉がピクリと上がった。


「入って、報告しな!」


「はい!」


一人の緑色の髪をしたスラッと背の高い白い肌の男で、エルフの森の情報を管理しているエルドリッジが、部屋の中へと入り、アリアナの前で頭を垂れた。チラリと私を見る男の視線に、アリアナの意向を窺うと、顎で後ろの席に移るように合図された。


「魔皇国の反乱軍の拠点であるミトリアで黒死病が発生しました。」


「何!」


アリアナの何事にも動じない精神(こころ)が震えていた。この世界での黒死病は死の使い以外の何者でもなかった。


「勇者の手の者が、マーモセットを使い街に拡散したようです。その獣使いは感染して死亡しておりますので、証拠は残っておりません。」


「続けな!」


「街に黒死病が蔓延し、殆どの市民が死に絶えるのと同時に街中に全方向より火が放たれて街は消滅しましたが……」


「どうした?早く続きを!」


「はい!街の周辺に待機していた王国軍に(おびただ)しい光の矢による攻撃があり、第二、第三師団は殲滅されました。更に……」


「更に?」


「勇者がその正体不明の敵に対して、魔皇国の帝城を破壊した兵器を召喚した所、地上より一本の銀色の光が放たれ、召喚門より出現したあの究極破壊兵器を一切の反撃を許さぬうちに破壊しました!」


「な、なんだって!あれにはかなりの数の防御用の結界が展開されていた筈だよ!」


「はい、その地上より放たれた光は、その全ての結界を次々と破壊し、目標に到達すると縦横無尽に動き周り、兵器を粉々に打ち砕いたようです!私も信じられず、直接斥候に何度も確認を取りましたが、本人も夢でも見ているようだったと語っておりました。」


「……搭乗型機動兵器…ないしはそれに準ずる物……あるのか?この世界にも……」


「さ、更に追加の報告があります。」


「……続けな!」


「病に侵されていた筈のシスター三人が、黒死病より回復し、始まりの神殿へと移動したのが確認されています。その際に教会に保護されていた数十人の児童も、共に移動したのが判っています。」


「か、回復したというのか……」


「そ、その治療の際に教会前の広場に、石でできていると思われる建物が突然現れ、そこで治療が行われたとのことです。」


「これは直接斥候から報告を受けないといけないね。時間と場所を設定してくれるかい?おそらくは、いや間違いなく魔族側に勇者クラスの異世界人が味方についた……」

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