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第二章 17

そんなことを考えながら、私はどんどん森の奥へと進んでいた。


裸足の足には無数の傷ができたが、そんな傷より突きつけられた自分の弱さが辛かった。


殆ど周りを見ることもせず、ひたすら全力で走っていた私は、藪に隠れていた崖に気がつかずに、足を踏み外して崖を滑り落ちた。


「いたぁ……」


間抜けにもそんな言葉を悠長に口にした私の前には、体長十メートルはあろうかという地竜がいた。


「アガァァァァァァ!」


終わった。間違いなく終わった。あそこに居た彼女達ならどうにかできる相手かもしれないが、今の私には何もない。ただ食べられるという選択肢しかなかった。私は諦めて目を閉じた。


「こら、強くなりたいんなら目を閉じるな!諦めずに前を見ろ!」


私の目の前には、あの美味しい料理を作る男の人が立っていた。


黒い全身を覆う鎧を身に纏い、右手には大きな刀を持っていた。


そう言えば、この人には能力値を確認しなかったなと、こんな時にも関わらず私はのんびりと考え、なぜだか判らないが、この人の背中を見ていると、昔に私を護ってくれていた大きな背中を思い出していた。


「動くなよ。ここにいろ。」


そう言うと、私がヤダという前に、男の人の姿はブレるように消え、その手にしていた刀で地竜の首を一刀両断していた。目に見えない速さで、あっという間に地竜を倒したその強さに私は驚愕し、決して自分には届かぬであろうその強さに強い憧れを抱いていた。


「僕はね、体力二桁で、魔力も二百ないからね。」


「へっ?」


何?この人は何て言ったの?あまりの常識外の言葉に、私の思考は停止し、目を見開いたまま固まった。


「ん?聞こえなかった?さっき、僕だけ返事できなかったから教えておこうと思って言ったんだけど、必要なかった?」


「あり得ない!絶対にあり得ない!そんな低い能力値の人間が地竜をあんなに簡単に倒せるわけがない!」


その人は、倒れた地竜をリングに収納しながら、私の質問にも丁寧に答えてくれた。


「弱い人はね、色々と工夫をしたり、武器を作ったり、戦略を練ったりしながら、強い者を倒せば良いんだよ。」


そう言いながら微笑む彼は、とても優しい表情(かお)をしていた。


「例えばね、さぁこれを持って。」


そう言って、彼は私に鉄でできた取っての付いた筒状の口を持つ武器らしき物を手渡してきた。


「これはねサブマシンガンという武器なんだけどね。ここをこうやって持って、こう構えて、ここの引き金に指を乗せて、そうそう上手上手。さて、あそこの繁みにいる狼が見える?」


三十メートル程先の繁みに三頭の灰色狼がいるのが確認できた。灰色狼はダンジョン中層の魔物の代表で、今の私の能力値では掠り傷一つつけられない程の強さを持っていた。


「さぁ、その口を彼らに向けて、その引き金を引いてみて。」


私は彼の言葉に導かれるように、右手人差し指を動かした。


パララララララララララ


軽快な音に合わせて、筒状の口から細かな火弾(ファイアバレット)が途切れることなく吐き出されていく、射程が魔法よりも長いようで、狼の身体はあっという間に蜂の巣のように穴が開いていく、その三頭の狼は藪から出てくることも、逃げることもできず、その場で息絶えた。


「……ハァ」


私は小さなため息をつき、私の背中をゾクゾクするような、痺れるような感情が走り抜けていった。


「ね!例え弱い人間であっても、策略や武器や道具を使えば、強い奴でも倒せるだろ。」


「は、はい!」


私は、この瞬間にこの人の虜になったんだと思う。その笑顔に魅せられたんだと思う。


この人は、きっと世界を動かす人になる。力がある人や、強い人や、頭の良い人ばかりを大切にする世界ではなく、弱い人や、ハンデを背負った人や、不幸な人を見捨てない、そんな人でも笑顔でいられる、夢を見ることが出来る世界を作ってくれる。


まだ幼かった私は、そう思い込んでしまったんだと思う。


その時は、この想いが後に彼を追い込んでしまうことになるとは思いもしなかった。

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