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第二章 16

目を覚ました子供は明るい光に目を細め、周りを探るように見回し、三人と二匹に気がつくと、全身に緊張を走らせた。


「あっ。動かないでね。治療用の管が抜けちゃうから。危ないからね。」


言われた子供は、自分の身体を確認し、左腕に射し込まれている針のようなものとそれに繋がる管に気がついた。


「私に何をしているの?場合によっては殺す。」


その言葉にジェシカが反応し、全身から殺気を発すると、


「ヒッ!」


と短く悲鳴を上げて、ベッドのシーツに染みを作り、そのまま気を失った。


「お姉ちゃんの迫力半端ないね。」


「ちつけは最初が肝心。」


「じゃあ、ベッドの片付けと、この子の着替えはお姉ちゃんに任せて、僕は食事の支度をしてくるね。」


そう言いながら、点滴セットを外して、リュートはさっさと部屋を出ていった。


「……ルリ」


「ハイハイ、判りました。でも、こんなに簡単に気絶するなんて……これも仮死スキルの影響なのかしらね。魔物の前で気絶なんてしたら、格好の餌だよね……」


ーーー

リュートがキッチンから出てきて、テーブルに三人分のフレンチトースト生クリーム苺ジャム添えと、ホットミルク二人分とロイヤルミルクティ一人分に加えて、ガラスのカップにカットフルーツを盛り合わせたものを並べていると、客間からルリとジェシカに連れられて白髪に朱い房のある短髪の子供が入ってきた。


キュルルルルルルルル!


入ってくるのと同時にその子のお腹から盛大な音が聞こえ、恥ずかしさにその子は顔を真っ赤にして下を向いた。


「恥ずかしがることなんてないよ。料理を作った者にしたら、最高の誉め言葉だからね。」


白と黒にオーク肉のステーキサラダ添えを出しつつ、更に声をかけた。


「足りなかったら、幾らでもおかわりして良いからね。」


お皿の横に並べたナイフとフォークを使って、料理で口を一杯にしながら、その子はコクコク頷き返し、その後四回のおかわりをしたことで、ルリとジェシカを驚かせた。食事のマナーを見る限り、かなりの教育レベルで育てられた子供だということが判った。


「さて、食事も終わってお腹も膨れたと思うから、良かったら君のことを話してもらうね。」


「まずは、名前は判るかい?」


その質問に、その子は弱々しく首を振った。


「そうか……じゃあ、君のことを鑑定しても構わないかな?」


鑑定という言葉に、ビクッと身体を震わせ、少し怯えたような表情をして、その子は言葉を返した。


「あなた達は人間のように見えます。もし、鑑定して、変な結果が出ても私を怖がらない?嫌ったりしない?……」


「あ~、それは全く心配要らないかな。ここにいる奴は、みんなマトモじゃないから。」


「へっ?」


その後、ルリの行った鑑定結果をボードに写したものを目の前に出されると、


???

人種 鬼/Жψ‡§

称号 なし

年齢 8歳

職業 魔法拳士

熟練度 1クラス

1レベル(制限中)

体力 16+???(制限中)

魔力 25+???(制限中)

所持スキル

ΨΦθκε ΛλΦβδ ψωВФε 仮死(2)

所持魔方陣

ΞΠΙΦΨ Χδελθ ХЪШю


目を丸くして、そのボードに釘付けになっていた。


「この人種の所にある『鬼/Жψ‡§』って何なんですか?」


その子の問い掛けに答えられる者は誰もおらず、進化する可能性や何かをきっかけに変身する可能性、ハーフとかとは異なり、身体の一部に別の種族の特性を持つ可能性などをルリが説明した。


「この訳の判らない文字は何なのですか?」


「おそらく名前を奪われた時に、封印されるか、変質した元々持っていたスキルとか魔法じゃないのかな。」


「そうですか……でも、これを見ると私は街の底辺で細々と暮らすしかないみたいですね……見せて頂いてすっきりしました……」


「まぁ、本人がそれで良いなら、そんな生き方を選択しても……」


「良いわけないじゃないですか!」


リュートが慰めるつもりで口にした言葉を聞いて、突然激昂した子が、テーブルを両手で思いっきり打ち付けた。


「お姉さん、あなたの体力と魔力を教えて下さいよ!」


聞かれたルリは言いにくそうに、でも正直に答えた。


「今の体力は一万五千位、魔力は二万三千位かな……」


予想していた数値よりも遥かに高い数字に、その子は唖然とした表情を見せた。


「完全に国のトップクラス、強者の数字じゃないですかぁ……」


それでも直ぐに立ち直って、今度はジェシカに問いかけようとした。


「聞かない方が良いと思うなぁ……」


そんなリュートを無視して、


「チビ!あんたはいくつ位なんだよ!」


「わたち?わたちは魔力はゼロだけど、体力はこの前百万超えたよ。」


まさかの七桁体力に開いた口が塞がらず、ジェシカに向けた指がブルブルと震えていた。


「だから、聞かない方が良いって言ったのに……」


「うっ!うっ!うわぁぁぁぁぁぁん!」


その子は飛行船から飛び出し、森の中を裸足のまま駆けて行った。


やっぱり私の居るところなんてどこにもない。あの人達だって、強者としての余裕があるから私みたいなカスでクズな存在に構ってくれたんだ。どうせ心の中ではバカにしてるに決まってる。それこそペットでも飼うつもりで、私を拾ったのかもしれない。


同情なんて要らないし、そんなもんで自分が救われる訳がない。あの人達には言ってないけど、私の頭の中には自分の強さをちやほやされていた記憶がうっすらと残っている。


おそらくはそれを妬んだ何者かが、どんな方法を使ったのかは判らないが、自分の存在を消そうとしたんだろうと推測はできる。


結局、自分は負けたんだ!負けて底辺へと転がり落ちたんだ。こんな弱い自分を認められる訳がない!生きていても仕方ないんだ!



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