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第二章 14

「これだけ取れれば、僕らの勝ちに間違いないね!」


「ウォン!」


薄暗い森林の中を黒に跨がったリュートが疾走していった。弱い魔物は黒の魔力に当てられて身を潜め、気合いを入れて飛び出して来た少し強い程度の魔物は、リュートの鬼斬丸によって真っ二つにされ、蛋白源としてリングに収納されていった。


「この辺りには、あまり強い魔物はいないんだね。せいぜいブラックボアの亜種が時折り姿を見せるだけだもんね。」


そんな話をしていると、突然黒が脚を止めて周囲の匂いを嗅ぎ始めた。


「どうしたの?何かいるの?」


リュートの問い掛けもスルーして、暫く匂いを嗅ぎ続け、獲物を見つけたかのように、右方向へと向きを変えて走り出した。


「何がいるのかな?ワクワクするな!」


そのまま暫く進んでいくと、数メートル程の小さな崖があり、岩肌から地下水が湧いてくる所に辿り着いた。


周りは背の高い樹木が鬱蒼と繁り、まだ昼間だというのに、まるで夕暮れのような暗さだった。そこでもう一度黒がスンスンと鼻を鳴らしながら匂いを嗅いでいると、近くにある小川で魚の跳ねる音が聞こえてきた。


「近くに川があるみたいだね。」


暫く匂いを嗅いでいた黒が、ゆっくりと森の中を進んでいくと、やがて一本の大きな古木へと辿り着いた。


「着いたの?」


「ウォン」


黒は、目の前の大木の地上より十メートル程の高さにある小さな洞をじっと見つめていた。


「あそこに黒が気にしているものがあるということだね。」


「ウォン」


はてさてあの洞の中にあるのが、獲物なのか?お宝なのか?少し楽しみになったリュートだったが、左手の義手からロープを打ち出し、洞の側の太い枝に巻き付けると、一応周囲を警戒しながら登り始めた。


その木は直径五メートル程の巨木で、至るところに洞があり、目的の洞に到着するまでの洞の中にも、リスやヤマネ等の小型の獣や、梟などを見つけることができた。


近くの太い枝に両足で立ち、ゆっくりと目的の洞に近づいていくと、それまでの洞と違って、入り口を削って広げたような痕があり、更にその入り口には蔦を絡ませて隠蔽するような工夫が凝らしてあった。


これだけ人の手が加えてあるということは、お宝の隠し場所ということかなと思いながら、蓋をしてあった蔦をそっと退けると、


「……」


リュートは一度蓋を閉じ直して、黒を見た。


すると、黒はニコッと笑ったような顔をしながら頷いた。


「やっぱり、これで良いのかぁ……」


リュートは覚悟を決めて、もう一度蔦で作られた蓋を開けて、洞の中へと上半身を突っ込み、中に横たわっていたものを洞の外へと持ち出した。


それは一見すると、人間の子供の死体に見えた。身体は冷たく、呼吸はしておらず、ピクリと動くことさえなかった。


赤みがかった灰色の髪は無造作に短く刈られており、額にはまるで麿眉のように撃ち抜かれた二つの大きな傷跡があった。


「残酷なことをするな……」


身体は針金のように細く、無駄な脂肪や筋肉など一切無く、あばらが浮き、腹は背中と引っ付くように凹んでおり、死ぬまでの間、殆どなにも食べていなかったであろうことが想像できた。


実際、洞の中には、砕かれた木の実の殻くらいしか残されていなかった。


もう一度太い枝に左手のロープを巻いて固定すると、右手でその子を抱いてゆっくりと黒の待つ所まで降りてきた。


「黒、残念だったね。間に合わなかったみたいだ……」


リュートがそう言うと、黒は彼が抱いている子供の頬をペロリと舐めた。


すると、死んでいると思った子供の眉がピクリと動いたのを、リュートは見逃さなかった。


「生きてるのか!これで!!なんて子だ!」


リュートは両手でしっかりと子供をお姫様抱っこすると黒に飛び乗り、急いでベースキャンプである飛行船へ戻るように指示し、ジェシカに念話を送った。


[ジェシカ!緊急事態だ!要救助者一名、五歳くらいの子供だ。急いで飛行船に運んでほしい!]


[イエス、ユアマジェスティ!]


その返事があって五分も立たないうちに、上空にジェシカが現れ、リュートの渡した子どもを引き受けて飛んで行った。


「黒、僕達も急ぐよ!」


まるで森の上を翔んでいるかのように、巨大化した黒が森を走った。その後には蹴り倒された巨木がゴロゴロと転がっており、何らかの巨大生物が森を横断した跡のように見えた。


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