第二章 13
「ずっと、ダンジョンに潜っていたから、新鮮な食糧が不足してきていますので、今日から二週間は、次回チャレンジするダンジョンを探すことと、食糧集めの期間にさせて貰います。なおかつ、チームをクジで二つに分けて、その成果を競いますが、買った方はその日のデザートを一品追加しますので、気合いを入れて下さい。獲得食材のポイントはここに貼ってある資料の通りです。皆さん、頑張って下さいね。」
「「お~!」」
その後のクジで、Aグループは、ルリとジェシカと白の女子グループ、Bグループは、リュートと黒の男子グループとなった。
リュートと別れてしまったジェシカは、少し寂しそうだったが、ダンジョンと違い、念話で呼ばれれば直ぐに翔んでいけることが判っていたので、素直にクジに従った。
「じゃあ、始めるよ!よーい!ドン!」
リュートとルリはそれぞれ黒と白に乗って、ジェシカは空を飛びながら、リュートと黒は西の方向を、他の二人と一頭は東の方向を選択していた。
「黒、オーク肉やドラゴン肉なんかの高級肉は、あっちには魔力探知ができるルリが居るし、地形探索ができるジェシカもいるから絶対に勝てないと思う。だから、僕らが狙うのは、香辛料や高級果物、牛乳、まだ見つけたことのない食材さ。」
「ウォン!!」
「先ずは陽当たりの良い斜面だよ。そこは果物の木が見つけやすい。」
西の方へと進んでいたリュート達は、途中で見晴らしの良い大木へと駆け上がり、南側を向いた斜面を持つ丘の方へと進行方向を変えた。
「見つけた!すごい!アップルマンゴーがこんなにたくさん実ってる!」
最初に見つけたのは、アーウィン種のアップルマンゴーの群生地だった。魔物や獣、鳥や虫達に襲われていない理由ははっきりしなかったが、数本を残して根こそぎ収穫し、苗木として若木も十数本確保した。
更に付近の丘を確認すると、オレンジ色の果物を確認できたので、次はそちらへと向かいオレンジ四種を同じ様に収穫した。
これで収納リングはアップルマンゴー二つにオレンジがそれぞれ二つずつ、苗木リング三つがいっぱいになった。
更に周囲を確認してみると、赤い果実が実った木の群生地があったので、そこにも出向き、林檎三種とそれぞれの苗木を、これまでと同じ様に確保した。
「大収穫だよ。これだけで僕達の勝利は確定だね!」
「ウォン!」
成果に満足しながら、近くの景色の良い丘から周囲を見渡してみると、一部の森が切り開かれて、畑のようになっているのが確認できた。
「誰かが僕みたいに開拓して、野菜や果物を栽培しているのかな?行ってみるか……」
必ずしも味方とは限らないので、数百メートル手前で黒から降り、装甲に備えた隠蔽モードを発動させながら、畑に向かって進んでいくと、もう使っていないであろう結界発生装置が、周囲から見えにくいように設置されているのに気づいた。
リュートはその装置を解析し、自分と黒の入場を許可するように書き換えると、更に奥へと進んで行った。
森を抜け視界が広がると、そこは一面のメロン畑だった。しかも、その殆どが最高品種のマスクメロンだった。
「いヤッホー!……でも、ここって誰かの畑だよね。もしかしたら、さっきの果物も果樹園だったりするのかな……」
そう考えながら、もう一度メロン畑を確認してみると、至るところにメロンが落実した跡があり、今のメロンはその落実したものから芽吹いて育っていることが判った。
「うん!元は誰かの畑だったことは間違いないけど、今は棄てられた果樹園に間違いないねと強引に結論付けよう!こんなに立派に実った果実を放置することこそ罪だよ!キチンと育てたら、キチンと食べてあげないと!農園主の人には悪いけど、今回は放置した罪として、果実没収の刑としよう!」
そう言って、マスクメロンの殆どを収穫し、隣にあった四種の苺畑の苺と苗も確保した。
「でも、ここ作った奴って、絶対に俺と同郷の人間だよね。この前の勇者もそうらしいけど、あんなことをする奴とこの果樹園とか畑は一致しないから、別の奴かなぁ?でも、悪いことしてない奴に、果実没取の刑は……怒るかなあ?」
自分の行動が不安になったリュートは、板に今回の顛末を記して、江戸時代の高札のように看板を作り、畑の端に立てて置いた。
ーーー
その三ヶ月後
「クソったれですね!こんだけ綺麗さっぱり片付けるなんて、私達がとれだけ苦労して品種改良したと思ってるんでしょうね!」
「果樹園の果実も残らず収穫されて、剪定や間引きまで行われてた。あれはプロの仕業!来年は、きっと美味しい実が収穫できる。」
「雫は何を甘いこと言ってるの!綺麗事を言ったって、あれはただの果実泥棒よ!クズよ!人間のクズ!」
「苺畑に置いてあった水耕栽培用のキットや高設栽培用のベンチは、お宝物!この世界では手に入らない!しかも水耕栽培キットで栽培されていたのは、スカイベリーと、淡雪とパールホワイト!後の二つはどちらも白イチゴで、これだけでも盗られた果実の代価になる。今回のドロ・ボーさんは、神の使い……」
そこまで能弁に語っていた雫が、畑の角に立てられていた高札の前で固まり、そして、踞ってしまった。
「雫!どうしたのっ!」
高札の前から動けなくなった雫の所に、マリナが駆け寄り抱き締めると、雫はゆっくりと右手の人差し指を高札へと向けた。
A【勇者関係者へ】
これは天誅である!受け入れよ!
B【そうでない方へ】
畑に実った美味しい果実を二年も放置すれば畑は荒れ、果実は怒ります!二度と美味しい実を付けなくなるかもしれません。ですから、代わりに収穫し、畑を整備させて頂きました。苺畑の方には品種改良を試みたものがありましたが、不充分でしたので、最高級白イチゴと私の好きなスカイベリーを、水耕栽培用キットと共にプレゼントさせて頂きます。
「何よ、これは!ふざけてるのかしら?」
「早く続きを読む!」
……丘の上の果樹園も枝がつまり、樹木が密集気味でしたので、剪定と間伐の作業も代行しておきました。もっと大切にしろ!
「ムカつくんですけど!」
追伸
文句があるならかかってこい!
深海龍人v(´・∀・`*)v
「……えっ!」
その声に、雫が大きく頷いた。
「来てた。龍人先輩、この世界に来てた!」
ウンウンとお互いが何度も何度も頷き、二人は陽が沈むまで、抱き合ったまま泣いていた。
「不安がある。龍人先輩はモテる。異世界の娘はメロメロ!」
「えっ?」




