第二章 12
そんな彼らの話を傍らで聴いていたルリは、皇女の顔でリュートに言葉を返した。
「あなたが私達に力を貸してくださる理由も良く理解できました。私、いや私達はあなたの恩情に甘えていたことも思い知らされました。鬼の王の国に移住された方達は、自分の意思でそこに向かうと決めました。保護する鬼の王も健在です。ならば、魔皇国の為に魔族を一人でも多く連れ戻すということは、我々魔皇国のエゴでしかなく、魔族の民を優先したものでなかったことは明らかです。ですから、あなたが強くなる為に協力することこそ、魔皇国の皇女としてやらねばならぬことなのではないでしょうか?私にも協力させて頂けますか?」
そのキリッとしたルリの顔を見て、この子も成長したなぁと感心して、リュートも右手を差し出しガッチリと握手をした。
「では、まずはその左手の再生ですね。今のリュートでは美味しい料理が期待できないものね。」
やっぱりそこに行くんかいと、感心した自分を返せと思ったリュートだった。
「大きく傷ついているだけなら、この前ソレイユさんに使ったリムリタがあるけど、今回は完全に欠損してしまったから、それでは無理かな。その上位薬であるリバースを生成しないといけないんだけど、材料がないんだよね。だから、暫くは義手を使ってみようと思ってる。義手なら、ジェシカの腕を参考に出きるからね。」
突然名前を出されたジェシカが、驚いてリュートを見ると、
「これで、ますます似てくるかもね。」
と言われて、ポッと両頬を染めていた。
ーーー
翌日から、彼は早速義手の製作に取りかかった。装甲を作るにしても、両手が自由に使えるか否かで、製作されたものの精度に影響が出ると考えていた。
まず最初に製作したのは義手を製作するための義手であり、材質には拘らず、より精密な作業をすることにだけ注視したものだった。
ジェシカというモデル素体があったことと、素材も軟らかなものが多く、加工も容易だったこともあり、その義手の製作は一週間ほどで完成した。
「んっ!なかなかの出来かもね!錬金術も生成術の一つと考えると、あのチビっ子に似てるかも……」
と考える身長165cm未満の少年だった。確か、例の彼は160cmに満たない身長だったはずと言い訳もしていた。
更に製作に身が入り、先日ジェシカが破壊した巨大レールガンの素材を使って、見かけは同じように見えても、その耐久性は三桁違いの逸品を一ヶ月ほどかけて製作し、それと平行してバトル装甲の製作を開始した。
それと他の二人には秘密にしていたが、巨大な魔物を相手にするには、現在の自分の能力では到底足りず、今回の二の舞に成りかねないと考え、昔e-sportで愛用していた搭乗型の大型バトルスーツ麗雅を再現する為の設計を開始した。幸いにも素材は豊富にあり、燃料とするべき魔石も、先日の銀虎の巨大な銀色の魔石があった。
バトル装甲が完成した二ヶ月後の夕食の時間に、前回ジェシカが取り残された問題点を解決する為の策を話し合った。
「人族なら冒険者ギルドというものがあり、そこでパーティ登録をすると、ギルドカードというものに記録され、ボス部屋にも一緒に入れると聞いたことがあります。それと、奴隷の場合は、主の持ち物と認定されて、やはり一緒に入れるようです。」
「今は手元にギルドカードか奴隷の証拠になるようなものがありますか?」
「ギルドカードはないけど、奴隷の首輪はあります。犯罪者等を拘束する時に使ったりするものですから。」
「見せて貰って良いですか?」
言われたルリは、自身の収納リングから一つの金属製の首輪を取り出し、リュートはそれを受け取った。
「分析!奴隷の首輪」
リュートの頭の中に、奴隷リングに組み込まれている術式が頭の中に流れ込んできた。
「複製、奴隷のリング」
術式をリングにコピーし、奴隷のリングを十個程作成し、次にその中に組み込まれている術式を一つずつ減らしたものを作成し、その効能を試すということを繰り返して、装着者をリング所持者の所有物と上書きする術式を発見した。
「はい、これね。これは身分や立場を変更することもなく、僕の所有物と誤解させる術式を組み込んだリングだから、僕達はこれからどんなに制限された場所へも、僕が入れる場所なら、ここにいるみんなは誰でも入れるようになったことになる。ダンジョンとかはそれで問題ないし、例えば人間の街のチェック機能もクリアできる仕様になってるからね。」
そう言って、そこにいる二人と二匹の指に一人ずつ嵌めていった。自動フィット機能も組み込んだので、白と黒が大きくなったり、小さくなったりしても、苦もなく付けたままにできる仕様になっていた。
「ジェシカ、これで、もうダンジョンで離れ離れになることはなくなったからね。」
という説明をジェシカは全く聞いていなかった。左手の薬指に嵌めて貰った指輪をただただニヤニヤしながら眺めるだけだった。
「さて、かなりの時間を取らせてしまったから、ここでの素材集めや魔石集めは、もう十分すぎるほどのものになりました。そこで、ダンジョンを他に移ろうと考えています。そこで、明日から全員で、本格的なダンジョン攻略を行おうと考えています。宜しいですが?」
「「お~!」」
「「ウォ~ン!」」
その後の二週間で、その九十層からなるダンジョンは攻略され、ダンジョンコアはリュートの手に渡った。




