表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/100

第二章 11

ジェシカが第一層へと戻り、ボス部屋からの転移陣のある場所に向かうと、そこには真っ黒なボロボロの鎧を身にまとった少年が倒れていた。


傷ついていない装甲はどこにもなく、大きな凹みや抉られたような跡が至るところにあり、頭部や顔面を護るフェイスガードも左上半分が吹き飛び、そこから覗く彼の黒い髪は何かで濡らしたようにべっとりとガードに張り付いていた。


中でも一番目についたのは、左腕だった。肩の付近からごっそりと咬み千切られており、そこからは今でもダラダラと血が垂れ流されていた。


「神ちゃま!神ちゃま!」


その言葉に、リュートはうっすらと目を開けて答えた。


「ジェ…シカ……心配…かけたね……戻ってきた…よ。」


その言葉を聞いて、ジェシカは号泣するしかなかった。リュートにしがみついて泣きじゃくる彼女に、リュートはフェイスガードを外して、ポーションを飲ましてくれるように何とか伝え終わると、再び意識を失った。


中途半端にポーションや回復魔法で治癒させると、失くした腕などの欠損部位が通常の魔法やポーションでは二度と戻らないということを知ってはいたが、今のジェシカに飲ませないという選択肢はなかった。


自分のリングからポーションを取り出し、リュートの口に当てても、彼にはそれを飲み込む力さえも残っておらず、彼女はそれを口に含むと、口移しで彼に飲ませていった。ポーションが喉を通る音を聴きながら、十分な量が彼に入るよう小さな口で何度も何度も飲ませ続けた。


「ジェシカ……」


ボス部屋からの転移陣を使って、第一層へと上がってきたルリが見たのは、血まみれで横たわる左腕を失った少年に、必死で口移しでポーションを飲ませ続ける幼女の姿だった。


「ジェシカ……大丈夫だよ。あなたのお陰で、リュートの出血は止まったし、身体の傷も塞ぎ始めてるよ。」


そのルリの言葉にハッとして彼女は振り返ると、その微笑むルリの顔を見て、その幼い顔をクシャッた歪めて、堪えきれずに大声を上げて泣き始め、ルリにしがみついた。


「ジェシカ……泣いてる暇なんかないよ。さっさとリュートをハウスに運ぶよ。白と黒も協力して。」


邪魔になるからと、その場で彼の身に付けていた鎧を外すと、半分ドロッと固まりかけた赤褐色の血が流れ出てきた。彼が生きていたことが不思議な位の血の量に驚きながらも、両手と服を血塗れにしながら、何とかリュートの装甲を外し、黒の背中に乗せて、ハウスの彼の部屋のベッドへと運び寝かしつけることに成功した。


お湯で濡らしたタオルでひたすら身体を拭くジェシカとルリだったが、髪の毛は何度拭いても、タオルが血で汚れ、二人の目には涙が溢れていた。


「こんなになっても頑張ったんだね。」


「わたちは、神ちゃまには戦ってほしくない……こんなのはもう見たくない。」


ジェシカの言う言葉は理解できたが、リュートは戦うことを止めないだろうなと思うルリには、素直に頷くことはできなかった。


その後、リュートは三日三晩寝続け、本格的に目覚めたのは四日目の朝だった。


彼はお腹に掛かる重さに気付き、そちらを覗くと、そこには看病で疲れたジェシカが、布団に蹲るように寝ていた。


リュートが残っていた右手を伸ばして、彼女の頭を撫でていると、彼女の閉じていた目がうっすらと開き、覗き込むリュートの目と重なった。


「神ちゃま!」


「やぁ、ジェシカ。心配かけたね。」


その声に、彼女の大きな目には次から次へと大粒の涙が現れ、溢れ落ちていった。


「何とか約束を守ることができたよ。」


「心配ちたの!いっぱい、いっぱい心配ちたの!良かった!良かったよぉ……あぁ~ん!」


「ジェシカ!どうしたの?」


その声にすぐにルリと白と黒が飛び込んできて、リュートが起きたことに気づいて枕元へと集まってきた。


「リュート、起きたんだね。」


「あぁ、今回は迷惑をかけてしまったね。」


「そんなもの気にする必要はないわよ。これまであなたがしてくれたことの半分も返せてないわ。」


その言葉に、リュートは苦笑を返すしかなかった。


「今回は良い戒めになったよ。紙装甲のクセに、最近調子にのり過ぎていたんだと思う。これからも前線に出るなら、もっと防御力を上げる方法を真剣に探らないとダメだって、改めて気づかされたよ。」


「神ちゃまは、もう戦っちゃダメ!わたちが変わりに戦う!」


必死に抗議するジェシカの頭を撫でながら、


「僕は、もうこの世界の不条理に深く関わってしまったんだよ。その原因となっている女神に召喚された勇者は、僕と同郷の人間だ。僕はそいつがしたことを許せないんだ。僕の国には、戦争で原子爆弾という都市ごと破壊する兵器を使われて、何の武器も持たない市民を何万人も殺された。都市を火の海で囲まれで何十万人もの武器を持たない人間を焼き殺されたという歴史があるんだ。同じ国の人間が、魔皇国にそれと同じようなことをしたのが許せないんだ。しかも、その後で自分の味方をした何も知らない魔族の市民達を騙して、ペストという最悪の殺人細菌の生け贄にして、その細菌を処理するために街のすべてを焼き払った……これをこの世界の女神が許していることが信じられないんだ。この女神に蔑ろにされた人達を一人でも救いたい。その為なら、僕の国から来た勇者を排除するのも厭わない。そう決めたんだ。だから、僕には戦わないという選択肢はないんだよ。」


リュートの言葉を、ジェシカはしっかりと受け取っていた。


「判りまちた。わたちは神ちゃまの右手です。神ちゃまがしたいことを出きるようにするのが右手の役目です。遠慮なくこき使って下さいでちゅ!」


「「ウォン!!」」


ベッドの傍らで、リュートの話を真剣に聴いていた白と黒も、全てを理解したとでもいうように咆哮を返した。


「お前達も、ありがとな。」


そう言いながら、リュートは二匹の頭を交互に撫でていた。

次回の投稿は、5月8日の午後になります。

今後とも何とぞよろしくお願いします。


☆☆☆☆☆での評価は、本人のヤル気に繋がりま

すので、可能であればお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ