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「うまいなぁ。あっちにいた時には、まともに食べたことなかったけど、こんなことになっちゃうと、感動しかないな……」
そんなことを呟きながら、三個ほどのふかし芋を食べきり、そのまま昼の間に刈り取った草の束に持たれているうちに、龍人は眠りについた。
翌日、龍人が目覚めると、外はもう既に明るくなっていた。鍋から溢れ出て流れていく湧水で顔を洗い、シャツを脱ぎ、上半身を軽く手で水洗いすると、竈の前へと行き、昨晩ふかしたイモの残りを食べ、兎の解体に取り掛かった。
既に皮剥ぎは終了していたこともあり、身体を幾つかの部位に、鉈で大きく切り分け、更に筋肉に沿って、ブロック毎に分けたが、それが正しい解体かどうかは龍人には判らなかった。
『やっぱり、今度はいつ兎を狩ることができるか判らないから、保存しないとダメだろうな。やっぱり燻製かな……』
龍人はPCから温燻製の為の方法を検索すると、竈の上にドラム缶を使用した自作の燻製器を組み立て、兎の肉をセットした。
『二時間位を考えれば良いかな。あとソーラー充電器も日のあたる所にセットしておかないとな……万が一でも、元の世界に戻れた時に、妄想乙とか言われないように、しっかりとスマホで映像も残さないといけないしね…』
そう考えながらバッグから、折り畳み式のソーラー充電器を引っ張りだし、トンネル出口に向かって歩くと、そこに存在する異物に気がついた。
体長は一メートル位の丸々と太った猪が、トンネル出口にまるで昼寝でもしているかのように横たわっていた。
草を刈って空き地になった広場にあった残りのイモは無くなっていたので、昨晩出現した奴かもしれないなと思いながら、龍人は頭をふる回転させた。
『昨日の角兎には、あんまり脂肪がなかったから、あいつを確保すれば、肉だけじゃなく、脂も確保できる。脂からはラードも取れるし、灯りにも火種にも使える。殺るしかない!』
そう考えながら、五メートル程のロープの端を罠結びにして、その中にロープを通し、反対の端を二メートル程のレールに結びつけた。
そしてレールをトンネル出口付近まで何とか運んでくると、ウォンバット人の短剣を腰に差して準備を整えると、寝ている猪の首にロープを掛け、両手で持った短剣を、ネットで調べた猪の心臓の位置に向けて、全体重を掛けておもいっきり突き刺した。
事前に猪の骨格を調べていたおかげもあり、刃はするりと猪の身体に入り込み、根元まで突き刺さったと思うと同時に、猪は絶叫を上げて走りだし、レールを引きずりながら、数メートル程進んだ所でバタリと倒れた。
しばらくピクピクと痙攣していたが、大地に流れ落ちる血液が増え、周りが真っ赤に染まってくるのに合わせて、その動きも消えていった。
龍人は、あまりの想定通りの出来事に、唖然として固まりながらも、冷静に時間を開け、完全にこと切れたのを確認してから、ロープとレールを外し、先ずはレールをトンネル内に収納し、ロープを引っ張りながらズルズルと猪を引き摺り始めた。
後は猪をトンネル内に引きずり込むだけの状態になった時に、そいつは突然襲撃してきた。
巨大な犬型の生き物が、バスケットボールさえ一呑みするような巨大な口を開け、猪ではなく龍人に向かって飛びかかってきた。
「アガァァァァァ!」
しかし、既にトンネル内に入っていた龍人には届かず、見えない壁にぶつかったかのように跳ね返されたが、そいつはその一回では諦めきれず、何度もその壁に体当たりをかましてきた。
龍人はあまりの迫力に尻餅をつき、呆然としてその生き物を見つめていた。
しばし呆然としていた龍人であったが、依然として猪を繋いでいたロープを握りしめていたことに気づき、慌ててそのロープをトンネル外へ投げると、そいつはそれを攻撃されたと勘違いしたかのように、更に攻撃を強めた。
その状況に、先に冷静になることができたのは龍人だった。
『大きいな。犬というより狼に近いだろうな。でも、アメリカの灰色狼より大きいかもしれないな。でも、こいつを倒せたら、この辺りには怖い生物がいなくなるかもしれない……』
そう考えた龍人は、その狼の繰り返される攻撃パターンをじっくりと観察し始めた。eスポーツでも、相手の攻撃パターンを分析することは日常茶飯事で、その能力に抜きん出ていたからこそ良い成績を修めていた。
『飛び込みからの噛みつきの場合は、両脚揃えての踏み切りで、体当たりは駆け足からのぶちかまし、更に体当たりの時は左肩が下がるな……次の噛みつきの時にカウンターを決めるか……』
そう言って、龍人はトンネル出口に立ち、先を尖らせた鉄パイプを構えて、噛みつきに備えての体勢を固め、狼が少し下がった時に、龍人は次に来ると予測して腰を落とし、いつでも鉄パイプを突き出せるように構えて待った。
「アガァァァァァ!」
唸りながら狼が大口を開けて飛びかかってきたのに合わせて、龍人は鉄パイプを狼の口の中へと突き入れた。
狼にすれば、突然岩から突き出てくる鉄パイプを予想することは全くできず、成す術なく口の中にそれを捩じ込まれ、咽頭を突き破った鉄パイプは、延髄を破壊して後頭部へと抜けた。
狼は一声も上げることもできず、全身を一瞬にして硬直させ、トンネル内へと雪崩れ込んだが、既にそれも予想済みの龍人は、それを難なく交わすことができ、その時の狼は、即死の状態でピクリとも動くことはできなかった。
『はぁ…はぁ…やった…やったぞ!狼、獲ったどぉぉぉぉぉ!』
トンネル内に龍人の鬨が響き渡った。




