第二章 5
翌朝早くにユニットハウスを出たリュートは、昨日と同じ様に日本刀で第一層のスライムほぼ全てを切り裂き、第二層では目に入る全ての角兎を槍で貫き、手にしたサブマシンガンで、第三層のゴブリンの殆どを撃ち殺した。
実は魔物が倒れて現れた魔石を全て拾うことで、ジェシカの素早さがアップしていたのは予想外の収穫だった。
第四層への階段に到達したのは、まだお昼前の十時頃で、ジェシカの用意してきたサンドイッチをつまみながら、豪華なレジャーシートの上で寛ぐ二人の姿は、どこから見てもまるで甘々ベタベタの仲の良いカップル……などには見えず、父親に甘えている幼女にしか見えなかっ……(イタッ)
「第四層は狼か……ジェシカは槍と刀、どちらを使うべきだと思う?」
「もし、相手がボア系みたいな、集団よりも個別に戦闘を挑んでくる相手なら槍が良いと思うけろ、狼は徒党を組んで襲ってくるから、二刀を振り回せる刀が良いと思う。」
「そうか、僕もそう思ってた。ジェシカと同じ意見なら安心もできる!行くぞ!」
そう言って、階段から飛び出していったリュートの後を頬を真っ赤に染めたジェシカが付いていった。
血糊や脂で斬れが鈍った刀は、即座に収納リングに入っている新品のものと交換するため、この層でもリュートの無双を止める存在には出会えることはなかった。この層で彼の剣術のスキルは剣士(1)までアップした。
第五層の魔物はブラックボアという、牛程の巨体を誇る魔物だった。他のボア系のものと同様に、あえて群れになることは避けているような印象を受けた。
「ジェシカが言ったように、今回は槍を使うね。」
その言葉を聞いただけで、ホワッーとなってしまうジェシカだった。
この一見親子のような真っ黒い影が草原を走り抜けると、そこには額の真ん中を貫かれたブラックボアが至る所に転がっていた。
そして、暫くして死体がダンジョンに吸収されて魔石が地上に転がると、すかさず小さな影が表れて、それらを回収していくのであった。
ワンフロアで何体のブラックボアが居たのかは判らないが、ほぼ一時間後には、立っているそれは一頭も見かけることがなくなった。
この階層で、リュートの槍術のスキルは槍士へと変わり、その熟練度は(2)までアップした。
「今日は、この第六層で切り上げようか。これからも毎日繰り返さないといけないから、あんまり無理はしたくないからね。」
「神ちゃまの言うとおりだと思う。これ以上こんなにも幸せな時間が続くと、わたちは、きっと甘々のヘニャヘニャで、グニャグニャになって壊れてしまうと思う……」
「言ってることがよく判らないけど、ジェシカも賛成ということだね。」
そう言いながら、両手に一丁ずつMP9を持ち第六層へ飛び出していき、左右にいる犬が二本足で立って鎧を纏ったようなコボルト族に向かって、片っ端からサブマシンガンの銃弾を浴びせていった。
これまでの魔物と比較すると動作も素早く、これまでのリュートの実力では容易に倒すことは難しいと思われたが、これまでの熟練度のアップの影響か、出てくる順番に処理していくことができていた。
更に時折混ざるコボルト亜種であるアーチャー、ソーサラーでさえも、リュートの銃弾の前に次々と骸へと変わっていき、第六層のコボルトが一掃された時には、銃士の熟練度は(4)へとアップしていた。
ルリは白と黒と一緒に、今日は第三十三層まで潜ったらしかった。自分の鑑定結果は皇族の決まりということで教えて貰えなかったが、あの満面の笑みを見ていると、職業スキルも含めて、かなりの熟練度の上昇があったらしい。
その日はみんなですき焼きをつついて早めに寝た。
リュートは、翌日も同じ様に、第七層のオーク、第八層のホブゴブリンとゴブリンの集団、第九層のボイズンリーチを狩りまくった。
「これ、何か気持ち悪いな。どうしよう……」
ポイズンリーチを倒すと稀に落とすドロップ品である、魚の卵巣のような、人の胆嚢のような袋状のものは、見た目にもヌルヌルして、あまり触りたくない感じで、ジェシカが集めてきたそれを纏めて専用のアイテムボックスへと収納した。
第九層のポイズンリーチは毒攻撃を持つ蛭型の魔物だったが、毒の射程範囲が狭く、動きも緩慢な為、サブマシンガンの格好の標的となっていた。
ほぼ第九層のリーチを殲滅し終えて、先程のヌルヌルを取り出して鑑定してみると、
★ポイズンリーチの毒袋
この一袋に、ペテロノドキシンというオーク三頭を殺せるだけの神経毒を含む。
との結果が出た。
「こんな破けやすい袋のまま持っててもリスクあるし、毒物だけ分離できないかな……」
それらを収納リングに入れたまま、リュートは分離精製することに挑戦することにした。
「分離、ペテロノドキシン!」
すると、リュートの右手のひらの上にバスケットボール大の真っ白な塊が出現した。慌ててペテロノドキシンと指定することで粉一粒さえ残さず、再び収納リングへと戻すことができた。
そんなハプニングもあったが、どうにか剣士の熟練度を(4)、槍士の熟練度も(4)、銃士の熟練度を(7)へと上げて、階段を降りてきたリュートの前には、これまでには見られることのなかった大きな木製の扉かあった。
「ボス部屋か……」
入るかどうかを決めきれずにいると、リュートと二人の世界を満喫し、妄想世界に自ら囚われていたジェシカが声をかけた。
「わたちも居るんだから、悩む必要はにゃいと思うのでしゅが。」
「ん~、ここまでジェシカに頼らずやってきたから、なるべくならボス部屋もソロでクリアしたいじゃん。危なくなったら助けて貰うのって、安易じゃないかな?」
「しょんなことはないのです!わたちは、神ちゃまの右腕でしゅ。どんな時でもそばにいるから、神ちゃまに危ないことなどないのでしゅ!」
「そうか、それもそうだな。じゃあ、行くか!」
そう言って、リュートとジェシカがその扉を潜ると、リュートはそのまま入ることができたが、ジェシカが弾き飛ばされていた。
「へっ?」




