第二章 4
「それかもしれない!」
ジェシカの言葉に、リュートは大きく頷き、頭の中でのシミュレーションを繰り返し始めた。
「だったら、どうして力が強くなったり、素早さがアップしたりするのよ!」
ルリの興奮した問い掛けに、落ち着きを取り戻したリュートが堂々と自分の仮説を披露した。
「ルリの鑑定では、体力(HP)と魔力(MP)しか表されないけど、よくあるRPGのステータスから判断すると、他にも、STR(力)、ATK(攻撃力)、VIT(生命力)、DEF(防御力)、INT(知力)、RES(抵抗力)、DEX(器用さ)、AGI(素早さ)、LUK(運)なんかの能力値がある筈なんだ。そのうち、体力と魔力が職業依存で、他の能力値はスキル依存だとすると、スゴく説明しやすくなると思う。」
自分の鑑定能力で表記できない隠し能力があると言われたルリが、少しムスッとしたのに気づいたリュートは、すかさずフォローに入る気配りを見せた。
「体力や魔力が同じでも、力が強い人もそうでない人もいるし、動作が早い人もいれば、遅い人もいる。そういう所まで鑑定できれば最高だよね。たぶん鑑定の能力を突き詰めて行くと、そこまでできるようになるんじゃないかな?ルリにこのダンジョンでできることがあって良かったよ。今まで付き合わせてばかりだったからね。」
「えっ?私がいろいろ鑑定していくの?」
「たぶん鑑定だけじゃなく、いろんなことを試していくと、スキルが生えてくると思うんだ。分析とかはその候補だよね。たぶん鑑定には上級のスキルがあると思う。」
「でも、聞いたことないよ!」
「それはそうだよ。ルリクラスになると、鑑定にはそれ以上を求めなくなるじゃん。」
言われて、ルリは納得した。知っている魔族の人達は、誰もが精密鑑定ができるようになったら、誉めるばかりで、それ以上を求めなかった。誰もが辿り着けていない先があるかもしれない。そう考えるだけで、ルリの闘争心に火が着いた。
「よし、今日まではリュートのお付き合いのダンジョン探索だったけど、明日からは私も真剣に潜る。誰かお付き合いしてくれない?」
「「ウォン!」」
「白と黒かぁ!二人のレベルも浅い層では上がらないもんね。ヨシッ!一緒に行こう!」
「じゃあ、予備のユニットハウスを納めた収納リングを渡しておくね。非常用の食糧や飲み物も入れてあるから、無理しないでね。三日に一回位は帰ってくるんだよ。」
「へっ?毎日帰ってくるに決まってるじゃん!リュートのご飯を抜くなんて、考えられないよ!ねぇ~!」
「「ウォン!」」
「そ、そうか、そうだったのか。」
何か勝ったような負けたような不思議な気分になるリュートだった。
夕食とデザートを食べ終え、入浴して部屋に戻ると、各自がそれぞれの支度を始めていた。
「リュートが一緒じゃないなら、間食を煩く言う人がいないから、お菓子は多めに持っていくしかないよね。むしろ、ご飯とか要らないから、ケーキとかパイとか、フルーツサンドイッチとかを食事変わりに持っていこうかな。白と黒は何を食べるんだろ?お肉とかかな?それなら、私の分のお肉食べて貰えば良いからラッキーかも……」
まるで遠足に行く子供のようにウキウキとした様子で支度をするルリの一つ隣の部屋では、
「明日は、神ちゃまと二人きり……クフッ……これはデートというものなのでちょうか……甘え放題でちゅ…ベタベタのトロトロのホニャホニャでちゅね……わたちの好感度バク上げの好機到来でちゅ!ハッ!さっそくお弁当を作るでちゅ…バチュケットに入ったチュイ筒には、甘い甘ーいロイヤルミルクティを入れて、サンドイッチは薄く焼いた卵焼きと厚焼きのベーコンを少しの野菜と合わせて、特製マヨネーズを使用するでちゅ、ちょこで、あ~少しご飯も食べたいなぁって神ちゃまが言ったら、すかしゃず、大きくてあちゅいハムカツを挟んだお握りを出したらもう、神ちゃま、じぇったい陥りゃくするに間違いないでちゅ…ウヘッ、ジュルル」
ヨダレを垂らしながら妄想を続ける戦闘幼女がいた。
二人に挟まれた屋で武器の手入れをするリュートは、背中に悪寒が走り、冷や汗が噴き出してきたのを感じて、風邪を心配して早く寝ることに決めた。
そんな中で、白と黒の専用ベッドには、明日に備えて既に爆睡している二匹がいた。一番の優等生かもしれない。




