44
あれから一ヶ月後、リュート、ジェシカ、ルリ、白と黒に加えて、九人の大人と四十五人の子供達は、トンネルの出口に立ち、目の前に広がる田圃や畑、牧場に目を奪われていた。
「魔皇国ではありませんが、ここなら人族の邪魔も入らず安心して暮らしていけると思います。食糧も十二分に確保してありますし、護りも五十機以上のゴーレム達が、常時待機しておりますので、全く心配する必要はありません。住むところは、牧場の部分に学校のような寄宿舎を建設しますので、そこで暮らして頂くこととなります。シスターの方達や大人の方達には、子供達に必要な知識や魔法を教えて頂く教師となって頂きたいのですが、お願いできますか?」
そんなリュートの言葉に、大人を代表してセレニアが答えた。
「もちろん全力で協力させて頂きます。しかし、それ以外の農作業などの雑用にも協力させて頂くつもりだったのですが、宜しいのでしょうか?」
「それは、自分の仲間のゴーレム達に任せれば良いのです。今は滅びかけている国を支える魔族を一人でも多く育てることが大切な時期だと考えます。それに鬼の王に預けた国民の方達をこのまま放置することはできないというのがルリ皇女の考え方です。その為にも人材を育てて頂きたいと思います。その為の食糧や土地の確保は私とその仲間達で何とかしますから。」
その後、全員に賛成して貰ったリュートは、牧場の一角に寄宿舎を持つ二階建ての学校設備をユニットハウスを応用して建設し、ルリ皇女にもそちらの宿舎へと移動して貰い、自身は塀の外側の部分を川に沿う形で開拓していった。
防波堤と城壁を兼ねる壁を川沿いに建設し、その内側に畑や牧場、田圃を次々と建設し続け、半年後には海に到達することができ、河口付近には将来港も建設できるようなスペースも設けていた。
更に、以前見かけた野牛の集団が出現した暁には、全て牧場に確保できるように広大な牧場を建設することも忘れなかった。
開拓中に手に入れた材木や、その他の資材は全て無駄にせぬよう、余ったものは、時空魔法を使うことができたセレニアと協力して作った二十メートル立方の収容能力を持つ収納リングに保管していった。
一年後には、彼らの管理する土地は十キロ四方に及んでいた。
ーーー
トンネル出口東側に作られた幅五百メートル、長さ一キロの空き地の前にリュートとジェシカ、白と黒、シスターセレニアとマヨルカが立っていた。
「……ところで、これは何ですか?」
ルリ皇女の遠慮のない質問に、リュートの代わりにジェシカが堂々と答えた。
「これは飛行ちぇんです。一度に二百人の人を運ぶことができまちゅ。神ちゃまは、これを使って、鬼の王の国に魔族を迎えに行くちゅもりです。」
「こんな大きなものをどうするのですか?魔物に引かせるにしても、獣に引かせるにしても、進むための道がありませんよ。」
そんなセレニアの言葉に、リュートはそこから説明かと少し面倒になり、先ずは体験して貰うのが一番早いと考え、ルリ皇女一行を飛行船の中へと案内した。
中では某日本の自動車メーカーが作ったロボットによく似たたくさんのロボットがクルーとして働いており、腕には色と数の違うラインが引かれていた。
リュートは客席の船首部分へと一行を案内すると、その上部に設けられた操縦席に座るクルーに出港を命じた。
「飛行船フリーダム出港準備。」
[了解!ヘリウムガス充填開始します。充填70%]
[充填90%、フリーダム浮揚します]
視線がどんどん上がっていくことに、他の一行は驚き、椅子や柱に掴まり始めていた。
「な、何?何なの?どうなってるの?」
[充填95%出港準備完了しました]
「フリーダム発進!」
[アンカー外します。フリーダム離陸します]
フリーダムを固定していたアンカーが次々と大きな音を立てて外れ、それはあっという間に上空二百メートルまで上昇していた。
「高度五百メートルに固定。前進しろ。」
[了解!風力発生装置始動します。速力10ノットで前進します]
その時になって、やっと中の乗客達の混乱も収まり、少し周囲を確認する余裕も出てきたようだった。
「な、何これ!飛んでる!私達、飛んでるんですけど!」
ルリが前方の窓に張り付き、必死に下を覗き込もうとしていた。セレニアとマヨルカは腰を抜かしたように椅子に座り込み、眼前に広がる光景に目を見張っていた。
「せ、説明してください。」
どうにかセレニアが言葉を口にすることができるようになり、リュートに現況を尋ねた。
「皆さんは、船というものをご存じですか?」
「それはもちろん知っています。水の上に浮かんで人を運んだり、漁をするものですよね。小さいものなら魔皇国にもありましたから。」
「船は水の上を移動しますが、これは空を移動するための船です。飛行船と言います。一度に二百人程が乗船可能ですから、何往復かすれば、鬼の王に保護して頂いた魔族の人達をここに連れてくることが可能です。空を行きますので、人族と遭遇することはありませんし、かなりの速さも確保できましたので、おそらく鬼の王の国なら、三日もあれば到着できると思います。」
ルリ達は、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
「五百メートルの上空を飛びますので、勇者クラスの人間でもなければ、地上からは攻撃できないと思いますし、ドラゴンやワイバーン等の飛行型の魔物用に兵器も搭載しておりますし、いざとなればジェルグを改良した飛行型のゴーレムで対応も可能です。」
[ゲルッグ飛行部隊、発進します]
そんな会話をしていると、突然アナウンスが入り、飛行船の両サイドより三機ずつのゲルッグが白い尾を引きながら発進していった。
それはまるで、航空ショーを見せるかのように、飛行船の前方で華麗な舞を見せつけ、ルリ達を視線を釘付けにしていた。
「す、スゴいです!スゴすぎます!」
「実際に、鬼の王の国に迎えに行くのは、あちらの魔族の人達の現況を調べてからになると思う。迎えに行っても、『私達は帰りません。』と言われたら、無駄足になってしまうからね。」
「そ、そんなことはありません!魔族の危機に立ち上がらない理由がありません!」
「鬼の王の所に行った人達は、人族と争うことから逃げる為に国を棄てたんだよ。国よりも個人を先に考える平和主義者だと思うんだ。そんな人達が本気でそう考えると思う?」
そう言われたルリ皇女は、言葉に詰まってしまった。
「だから、事前に調査をするんだよ。白と黒とジェシカは僕と一緒に行くけど、魔族の人達の代表をどうするかを決めてほしいんだ。僕達だけだと、信用してくれないと思うし、素直に本音を語ってくれるかも判らないしね。」
そう言われたルリとセレニアとマヨルカは、即座に返答をすることができなかった。
「一週間後には、これとは別の小さな飛行船で出港するから、それまでには決めておいてね。」
ーーー
出発当日の朝に、リュートの部屋を訪れたのはマヨルカだった。
「お一人ですか?」
「はい。いろいろと検討させて頂きましたが、ルリ皇女様はもちろんのこと、セレニア様も多くの民に慕われております。あのお二方の前では、民の方達も本音で話すのは難しいだろうという結論になり、それで残った私に落ち着きました。」
「そうですか。あのルリ皇女というか、お姫様を説得するのは大変だったでしょ。なんだかんだで、連れていかないとダメなんだろうなと覚悟してました。」
「ルリ皇女様も、成長したのだと思います。」
そんな会話を聞きながら、リュートの後ろから、ジト目でマヨルカを見つめるジェシカがいた。
第一部は、これで終わります。
多くの方に読んで頂き、感謝しかありません。
たくさんの方にご意見も頂き、月刊誌より週刊誌
の方がみんな読むよねと諭され、第二章は週毎の
更新を目指します。
本当に有難うございます。
☆☆☆☆☆での評価は、本人のヤル気に繋がりま
すので、可能であればお願いします。




