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黒のブレスが扉に浴びせかけられると、それは容易に取り除くことができるようになり、二人と二匹は、階段を地下へと降りていった。
「光魔法、ライト。」
セレニアの唱えた魔法と、リュートが額に取り付けたライトにより、周囲を確認しながら降りていくと、
「……来るな……それ以上、降りるなら攻撃する。」
「生存者だ!心配ない、助けに来た!」
その言葉を言い終わらぬうちに、奥から巨大な火球が飛んできたと思うのと、背後から真っ黒な幼女が飛び込んで来て、それを無効化するのはほぼ同時だった。
「神ちゃま、危機一髪!殲滅ちゅる?」
「しなくて良いよ。ジェシカ、ありがとな。」
と、お礼を言いながら、リュートは彼女の頭を撫で、彼女は嬉しそうに彼に抱きついていた。
「まるで、先日の私を見ているような展開ですね。」
セレニアは、軽くため息をつくと、前方に向けて声をかけた。
「私は、始まりの神殿のセレニアです。誰か、私の判る人はいませんか?」
「セレニア!シスターセレニア様ですか?私です!マヨルカです……でも、それ以上降りてこないで下さい!私達は既に黒死病に感染していま……ゴホッ!」
「そこには何人が避難されているのですか?」
「扉を守るのは、ゴホッ……私を含めてシスター三人ですが、扉の奥には…ゴホッ…孤児院の子供達九人と街から避難してきた五人の子供達がいます……ゴッ、ゴホッ……子供達はまだ感染していないはずで……ゴホッ…私達は炎で自死しますから……こ、子供達を……」
「その必要はありません。始まりの神殿に私達の神が降臨しました。私達は助かったのです!」
「おい、それはないだろ(小声)」
「それが一番解決が早いです(小声)」
「神ちゃまは、わたちの神様だけど、許可ちまちゅ!」
「えっ?」
「あなた達も救われます。死ぬ必要はありません。既に外にいた王国軍二個師団は殲滅され、魔皇国を一撃で滅ぼしたあの悪魔の兵器も崩壊しました。(合わせて)」
「(え~)私が来るのがもう少し早ければ、この街の人間ももっと救えたかもしれない。申し訳なかった。降りるぞ、構わないか?」
そう言って、リュート達が階段を降り始めるのを邪魔する魔族は一人もおらず、降りた先には、土下座をした三人のシスター達がいた。
彼女達の皮膚には、既に紫斑が現れており、ペストに感染しているのは間違いなかった。
「まずはこの場所の殺菌消毒を始めるから、扉を開けるのはまだ待っててね。全体が明るくなるけど、眼には悪いからライトを直接見るのは止めてね。これは空間だけじゃなくて、着ている服とかも殺菌するから、暫くしたら、そのまま中へ入れるから。」
そう言うと、リュートは扉前の踊り場から階段にかけて、以前に消毒用として生成していた複数の殺菌用紫外線ランプを設置していった。
「さて、君達三人は、隔離して治療を始めるから僕に付いてきてくれるかな?」
リュートの言葉に従い、三人が彼の後に続こうとしたが、一人がフラッとして階段を踏み外しかけた。すぐさま彼は肩を貸し、その娘を支えると、
「移動用の道具は、今回あまり持っていなかったから、少し我慢してね。」
とリュートが言いかけると、彼が肩で支えた娘をジェシカが両手で抱えて、あっという間に教会前の広場へと運び、残りの二人も二分も掛からぬうちに外へと移送された。
「神ちゃまは、ジェシカの神ちゃまでちゅ(小声)」
セレニアには、それが可愛らしい幼女の嫉妬に見えた。
階段に取り残されたリュートは、軽くため息をつき、二匹を連れて階段を昇りながら、セレニアに声をかけた。
「もう少ししたら殺菌が終わるから、そしたら扉を開けて中に入って、渡してある食料用の収納リングから、スープとか雑炊、サンドイッチとかを出して上げて、食べ終わる頃には、上の支度も終わるから。」
ーーー
教会前の広場に着いたリュートは、今回の探索ツアーでお蔵入りしていたユニットハウスを取り出し、入り口に更に殺菌用の部屋を設定することで、窓を開けなければ中の汚染された空気が漏れないように組み立てた。
連れてこられた三人は、目の前であっという間に家が完成していくのを見て、リュートが神だということに何の疑いも持たなくなっていた。
中に入る前にこれを飲んでと、渡されたドキシサイクリンも疑わずに内服し、浴室ユニットで、たっぷり張られたお湯で身体を清めた後は、準備されていた患者用のパジャマへと着替えた。
寝室らしき場所には、既に三台のベッドが準備されており、同じ部屋にセットされた四人掛のテーブルの上には、温められたスープと黄色い柔らかな甘いパンのようなものに白いクリームを添えたものと、少し深めの更に盛られた雑炊が並べられていた。
「……私達は死んだのですか?ここは天上ですか?」
激変した自分達の境遇に、その三人のシスターは戸惑うしかなかった。
ーーー
「ここの子供達は、念のために三週間程隔離するから、セレニアは神殿に戻ってくれるかな?一ヶ月後には全員で、僕達の拠点に移動するから、ルリ皇女と準備を進めておいて。その頃には、ここのシスター達も完全に回復して子供達を引率できると思うから。」
「それと、ドゥム小隊!お前達も神殿に戻って、警備を担当して貰えるか?」
「イエス、ユアマジェスティ!」
リュートは、セレニアとドゥム小隊を神殿へと戻し、教会前の広場にユニットハウスの別棟を設営し、そこに子供達を収容して、ドキシサイクリンの予防投与を行いながら、体力の回復を計り、更に今後の移動用として、六台の氷上魔道車を陸上でも走れるように改造したものを生成しただけでなく、あの元の拠点に戻った時に、今の人数が居住できる余裕が全く無いことも考慮して、ユニットハウスや全員で食事ができるような食堂を作れるようなボックスも生成した。
衣服やベッドが足りなくなることも考え、ジェシカや白と黒と一緒に、燃え尽きた街を周り、焼け残った倉庫や地下室から、各種素材を集めることも忘れなかった。




