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勇者の前で、白目を剥き、口から涎を流し、耳から血を流した神父から全身の値からが抜け、岩場に崩れ落ちた。
その神父の脳より直接手に入れた情報と映像に勇者の顔は醜く歪んでいた。
「僕と同じ転生者が魔族側に居るだと、しかも、ド◯にゲオル◯擬きのゴーレム、いやロボットか……それにあの真っ黒な衣を纏った両刀使いの騎士……創造系のチートスキルを持っているのか……判らない。今度、女神に会ったら確認することが増えたな……仲間を増やして貰うか……更なる凶悪な古代兵器を手に入れるか……」
そんなことをブツブツ言いながら、勇者は丘を去っていき、残された神父の身体はサラサラと砂のように崩れて、風に飛ばされていった。
ーーー
「ス、スゴ過ぎます!あの子は何者なのですか?空を鷹のように飛び、剣であの古代兵器を切り刻むなんて、神にも劣らぬ仕業です。それに、この小さなゴーレムの能力も信じられないものです。たった十三機で王国軍二個師団を圧倒するなんて……私は夢でも見ているのでしょうか?」
「ただの相性だから、そんなのは過大評価ですよ。それより、この街の火災を何とかしないと……」
興奮に声を震わせているシスターセレニアには申し訳なかったが、今は細々と説明している暇はなかった。
「それなら、私に任せてください。」
そう言って、セレニアは持っていた大きな水色の宝玉の付いた杖を高く掲げた。
「天候魔法、ゲリラ豪雨!」
すると、大地より霧状になった水蒸気がどんどん上空に昇っていき、それはやがて白い雲を形成し、更に大きさを増していった。
大きくなると同時に、色は薄い灰色から濃い灰色へと変化し、黒雲へと変わる頃には周囲に稲妻を撒き散らしていた。
ゴロゴロと響く雷の音を聞きながら、自分のスキルなんかより、この魔法の方がずっとスゴいと思うリュートだった。
やがてポツポツと降りだした雨は、バケツを引っくり返したようなどしゃ降りへと変化し、街を舐めつくしていた炎は、瞬く間に鎮火していった。
「ルリはセレニアさんと共に僕の傍に!ドゥム小隊は街の探索に迎え、僕達はここからドローンを使って、街を調べる。」
スマホをくくりつけたドローンが、街へと向かうと、それは直ぐに道に倒れている市民達の死体を映し始めた。リュートがドローンを操作し、細工して映るようにしたiPadの画面にその姿が大きく映し出された。
「「ヒッ!」」
「……黒死病?」
ルリとセレニアの息を飲む音が、画面を覗くリュートの背後から聞こえてきた。
「焼け焦げているが、暴れた様子もない。焼かれる前に死んでいた可能性が高いな。それに周りにある黒い焦げたあとは、流した血の跡か……それに肌も焦げたというより、壊死起こしたみたい……出血熱とかペストとかの感染症か!出血熱だとすればウィルスだから手の施しようもないけど、ペストなら抗生剤が効く……作るしかないか。それまではドゥム小隊は、一旦戻って周辺の警護をしてくれ。」
リュートは、抗生剤や抗菌剤の殆どが炭素、水素、窒素、酸素の元素に幾らかの元素が加わり構成されることは知っていたので、かつて調べてまとめてあったファイルを開き、抗生剤の適応菌種の表を確認し、自分の生成スキルで作り出せないかの検討に入った。
「生成、ドキシサイクリン!」
炭素が22個、水素が24個、窒素が2個、酸素が8個、その配列を模型図を見ながら頭に構成していく。まずは六員環が4つ並んだ構造を作成し、それぞれに水素イオン、水酸化イオン、酸素、アンモニウムイオンなどを貼り付けていく。どうにか一つのドキシサイクリン分子を作り上げるのに一時間以上の時間を要してしまっていた。
そこから更に一時間をかけて、一個を二個、二個を四個、四個を八個と倍々に複製していき、どうにか一つの収納リング一杯のドキシサイクリンを合成することに成功した。
街の探索に向かう白と黒、シスターセレニア、自分自身の感染を予防するためにそれを推定必用量内服し、街へと入った仲間の魔族のはお昼も過ぎた頃だった。
火災は既にほぼ鎮火していたが、街の建物は殆どが炭へと変わっていた。
「あいつら、街に拡がった細菌やウィルスを一掃するために火を放ったんじゃないのか?」
そんなことを話ながら、街に足を踏み入れると、直ぐに一人目の犠牲者を発見することができた。
「精密鑑定!」
[ペスト菌により死亡した魔族]
鑑定では判らなかったが、精密鑑定することで死因が判明するのは有り難かった。
「さっきの抗生剤で予防できるから、感染はあまり考えなくて良いし、もし生存者がいれば助けることができるかもしれない。」
リュートにそう言われたセレニアは、すぐに自分のできうる最大限の探索魔法を発動した。
「こちらの方向に、微かですが生体反応があります!」
セレニアの探索魔法に従い、白と黒に乗った二人が辿り着いたのは教会だった。しかし、その建物はかなりの炎に包まれたのか、その殆どが焦げ付き、焼け落ちていた。そのあまりの悲惨さに二人は言葉を失くしたが、それでも諦めずに彼らが探索を続けていると、白が地下へと向かう階段を見つけた。
「ここは?」
「仕様とかから判断すると、おそらく昔につかわれていた地下墓所ではないでしょうか?現在は、亡くなる人も減り、亡者を偲んで明るい土地に埋葬していますが、昔は魔物も多く、掘り返されたり、死人となって甦るのを怖れて、地下に埋葬していたようです。確かに弱い生存反応は、この扉の向こう側に確認できます。」




