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「よっしゃあ!拠点が決まったら、次は食糧問題だ。このウォンバットみたいな存在は、獣人なのかな?それとも魔人みたいな魔物なのか?スゴく微妙だけど……それでも理性あるものを食すのは、人間としてダメだと思うし、それは魔人だったとしても、道徳的に許されないと思うから、これは埋葬の一択だろうな……」


などとブツブツ言いながら、ウォンバット人のリュックと矢筒を外すと、その上着を脱がして 下着一枚にした。


「やっぱり知らない人の死体と一緒の部屋は嫌だから、少し外で待っててね。」


そう言って、トンネル出口の外側の岩にもたせかけると、角兎の処置に取り掛かった。


「先ずは生臭くなるから血抜きしないと……」


そう言いながらPCを操作して、確認してみると、猪の場合は生きている状態で、心臓か頸動脈からするとされていたが、既にこと切れている上に、水をかなり使用するということで、取りあえず首をウォンバット人が突き刺していた剣を使って切り落とし、足をロープで縛り、レールを三角錘状に組み立てた台に吊り下げ、血の落ちる部分にスコップを使って、少し大きめの穴を掘った。


作業を終え、血抜きしている間にウォンバット人を埋葬してあげようと外を見ると、座らせていたはずの彼の姿が消えていた。


中から周囲を確認すると、座らせていた場所から草むらの中へと、引き摺られてできたと思われる血の跡が続いていた。


龍人の背中に冷や汗がどっと流れた。


「……マジかぁ。全然気づかなかった。あいつを引き摺るだけの力のある獣がいるということだよな。」


やはり、この世界は一瞬の油断もできない世界だということを痛感した瞬間だった。


その後、広場に生えている草を二抱え程刈り取り、それを何度か繰り返すことで、トンネルに干し草でも作るかのように草の山を二山作り上げた。


これから火を起こす上でも有用だと思うし、場合によっては干し草のベッドを作ることも頭に入れての行動だった。


その後、トンネルの奥に転がっている枕木や木材を寄せ集め、纏められている枯れ木の皮を剥いて、火起こしの為の準備を開始していると、ヤカンや鍋が転がっていた所に、鉈と適度に切り揃えられた薪と焦げた薪を見つけることができた。


「ここに来た先輩もここでの生活を考えて、いろいろ工夫してたんだな……骨も無いところを見ると、結局出ていったんだろうけど、無事に助かってくれていると、こちらとしても頑張れるんだけどな……」


そんなことを呟きながら、龍人は木を少し焦げた跡のある枕木に、棒状の小枝を捩じ込むように擦り付け種火を作り始めた。


彼は三十分も掛からないうちに、何とか種火を作り出すことができ、小枝を組んだ薪に無事に火を移し、先ほど準備した水を貯めた鍋を、以前に竈に使用したと思われる台に設置し、火に掛けることができた。

ーーー

「これくらいかな……」


そう言いながら、先ずは内蔵を取り除くために、胸から腹へと剣を突き刺し、開胸開腹を同時に行い、肺や心臓、肝臓、脾臓、腎臓や腸などの内蔵を取り出し、近くに掘った穴に棄てた。


その際、肛門付近の腸を切断する時に、ロープをほどいた細い紐で縛り腸内の物が出てこないように工夫したので、大腸菌には汚染されていないと信じたかった。


「いよいよ皮剥ぎかぁ、できるかなぁ……」


そう呟きながら、ウォンバット人が持っていたナイフを使って皮を剥ぎ始めた。しばらく使うと、刃に脂がついて切れにくくなるというのは、検索で判っていたので、時々ナイフをお湯につけながら剥いていき、肛門付近は生殖器と一緒に、残存していた腸を含めて除去した。


「あれ?これ何だろう?」


そう言って、龍人がナイフを使って取り出したのは、心臓に寄り添うように存在していた直径二センチ弱の赤紫の珠だった。


「……俗に言われる魔石かな?取りあえず、頭の角と一緒に確保だな。」


そんなことをしながらせっせと手を動かし続け、あまりにも作業に集中していたからか、龍人が気づくとトンネルの外は真っ暗になっていた。トンネル内は、焚き火の炎がだいぶ小さくなってきていたこともあり、オレンジ色に染まっていた。


「ヤバいな!だいぶ熱中しちゃったみたいだ……これ以上の作業は難しいし、残りは明日かな……でも、なんかお腹に入れとかないと……」


そう言いながら、龍人は兎の右前足を肩の部分からなんとか取り外し、竈の上に置いた鉄板に載せ、隣に湧水溜めたヤカンを並べて、火を強くした。


なんとか作業を無事に終え、龍人は左手にかなり焦げた兎の足を持ち、右手にボコボコに凹んだ熱々のアルマイト製のカップを持って、トンネル外をボーッと眺めながら、口をクチャクチャ動かしていた。


やはり次元に境があるようで、トンネル内の光は一切外に漏れておらず、外には月と思われるものに照らされた平原と満天の星空が広がっていた。


『どうして、俺はこんな所にいるんだろう?なんか悪いことしたのかなぁ?』


そんなことを考えていると、自分と一緒にトンネルに入った後輩の二人のことが頭に浮かんだ。


『あいつらは大丈夫かなぁ?俺と違って女だし……こんなサバイバル無理だろうしなぁ……あの時、引き摺ってでも一緒にトンネルを抜けるのが正解だったのかなぁ……』


頭の中では、今日一日の出来事が走馬灯のようにぐるぐると繰り返し再生されていた。


『一番追求されるのは部長だろうな。あの肝試しを計画した責任を追求されるだろうし…たぶん明日はマスコミの餌食だろうな……少し可哀想な気もするけど、まぁ自業自得か。一番の被害者はあの二人だろうし……』


兎肉を食べ終えてからも、なかなか眠気も訪れず、外を眺める龍人の目の前の草がガサガサと揺れた。


思わずビクッと身体を震わせ、手元に準備していた鉄パイプを手にした龍人の目に写ったのは、草むらを掻き分けながら出てきた猪だった。


その猪は、周囲を見回し外敵が存在しないのを確認すると、目の前の土をほじくり返し始めた。


『何してるんだ?豚がトリュフ探すのは知ってるけど、そんなものがあるのか?ん?なんか食ってるな……なんだ?』


龍人が猪の暗がりの中で口元を必死に注視しても正体はなかなか判らなかったが、猪が蔦を牙に引っかけて大きく頭を上げた時に、その正体は明らかになった。


「イモじゃん!さつまいもかっ!」


興奮から、龍人が思わず大声を出してしまうと、その猪は大きくビクッと反応し、一目散に凄い速さで草むらの中に飛び込んでいった。


即座に龍人は腰にロープを巻き、トンネルの外へと出ると、先ほど猪が引っかけてほじくり出された蔦を掴み、おもいっきり引っ張りながら、急いでトンネル内へと駆け戻った。


更に手にした蔦をなるべく切れないようにゆっくりとゆっくりと引っ張ると、途中で切れてはしまったが、数十個のさつまいもらしきものを手に入れることができた。


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