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[情報確保も考えて少し様子を見る。機を見て、俺が奴の注意を引くから、その隙にルリを取り返して、あのシスターに渡せ!]


[イエス、ユアマジェスティ]


リュート達がそんな連絡を取り合っている間にも、神父は話を得意気に語っていた。


「その時の私には、まだ戸惑いがあったよ。しかし、勇者パーティーと共にダンジョンボスを倒し、最奥の扉の向こう側にあった物を見て、その戸惑いは霧散したよ!」


「……超古代文明の遺産ですか…」


「その通りだ。よく判ったな。そこにある物は巨大な私にも全く理解できない物体でな。何重にも封印処置が施されているのを見て、禍々しい存在であることは理解できたが、何に使うものかは全く判らなかった……しかし、勇者は違った。傍らにあった板状の物を操作し、そこに浮かび上がった古代文字を見て小躍りするほど歓喜していた。」


その時のことを思い出したかのように、神父は眉間を寄せて不快な表情を見せていた。


「正直言って、私は焦ったよ。私が全く判らなかった古代文字を意図も容易く読み解き理解する勇者が、このままでは世界を蹂躙していくのではないか、世界の覇権を握るのは私達ではなく、この勇者を擁する国なのではないか。我々はその支配に甘んじる劣等民族に成り果てるのではないかとね……」


「仮に天才が一人いたとしても、それで世界の文明が一挙に進むというわけではないでしょう……」


そのセレニアの言葉を聞いて、皮肉げに神父は笑みを浮かべた。


「……文明を築くことはできなくても、かつての超古代文明のように、たった一台の戦術兵器が世界を終わらせることもある。」


「……そ、それは…」


「勇者がそのボードと一緒にその兵器を持ち帰り、ボードの記述に従ってその兵器の封印を解こうとしたが、人族には不可能だということが判った時点で、声をかけてきた相手が私だ……歓喜したね。それこそ神の啓示に違いないと確信したんだよ。」


「そ、それが、先日我らの魔皇国に使用された兵器なのですか……」


セレニアが、神父を憎々しげに睨み付けなが尋ねた。


「ハハッ!その通りだよ!あの後で何十にも及ぶ封印の術式を解除し、使用可能にした頃には、私に同調する同士もかなりの数に及んでね。先ずは世界に進出することを拒む勢力を一掃しようということになり、人族の王に魔皇国はこの世界を支配する野望を持っていると伝えて不安を煽り、今ならあの兵器を使用すれば勝利できる筈、その際に人族の連合軍で対応すれば、その中で強い発言力を持つことができると唆したら、直ぐに乗ってきたよ。」


「……悪魔、あなたこそ伝説に言われる悪魔王ではないですか!あなたのせいで我らが同胞の、半数以上が命を落としたのですよ!」


その言葉に、神父は嫌らしい笑みを返しながら、更に言葉を続けた。


「愚か者など、足を引っ張る枷にしかならん。私達は仲間と共に国を興し、この世界に覇を唱えるのだ。」


「それを人族が許すとお思いですか!それにこの世界には、鬼族もいれば、エルフの民もいます。周囲を侵略しようとする国をそのままにするとは思えません!」


その言葉を聞いて、神父は満面の笑みを浮かべた。


「人族など始めから相手になどしておらん。私達が共闘を提案している相手は勇者だ。同じ渡り人、異世界人として、最終的には人族から疎まれる存在になることを強調したら、簡単に食いつきおったわ。鬼族もエルフの民も、魔皇国に使用されたあの兵器を知れば知るほど、我々には逆らえん。」


「勇者が裏切るとは考えないのですか?」


「ただ女神の加護を受け、周りよりチートなギフトやスキルやらを受けただけの男など、我らにしてみれば赤子も同然。手玉に取るのも他愛もないわ。しかも、奴の生まれた日本という国は、嘘をつくことを恥とする文化があるらしい……」


「日本だと!」


「だ、誰だ!」


そう言って、神父が振り返った途端、ルリ皇女を捕らえていた腕は宙を飛び、その腕の中にあったルリ皇女の姿は消え失せ、シスターセレニアに委ねられ、部屋へと消えた。


「今の所をもう少し詳しく教えてくれるかな?」


その声が聞こえるか否かの瞬間に、神父は階段最上部へと転移し、先程までいた場所には、激しい豪雨のようなジェルグのマシンガンによる銃弾の雨が浴びせられていた。


転移すると同時に、神父は前面に半球状の防御障壁を展開し、それ以降の銃弾による攻撃を辛うじて防御していたが、そこにジェシカの刀が一閃されると、その障壁は意図も容易く両断された。


「くっ、くそ」


そんな言葉を残し、再び神父の姿は消えた。


[ドゥム、そちらに裏切り者が逃げた。おそらく同胞の救出を謀るはずだ、阻止せよ]


[イエス、ユアマジェスティ]


ーーー

「な、なんだ!あいつらは!おい、逃げる?……どうして、縛られてる?」


仲間の視線に、アクトル神父は周囲を確認して唖然とした。


百騎以上いたはずの王国軍は、殆どが殲滅されており、僅かに残った兵士も次々と屠られていた。


「な、なんだ?あのゴーレムは?」


そう言いながら、片手で仲間の猿轡を外すと、


「あ、あいつらはヤバいです!直ぐに逃げた方が……」


そう言いかけた時点で、そのゴーレムの一体がすごい勢いでこちらの方へと向かっているのが見えた。


転移(ワープ)!」


神父は急ぎ、一人の魔族の首根っこを掴むと神殿洞窟入り口へと転移し、洞窟外へと身を踊らすと、再び転移をして、その場から撤退した。


「他の二人には申し訳無かったが、陛下が居る以上仕方がないだろう……」


「へ、陛下が存命だったのですか?」


縛られていた同胞の縄を何とか片手で外しながら、神父は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「確認したわけではないが、ルリ皇女が居て、ゴーレムが陛下と通信している所を見ると、まず間違いないだろう……」


「あ、あの勇者の攻撃から生き延びたということですか?信じられません……」


「あの神殿の内部にしても、殆どが元通りに修復されておったし、黒炭化したシスターの腕さえ綺麗に治癒していたことから推測すると、可能性としてはハイエルフの連中が加担しているかもしれん。」


「ま、まさか……あいつらがあの古の森から出てくるはずがありません」


「それほどまでに、勇者の使用した兵器が驚異であったと考えると辻褄も合う。」


そんなことを話しながら、二人は自分達が拠点として利用していた魔皇国辺境都市ミトリアへと足を運んでいた。


「ん?前方の空、少し赤くないか?それに少し焦げ臭いような……」


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