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「しかし、あれから数ヵ月でここまで補修が進んでいるとは、あれから腕の良い大工でも流れ着いたのか……」


避難所へと向かう通路を神父服を纏った一人の初老の男が、周りを窺いながら歩いていた。


「こちらとしても修理の手間が省けて有り難いが、これだけの腕なら引き抜くことも考慮せねばな……しかし、あの王国軍の部隊長も愚かな俗物であったな。正門の部隊があれだけ惹き付けてくれたお陰で、こちらの神殿内への転移も容易になったからな。何とか帰りも警備を任せたいものだな。」


そう口にしながら、最後の階段を降り始める神父は、正門の部隊が現時点でほぼ壊滅していることを知るよしもなかった。


[止まれ!それ以上侵入を図れば攻撃する]


機械音声のような声での静止命令が響き、神父はギョッとして顔を上げた。目の前には体高が一メートル程のアイアンゴーレムのようなものが三体、こちらに武器を向けて威嚇の体勢を取っていた。


一瞬、身体が凝固したように固まってしまった神父だったが、たかがアイアンゴーレム三体など、自分の火魔法一発で破壊できると思い直し、落ち着きを取り戻していた。


「これはこれはご苦労様でございます。私は、シャルト5世皇帝陛下より、この神殿を任されておりますアクトルと申します。避難民の方々を救護する為に忍び込んで参りました。通して頂けますか?」


[陛下の指示により、許可無き者の入室は許されていない。それでもをと望むならば、礼拝堂に座す陛下の許可を仰げ]


その言葉を聞いたアクトルの顔は驚愕に染まった。


(陛下、陛下だと…あの凄まじいまでの勇者の攻撃から逃れたというのか…ならば、正門で戦闘を繰り広げているのは、皇帝直属の親衛隊か…まずい!これはまずいことになったぞ…調査されればことは全て露見する。極刑は免れないぞ)


[たった今、陛下より指示が下った。入室は許可できない。そのまま、そこで待機せよ]


先程の心配が更に煽られ、アクトルの不安が更に増大した瞬間、部屋の扉が僅かに開けられた。


「ドゥム、どうしたの?」


その言葉に思い当たるものがあった。


(この声は明らかにルリ皇女のそれだ。皇女が居るということは、皇帝が居る可能性が高い。やるしかない)


空間交換(チェンジ)!」


その瞬間、アクトルの手の内にルリ皇女が捕らえられており、アクトルの人差し指の爪が伸びて、その細い首に突き付けられていた。


「……し、神父様?……ど…どうして…」


「姫様!どう……アクトル神父!あなたは何をしているのですか!相手は姫様ですよ!」


「そんなのは百も承知だよ。陛下がここに来ている時点で、魔皇国に俺の居る場所は無いんだよ。」


「……な、何を言っているのか理解できません!」


「とぼけるな!俺はな、陛下にも先代の陛下にも、この僅か数百キロしかない土地に縛られず、世界に覇権を唱えるべきだ!愚かな民を導くのは優れた種族である我々の使命だと、何度も進言してきたんだ。」


「それは、我々がこの星の民ではなく、異界から渡って来た者である以上、それは道理に外れることだと、陛下は繰り返し諭してくれていたではないですか!」


「自らの国に帰る手段を持たない我々が、遥かに劣等な民族に頭を下げ、遠慮しながら生きていくことが、どれだけ自分達を貶めているのか理解できない奴等の方がおかしいんだ!我々は、それこそ永年とも言えるほどの長い間、ひたすらに耐えてきた。その間の我々の文明は劣化の一途を辿っていることがどうして判らない!」


「それは私達の努力が足りないということであって、それが周りを侵略する理由にはならないのではないですか!」


「うるさい!私は十年程前のあるダンジョン探査で勇者パーティーと遭遇し、それに同行することで確信したんだよ。」


「人族と一緒のダンジョン探査は禁忌事項の筈です!」


その言葉に、神父はニヤリと口元を歪めた。


「残念だが、それは禁忌事項に触れなかったんだよ。」


「ど、どういうことですか!」


その時、セレニアは神父の背後に既にジェシカとリュートが待機して、隙を窺っていることに気づいた。


「勇者はな、この世界の人間じゃないんだよ。我々と同じ異界から渡ってきた……少し違うな。この世界の神に召喚された人間だ。この世界の神が、異界の人間を召喚してまで招くなら、我々が行動を自粛する理由はどこにあるんだ!」

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