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「あの隣に居る幼女は何なのですか?彼の子供なのでしょうか?」
「ジェシカのことね。彼女も不思議な存在でね。彼女はどうもゴーレムらしいんだけど……」
「えっ!そんな、み、見えません!」
「そうよね、そう思うわよね。でもね、彼女が言うには主とはぐれて、その主を探すために一万五千年以上この世を彷徨っていて、やっと出会えたのが彼なんだって。確かに彼の年齢は???と表示されるんだけど、とてもそれだけの長い時を過ごしているようには思えないんだよね。それにね鑑定の表示に『ジェシカの神』って出るの……最近の彼を見てると、ジェシカの言ってること信じて良いかなって思ってるんだよね。」
「おーい!ご飯できたから二人もおいで。」
そんなリュートの呼ぶ声に立ち上がったセレニアを見て、
「先生……腕が…腕が…」
「ん?腕がどうか……」
途中まで言いかけて、目に入った彼女の腕は、真っ白な肌を取り戻しており、始めから何の問題もなかったかのように普通に動いていた。一部のハイエルフが使用する蘇生魔法ならば同じような効果が得れるかもしれないが、こんなに簡単に腕を再生するポーションがあることが信じられなかった。
彼女の中では、失くした腕を取り戻した喜びよりも、その驚きの方が勝っていた。
「先程は、お薬有り難うございました。お陰さまで、この通りすっかり元通りとなりました。」
「おっ!それは良かった。こっちも作った甲斐があったよ。なんか人体実験させてしまったみたいで悪かったな。勘弁してくれ。」
「神ちゃまぁ、もうシャケ雑炊なくなっちゃうよぉ!」
「判ったぁ、直ぐ新しいもの作るよ……あっ!話を中断して悪かったな。取りあえず、ゆっくりと食事でも楽しんでくれ。」
そう言って、リュートはまた魔道コンロの方へとサッサと向かってしまった。
それを見送りながら、あり得ない者を見るかのようにセレニアは首を傾げた。
「姫様、なんか不思議な方ですね。あれだけのことをしたというのに何の気負いもありません。私には信じられない存在です。」
「お兄ちゃん、僕、雑炊というか、お魚があまり得意じゃないの。パンみたいなものもあるの?僕、お魚で身体にブツブツができてから、お魚食べるのが怖いの。」
「う~ん、今からパン焼いてたら時間がかかるし……そうだ!」
そう言いながら、リュートはミルクを鍋にいれて温め、テープルに大きめのまな板を出し、そこに表面が茶色で中が黄色の柔らかそうな食べ物を出した。
更に、ボールに生クリームを取り出し、砂糖を加えながら泡立て器で空気を含ませるように撹拌し、ホイップクリームを作ると、底に星形の穴を開けた金具を取り付けた袋を取り出し、そこにそれを詰めこんだ。更に、その板状のお菓子を子供の年齢に合わせて切り分け、底の紙を丁寧に剥がし、その隣に先程の袋に入れた生クリームを飾り付け、砂糖を加えたホットミルクと一緒に小さなお盆に載せて、その子供の舞絵に差し出した。
「食べてみて、きっと気に入るから。」
と言い終わる前に、
「神ちゃま!今の何?わたちは、まだ食べたことないよね!わたちも食べたい!食べたい!食べたい!」
ジェシカの急襲にあっていた。
「仕方ないなぁ!」
そう言って一口サイズのカステラ風ケーキにホイップクリームを載せて、
「はい、あ~ん!」
その言葉に合わせて、ジェシカが餌を貰う燕の雛のように大きく口を開けたので、そこに放り込んでやると、待ちきれないように口をパクっと閉じ、鼻に生クリームを少し付けて、両手を頬に添えながら幸せそうな微笑みを浮かべていた。
「ホント、親子みたいな二人ですねぇ!」
と言いながら、セレニアがルリを振り返ると、その姿は忽然と消えており、慌てて周囲を探ってみると、彼女もリュートの前で口を大きく開けていた。
「ジェシカばっかりズルい!私も欲しい!」
「お、お前なぁ……後ろで国民の人達が見てるぞ!」
そう言われて、少し後ろを気にするルリだったが、
「それはそれ!これはこれ!」
と激しく自己主張していた。
そうこうするうちに、最初にカステラの生クリーム添えを持っていった男の子の周囲の子達が、我も我もと調理用テーブルに集まり始め、あっという間に長い行列ができてしまい、リュートはお手伝い用ゴーレムを作成することに決めた。
「お手伝いゴーレムを生成してくるから、お前達二人で、この子達にカステラ生クリーム添えとホットミルクをセットしてあげて。」
そう言うと、リュートは扉を開けて部屋の外へと出ていった。
「生成!アイアンゴーレム!」
そこにはややマッチョなジャックのようなゴーレムが立っていた。
「お前の名前は、ジェルグな。」
「イエス、ユアマジェスティ!」
その後で、同型機を三機作成すると、更に彼らのサイズの割烹着を生成し、それを着るように指示した。
「今からお前達には、俺の料理の補助をして貰うが、大丈夫か?」
「ハイ、生まれた時から陛下の料理の知識がインプットされておりましたので、可能だと思われます。」
「そうか!住民の人達は、初めて見るお前達を警戒するかもしれないが、今回の作戦はそれを解消する良いチャンスだ。頼むぞ!」
「イエス、ユアマジェスティ!」




