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車から飛び出す前に待機を命じたジェシカと合流し、リュートは暗視装置付きのヘルメットを装着して同じものをサイズを調節してルリにも被せた。白と黒は、この闇の中でも視界が確保されているようで、行動には何のその躊躇いもないように見えた。
「ジェシカは先行して、探査を継続しろ。白はジェシカをガードして、黒は俺とルリに続いて後方を警戒しろ。」
[イエス!ユアマジェスティ]
リュートはルリの手を取り、周囲を確認しながら足を進めた。ジェシカと白が敵を見逃すはずがないと信頼しての行動だった。
壁には強い衝撃が加わったような凹みや崩壊だけでなく、強い火力に曝されたような焼け焦げた跡、床には血を大量に流した者を引きずったと思われるような跡もあった。
リュートの手を握るルリの手は汗ばみ、その力が強まることはあっても、緩められることはなかった。強い子だとリュートはひどく感心していた。
正門両脇に造られた石像は、共に強い外力により半分程崩れており、両開きの扉の片方は床に転がり、もう一方の扉も上部の留め金が壊れて外れかけていた。
中に入ると、目の前には礼拝堂が広がっていたが、椅子は滅茶苦茶に破壊され、正面の聖壇やクワイヤやサンクチュアリと似たような場所も悲惨な状況に陥っていた。
特に正面の女神像は、魔法の的当てにでもされたように至る所が崩れ落ち、焼け焦げていた。
「ジェシカ!周囲の警戒を頼む!」
「イエス!ユアマジェスティ!」
ジェシカに周囲の警戒を任し、ゴーレム用収納リングを取り出し、二十体分の素材を取り出すと、リュートは、まず一体目のアイアンゴーレムを生成した。イメージはもちろん例のアニメに出てくるモビルスーツだった。
「良し、お前の名前はドゥムだ。これから十二体の同型機を作成するから、お前が指揮者となって纏めるんだ。判ったか?」
「イエス!ユアマジェスティ!」
恐ろしいことに指示に対する返事は、この時点で既に統一されていた。体高はジャックとじ一メートル程であったが、それで充分な機能を有していると考え、装備兵器には対物ライフルペイロードと、日本刀を与えた。
ドゥムに命じて、神殿正門の警備につかせ、彼自身は神殿の復旧作業に取り掛かった。
「復元!」
石像に両手を当て、彼が詠唱すると、まるで場面が逆再生されるように、転がっていた資材が次々と本体の方へと向かい、大まかな昔の姿を取り戻した途端、それは強く輝いて皹一つない綺麗な石像となった。隣で見ていたルリの口は、驚くほど大きく開かれ、目は眼球が落ちるほどに大きく見開かれていた。
「す、スゴい!相変わらずの神スキルね。でも、私としては早く奥に探索に向かいたいのだけど……」
少し不満を漏らすルリに、リュートは優しく諭すように答えた。
「ここが攻撃されたということは、敵が中に侵入してくる可能性があるということだ。もし、俺達が奥へと向かった後で、敵が侵入してきたら、俺達はどうなる?好ましい状況と言えるか?」
その言葉に、ルリはハッとして表情を引き締めた。
「ゴメン……考えなしだった。ここには魔族しか入れないと思い込んでいた。ゴメンなさい。」
「判って貰えればそれで良い。それに魔族しか入れないと考えると、もう一つ大切なことがある……」
「裏切り者がいるということ……」
そのルリの言葉に、リュートは黙ったまま頷いた。
正門から礼拝堂までの復旧を終えたリュートは、ドゥム小隊にその警備を任せて、更に先へと足を進めた。
「リュート。女神様の像も綺麗にしてくれてありがとう。」
「そんなの当たり前のことだ。気にするな。直せるのに、あのまま放置したらバチを当てられそうだからな。」
そんな話を二人がしていると、先行しているジェシカから連絡が入った。
[ここより先にある地下への通路が、意図的に崩落させられて閉鎖しています。進むことができません。]
「熱源探知の反応はどうだ?」
[最下部に動力炉があるらしく、それに邪魔されて探知できません。]
「ルリ。この下には何があるんだ?」
「魔法学校の宿泊施設があります!おそらくそこが緊急避難場所になっていると思います!」
「行くしかないな。」
「復元!」
リュートが床に手を起いて詠唱すると同時に、これまでと同じ様に床に散らばった欠片が元の場所へと戻っていき、眩い光を放って通常の階段へと復元した。
「ジェシカ。先導を頼む。」
[イエス!ユアマジェスティ!]
三人と二匹が数十段の階段を降りた先には、重厚な扉があった。
[内部に熱源を探知しました。おそらく数十人の生存者が居ると思われますが、反応は微弱でほとんど動いておりません。かなり危険な状態と判断します]
その言葉を聞いたルリが、二人の間をすり抜けて扉を勢い良く開くと同時に、中から巨大な火球が放たれた。




