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「私たち魔族は、始めからこの世界に存在していたわけではなく、この世でない遠い土地からやって来たと言われています。その私達の先祖が渡ってきた湖が、このイライ・ナイアだと言われています。」


そう言って、ルリは蒼白く輝く岩肌によって照らされた、翡翠にミルクを混ぜたような不思議な色に染まった氷の湖を見つめた。


「じゃあ、魔族の人達はここに来たことあるの?」


そのリュートの質問に、ルリは首を振った。


「私達が知っているのは、多分ここの対岸にあるだろう始まりの神殿までだよ。何回か調査団が派遣されてきたけど、何れも湖の果てを見つけることができなくて、気がついたら元の場所に帰ってきていたという報告しかされなかったと思う。」


「じゃあ、今回の目的は、その始まりの神殿ということで良いかな?」


甘えるジェシカを肩車しながら、リュートがルリに提案すると、


「神殿には、魔族の人達が避難しているかもしれないから、できたら行きたいけど、大人の魔族が何ヵ月も探検して果てを見つけることができなかったから、いくら白や黒に乗せて貰っても……」


そこまで言って、ルリは下唇を噛んだ。それを見て、リュートは優しく微笑むと、


「それは心配しなくて良いよ。その為に準備したのが、この氷上魔道車だよ。」


と言いながら、二人と二匹を今回組み立てた氷上移動用モーターホーム擬きの元へと案内した。


「「……!」」


側面の扉をリモコンを使って開けると、外側に開いた扉の内側に階段上のステップが出現し、二人と二匹は興奮しながら内部へと飛び込んだ。


リュートが氷上魔道車を起動させて、内部の照明を点灯し、その内装が露になると、特に二人の興奮は最高潮に達した。


「ユニットハウスを利用して、移動にはもっと小型のものを利用するつもりだったんだけど、作り始めたら嵌まっちゃってね。こんなんができたんだよ。」


「最高!最高だよ!これなら、どこまでだって行けるよ!」


「ちゃすが神ちゃま!ここはわたちと神ちゃまの愛の巣でちゅね。」


興奮する二人を落ち着けるために、作ってあった朝食をテーブルに並べ、白と黒の分を専用の食器に盛り付けて、軽く手を鳴らした。


「さぁ!ご飯を食べたら出発するよ!ちゃっちゃっと食べてね!」


ーーー

さっそくスタートした氷結湖探検ツアーだったが、毎日毎日目に入ってくるのは凍りついた湖面のみで、動物や虫の一匹も出現せず、最初のうちはフロントシートにへばりついていた二人だったが、今では後ろのベッドで好き勝手なことをしながらゴロゴロしていた。


それからは、走っては休憩して食事して、走っては入浴して睡眠して、そんな毎日を十日ほど繰り返していた時、リュートの目にキラリと光る塔のようなものが映った。


彼は照明を消し、白と黒に命じて後部のベッドにいるルリ達を呼んだ。


ルリに生成した双眼鏡を渡して事情を説明し、その建造物の確認をして貰うと、


「そう!あれは始まりの神殿よ!やっぱりここはイライ・ナイアだったんだ!」


そう言いながら喜ぶルリに、彼は落ち着いた声で尋ねた。


「ルリ。一つ確認なんだが、あそこには常駐の兵士とかいないのか?」


「えっ?神殿警備兵は数人いたと思うけど、ほとんどは僧侶とか巫女さんだと思うよ。それに、この前の戦争では避難指定場所になって、近隣の住民とか魔法学校の生徒の避難場所になっていたと思う。それがどうかしたの?」


「あれから数ヵ月が経つが、食料とかの備蓄はどれくらいあるんだ?それだけの避難民を満たすのに充分足りているのか?」


その言葉を聞いたルリの顔色が見る間に青白く変わっていった。


「足りてないということだな……ジェシカ。悪いが隠密モードで先行偵察をお願いして良いか?」


その言葉を聞いた聞いたジェシカの顔鎧が変形して眼以外を覆い、体幹の鎧部分も変形してバトルモードとなった。


「イエス!ユアマジェスティ!」


と言うや否や、天井にある非常用のハッチを開けて、そこから翔び出していった。


[神ちゃま、わたちの視界と神ちゃまのパッドを連結して下ちゃい。画像を送信します。]


[了解!準備完了した]


リュートは、ダイニングテーブルの後ろに設置した液晶画面にパッドを連結し、中にいる全員がそれを確認できるように操作した。


そこにはボロボロに崩れ落ちた壁面やら、焼け焦げた壁やらがあり、床には血痕と思われるような跡があった。内部に灯りは点っておらず、ジェシカの夜間戦闘用モードでの視界は、緑がかったモノクロの世界に見え、まるでゲーム画面を見ているようだった。


[目標地点上空に到達しました。これより熱源探索を行います]


かなりの高度まで上昇したようで、画面には神殿全景が捉えられていたが、見える範囲には熱源は探査されていないように見えた。


[探査モードで捉えられる熱源は存在しません。これより各ブロックに分けて、詳細な熱源探知を行います]


映し出され映像を見て、最初はヒッと息を呑んだルリだったが、その後は少しの異常も見逃すものかと、食い入るように画像を睨み付けていた。


[暗視モードに熱源探知の画像を合成します。これより神殿正門への侵入を実行します]


そう言うと、画像は急降下して神殿正門付近を映し出した。


「待って!私も行く!」


「待て!」


リュートの制止の指示にも関わらず、ルリは先程ジェシカの通ったハッチから抜け出し、氷の上を走り出していた。


リュートは軽くため息をつくと、正面ゲートを開け、白と黒とでルリを追いかけ、途中で彼女を拾い上げて神殿正門へと向かった。


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