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二人と一匹と合流した白とリュート達は、今回はそれ以上の探索をすることを諦め、帰宅の途についた。
「さっきの荒れ地の整備は、いったいどうやったの?」
帰り道でのルリの問いに、リュートは何の気負いもなく答えることができていた。
「俺の中に生まれたスキルを単純に使うだけじゃなく、本格的に道具として利用してみたんだよ。穴は土木スキルを使えばかなりの大きさのものを作ることができたし、埋めるのも簡単だった。ただ、そのままにしとくと一目で戦闘した痕跡が見つかってしまうから、栽培スキルで雑草を育てられないかなと試してみたら、簡単に育ってくれたんで、たまたま上手くいったんだと思う。」
そのリュートの言葉に、ルリは眉をひそめた。彼の使用した土木スキルとか栽培スキルとかは、これまでのルリの知識の中に思い当たるものが存在しなかった。
確かに生活スキルと分類されるものの中には、似たような効果を得られるものがあったが、せいぜいゴミの穴を掘るとか、少し綺麗な花が咲くとか、一つ二つ余分に実が成る程度の効果しかなかったはずで、これ程大規模に展開されたスキルが、それと同類のスキルとは思えなかった。
それに普通の人々には、雨後の筍のように、あれだけ簡単にポコポコスキルが生えてくることなんてあり得ないし、しかも、そのどれもが規格外のスキルで、一部のスキルは魔法以上の効果を表していた。かなりの回数使用しても魔力切れを起こしてないから、おそらく魔力も必要としていないと考えると、破格の能力と言えた。
例えば、さっきの死体の処理だって、土魔法で穴を掘り、それを埋めるとなると、少なくともレベル5を必要とするはずであった。しかし、彼は土魔法を使えず、彼の熟練度はつい最近まで、0クラスの0レベルであり、体力も魔力も素人のそれであった。
この世界での常識では計り知れない存在。それがリュートという人間だと考えるしかなかった。
「ねぇ、リュート。もう一度あなたを鑑定しても良い?」
「えっ?あぁ、別に構わないよ。俺も細かい部分まで知っておきたいから、トンネルに戻ってからでも構わないか?」
帰り途は順調に進み、川沿いの温泉で、ジェシカがリュートと一緒に入ると駄々をこねて一揉めあった以外は、特に問題も起こらず、三人と二頭は無事にトンネルへと戻ってきていた。
「じゃあ、鑑定するね。」
そう言って、ルリはリュートの前に立ち、額に右手の人差し指と中指を当て、自分の額に左手の人差し指と中指を当てた。
「精密鑑定!」
前回と同じ様に、結果をジェシカが紙に写してくれていた。
名前 深海龍人
リュート
人種 迷い人
称号 白と黒の父
ジェシカの神
年齢 ???
職業 無職
熟練度 1クラス
1レベル
体力 20
魔力 38
所持スキル
鍛冶(4) 彫金(3) 木工(5) 栽培(8) 裁縫(2)
錬成(1) 調理(8) 解体(7) 抽出(1) 分解(5)
育児(6) 鑑定(3) 酪農(5) 狩猟(6) 釣り(3)
馴致(3) 土木(3) 建設(2) 天文(2) 合成(2)
創造(1) 創作(2) 加工(3) 醸造(1)
言語理解(5) 剣術(1) 鎗術(2) 格闘術(1)
「ふわぁ!相も変わらず多才だね。それでいて、職業欄が無職……なんなんだろうね。」
「神ちゃまは、神ですから、職業は神と記ちゃいされりゅべきでちゅ!」
「いやいや、突っ込まないとダメなのは、熟練度が1で、何の訓練も受けていない一般人レベルというのが問題あるんじゃないかなぁ。こんなんすぐ死んじゃうレベルだよ!それに、年齢???って何?意味不明なんだけど!」
全く理解できない鑑定の結果ではあったが、リュートのすることに変わりはなかった。
その日からの彼は、朝起きたら、トンネル前の広場の周辺を周り、次々と大木を伐採して材木や薪へと木工スキルを使用して加工し、土木スキルを使いながら、根を掘り起こして耕作地へと変え、水路を作成していった。更に、できた耕作地を栽培スキルを利用して、様々な作物の畑へと変えようとしたが、あまりに人手が足りないことを実感した。
そのあまりに広い土地の開墾に利用する為に、余った材木を利用して、ゴーレム作りにもチャレンジしたが、魔石を動力炉として活用する方法は、まだ全く原理が判らず、出来上がるのは案山子の役割しか果たせない木偶の坊ばかりだった。
そんなこともあり、全ての耕作地をそのまま畑へと変えるのは、早いうちに諦めがつき、取り敢えずは、安全を確保するために、広い土地の周辺に壁と濠を造ることに決め、余裕をもって土地が運用できるように、トンネルを基点として、半径一キロ程の伐採を行い整地した。加えて川沿いの温泉からお湯を引けるように西側には更に数キロの土地拡張各工事を行うことに決めた。それからは、ただひたすらにスキルを使い続ける毎日だった。
ゴーレム作りは難航したが、ジェシカの「こんな案山子は嫌だ。仲間じゃない!」の一言から、見た目にも拘るようになり、いつの間にか造形スキルが生え、毎晩フィギュアを作ることで、そのスキルも順調に伸びていった。
そうこうするうちに、まず最初に料理スキル(10)となり、引き続いて木工スキル、土木スキルもカンストした。
土地の開墾が終わり、次に壁と濠の作成に取りかかると、単に土を盛り上げるだけでは強度が不足する為に、崖から石を切り出して土台とし、それに土を盛り、それを変成させて人工の岩へと変えた。土は濠を造る為に掘り出したものを利用したので、土地の東側から壁と濠が同時に作成されていったが、造られた濠は、崖から切り出した石を運ぶのにも役に立っていた。
作業を開始して三ヶ月程が経過し、後少しで川原の温泉に到達すると言う時になって、頭の中にボーカロイドのような音声が響いた。
『十種の生産スキルが上限に達しました。生産スキルを一つに纏めることが可能になります。実行しますか?』
あまりのスキルの数に辟易していたリュートは迷わず実行するを選択した。
『全ての生産スキルを生成スキルに集約します』




