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パチパチパチパチ
と、軽い嘲笑うような響きの拍手と共にそいつらは姿を表した。
「なかなか興味深いお話でした。あれだけの圧倒的な武力を見せても、我々王国に歯向かおうなんて国が、まだこの世に存在していたことに驚いてしまいますよ。」
先頭に立っていたのは、ちょび髭を生やした痩せ細った男で、豪奢なロープを身に纏う魔法士のようだった。
「先程の話を聞いていると、そこにいるガキ共は、魔皇国の生き残りかな?面白い話をしてましたねぇ。詳しく聞かせて貰いましょうかね。」
後ろに並ぶ三十人程の装甲歩兵が、その言葉に合わせて三人と二匹の周りを半円状に取り囲んだ。奇しくも、先日ルリとリトが陥った状態によく似ていた。
「……神ちゃまぁ……」
早く命令を下して欲しくて、ジェシカがソワソワしているのが判ったリュートは、仕方なく指示を出した。こんなに状況でも、自分の娘とも言える彼女に人殺しの命令を下すのは少し躊躇があったが、ここは殺らなきゃ殺られる世界だということは理解していた。
「ジェシカは、奴等を一人残らず殲滅しろ!ここから生きて返すな。情報が漏れると不味いことになる。白と黒は、俺とルリを護れ!」
その言葉を受けたジェシカの額鎧が変形し、目を除いて彼女の顔を覆い、身体に纏った簡易な鎧も重厚な装甲へと変形した。抜刀した二本の刀からは稲妻が迸り、黄金色に輝いていた。
白と黒は、本来の体長十メートルの姿へと戻り、リュートとルリの前に陣取った。
「な、何ですか、それは!その禍々しい真っ黒な鎧と、その光輝く刀は、まるで伝説の殲滅の魔天使、地獄の戦乙女みたいじゃないですか!チビだけど……」
そのちょび髭の言葉を聞いて、ジェシカが切れた。
「赦ちゃない!」
ジェシカの姿がブレるのと同時にちょび髭の髭が地に落ちた。
そして、そこにいた装甲歩兵の身に付けていた分厚い装甲が次から次へと切り裂かれ、わずか数秒のうちに、三十人の部隊全員が、悲鳴をあげることもできずに、大地に転がった。
血と両断された死体が転がる広場に一人残された元ちょび髭は、あまりの惨劇に茫然と立ち尽くしていた。
「そいつは私に殺らせて。」
白と黒の間をスルリと抜けてルリが一歩前に出た。
「良いのか?辛いかもしれないぞ……」
「大丈夫……皇女として、これは避けられない道……逃げることは赦されない。」
「ほぅ皇女?もしや、ルリ皇女。ガルラット王国、第三歩兵連隊第五部隊隊長として、逃げるわけにはいきませんねえ。例え、お子様相手でも、全力で殺らせて頂きたいと考えますが、一つ条件を提示させて頂きます。この状況で闘う代償として、私が皇女に勝利した場合は、戦闘後に他の方々が一切手を出さないとお約束頂けますか?」
「構わない!ここで死ぬなら、元より復讐するための資格さえないということ。滅ぶべくして滅ぶということ。リュートやジェシカは一切手を出さないで!」
その言葉には、強い決意が秘められており、リュートは何も言葉を返すことができなかった。
「……お願い…」
沈黙を否定と受け取ったのか、ルリが再度、自分の想いを訴えた時、リュートはそれを否定することができず、ただ頷くことしかできなかった。
「お話は纏まりましたか……」
そんな言葉が終わるか終わらぬうちに、ちょび髭から火弾が、ルリに向けて放たれたが、それは彼女が展開していた魔術障壁に跳ね返された。彼女からは、三本のアイスジャベリンが撃ち出されたが、目標を捉えることができずに大地を抉った。
リュートは二人から距離を取り、白と黒に両サイドを挟まれ、前方にはジェシカが控える感じで、戦況を窺っていたが、他の子達とあまりに格差のある自分の戦闘力に、かなり打ちのめされていた。
「俺って、みんなに指示出してるけど、ここではダントツの能無しの雑魚キャラだよな……何とかしたいけど、できるんだろうか?」
すると、その声を聞き留めたのか、前を向いたままジェシカが話しかけてきた。
「今の神ちゃまは、人間でいうと脳と一緒、一人では落としただけで壊れちゃう。でも、ちょれを護りゅ為に、白や黒やわたちがいりゅ。わたち達が、手足とにゃって、剣となり、牙となって闘う。だかりゃ、心配しにゃくて良い……それに、この後、神ちゃまはどんどんちゅよくなる。しゅぐに私達も越えていく。わたちはそれが少ししゃびしい……」
それを聞いて、リュートは思わずウルッとしてしまった。なんて良い子なんだろう。こんな素敵な子を創ったのが自分だなんて信じられなかったが、今の自分は汗を流すしかない。必死に自分を磨こう。そう心に決めた。
「ジェシカ、白と黒はまだまだ成長するだろうけど、お前もこれからどんどん強くなる。俺がそうさせる。だから、これからもずっとお前は俺の親衛隊長だ。よろしく頼む。」
そんな俺の言葉を聞いて、ジェシカは右手の甲で目蓋を拭っていた。
「ぎゃんばる!」
そんなリュート達の前では、ちょび髭とルリの熱いバトルが続いていた。
あんなことを言われてしまったが、本当に危なくなったら加勢しようと思っていたが、実力的にはルリの方が上で、ちょび髭が経験で何とか対応しているような状態だった。
お互いに魔法を撃ち合い、魔術障壁で防御することが基本で、剣や飛び道具などによる攻撃が交わされることはなく、これはルリにとってはありがたいことのように見えた。
ルリは、この前の黒いゴーレムとの戦闘で、魔法が通用しない相手にはどうしたら良いのか考えることができた。今回は魔法が無効になるわけではないが、魔術障壁によって遮られてしまうので、結果として同じ様な状況に陥っていた。
「私だって、あの事があって反省したんだからね!」
そんなことを考えながら、戦闘を続けていると、
「こども相手に使いたくはありませんでしたが、ここで皇女を逃がしたとなれば、死んでも死にきれません。卑怯と言われるかもしれませんが、私も足掻かせて貰いますね。」
そう言って、ちょび髭は腰に帯刀していた剣を抜き、そこに火魔法を付与した。




