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ジェミニの名前を北欧神話のワルキューレの一柱である女神に因んで、『エイル』と変更しました。
【ゲス野郎にしては、良いアイデアでやす。しかし、それはもう絶対に不可能でやす。お前やそこの神狼が転移魔法でも使えて、ドラゴンクラスの魔物をサクッと殺れて、今すぐここに特大の魔石を持ってこれるなら、それは可能でやす……それはお前みたいな無能には地獄に行って無傷で帰ってくるくらい無理な話でやす】
そんなことを言われたリュートは、急いでトンネル内へと戻ると、一瞬の躊躇はあったが、白と黒の母親の魔石を取り出し、外へと戻ってきた。
「これでは無理かな?」
そう言われた奴は、リュートの手にしていた魔石から目が離せず、食い入るように見つめていた。
【な、なんでそんな魔石が次から次へとポンポン出てくるてやすか……はっ!やっぱりお前は神でやすか】
「まさか……」
【私のお世辞を真面目に受け止めないでくれやすか…冗談に決まってるでやす】
やっぱり、こいつを生き残らせるの止めようかなとリュートが思ったのと同時に、ロボットの胸からコードのような物がスルスルッと伸びて、魔石を奪い取っていった。それを彼はジトーッとした目で見送った。
「こいつ、絶対に俺の心読んでるな……ところでさ、さっきの魔石と比較するとサイズが半分以下なんだけど大丈夫かな?」
【ちっ、これだから素人は】
思わず頭をおもいっきりぶん殴ろうとしたリュートだったが、復元に問題が起こることを心配して、必死に思い止まった。
【魔石の大きさは、その魔物が所有する力つまり力素により決定されるでやす。大まかに言って魔物の大きさとパワー、生きてきた年数によって左右されるでやす。そして、魔石の色は、その魔物が所有する魔力の大きさと質、つまり魔素によって決定されるでやす。この魔石は、大きさがさっきのよりかなり小さいけど、かなり良質の魔素を含んでいるでやす。さっきの魔石と同等の価値があるでやす】
「そんなに貴重な魔石だったのか……じゃあ返してくれる?」
【へっ?な、何を言ってるでやすか!これはもう私の物でやす!ぜ、絶対に返さないでやす!】
「じゃあ、お礼の言葉はどうして言わないのかな?他人から物を貰ったら、キチンとお礼を言うのは当たり前だよね。そんな基本的なこともできないのかな?」
【くっ!このゲス野郎が、他人の弱みにつけこむ最低クズ野郎です】
「じゃあ、返してくれる?」
【くっ!殺せ!って言いたいけど言えないでやす。私にはジェシカを護る使命があるでやす。こんなクズ野郎に………………】
「どうしたの?」
【あ……あ…ありがとうでやす】
「言えた!言えた!偉いなぁ!よく頑張ったね。でも、急がないと魔石に人格が移せなくなるよ。ジェシカが目覚めたら消去されちゃうなら、急がないと間に合わないよ。」
【はっ!そうだったでやす!お前、後で覚えとけでやす…あっ、お前、私に名前つけるでやす。名前がないと存在を綺麗に分けることができないでやす……早くしろでやす!このノロマ野郎】
「じゃあ、エイルはどう?」
【…時間がないでやすから、それで許してやるでやす……】
少し嬉しそうな口調でそう言って、奴はそのまま黙り込んだ。リュートは、こいつの人間らしい反応にイライラすることはあったが、好ましくもあった。これ程からかいがいがあって、本音で離せる存在が身近にいてほしいと、その時は心底願っていた。
「お前たち、待たせたね。あの子もかなり複雑だったから、放置できなかったからね。それと貴重なお母さんの魔石を勝手に使ってしまってごめんね。」
そう言いながら、リュートはずっと後ろに控えて待機していた白と黒の間に座り、二頭の首の辺りを優しくなで続けた。
白と黒は判っているよとでも言いたげに、軽く小さく吠えると、そのままリュートの手の感触を楽しんでいるようだった。
そんな一人と二頭を満天の星の中にポッカリと浮かぶ満月が見守っていた。
ーーー
小一時間程してから、熊の化け物の魔石の全てが胸の中にあった透明な宝珠に吸収されると同時に、それが蒼く輝きだして胸が閉じられた。それと同時に今度はその体幹だけでなく、千切れかけていた右腕や両脚、手に持っていた大刀までも強く蒼白く輝き始め、その眩しいほどの光の中で、その姿が徐々に変化し始めた。
あまりの不思議な光景に目が離せず、リュートが魅入っていると、その蒼く輝く光は、次第に人の形を取り始めていき、その光が収まった時リュートの前には、一人の少女が立っていた。
髪の毛は銀色に少し紫色の髪が混ざっており、それを短めのハイツインテールに纏めていた。耳の横には紫色の髪が混ざった房があった。顔は抜けるように白く、大きな目には透き通った海のように深く蒼い瞳が収まり、小さな淡いピンク色の薄い唇があった。
更に目を下へと移せば、黒いレースの多いゴスロリ調の衣装の上に、漆黒の装甲を纏っており、額にも小さな額鎧を身に付け、背中には二つの小振りの刀を背負っていた。
胸の前には、両手で自分の胸の中にあったものと同じような真紅の宝珠を抱えていた。
「御主人ちゃまぁ!」
意識が戻ると同時に、彼女は手にしていた宝珠を放り出し、リュートの腰の辺りにしがみついてきた。そう彼女は一メートルにも満たないような幼女だった。
「えっ?あれぇ~、チビっこくなっちゃったみたいだぁ。でも、御主人ちゃまに会えたから、ジェシカは満じょくでちゅう!」
おいおい真面目で頑固なジェシカちゃんじゃなかったのかよ。優等生的な委員長タイプと勝手に築き上げたイメージがガラガラと音を立てて崩れていき茫然としたリュートが、放り出されて転がっていった真紅の宝珠を、白から渡されると、それを右手で顔の前に掲げ、
「作成できるようになったら、直ぐにゴーレムの身体をプレゼントするからな、しっかりとお世話するんだぞ。」
と言うと、その宝珠は嬉しそうにピカッと瞬いた。




