22
「こらぁ、寝るなぁ、起きろぉ、死んじゃうぞぉ(棒)」
と、あまり危機も迫っていないような声で、ロボット(ジェシカというらしい)の頬を叩くと、再び目がチカチカと瞬いて、点灯した。なかなか細かい設定だった。
「なぁ、魔石を使うと、自動修復装置とか起動するのか?」
【判らない。でも、今よりはずっとマシになるはずでやす。ただ、部品や素材自体の量が圧倒的に不足しているから、元の姿に戻れるかは判らないでやす】
「で、魔石をどうすれば良いんだ?どのくらいの魔石なら良いんだ?」
【最低でも中程度の魔石が必要と判断されるでやす。だけど、それだと多分自動修復回路は起動しないでやす。それ以上が必要】
「で、どうやって魔石を使うんだ?」
【ん?御主人様は魔石を持っているんでやすか?見たところ、ただの人間のように見えるでやすが】
こいつ最低だ。俺を能力無しだと判定して、しっかりと俺にマウント取ってやがる。クソ野郎だなと思いながらも、リュートは優しい態度を取り続けてやった。
【私の回路の中央部にある宝玉に魔石を触れさせると、中の魔力が吸収されて、システムが起動するでやす】
と言われたので、リュートがトンネルに戻って、熊の化け物の魔石を持ってくると、ジェシカの目の色が変わった(実際にオレンジ色からマゼンダ色へと変化した)。
 
【どうして、御主人様が特大極上の魔石を持ってやがるのですか?理解しました。そこの二頭の神狼がやったのでやすね】
「俺がぶち殺したけど。」
【……実は、御主人様は能力を隠蔽する能力があるとですか、神でやすか?】
「ないよ。普通の少年Aだよ。」
【理解不能、ありえないでやす】
「どうでも良いけどさ、早くやり方を教えて。」
そう言われると、ジェシカはその言葉に応えて、胸のパネルをパカリと開き、内部構造を露出させた。
【ジロジロ見るなでやんす。エロジジイ?いやエロ坊主でやすか?】
もう、こいつ本当にめんどくさい奴だなと思いながらも邪険にすることなく、優しく胸の中を観察し、透き通った無色のダイヤモンドのような宝玉に、熊の化け物の魔石を触れさせると、その真紅の魔力がその中に流れ込んでいくのが判った。
【少女の秘密の花園を蹂躙するゲス野郎、足りないオツムでも理解できたでやすか】
はぁ、と大きくため息をつき、
「お前の言語機能、どんなセンスで設定したんだろうな?作った奴のセンス疑うよ。」
【目の前にいるから聞いてみるでやす】
「俺かぁ、素晴らしいセンスだな(棒)」
【そんなに落ち込むなでやす。私は緊急回路で、そんなに精密な設定されてないでやす。むしろ、こんなに喋りまくってるのがおかしいでやす。さすがに会えるかどうか判らない一万と五千年は長かったでやす。ジェシカは真面目で頑固だから、壊れる寸前だったと思うでやす。それを眠らせ護る為に生まれたのが、私という疑似人格だと思うでやす。だから、気にするなでやす】
そのロボットの言葉を聞いたリュートは、驚くような表情をしてマジマジと、マゼンダ色の瞳を見つめた。
「お前って、良い奴だな!」
【けっ!これだからチェリーボーイは困るでやす。チョロイン君でやす】
やっぱり、こいつ絞める。こいつを元気にすると、毎日がイライラの連続になる気がする。決めた。もう……
【早くジェシカを甦らせてほしいでやす。そうすれば私の役目も終わりでやす。御主人様もイライラしなくて済むでやす】
こいつ、心を読んでるんじゃないかと思ったリュートは、直ぐに作業を中断することなく、もう少し話を続けることにした。
「でも、ジェシカが復活したら、一つの身体に二つの意識、いやAIがあることになるから、二重人格みたいになって混乱しないか?」
【それは心配ないでやす。ジェシカが復活したら、それを護る為だけの私はお払い箱でやす。メモリからデリートされて終了でやす】
「えっ?だったら、お前ってジェシカが復活すると死んじゃうの?」
そう言われると、少しだけ目をチカチカさせて、
【もともとジェシカを護る為だけに生まれた人格でやす。例え一万年以上稼働していたとしても、目的が叶えば存在する意味はないでやす】
「……」
【何を絶句してやがるですか。私の存在意義は、ジェシカを護ること。その一点だけでやす。それを完遂したことを誉め称えるでやす】
こいつに言われた通り、リュートは絶句していた。今、目の前で喋りまくっている存在が永遠に消えてしまう。主人格を護る為に一万と五千年も稼働し続け、本当に苦労してきたはずの存在が、自分に出会ったことが原因となって消えてしまう。
「なぁ、何とかお前の存在を維持する方法ってないのか?」
【へっ……】
今度は相手が絶句していた。
【な、何を言ってるでやす。はっ?お前って、もしかして被虐趣味があるでやすか?ノーマルがこんな回路に興味を持つなんてありえないでやす。こんな危ない奴は、ジェシカが目覚める前に始末した方が良いでやすか?でも、そしたらジェシカが哀しむむでやすし、何、最後に難関持ってくるでやすか。こんなクズ野郎に、ジェシカを託すのは心配でやす。でも、私は存在できないでやす。最悪でやす】
パニックに陥っているであろう奴を前にして、リュートは解決方法を一生懸命探っていた。
「なぁ、お前の回路を他の何かに移すことはできないのか?」
その言葉に奴の目がピカンと輝きを増したのが判った。




