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その日の夜のことだった。


ルリが白と黒に挟まれてスヤスヤと眠るベッドの横のテーブルで、リュートがのんびりホットミルクを飲みながら、PCのデータ整理をしていると、突然、ドーンとトンネルの出口の所で大きな音が響いた。


リュートと飛び起きた白と黒は、トンネル出口へと向かったが、ルリは爆睡しており、疲れてるから寝かせてあげようという配慮から、そのままベッドに寝かせておいた。


一人と二匹がトンネル出口に到達すると、そこには、左腕は既になく、残った右腕も肩から千切れかけており、握りしめた剣を引き摺りながら、変な方向に曲がってしまった左脚をそれでも器用に動かして、トンネル出口に体当たりする真っ黒いロボット(ゴーレム)がいた。


【使用可能な武器がありません】

【本機では攻略不可と判断します】

【攻撃命令解除を要求します】

【損傷部位増加】

【命令の強制解除を実行します】

【実行失敗】

【命令解除できません】

【損傷部位更に増加】

【修復回路起動を実行します】

【自動修復回路起動しません】

【起動システムをリセットします】

【実行できません】

【左脚膝関節損傷80%】

【回復システム動きません】

【体幹バランス機能不全です】

【エネルギー残量1%です】

【魔石の補充をしてください】


聞こえて来る言葉は、どれもリュートが理解できる日本語だった。無理だとシステムが理解し、停止を指示しても起動しない回路に、諦めることなく起動を指示するロボットを見て、彼の目からは涙が溢れてきていた。そして、思わず叫んでいた。


「もういい!お前は十分働いた。止まれ!止まってくれ!」


すると、そのロボットの額の小さなランプが微かに瞬いた。


【集音機能に異常が発生】

【集音回路動作確認します】

【問題ありません】

【戦闘を継続します】


そうして、ヨロヨロと再び立ち上がろうとするロボットを、リュートはトンネルから飛び出し、その動きを抱きつきながら止めていた。


「もういい!止まれ!止まってくれ!」


【マスターの指示を確認しました】

【戦闘を停止します】

【マスターの音声により身元を確認します】

【……】

【ありえません】

【理解不能】

【再度確認】

【……】

【音声を御主人様と断定】

【マスター回路を開きます】

【……マスター回路起動します】


ロボットの予想外の反応に戸惑いながら、リュートがその顔を見つめていると、


【……ん~、おはよう……な、なにこれ!何でこんなにボロボロなの?】


そう言って、ロボットは自分の身体や顔を残った右腕で何とか確認するように触れると、


【なんじゃあ、こりゃあ!】


と絶叫した。何とも人間味溢れる回路だった。


【おい、そこにいる人間!魔石持ってない?できれば特大クラス、なければ大魔石で我慢するけど、後で絶対に返すからさ、譲ってくれない?ん?……でも、なんで私が起動したんだ。エネルギー使用量爆裂アップなのに……】


「人間って、俺のことかな?」


そうリュートが答えると、


【お前以外に誰かいるのか?私の目にはお前と二頭の神狼しか映っていないが……ん?お前の声?誰かに似てるな……お前、名前は?】


「俺か?日本名は深海龍人(ふかみりゅうと)、こっちでの呼び名はリュートかな?」


【……えっ?】


そのロボットは突然動きを止めて固まった。そして、マジマジとリュートの顔を見つめ始めた。


【虹彩の模様確認します】

【一致しました】

【指紋を確認します】

【一致しました】

【声紋を確認します】

【一致しました】

【顔認証システムを稼働します】

【一致しました】


暫くの間、機械音声が続いた後、


【御主人様ぁ!会いたかったよぉ!ジェシカは御主人様とはぐれてから、ずうっと待ってたんだよぉ!何年も、何十年も何百年も、何千年も、一万と五千三百五十六年と二百三十五日と六時間二十五分と三十八秒も、ずうっと我慢して待ってたんだよ!誉めて!誉めてよ!少しくらい誉めてくれても、絶対にバチなんて当たらないよ!】


「お、おぅ……ジェシカは偉いぞ。よく頑張ったな。俺は嬉しいぞ(棒)。」


と言いながら頭を撫でてやると、そのロボットは、


【ウヘヘェ……】


と言いながら、目の光が落ちた。

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