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「しかし、ガルラット王国の連中はヒドイことをするね。皆殺しというより、国家そのものの存在を消滅させるような兵器を使用するなんて、人間としてあり得ないよ!あいつらが人族の代表を自称するのは赦せるもんじゃないね!雫だって、そう思うでしょ!」
「あいつらはクズ。生物の汚点。それ以上でもそれ以下でもない。神が生存を赦している時点で、この世界は狂ってる。」
「お、おぅ……そうだね。その通りだね……アリアナが、この世界の人間を知るために、見ておいた方が良いと言ったから来てみたけど、正直言って見たくなかった光景だったね……まるで私達の国を襲った、あの爆弾みたいだった……」
「同意。」
森と崖に挟まれた、昨日ルリとリトが逃げていた道を、金髪と黒髪の二人の少女が歩いていた。
「でも、こっちの世界へ来て一番驚いたのは、全然年を取らないことだよね。もう十年になるけど、見た目何にも変わらないもんね。それだけは感謝だよ。」
「私はもう少し大きくなりたい……」
そう言って、雫は両手を添えて自分の胸を見た。あっ、ヤバい逆鱗に触れたかもとアオイが思っていると、前方の道が大きく抉れており、左手の森を構成していたであろう大木が、崖を起点として放射状に倒れているのに気がついた。
「そう言えば、あの悪夢の後、暫くしてからかなり大きな爆発があったけど、あれがそうかな?」
その場から逃げるように、アオイがクレーターに向かって走っていくと、その起点となる場所に真っ黒な塊があるのが見えた。
「スライムかなぁ……や、ヤバい!雫!早く、早く来て!」
それは手足のない真っ黒に焼け焦げた少年の身体だった。
「鑑定!」
直ぐに雫が鑑定魔法を使用すると、
「アオイ!この子、まだ生きてる……」
「でも、下手にポーションや回復魔法使うと、このままで固まっちゃうよ!どうする?どうすれば良い?」
アオイの言葉に、一瞬言葉に詰まった雫だったが、結論を出すのは早かった。
「転移魔法。師匠なら治せる。」
「でも、私達だけなら翔べるけど、他人を連れて翔んだことないよ。大丈夫なの?」
「まだ小さい子だから、私が背負えば荷物と同じ。」
そう言いながら雫はリトを背負い、アオイに手伝って貰いながらアイテムボックスから取り出したベルトで、背中に彼をしっかりと固定した。
「直ぐに行く。」
「了解!私も直ぐに後を追う。」
転移先が同じ場合は、同時に転移すると、転移ポイントかを重複してしまう可能性があるので、必ず時差をつけて魔法を発動することにしていた。
雫とリトがアリアナ師匠の所に翔んだのを確認してから、マリアが現場の確認をしてみると、周囲の倒れた樹木には人間の欠片とも呼べるものが無数に付着しており、かなりの多数の兵士に囲まれていたことが判った。
「男の子だね……捕虜になるのを良しとせず、全力で抗ったんだ……ん?これは?」
クレーターの中からズルズルと身体を引き摺ったような跡が一つ確認できた。
「生き残った奴が居たのか?しかし、これだけの崖だぞ。わざわざ自ら身投げするか?自殺行為だろ。」
その他の場所も確認したが、アオイには、他に有意義な情報は見つけ出すことができず、雫とリトを追って、自らも師匠の元へと転移した。




