14
「俺、ここに来て一体何をやってるのかなぁ……撮り始めた記録映像もかなり貯まったから整理もしないとな……」
トンネル前で自身の作成した椅子に座り、自身のスマホに残った映像を確認していた。龍人の座る椅子の隣には、自作の机の上に置かれた平皿にクッキーが数枚並べられており、手にしたカップには、今日牛から絞った生乳を利用したミルクティーが注がれていた。
そんなのんびりした気持ちで前方に広がる満天の星を見ていると、突然空間にビシッとヒビが入ったような感覚が伝わり、遠くの空に幾つもの真っ赤に輝く魔方陣が出現した。
「な、なんだ!あれ?」
「「ウゥゥゥゥ!」」
両隣に控えていた白と黒が身体を起こし、警戒の唸り声をあげていた。
その魔方陣は次第に輝きを増し、突然カッとより強く輝いたと思うと、中からゴツゴツとした真っ赤に燃えるような岩が姿を見せた。それが一つの魔方陣からだけではなく、そのよそらに展開された全ての魔方陣から邪悪な顔を覗かせていた。
「メ、メテオ!否、そんな生易しいもんじゃない!あれは流星群と呼んでも言い過ぎじゃないほどの大規模魔法だ!」
龍人の背中にドッと冷や汗が噴き出し、身体がブルブルと震えた。彼がこの世界に来て初めて感じた強い恐怖だった。
「あんなんどうするんだよ……対応しようがないじゃん。」
彼がそんなことを呟いているうちに、空にあった全ての魔方陣は隕石を打ち出し終えて消えていった。
「……終わったのか?」
その言葉がフラグだったかのように、今度は、それまでの魔方陣を全て呑み込めるような巨大な金色の魔方陣が出現した。
「……ヤバい!ヤバい!あれは絶対にヤバい!対惑星兵器だって言われても納得するレベルだよ……」
すると、そんな恐怖に襲われた龍人の目の前で、それは真ん中から割れるように時空を割き、中から未来兵器と呼んで差し支えないものが出現した。
様々な光が、ピンと伸びた砲身のようなものに纏わりつき、ドンドンと輝きを増し、その時空の歪みが、龍人達がいる所までビリビリと伝わってきた。それまでの魔方陣が赤子の遊びに思えるほどの凶悪な存在だった。
そして、夜空を真昼のように照らした光は、砲身の根本の方へと収束し、凄まじいまでの音と振動を置き去りにして、そこから何かが撃ち出された。
「レーザーじゃない!あ、あれは巨大なレールガンか?」
龍人がそう叫んだ瞬間に、巨大なキノコ雲のようなものが大地から立ち昇り、この時まで、あそこに存在していたはずの文明と呼ばれるものは一瞬にして崩壊したのが判った。あまりに残酷な兵器だった。
暫くしてから、その時の爆風と震動の余波のようなものが、龍人達のいる所まで達した。
「最低だな!クソ野郎が!」
そんな見知らぬ相手に対する怒りがこみ上げ、自分がどうすれば、そんな奴らに勝てるのかを考えている自分に気づき、龍人は大きくため息をついた。誰にも聞かれていないのに、
「ないわぁ!そんなん絶対にないわぁ……ちょっと大きな熊さん相手に、ヒィヒィフゥフゥ言ってる俺が、あの巨大なレールガンと対決する?ないわ!天地引っくり返ってもないわ!あんなん蟻が棒持って、象に飛び掛かって行くんと同じやで!」
等としっかり語る龍人は、そこにいない第三者からすれば、おもいっきり大きなフラグを立てているように見えているはずだった。
「白、黒、なんか腹立ったからもう寝よ!」
まだ興奮し、唸り続ける白と黒を伴って、龍人はトンネル内へと戻り床へとついたが、さっきの暴虐無道な行為が頭から離れず、何度も何度も寝返りを繰り返していた。
あの巨大やキノコ雲の下で命を失った人達の苦しみや辛さを考えると、今ここでこうして幸せと平和を貪っている自分が、とても大きな罪を犯しているように思えて、龍人は、何もできない自分に腹が立って仕方がなかった。
この世界に来てから一年以上が過ぎ、自分の国とも言える土地を作り上げ、あの熊の化け物を何とか倒すことができたことから、龍人は、この世界で何とか己れの意思を貫き通す程の力を手にしたと、無意識のうちに思い込んでいたのかもしれない。
しかし、昨晩の無慈悲で圧倒的な、今の自分では歯牙にもかけられない力を見せつけられて、その根拠もない自信が木っ端微塵に打ち砕かれ自分が作ったこの楽園は、この世界にとって砂上の楼閣でしかないと、無理矢理自覚させられた。
あの一万分の一以下の力でさえ、今の自分に向けられたら、生き残れる自信は全くなかった。
そんなことが頭の中で繰り返し、繰り返しリピートされて、その夜の龍人は全く眠ることができず、少しウトッとした時には、もう既に陽が高く昇っており、夜はとうに明けていた。




