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それから暫くの間は、何事もなく平穏な日々が続き、午前中は冬に備えての野菜作りに精を出し、午後は川を遡上してくる鮭を確保してから温泉に使って帰ってくるということを繰り返していた。


少し余裕のある時は森に入って、まだ確保していなかった柿とか栗の果物や幼木を採集していた。そんなある日のことだった。


((ブモォォォォ!ブモォォォォ!))


遠くから、たくさんの牛が鳴くような声が

風に乗って聞こえてきた。


「ん?……牛?……牛と言えば…牛乳!牛乳と言えば…ヨーグルトにチーズにアイスに生クリーム!行くっかないでしょ!」


そう言って、白と黒を伴い龍人は川原を下り始めた。石ばかりの川原はやがて砂の混ざった川原へと代わり、聞こえてくる牛らしき声はますます大きくなり、一キロ程川原を下ると、遠くにゾロゾロと繋がる動物の集団が見えてきた。


「「ブモォォォォ!ブモォォォォ!」」


大きさが体長二メートル程の茶色の毛皮を纏った牛のような集団で、角は水牛のように長くはなく、日本でいう短角種と呼ばれる牛の仲間のように見えた。


「あれは牛?牛だよなぁ!……でも、あんだけ数がいたら、どうしようもないよな……お手上げかもね。はぐれた牛とかいたら狙ってゲットしたいけど……難しいだろうなぁ…」


そんな独り言を龍人が呟いていると、突然前方の牛の集団に混乱が生じたように、めったやたらに集団が走り始めた。


よく見てみると、その幾つかの牛の集団を数十匹の大型の犬のような獣達が追いかけ始めていた。


牛は何とか元の集団に戻りたいと向きを変えようとしていたが、数頭がかりでそれを邪魔し、一つだった集団を幾つかの群れに分けることに成功していた。


その獣達は、既に体長が二メートルを超えている白や黒と比較すると小柄で、子供の頃に動物園で見たシベリアオオカミによく似ていた。


何とかチャンスはないものかと見ていると、オオカミから逃れた子供も含めた数頭の群れが川端の草むらの中へと入っていくのが確認できた。


「白!黒!あの牛の群れを捕まえるよ。」


そう指示しながら、その藪の中へと入っていくと、先から牛の荒い息が聞こえてきた。


足音を忍ばせ、その場に近づいていくと、一頭は妊娠しているであろう牝牛で、他の二頭は子牛というほどは小さくないが、まだ若いと思われる牛だった。はっきりとは判らなかったが、一頭は牡で、もう一頭は牝のように見えた。他にもいたはずの牛の姿は確認することができなかった。


両翼を白と黒で囲み、後ろから龍人が、近くにあった節のある草を折って大きな音を立てながら、


「ホーイ!ホーイ!」


と大きな声を上げて近づいていくと、その三頭はゆっくりと川上の方へと足を運び始めた。逃げようと足を早めると、すかさず白や黒がその先へと回り込み、目標の方向へ修正することができていた。


川原へと誘導すると足元が石だらけになってしまうため、始めての移動であったが、トンネルのある崖を目印にして、森の中の平らな部分を選んで進んでいくと、途中で角兎やら猪がチラホラと姿を見せたが、絡んでくることはなく、この頃には白と黒の存在になれたのか、牛も大人しく指示に従うようになっていた。


何とか無事に三頭を、自分達の畑に誘導し、畑の隅に纏めていた干し草を与えてみると、けっこう味を気に入ったのか、美味しそうにムシャムシャと食べていた。


その姿にホッと一息ついて手にしてい竹のようなものに目をやると、その茎の周囲に白い粉のようなものが付着しており、自分の手が異様にベタベタしていることに気がついた。


節があって、背の高い草で、頭にはススキの仲間のような穂がある草に、龍人は一つ思い当たるものがあった。


そして、そのベタベタした手をペロリと舐めて、それは確信に変わった。


「砂糖だ!サトウキビだ!よっしゃあ!砂糖もゲットしたぜぇ!」


あの時、牛達が迷い混んでいた背の高い草で覆われた草むらは、自生したサトウキビの群生地だった。


サトウキビは節の部分は砂糖を抽出する原料となるが、そこから上部の穂先までの部分は牛の餌に最適で、先の部分を発酵させ、細かく砕くとかなり良質の飼料になるという資料があったことも思い出していた。


実際には、砂糖だけでなく牛の飼料もゲットだぜという一石二鳥の出来事だった。


その後、トンネル近くの畑の一部に簡単な柵を作り牛達を放牧すると、翌日には、先日のサトウキビの群生地へと向かい、大量のサトウキビを刈り取り、更に何往復も繰り返すことで、栽培の元にするための根っ子の部分も大量のサトウキビと確保した。


サトウキビの葉の部分は、干して処理してなくても牛達の好物だったようで、廃棄する部分のない貴重な植物だった。


サトウキビ一本が約一キログラムで、それから約百グラムの砂糖が取れるということがPCの中のデータには記載されていた。しかし白や黒が砂糖を食べるかどうかも判らず、年間の砂糖消費量にはかなりの個人差があるということなので、どれだけのサトウキビ畑を作れば良いのか判らなかったが、牛の飼料にもなるということだったので、水田の隣に少し広めに作ることにした。


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