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その日の夜のこと、


「「ウゥゥゥゥ!」」


白と黒の唸り声で龍人は目を覚まし、二匹と一緒に外を確認すると、昼間見た小山のような黒い巨体がサツマイモ畑をうろうろしているのが確認できた。


「な、なんだあれ?」


それは二階建ての家ほど大きな熊のように見えた。そいつは畑のサツマイモに気づくと次々と掘り起こし、貪り始めた。


「白と黒は、待機だ!動くなよ!俺は、奴を仕留める道具を持ってくる!」


そう言い残して、龍人はネコを転がしながら、トンネルの奥へと走った。


「ハァ、ハァ……ま、まさか使うことになるとは……あんな化け物、マトモに殺りあえるか!」


ドクロのマークを描いた個別の冷凍庫の所へ行くと、そこに保存してあった十数匹の鮭と数頭分の猪の内蔵をネコへと積み込み、急いでトンネルの出口へと向かった。


待機を命じても、あの二匹が大人しく待機しているかどうかの不安は、急ぐ龍人の頭の中をグルグル駆け回っていた。


トンネル出口に着くと、二匹が今にも飛び出しそうに、ウロウロと徘徊していた。


「ヨシ!良く我慢したな!もう少し待ってろよ!」


そう言うと、龍人は運んできたネコの中身をトンネル前へとぶちまけた。


その音にビクッと反応した熊の化け物は、トンネル出口の方に目を向けると、そこに転がる鮭と猪の内蔵に目を止め、その巨体をノシノシと運んできて、強者の余裕なのか、周りを気にすることもなく、ムシャムシャと食べ始めた。顔だけでも畳二畳程の大きさがあり、開いた口はドラム缶さえ呑み込める程の大きさだった。そいつは、仕込んだ鮭と内蔵をあっという間に完食すると、再びサツマイモ畑の方へと戻っていった。


その間に龍人は、薪用に準備した落木を組み合わせて、それに猪の毛皮を被せ、案山子のような人の形を模したものを作り、先を尖らせた太めの鉄パイプの先端に枝を利用してぶら下げるように取り付け、鉄パイプが吹き飛ばされないように、後端の部分を岩肌に固定した。


それを気づかれぬように、ソッと洞窟前に差し出し、それと同時にウォンバット人が持っていた弓を使って、一本の矢をその熊の化け物に向けて放つと、相手が大きいこともあり、その矢は簡単にその化け物を捕らえ、その攻撃とも言えない矢を受けた熊の化け物は絶叫して、トンネル出口にぶら下げた案山子に向かって突撃してきた。


「アガァァァァァァ!」


そして、ズドーンという轟音を響き渡らせ て案山子に体当たりし、その勢いのままにトンネル横の壁へとぶつかり、トンネルにビビるような震動を響かして、鉄パイプを肩の部分に差したまま後ろへと倒れていった。


「ヨシッ!」


鉄パイプは一メートル程も突き刺さっており、そこからは大量の血液が溢れていた。そして、最初は痛みの為に転げ回っていたと思われる熊の化け物は、暫くすると、突然けいれんを起こし、立つこともままならないのか、身体をガクガクと震わし、鉄パイプを引きずったままヨロヨロと川の方へと歩き始めた。


「やっと効いたか……どんだけのトリカブトが必要なのか判らなかったし、そもそもあの化け物に効果があるか判らなかったから、採取してきたものを全部食わせたけど、やっと効いたみたいだ……」


そう言って、龍人は軽く尻餅を着くようにペタンと腰を降ろし、ホッとため息をついた。


「白と黒は追いかけたいかもしれないけど、もう少し待ってね。あの巨体だから、毒が全身に回るのに少し時間がかかるかもしれないからね。」


龍人の両隣に寄り添うようにやってきた白と黒を両脇に抱えながら、頭をワシワシと撫でてやると、二匹もホッとしたかのように目を細めていた。


そのまま二時間ほど待機した後、龍人はトンネル内にあった一番大きな鉈を腰に差し、二匹と一緒にトンネルを出て、流れ出る血の跡の追跡を始めた。


かなり弱っているはずなのに、血の跡は点々と続き、このまま逃げられるのではないかと心配し始めた頃に、やっと目の前に黒い巨体の小山が見えてきた。


既に川原に近い所まで来ており、トリカブトの量はギリギリ足りたような印象だったが、用心しながらその巨体に近づくと、それはまだ浅くゆっくりと胸の部分が上下しており、まだ存命していることが確認できた。


「まだ死んでないのか……ごめんな、苦しめちゃって……今すぐ止めを刺してやるからな。」


龍人は熊の化け物の首付近の岩によじ登ると、鉈を両手に大きく振り上げ、その首元におもいっきり振り下ろしたが、それはそいつの剛毛に弾かれ、全く刃が届かなかった。何とか首付近の剛毛を鉈で乱雑に刈り取り、その後でもう一度試してみると、どうにか傷をつけることができ、何度もそこに鉈を振り下ろしていくと、その厚い皮膚の下から龍人の脚ほどもある太い血管が出てきた。


それはまだ弱々しくであるが脈打っており、自分が生きていることを全力で主張していた。


「……ごめんな…」


そう呟いた後で両手を合わせ、その血管に鉈を振り下ろすと、まるで噴水のように血が吹き上がり、周辺を血の海に染めた。それは小一時間程も続き、全てが終わった頃には、空がうっすらと明るくなり始めていた。


二メートル四方位になるよう割線を想定し、それに合わせて剛毛を剃り、鉈とナイフでその熊の化け物の皮を剥ぎ、心臓近くにある魔石を見ると、それはバスケットボール程の大きさだった。何とかそれを取り出して、体幹の皮を剥ぎ終わると、頭と顔の部分の皮を一纏めに剥ぎ取った。


どうにか作業を終える頃には、空は既に赤に近いオレンジ色で、その作業をしている間、周囲の警戒を続けていていた白と黒は、全ての皮を剥ぎ終えた時には、横にキチンと控えていてくれた。なんとも頼りになる相棒達だった。


これだけの量の毛皮を個人で何とかするには、量があまりに膨大なため、上手く行けば儲けものの感覚で、自分達の湯舟付近の他の温泉溜まりに石を使って沈めた。


おそらく温泉にはミネラルとか溶けてると思うし、弱アルカリ性の可能性があるから、余分な脂肪も溶けてくれるかもしれないし、毛皮に残っている雑菌も消毒してくれるかもしれないと考えてのことだった。


全部の作業を終えて、両手を合わせて熊の化け物の冥福を祈り、温泉に入ってから帰路についた頃には、陽もとっぷりと暮れて、周りは真っ暗になっていた。


さすがに今日は野宿する気力もなく、一人と二匹はトボトボと我が家に帰って行きました。

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