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 停電かと思うが非常灯が一つも点いてない。

 目を開けたつもりなのに開けてないのか、いや瞼に力を入れたり抜いたり出来る。

 突然視力がダメになったのか、携帯電話を取り出してサイドボタンを押すと小画面に明かりが点く、

 そして認めたくない現実を目の当たりにする。

 振り返って、入ってきたドアガラスの向こうと、進行方向突き当たりの窓ガラスの向こうのどちらにも、外の明かりが一つも見えない。

 携帯電話のメイン画面が点くようにしても、明かりは携帯電話の周囲しか照らせないから結局何も解らない。しかも圏外だ。あぁ、時間はさっきまでから普通に進んでいるのか。

 動いた方がいいのか止まっていた方がいいのかまるで解らない。動くにしても前に通路があるのか平均台のようになっているのかも解らない、後ろにも行けるのか、一歩も動けない。

 さてどうしたものかと携帯電話の明かりを落とすと、それを見計らったように前の遠くから「パン」と音がした。

 手を叩く音だ。

 音は続き、ちょっと間隔があるな、というテンポの手拍子だ。

 声をかけようと口を開けたが、この空間暗闇に圧されてしまい、喉が詰まって声が出ない。そして心なし、挑発するような手の叩き方のように聞こえる。

 何もかもが解らない空間で、この音だけが確かだ、それは認めないといけない。

 前に歩き始めた。


 真っ暗で目は使えないので、視覚による目標視認はできないのだが、聴覚も焦点が合えば、まぁ方向と距離は見当がつく。とりあえず通路の長さを想定して歩き始める。

 歩きながら、とにかく真っ直ぐに歩く物語ってどんなのがあったっけ?と記憶をたぐるが、思い出すのはどれもバッドエンディングばかりでうんざりする。

 手を叩いてる奴は一体どんなつもりなんだろうと思考を切り替えたとき、自分の足の運びと考えるテンポが手拍子のテンポをなぞっていることに気がつく。

 そのこと自体に戸惑うと、手拍子が挑発から嘲笑や悪意の感触になっている気がしてきた。

 某国が市民のデモ活動を軍隊で圧殺した歴史的事件があり、それを表現したクラシック音楽作曲家がいた。小太鼓(スネアドラム)が単調なリズムを刻んでいるだけなのに、演奏者はそこを冷酷な軍隊の行進として恐ろしくも見事に演奏したのを聞いたことがある。

 その演奏者がどんな思いで演奏したのかまでは知らない、しかしこの手拍子の主は明確な悪意でこの状況を始めた気がする。いや、ただの八つ当たりかもしれないが、少なくとも善意100%で手を叩いているわけではないだろう。

 歩幅と歩数を考えて、もとの通路なら半分くらいまで来ただろうか。

 手拍子に抵抗するように足を動かすスピードを調節する。速くすると、ただですら怪しい位置認識がもっと解らなくなるので抑える方向で。

 で、こいつは一体何を考えて手を打っているのかを考える。

 方向は意識しないといけないのだが、気を緩めて手拍子が頭を占める割合が増えると、馬鹿にされた思い、腹が立つ感情が強くなる、なので一定の認識を越えないよう思考を強くしないといけない、

 ただ招くだけか、助けてくれるのか、食うのか、陥れるのか、いろんな可能性を考える。また停電を起こしたわけでもなさそうなので、空間が変化したとして空気に違和感を感じることはなかったので、腕のある奴なのか。

 …あまり考えることがないというか、何を考えたらいいのか解らなくなってきた、ここにきてこいつへの憎悪が膨らんでくる、足の運びに集中しよう…

 …

 ……

 ………

 あぁ、と全てが腑に落ちる。

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