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第一話

 「ここは......?」


 気が付くと佐川大和は丘の上で寝そべっていた。立ち上がり辺りを見渡すと眼下には巨大な城を中心に、無数の建物が連なっているのが目に取れる。

 建物は石造りで作られているようで、道路もコンクリートではなく土で舗装されているだけのシンプルなものだ。その光景はまるでとても現代とは思えないような...。


 「うっ......。」


 そこまで思考を巡らせたところで大和の脳裏をある光景がよぎった。

 その光景は大和自身が横断歩道を渡っている途中に信号無視をして突っ込んできたトラックに引かれるというもので、どこか現実味がないもののそれが自分の身に起きたものだということは強く実感できた。


 「なら俺は死んだのか...?」


 トラックに引かれたのであれば、無事で居られるわけがない。運よく助かったとしても、目覚めるのは病院のベッドだろう。けれど、目覚めたのが見知らぬ土地ということは。

 この現象に対する答えを大和は一つしか持ち合わせていない。そう


 「俺は異世界転生したのか。」


 異世界転生ーーーそれが最も可能性としてあり得るであろう結論だ。大和は何冊かこれらを題材とした小説を読んだことがあるが、その序盤の展開とまさしく同じなのである。

 となると、まずはこの世界についての情報収集が必要だ。とりあえずは城下町まで降りていって情報収集をするのが安定行動だろう。


 大和は申し訳程度に舗装された道をゆっくりと下っていく。道の半ばほどまで浸食してきている草草。それがこの道を使用する人の少なさを物語っていた。


 無心で道を下り、気が付けば夕暮れ時。大和はやっと街の門の前に到着した。

 そして、街を闊歩する人々の姿を見た大和は思わず驚きから「あっ」と声を上げる。


 街を歩いている人々。彼らには個々の差こそあれ、耳や尻尾、体毛など動物的特徴が見受けられる。人間に耳や尻尾を生やしただけといった人もいれば、全身が体毛に覆われている、四足歩行から二足歩行になりましたといった人まで本当に様々だ。


 「お、そこの人間のお兄さん。今は大セール中だよ。良かったらシュウモを買っていかないかい?」


 恐る恐る街の中へ入ると、すぐのところで屋台を開いている虎の男の人に声をかけられる。この世界に自分のような人間が存在しなかったらどうしようかとも考えていたが、普通に声をかけてもらえたことから、その心配は杞憂に終わったようだ。


 差し出されたのは日本での焼き芋に似ているもので、半日何も食べていなかったせいか大和のお腹は盛大に大きな音を奏でた。


 「す、すみません。買いたいのはやまやまなんですけど、今はお金を一銭も持っていなくて。」

 「ん、そうか。なら、ぜひ今度寄ってくれよ。」


 恥ずかしさから顔を真っ赤にして大和はその場を離れる。


 「聞き込みもだが、飯のほうもどうにかしないとな。」


 異世界では日本の服を珍しがって買い取ってくれるという話もよく聞く。まずは服屋を探してみるべきだろうか。


「助けてください!」


 突如、少女の叫び声が聞こえた。その方角に目を移すと、壁際に追い詰められている一人の少女を鎧を身に纏った複数の人影が囲んでいるのが目に入る。


 とっさに周りを見るが、通行人は皆無視を決め込んでおり、誰も少女のことを見ようとはしない。

 はっきり言って異世界転生特有の何か特殊な力にでも覚醒していない限り、勝てる可能性はゼロに等しい。だが


 「これでも食らいやがれっ!」


 勝てはしなくても気を逸らして逃げる隙を作ることはできるはずだ。大和は近くに落ちていた木の棒を拾うと、囲いの一番外に立つ男に殴りかかる。

男の顔は兜越しでよく見えないが、明らかに動揺しているのは見て取れた。他の2人の男の視線も一瞬こちらへ向けられたようだ。


 「にいちゃん、ナイスだ。」


 頭まですっぽりとかぶったフード越しにニヤリと笑う少女の顔が一瞬見える。少女は男達の間に風のように颯爽と滑り込むと一人の股間を蹴り上げ、一人の腹を勢いよく蹴り上げた。


 「あと少しだったのに。お前の、お前のせいでっ・・・!」


 地面に倒れ悶絶する仲間の姿を見て、最後に残った男が激高する。怒りのこもったその拳は大和が持っていた枝を易々と粉砕し、顔面に当たらな・・・かった。

 顔面スレスレのところで急に男は意識を失い、重力に従ってそのまま落下する。


 「おい、にいちゃん。逃げるぞ!」


 助けるつもりだった少女に逆に助けられ、何がなんだか分からないまま、手を引かれるがままに走り出す。訳の分からない状況にすっかり大和の頭は混乱しきっていた。


 「き、君はいったい?」

 「ん、あたしか? そうか、あたしなんかを助けてる時点であたしのことは知る筈がないよな。」


 一瞬不思議そうな表情を浮かべる少女だったが、すぐに自己解決したらしい。


 「あたしはルナ。どうせ黙っててもばれるから言っちまうが、この国の王族ってやつだ。」


 少女が衝撃発言をした直後、突風が彼女のフードを吹き飛ばす。

 そして、露わになった少女の素顔に大和は思わず息を飲んだ。


 誰が見ても美少女というであろう整った顔立ちに、頭からは黒の猫耳が二本。顔だけ見ればいかにもお嬢様と言った雰囲気だ。

 それだけに、外見と言動の不一致がものすごく目立つのだが・・・。

 

 「で、にいちゃんの名前は?」

 「あ、ああ。俺は大和だ。佐川大和。」

 「ヤマトか。あんま聞かない名前だな。」

 「そうか? 俺のところでは割と普通の名前だったんだが。」

 「んー、私もあんま外のことは知らないからな。人間の国ではそれが普通なのかもな。」


 そこまで言うと再びルナはフードを深く被って素顔を隠す。周囲を見ると、フードを被っている時と比べて明らかに視線が強くなっているのを感じた。


 「詳しいことは後で話すからさ。はぐれないようについて来いよ。」

 「は? ちょっと待っ・・・。」


 最後まで言う前にルナは勢いよく加速する。さすが猫といったところか。ルナは人ごみの中を綺麗にかき分けていき、数秒後には姿がかなり遠くなった。

 その後、なんとなく背後を見たヤマトだったが、後々そのことを強く後悔することになる。そこには凄い形相で迫って来る先程の鎧の男たちの姿があった。

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