十八話 あたいは向かう
「ごめんなさい。遅れちゃいました」
「女子の準備に時間がかかるのは、どの時代も同じじゃよ」
「じっちゃん。それなんのフォローにもなってないよ」
呆れ顔のジャンがルトンさんにそうツッコミを入れる。
それにルトンさんが大きな声で笑って、表情を引き締めてあたいの方を見た。
「ヒヨちゃんや。多少の覚悟はしておくのじゃぞ?」「はい。大丈夫です!」
お師匠様が死ぬのを見に行くのではない。そう思えば気が楽だし、それに今は単純にお師匠様に会いたい。
「時間は大丈夫ですか?」
「ああ。まだ余裕あるぞい」
「そんな遠くないんだ。馬車で村を二つ通るぐらい」
それはどれぐらいの距離なんだろう・・・・・・。
あまり想像が付かないので、なんとなくで想像していると、地をける音が聞こえてきた。
「さあ、行くとするかの」
それは、客車を引いた真っ白で大きなーー犬。
「あ、驚いた? これ、じっちゃんがこっそり裏山で飼ってるんだ。すごい貴重なやつ。名前はホワな」
「へー」
ふさふさの真っ白な毛並みに覆われた大きな体を触って、あたいは思う。
・・・・・・欲しい。
顔も凛々しく、なんというか、すごい魅力に溢れた犬だと思う。
「ちなみにオオカミな」
「えっ?!」
お、オオカミだった・・・・・・。
あたいは、そろそろとオオカミの目を見る。
「・・・・・・す、すいません」
なんとなく謝ると、ホワが満足気に鼻を鳴らして前を向いた。
なんだか、ちょっと怖い犬
「ワウッ!」
「ひゃっ?!」
そ、そうだ、オオカミだった・・・・・・。心でも読めるのかな?
す、すごい怖かった・・・・・・。
「ほっほ。懐かれとるのぉ」
「懐かれてるんですか?!」
完全に嫌われてる気がするんですけど・・・・・・。
「興味のない人間には、吠えたりせんよ。賢いからのお。ジャンなんて、二年間無視されとったからな」
「賢すぎるのにも程があるよじっちゃん・・・・・・」
じゃ、じゃあいい方なんだ・・・・・・。
よくわからないけど、そう聞くと少しほっとした。嫌われてるわけじゃないならいいや。
「でもじっちゃん。ホワは嫌いな人には吠えるぞ?」
「ぬ? そうなのか?」
・・・・・・どっちなんだろう。あたい心配になるんだけど・・・・・・。
ちらっとホワを見た。
すると、だるそうに欠伸を一つ。
「・・・・・・行きますか」
「お、そうじゃな」
もう、あたいよくわからない・・・・・・。
そうして、和やかなムードであたいたちはお師匠様の処刑される街へと向かった。




