十六話 あたいの・・・・・・
乾いた目で見上げる空は、曇っていた。残酷なまでに美しいはずの赤い夕暮れの空も見えない。
薄暗い森の中で、あたいとお師匠様の家は燃え尽きた。あたいのメモも、練習のためにとくれた杖も、お気に入りのローブも、お師匠様との思い出も。
「・・・・・・ヒヨ」
ジャンが静かにあたいに寄ってきた。
「帰ろう」
「・・・・・・うん」
それが声になったかはわからなかった。
ーー ーー ーー ーー ーー
「おかえり。遅かったのぉ」
「ただいまじいちゃん」
「お邪魔します」
ただいまと言うのもおかしいと思い、あたいはそうぎこちなく言う。
「家に行ってきたのじゃな。お疲れ様。風呂でも沸かすから入りなさい」
「はい。そうします」
そしてあたいはふらふらとあてがわれた自分の部屋に袋を運ぶ。
「その後で、話があるからの」
その言葉はあたいには届いていなかった。
部屋に入って、あたいは引きずっていた袋を適当な場所に置いてベッドの上に身を投げ出す。
そこで思い出されるのは、あの家のことのみ。
最初の印象は、可愛いと思ったのを覚えている。
柱に生える小さなキノコや、色とりどりの植物。そして、古びた本まで。
あの家は、あたいの中ではおとぎ話の世界のようだった。
そして、お師匠様との大事な居場所。
コンコンと扉がノックされる。
「じっちゃんが風呂沸いたってよ」
「・・・・・・うん。ありがとう。先に入ってていいよ」
「・・・・・・わかった」
あたいは今お風呂なんて入れるような気分じゃない。今日の出来事を否定したい。
それが、ただ現実から目を背けていだけっていうのはわかってる。
わかっていても、どうにもならない。
コンコンと、また扉がノックされた。だが、今回はジャンではなく。
「ヒヨちゃんや」
それはルトンさんの声だった。
「お主のお師匠様について、わかったことがある」
・・・・・・お師匠様について?
私はゆっくりと立ち上がって扉を開いた。
そして、ルトンさんが神妙な面持ちであたいに告げた。
「落ち着いて聞いての。お主のいっていたメガルハとやらは、《魔法使い狩り》の肩書きを持つ者。・・・・・・賢者様は、明日の昼間処刑されるそうだ」
「・・・・・・え?」
あたいはその言葉が理解できなかった。いや、理解するのを拒んだ。
お師匠様が、死ぬ・・・・・・? 殺される・・・・・・?
「なんで」
その言葉が自然と口から出てきた。
「なんで、お師匠様が死ななきゃいけないの?」
震える声音。怒りと悲しみ、その両方を持った涙が頬を伝う。
「・・・・・・ご飯、置いておくよ」
そしてルトンさんが去っていった。
でも、あたいにはそっちの方が嬉しかった。
・・・・・・一人でいたい。
あたいはその日、ご飯も食べずに布団へ潜った。
これが夢であると信じて。




