十二話 手がかり
森すらも寝静まったような静寂の中。あたいは無我夢中で駆ける。
魔法の力でブーストしたその速さは、巨大蜂であっても追いつけず、狼すら襲うのを躊躇する。
こんなところで、道を間違えたりしたら大変。・・・・・・あたいの外れスキルなんて発動したら大変ね。
「はあ、はあ」
流石に息が切れてきた。
そういえば、もう結構な遅い時間だけど、ルトンさん起きてるかな。おじいさんだったから、迷惑かも・・・・・・。
いや、でも、もうそんなことは言ってられない。
目の前に現れた、あのボロくも立派でもない家。その扉を、倒れ込むようにして開ける。
そしてーー
「おはようございます!」
あたいは、そう思いっきり叫ぶ。
「こんばんわあぁ!」
すると、あたいの声よりも大きな声がして、思わず体を跳ねさせる。と、その声の主が現れた。
「おや、いつぞやの賢者のお弟子さん。たしか、名前はーー」
ルトンさん。ーー全裸の。
「きゃああああああぁぁ!」
挨拶なんて比にならないぐらいの声量が、家の中に響き渡った。
「・・・・・・さ、最近の若者はすごいのお」
「る、ルトンさん! 服を着てください!」
「あ、すまんのお。ここには近くのババアぐらいしかこんから、この服装がノーマルなんじゃ」
服着てないのに服装とは?!
そうツッコミかけたけど、それをなんとか抑えてルトンさんに伝える。
「あたいのお師匠様が消えたの!」
そのあたいの必死な声と眼差しに、ルトンさんが顔の筋肉を引き締める。
「・・・・・・服着てくるぞい」
「あ、はい」
あたいも流石に全裸のおじいさんと向かい合うのは辛いわ・・・・・・。
なんだか、緊張が緩んでしまった。いいことか、悪いことかはわかんないけど。
「さて、ヒヨちゃんのお師匠様・・・・・・レーザ様がどうしたのじゃ?」
「着替えるの早?!」
「そうかの? 男子は適当じゃからのお。で? 話は?」
はっ。そうだった。いくら緊張が緩んじゃったからって、本題を伝えないわけにはいかない。
「さっき、家にメガルハさんっていう人が来たの。それで、一回あたいは家の外に出たんだけど、帰ってきたら部屋が荒れてて、家に誰もいなかったわ」
「・・・・・・メガルハと言ったか?」
ルトンさんが、ピクリとそのまゆを動かした。
「そ、そうです」
「なるほどな・・・・・・。特徴を教えてくれ」
「は、はい! 金髪の、やつれた顔で、身長はあたいよりも高かったです!」
「・・・・・・なるほど。まあ、名前がわかれば充分じゃな。偽名かもしれんが」
そっか、偽名・・・・・・。お師匠様がメガルハ様にザーレと名乗ったみたいに、メガルハさんも名前が違う可能性もあるのね。
「わしが傭兵仲間に聞いてくるわい」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「あと、兵隊が来たと言ったの? 危ないから、うちに泊まっていくといい」
「はい! ありがとうございます!」
そうして、あたいはルトンさんの家にお邪魔させてもらった。
あまりよく寝付けなかった。




