九話 突然の来訪
二章となります。よろしくお願いします。
ジャンと別れてから二週間。あたいは一度も人間と会っていない。
あたいたちの家が森の奥の奥のこともあって、人間があんなところに来ること自体がイレギュラーなのだ。
でも、その来訪は突然だった。
ドンッ!
「ひゃあっ?!」
天気の良い真昼間。突然強く叩かれる扉の音に、あたいは思わず声をあげてしまう。
その拍子にーー
ガシャァン!
「ああっ?!」
調合中の試験管落としちゃった!
い、いけない、薬品が・・・・・・。
焦ってお師匠様を見ると、口に人差し指を当てているのが見えた。
・・・・・・喋るなってこと?
『物音をたてるな』
突然脳内に声が響くが、それがお師匠様の魔法だと気づいて指示の通りにする。
だが、静かにしていてもその音は止まらない。
と、ついに声がした。
「だ、誰かいないか?! た、助けてくれっ! 罪もないのに追われてるんだ! 匿ってくれ!」
罪もないのに追われているーー?
あたいは、お師匠様を再度見る。すると、お師匠様がゆっくりと頷いた。
そして、あたいは立ち上がって扉に近づいていく。
「今開けます!」
そして、ガチャりと扉を開ける。すると、一人の男が飛び込んできた。
男がしっかりと中に入ったのを確認して、あたいは扉を閉める。
「た、助かった! ありがとう!」
その男は、見るからにみすぼらしい汚い服装の男だった。
元は豪華な模様が施されてあっただろう服は、泥と砂、そして木の葉で汚れ、顔もげっそりとやつれている。輝くような金髪も、見る影もない。
「へ、兵隊どもが去ったらさっさと出ていくから、ちょっとだけ頼む」
「ああ、そうか」
あたいはいそいそと試験管の破片を捨てる。と、お師匠様に声をかけられた。
「ヒヨ。お風呂を沸かしなさい」
「へ? あ、はい!」
なんで沸かすんだろう。お師匠様、こんな昼間からお風呂?
とも思ったが、そうではないようで。
「よければ、お風呂とご飯でもご馳走しましょうか?」
「ほんとか! ありがてぇこった! じゃあお言葉に甘えて!」
男がぱっと顔を明るくし、意気揚々とお師匠様の指さした方向へとかけていく。と、不意に振り返って言った。
「俺はメガルハっていう! ほんのちょっとだけお邪魔させてもらうな!」
「ええ、お気になさらず。私は・・・・・・」
と、そこでレーザと名乗らずにお師匠様が少し考えた。
「・・・・・・私はザーレと申します。あちらは娘のヨイヒです」
ヨイヒ? なんでそんな偽名を・・・・・・。
「よ、ヨイヒです!」
そういえば、お師匠様が人間とは関わっちゃいけないって言ってたから、それ?
「おう! ザーレとヨイヒな! いつかこの恩は返すぜ!」
その言葉に、お師匠様は苦い顔をした。




