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元ヒロイン?だった現モブ男です!  作者: 狗神狼
第1章 出会いと準備
6/15

初回授業

まだまだ続きます!

 3日後、アマーレンは約束通り魔法を教えに来てくれたのだが……。


「なんか、ごめん」

「いや、……気にするな」


(なんてタイミングの悪い)


 今現在、僕の手には首から血を流すうさぎが握られている。うさぎを持つ手も、うさぎの首を斬った石を持つ手も両方とも血濡れで、一見ヤバイ奴にしか見えない。

 アマーレンが現れたのは丁度うさぎの首を斬った時だったので、最も人に見られたくないタイミングだったともいえる。

 うさぎの首から血が溢れ出し、目から光が消えていく瞬間をバッチリと見てしまった彼の顔は平静を保っているように見えて、実際は目が死んでいた。


「ねえ、ここから北に3百メートル程行ったところに家があるんだ。僕は後始末とかいろいろとあるから、先にそこへ行っておいてもらっていい?」


 僕のせいではないが、なんだか彼が可哀想に思えてきたのでここから離れるよう遠回しに提案してみると、アマーレンは素直に頷いて歩き出した。


「さてと」


 彼の背が見えなくなったあたりで、丁度血抜きが終了する。いつまでもこの場に居たのでは、血の匂いにつられた肉食系の生き物たちが来てしまうのですぐさま川の方へ向かい、体についた血を洗い流した。

 狩ったうさぎは、この3日間で作り上げた棕櫚(しゅろ)の葉のカゴへ入れる。

 この世界に棕櫚の木があって本当によかった。棕櫚とはヤシの木の仲間で昔から籠作りやわしの材料として使われている、わりと身近な存在の植物だ。

 僕はそれを見つけた瞬間、1も2もなく登って葉を採り籠を作った。最初は上手くいかなかったが、作り続ければ馴れるもので、何回かやり直しをするうちに上手いこと完成することができた。

 濡れた服を絞りもう一度身に付ける。ベタついて気持ち悪いが、乾くまでの辛抱だ。

 獲物を入れた籠を担ぐと、アマーレンの待つ家へ急ぐ。


「ただいまぁ」


 帰った先では、アマーレンが家と一体化した木の根元に座り目をつむっていた。

 寝ているのだろうかと顔を覗き込めば、髪の隙間から彼の瞳と同じ色のピアスがキラリと光って見えた。


(あ、つけてる)


 ジッと見すぎたのか、目をつむったままの彼から「終わったのか?」と問いかけられる。


「いや、あとは皮を剥いで塩水に付けるだけだよ」

「干し肉にするのか?」


 片目だけ開いて聞いてくる彼に、僕が肯定するように頷くと、彼は「終わったら声をかけてくれ」とだけ言ってまた目を閉じた。


(眠いんだろうか?)


 そんなことを考えつつ、休めることなく手を動かす。皮を剥ぎ、肉を塩水に付け終えると解体で出た内蔵などを集めて家から少し離れた場所に捨てに行く。

 一通りの処理を終え、アマーレンの方へ向かった。


「お待たせ。アレン、魔法の修行よろしくお願いします」


 それに対し、アマーレンは一つ頷いて立ち上がる。


「それじゃあ、始めるか。まず聞くが、魔法の基本については知っているのか?」


 拓けた場所に向かって歩きつつ聞いてくる彼に、僕はすぐさま肯定を返す。


「基本要素は、火、水、風、土、雷の5つに、発現が珍しい光と闇。魔法を発動させる条件は発動時のイメージと演唱が必要。合ってる?」


 確認してみると、彼から「93点」と微妙な評価をもらった。


「基本要素については正解だ。問題は発動条件だが、確かに一般的に言われているのはおまえが言ったので合っている。が、別に発動に演唱が必ず必要かというとそうじゃない。本当に必要なのはハッキリとしたイメージだ。演唱はイメージをよりハッキリさせ、その通りに魔法を発動させるための補助にすぎない。故に、魔法において最も重要なのは発動させる魔法のハッキリとしたイメージだといえる」


 そう言って、アマーレンは手のひらに野球のボールサイズの水の玉を出してみせた。


「そういえば、僕のピアスに印を付けた時も無演唱だったね」

「そちらの方が相手にフェイントをかけやすいし、演唱でこれから発動させる魔法を知られることもなくなるからな」


 アマーレンが手を握ると、水の玉が弾けて消える。水の飛んだところを見ると葉の上に雫が乗っていて、この場に本当に水があったことを示していた。


「一つ聞きたいんだけど、魔術師や魔導師の人たちはみんな無演唱で魔法を使ってるの?」


 その問いに対して、アマーレンは「いいや」と否定を返してくる。


「魔術師は皆演唱しているな。他国の魔導師も半分以上は演唱ありだ」

「……僕にいきなり演唱なしで魔法使えとか言わないよね?」


 素人である僕に、こんな説明をするなんて――。アマーレンの様子からして、言い出してもおかしくない。……心配になってきた。

 僕よりも(腹が立つことに)20センチ程背が高いせいか、見上げる形でアマーレンを見ると、彼はニッと口の端を上げる。

 チラリと見えた犬歯が、彼の清潭な顔立ちをより一層魅力的にみせる。


(腹立つ程綺麗な顔してるなぁ)


 なんて遠い目をして現実逃避をしていると、アマーレンは小さく笑って「心配するな」と言った。


「初っ端から演唱なしなんてそんな無茶苦茶なことは言わん。最終段階で無演唱の魔法が使えるようになればいい」


 最終目標が無演唱なのは決定のようだ。それはそれで、かなりのプレッシャーであるのだが、アマーレンはそのことをわかっているのだろうか?

 何も言えずにジッと彼の顔を見ると、彼は自身満々に「俺が教えるんだ。そのくらいできるようになってもらわねば困る」と宣った。


「まあ、失望されないよう精一杯頑張るよ」


 一瞬、選択を間違っただろうかと思ったが、数少ない魔道士であることには間違いないにだし、何よりも実力は確かなのだ。中途半端に自己流で魔法を習得するよりもしっかりとしたモノが身につくだろう。

 目をつむり一度大きく深呼吸をする。心を落ち着かせてからゆっくりと目を開き、彼の目を真っ直ぐに見据えて「改めて、よろしくお願いします」と頭を下げた。

 見えはしないが、アマーレンが笑ったのを感じる。


「それじゃあ、基本から練習するか。まずは魔力の動きを実際に感じてみろ」


 彼はそう言うと、スッと僕の手をとる。少しすると、アマーレンの手の上に目に見えない何かが集まってくるのを繋いだ手から感じ取ることができた。


「なにが起きているかわかるか?」


 その問いに、僕は自分が感じたままを口にして答えた。


「暖かいような、冷たいような、何か表現しがたいモノが手のひらに集まって、蛇のように渦を巻いてる感じがする」


 僕の感覚をそのまま口にしただけの抽象的な言葉に、アマーレンは1つ頷き手を離す。


「それが魔力だ。本来なら、魔法が初めての人間にこれをした時『手が暖かくなった』とか、逆に『冷たくなった』とか、その程度しか感じられないのだが、初見で魔力の動きまで感じ取れるとは……。おまえは魔法の才能があるのかもしれないな」


 アマーレンは口元に手を当てて考え込んだかと思うと、ニヤッとした笑みを浮かべて僕を見る。


(あ、これはヤバイかも)


 彼の視線に、背中を冷や汗が伝った。


「いろいろと確認したいことが山程あるが、まあそれは後回しでいい。それよりも、さっそくだが魔法を使ってみようと思う」


 アマーレンはいつもの無に近い表情に戻ると、懐から一粒の種を取り出した。


「これはヤローという植物の種だ。おまえは、今からこの種を花が咲くところまで成長させてみせろ」


「土魔法……。最初って、普通は火魔法や水魔法からするもんじゃないの?」


 魔法の練習といえば、火を出してみたり水を浮かべてみたりといったイメージがあったのだが、アマーレン曰く「火や水を出すなんて現象は、魔法を使わない限り自然ではまずありえないものだろう。それよりも、植物の成長など身近で起こる現象を、魔法を使って補助する練習をした方が、魔法を使ううえでのハッキリとしたイメージを想像しやすいし、それを繰り返すことで魔法を使う度に想像力を働かせイメージする癖をつけやすくなる」らしい。

 確かに、いきなり「水の玉を出せ」と言われるよりも、「植物の成長過程を想像しろ」と言われた方がまだ想像しやすい……と思う。少なくとも、僕には納得できる回答だった。

 しかし、それでもいきなり「やれ」と言われるとは……。


「何か説明とか、せめてアドバイスとかはないの?」


 出そうになる溜息を飲み込みそう聞けば、アマーレンは「魔法は実践することで身につくモノだからな」と肩を竦める。


「しかし……、そうだな。最初に言った通り、魔法で大事なのは『ハッキリとしたイメージ』だ。この花を知らずとも、植物が成長し花を咲かせるまでのイメージはできるだろう。それをハッキリと頭に思い浮かべつつ、種に魔力を注げばいい。注意点があるとすれば、魔力を注ぐ時の量だな。植物は水をやりすぎれば枯れる。これと一緒で、魔力を与えすぎれば花は過剰な栄養摂取で上手く咲くことができずに枯れてしまう。加減を考えろよ。」


 アマーレンの言葉を聞き、まずは花を咲かすイメージを思い浮かべる。

 種から芽が出て若葉をつける。そして少しずつ成長していき小さな蕾がつく。その蕾がだんだんと大きくなり、固く閉ざされた花びらが少しずつ開いていき、最後には可憐で可愛らしい花が咲き誇る。

 魔力のイメージは如雨露だ。少しずつ、少しずつ、ゆっくりと種に浸透するように降り注ぐ雨を思い浮かべる。多すぎては枯れてしまい、少なすぎては美しい花を咲かせられない。

 大地に恵みを与える雨を思って魔力を注げば、手の中の種はイメージ通りの成長をしてみせた。

 咲いた花は、高さが5・60センチ程で、小さいモノがいくつも固まって1つの花となる植物だった。葉は細長くギザギザとしていて、ある工具を彷彿とさせる型をしている。


(ヤローって……)


 そう、僕の手の中に咲いたのは道端や森でよく見る、日本ではコノギリソウと呼ばれていた植物だった。


「ほう、初めての魔法でこれ程とは……。しかも――」


 これでもかと花を咲き誇らせるノコギリソウを見て、ニヤッとした笑みで特徴の犬歯を覗かせるアマーレンに、何かやらかしてしまっただろうかと心配が押し寄せてくる。


「テル、おまえ自身が気づいているかどうか知らないが、今の魔法、無演唱で使ってたぞ」

「えッ!!」


 アマーレンに言われ、さっきの自分を振り返る。


(うん、演唱した記憶が一切ない)


 新しいおもちゃを目の前にした時の子どものような顔(基本無表情のくせに、こんな時ばかり表情が豊かだ)が僕の目に映った。


「想像するのに手一杯で、演唱にまで気が回らなかった」


 アマーレンの様子に、怒られているわけではないが、何だかいけないことをしてしまった気分になり、かといって言い訳をしようにも上手い言葉が思い浮かばず、俯きながら小さな声でありのままのことを伝える。

 すると、彼は黙って僕の頭にポンと手を置いてどこか決まり悪そうに口を開いた。


「あ~、すまない。別に責めているわけではないんだ。もともとの目標が無演唱だったんだし、いきなり無演唱で魔法を使ったからといってどうということはない。無演唱には利点が多いと言っただろう。使えるに越したことはないんだ。今の感覚を忘れることなく、次も同じように演唱無しでできるよう頑張れ」


 困り顔で、不器用ながらも精一杯励まそうとしてくれている彼に、なんだかむず痒い感覚を覚える。だが、それに嫌だとはいう思いは浮かんでこず、彼に撫でられるのを気持ち良いとすら感じた。


「さてと、そろそろ昼になるし、一旦休憩をはさんでからもう一度さっきの修行をするとするか」


 その言葉にもうそんな時間なのかと空を見上げると、太陽が丁度真上に差し掛かっているところだった。


感想、指摘等いただけると幸いです。頑張って書いて行きますので、皆様温かい目で見守りください。

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