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ログアウトブレイバーズ  作者: 阿古しのぶ
エピソード4
92/128

92.神の島の戦い

 沖縄本島周辺の島の一つで、琉球の聖域とされる神の島。

 神の島は琉球の神話の神が存在し、あるいは来訪する場所であり、地域を守護する聖域として現在も立ち入りが禁止されている。


 この場所には、神アシャギと呼ばれる前庭や建物といった空間が設けられていて、神に仕えるのは女性とされるため、琉球王国時代は祭事の際、女性のみ足を踏み入れる事が許可されていたと言う。

 しかし今現在では、様々な事情から一切の立ち入りが禁止されている。


 本島の地元住民は、

「あぬ島ー神々が居るくとぅ、セジ以外が立ち入ったん時ー、災いが来てしまう」

 と、言っていた。





 そんな神の島を包囲する海上自衛隊の水上艦艇に見守られながら海上を走るジェットボートが一隻。

 すっかり日も暮れ、星空に見下ろされる時刻。ジェットボートの上には、特注日本製のメイド服を着用した四名の女性ブレイバーがそれぞれの武器を持って、海の夜風にあたっていた。


 黒髪おかっぱ頭の槍使いナーテ。

 ピンク色サイドテールで両手にグローブを着用しているのがユウアール。

 金髪ロングでスナイパーライフルを持っているのがナギ。

 茶髪ポニーテールでアサルトライフルを持っているのがシェイム。


 少しずつ近付いている神の島を眺めながら、まずメイド長のナーテが口を開いた


「ブレイバーを洗脳するレクスの種……それがナギの中に入っていたんですね」


 かつての戦いで、突如としてナギが裏切り行為をした理由は、召喚した際に俺が説明した。

 そして当人のナギから、ワタアメがアヤノの時と同じ様にレクスの種を摘出している。


 ナギは申し訳なさそうに俯き、

「すみませんでした……」

 と、謝罪して肩をすぼめる。


 するとユウアールが笑顔で言った。


「なーに、もう終わった事じゃんか。今はこうやって集まる機会を作ってくれた明月(あかつき)琢磨(たくま)と、ケリドウェン様に感謝しとけばいいって」


 次に、シェイム。


「まずは目の前の敵に集中。お喋りはこれが終わってからにしましょう」


 それを聞いて、ナーテが言った。


「チャーリーチームは作戦に失敗したとの事。私たちがこれから相手にする敵も、何をしてくるか分かりません。我々エコーチームが、この作戦を成功させて、全ての償いとしましょう。良いですね?」


 メイド達は頷き、そして戦闘モードへと気持ちのスイッチを入れ替えた。

 もうすぐ上陸する神の島から、既にバグが数体、海岸からこちらを見ているのが確認出来る。


「盛大な歓迎がありそうだ」

 と、ユウアールは指をポキポキと鳴らした。、


 海岸に十分近付いたところで、ナーテが指示を出す。


「作戦通りに行きましょう。ナギ!」


 名前を呼ばれ、ナギはスナイパーライフルを構え、そして次々と発砲。

 的確な狙撃で海岸沿いのバグを確実に減らし、ナーテとナギが先行して上陸。


 森の奥から次々と出てくるバグの群れを迎撃して、戦闘を開始した。

 遅れてナギとシェイムも上陸し、スナイパーライフルとアサルトライフルによる銃撃で援護を開始した。


 このメイド達の連携は素晴らしく、互いに互いの死角をカバーしながら、バグの数を着実に減らす。かなりの修練を積んだ事が窺える連携攻撃の数々を映像で見た時、俺は驚くと同時に安心感が芽生えていた。

 ケリドウェンが誇る部下というのも納得ができる。敵の策略で仲間割れさえ起こしていなければ、敵無しだったであろう。


 俺はリーダーであるナーテへ通信を入れた。


『こちら琢磨。状況報告を』

「見ているなら分かるでしょう。上陸は成功です」

 と、ナーテは槍でバグの群れを捌きながら答えた。


『……頼む。人間の命だけは、最優先で救ってほしい』

「本来その様な作戦じゃないですか。分かっています」

『頼む』

「……救いますよ。誰一人、死なせるつもりはありませんから。まずは何処にいるのか、この広い森林で探さなければなりませんね」


 ナーテがそう言った矢先、島に広がる森の中から巨大なバグが出現。

 この島で一番背の高い樹木よりも更に二倍以上大きいその巨体は、ズシンズシンと地面を揺らしながら海岸に向かって前進してきていた。


「こりゃ大物だ」

 と、ユウアール。


 巨大バグは目を光らせ、口から光線を放って来た為、ナーテが叫んだ。


「回避!」


 四名のメイドは散開する事で、破壊光線の回避に成功。


「シェイム!」

 と、ナーテが名を呼ぶと、シェイムがアサルトライフルからロケットランチャーに武装変更。巨大バグに狙いを定め、発射した。


 そしてナーテ自身も槍投擲の構え。


「唸れ豪雷ごうらい! 貫け! ヴァジュランダッ!」


 ナーテの雷槍らいそうヴァジュランダが激しい電気を纏い、そしてそれを彼女は思いっきり投げた。

 光の速度でヴァジュランダは巨大バグを貫通すると同時、そこを中心として雷が周囲に迸り、真っ白な閃光が島を照らす。


 そしてナーテは自分の手に投げた槍を呼び戻しながら、

「ユウ!」

 と名を呼ぶ。


「オーケー」


 ユウアールは助走して、思いっきりジャンプ。

 胴体に大穴が空いて怯んでいる巨大バグの剥き出しになったコア周辺に向けて、強烈な拳を捻じ込んだ。


 その攻撃で巨大バグのコアが砕け散り、消滅する。出現から消滅まで、僅か一分にも満たなかった。

 ナーテが司令塔となった見事な連携力。周囲をバグに囲まれ、乱戦極まる戦場で、名を呼ぶだけで、次に何をすべきかを理解して貰えるというのは、信頼関係あってこその所業である。


 その後も海岸で襲ってきたバグの群れを片付けたところで、メイド達は樹木が生い茂る森の中へと前進。

 ナギとシェイムがナイトビジョンゴーグルを頭に取り付け、ナーテとユウアールは支給されたゴーグルで視界サポートを受けながら敵を見極め、四方八方から襲い来るバグを消滅させていく。


 やがてピタッとバグによる襲来が無くなった。


 急に訪れた静けさに、メイド達は背中合わせで周囲を警戒する。

 そこで異変に気付いたのはユウアールだった。


「何か来る!」


 何かが空気を切り裂きながら、樹木を次々と薙ぎ倒し、こちらに向かってくる。

 それは巨大な手裏剣――所謂、風魔手裏剣だった。


 仲間を庇う様に前に出たナーテが、風魔手裏剣を槍で受け止める。が、樹木を薙ぎ倒すほどの高威力を持つその手裏剣は、ナーテにとって槍で軌道を変えるのに精一杯だった。

 逸れた風魔手裏剣は、少し進んだところで折り返して、また戻ってくる。まるで獲物を狙うハンターそのものみたいに、風魔手裏剣はメイド達に襲い掛かってきた。


 こんな芸当ができるのはシノビセブンの中で、カゲロウのみ。


 勢いが収まる事の無い風魔手裏剣を前に、回避に専念するメイド達だったが、シェイムが避けきれずに腕を負傷した。

 それを見たナーテは、次の指示を出す。


「ユウ! これを操ってる者が何処かにいるはずです!」

「任せとけ!」


 ユウアールは、地面が陥没するほど力強く地面を蹴り、上空へ高々と跳んだ。


「頼むぜ未来道具、俺たちを導いてくれ」

 と、ゴーグルの生体サーチ機能に注目する。


 ゴーグルに表示されるミニマップには仲間の現在位置が表示されていて、暗闇でも視界をハッキリさせ、更に草や葉っぱの隙間から見える動く生物を動体検知する。

 それを使い空から見下ろしたところ、まだ残っている多くのバグが視認できたが、重力によってユウアールは地面に落ちる。


「もういっちょ!」

 と、ユウアールは落下の衝撃をふんばり、更に強く地面を蹴って跳ぶ。


 二度目となる空の索敵。

 ユウアールは普通のバグとは少し違う動きをしている反応を探し、そしてついに捉えた。


「見つけた! 北西の方角! 距離二百!」


 そう言いながら、ユウアールは支給されていたマーキングポインターと呼ばれるボール型の機械を取り出して、敵がいる位置に向かって投げた。

 それと同時、ユウアールの背後から風魔手裏剣が接近。空中落下中で身動きが取れないユウアールに襲い掛かり、彼女の脇腹を斬り裂いて通り過ぎた。


 ユウアールが投げたマーキングポインターが、ナーテのゴーグルに信号を送り、敵がいる正確な方向が表示される。

 敵の位置を確認したナーテは、再びヴァジュランダを投擲する構えを取った。


雷槍(らいそう)! ヴァジュランダッ!」


 ナーテが投げた稲妻の槍が光の速度で島を突き抜け、槍が通った周囲の樹木に穴が空いて倒れていくほどの威力。全てを薙ぎ払い、地面を抉りながら突き抜けたその槍は、森林の真ん中に道を作り、地平線の向こうへと消えて行った。


「ナギ! シェイム!」

 と、ナーテは名を呼びながら、落下してくる負傷したユウアールを受け止めた。

 

 ナギとシェイムは空かさず連射式のスナイパーライフルに武装変更。

 構え、スコープを覗き、ヴァジュランダが作った道の先にいる緑色の忍者を狙って連続射撃。二人が同時に連射する事で、狙撃銃による弾幕となる。


 二百メートルの距離から狙撃で狙われたカゲロウは、近くの瓦礫に身を隠す。

 その隙にナーテはユウアールを地面に下ろした後、投げたヴァジュランダを手元に再召喚しながら全速力で走り出した。


 狙撃の援護と共に走って距離を詰めてくるメイドがいる事に気付いたカゲロウは、緑色のプロジェクトサイカスーツに換装。

 身を乗り出したと思えば、サイカランチャーによるビーム砲をフルチャージで撃ち返した。


 ナーテとその後ろで狙撃態勢を取っていたナギとシェイムは、それを跳んで回避。ナーテは高々と前方に跳び上がっていて、そのままの勢いでカゲロウに向けて槍を突いた。

 発射中だったカゲロウの胸に思い切り槍を突き刺せるも、カゲロウはそれを夢世界スキル《空蝉》で幻影に置き換え、本体は後方へと飛び距離を取っていた。


 だが、カゲロウが空を飛んで距離を取ろうとしたその隙を見逃さなかったナギが、狙撃による銃弾をカゲロウに命中させた。

 怯んだ隙に二発目、三発目、四発目と、銃弾を着弾させ、プロジェクトサイカスーツを砕き穴を開ける。


 更に追加と言わんばかりに、シェイムがロケットランチャーの砲弾をカゲロウに直接着弾させ、空中で爆発を起こした。

 プロジェクトサイカスーツが半壊したカゲロウは、そのまま地面へと落下して転げる。


 起き上がろうとするカゲロウに、ナーテは槍の矛先を向けて言い放つ。


「貴方の負けです。カゲロウさん」


 負傷した脇腹を抑えながら近付いてくるユウアールと、アサルトライフルを構えながら歩み寄るシェイム。そして遠くで再び狙撃態勢に入っているナギ。

 怪しい動きをすれば、速攻で攻撃される状況を前に、カゲロウはついに口を開いた。


「負けだって? この俺があんたらに負けたって?」

「はい。こうなっては、貴方はバグ化を果たす前に消滅します。勝ち筋はありません。大人しく降参して人質の場所を教えなさい」

「……ハンゾウも、ミケも、アマツカミさえも、命を散らしたってのに……降参する訳ないじゃん。それにさぁ……俺に自由をくれた兄さんが、失望しちゃう様な事、できる訳ないよねぇ……」

「救い難いですね。バグの力に手を染めて、悪の道に走った末路がこれですか」

「あー……ムカつくんだよなぁ。五体満足で元気に武器振り回しちゃってさぁ。イライラするよ。召喚に失敗して障害抱えたブレイバーの気持ちも知らないで、偉そうに見下してくる奴がさぁ!」

「貴方……もしかして……」

「俺から自由を奪わせない! 自分を守る為なら、例え神様だって殺してみせる! 来いよ正義! みんな殺してやるからさァァァァァァァァッ!!!」


 カゲロウは叫びながらバグ化を開始。

 すぐにナギとシェイムが射撃を開始して、ナーテも心臓部目掛けて槍を投げた。


 数十発に及ぶ銃弾がバグ化中のカゲロウに着脱。槍も心臓部を貫通して、大穴を開けた。が、カゲロウは消滅しない。


「残念だったなぁ! 俺のコアはそこじゃないから!」


 そう言って嘲笑うカゲロウのバグ化は止まらなかった。

 カゲロウの体格が二回り大きくなり、腕が数十本、背中からも小さな手が無数に生えてきて、まるでそれは千手観音像を連想させるような姿へと変化した。


 しかしそこに神々しさは無く、生き物を食べる事に特化したような大きな口と、どす黒いオーラを纏う。

 そこに忍びとしての面影は無く、頭に残された唯一狐の面だけが彼であると判断できる材料だ。


 先程から銃弾の雨を喰らっていても、シェイムのロケットランチャーが直撃しても効いてない様子を見て、ナーテは即座に『まともに戦ってはいけない相手である』と判断。

 メイド達に撤退の合図を出して、後退を開始した。


 先ほどまで星空が見えるほど晴れていた更に暗雲が立ち込め、嫌な風が吹き荒れる。

 そんな中、逃げるナーテ達を邪魔する様に、茂みに隠れていたバグの群れが道を塞いできた。


 カゲロウバグは言う。


「最初から恵まれてた奴らがさぁ! 蘇らせて貰って運良く立ってるだけの奴がさぁ! 俺は嫌いなんだよ! みんな消えて無くなっちゃえッ!」


 カゲロウバクの数百本に及ぶ小さな手が背中から伸びる。標的はメイド達全員。

 ナーテ達はそれぞれの武器で迎撃を試みるが、傷口が痛み思うように動けないユウアールが最初に捕まった。


 脚を持ち上げられ、逆さまに持ち上げられるユウアール。

 ナーテが救助に向かおうとするも、手とバグによって邪魔をされ進めない。


「まずはお前からだァァァァッ!」


 数本の手が身動きの取れないユウアールに次々と絡みつき、そして身体を引き千切らんばかりに強い力で左右へ引っ張る。


「あああああっ!!!」

 と、激痛により叫び声を上げるユウアール。


 カゲロウバグは殺気に満ちた狂気の声で言った。


「泣き叫べ! 苦しめ! その手も足も、全部無くなり、後悔しながら消えていけ! 女ァ!」


 ナギやシェイムも捕まり、ナーテだけが必死の抵抗を続けるも無限に現れる手を前に万策尽きたと思われたその時だった。



 空から武器が降ってきた。



 千本に及ぶ武器の雨。その一つ一つが的確に手と、周辺一帯のバグに突き刺さっていく。

 捕まっていたユウアールが解放され、地面に落ちるところをナーテが受け止める。同じくナギとシェイムも手が消えた事で解放された。


「なんだっ!?」

 と、カゲロウバグは上空を見上げる。


 そこに浮かぶのは、まるで空を覆う雲の様に張り巡らされた様々な武器群。

 その真ん中に、ドレス姿で宙から見下ろす女が一人。


 空の魔女、ケリドウェンである。


 メイド達にとっての希望の光が神の島上空を支配している姿に、思わずナーテは声を出した。


「ケリドウェン様! 申し訳ございません!」


 ケリドウェンは可愛い部下が痛め付けられた事に怒りの表情を浮かべ、メイド達に言った。


「貴女達は下がってなさい」


 ナーテ達は巻き込まれない様にその場から撤退。

 カゲロウバグはそれを追撃する気力も湧かないほど、上空に浮かぶケリドウェンに目が釘付けとなっていた。


「空の魔女! 母さんの宿敵! 知ってるよ。その手で沢山の人間とブレイバーを殺した虐殺のブレイバーだよねぇ!」

「黙りなさい」

「どうだった? その手を血で染めながら、戦争の兵器として活躍してた時の気持ちはさぁ!」

「黙りなさい」

「さぞ気持ちよかったんだろうさ! 神童なんて言われて舞い上がってたんだよね!?」

「黙れと言っている!」


 我慢の限界が来たケリドウェンは手をかざし、再び武器の雨を降らせた。

 武器群の標的はカゲロウバグ。カゲロウバグは無限に生成できる無数の手でそれを迎え撃つ。


 千の手と、千の武器が空中で激しく衝突して、乱れ狂う。

 その最中、カゲロウバグは口を大きく開き、光線を発射。ケリドウェンは数枚の盾を召喚してそれを防ぐ。


 お返しにケリドウェンは高速詠唱。


「メテオストライク」

 と、口に出したところで、隕石が現れカゲロウバグに向かって落下を開始。


 ケリドウェンの詠唱は止まらない。


「メテオストーム」

 と、今度は小振りの隕石を無数に出して落とす。


 カゲロウバグはそれを手で抑えようと伸ばしたところで、ケリドウェンは次の夢世界スキルを発動した。


「フロストノヴァ」


 淡々と冷めた口調で大魔法の数々を繰り出すその姿は、正に魔女。ケリドウェンが数々の戦場で無双していた所以を目の当たりにする事になる。

 夢世界スキル《フロストノヴァ》によって、周辺一帯諸共、氷漬けにされるカゲロウバグ。


「こんな夢世界スキル如き、俺には効かないよ!」


 そんな事を言って、カゲロウバグは自身を包んだ氷を内部から砕き、迫り来る隕石を抑え込もうとする。


「無駄な足掻きですわよ」


 ケリドウェンは次に、プロジェクトサイカランチャーを両手に召喚。

 チャージを開始した。


「な、なんでお前がそれを!」

「わらわは一度見た物はスキルであろうと何であろうと全て扱えますわ。この武器は今先ほど、其方が使っていた物でしょう?」


 ケリドウェンはフルチャージで、ビーム砲を発射。


「化け物がッ!」

 と、カゲロウバクは再び口から光線を放ち、空中でビームを相殺した。


「其方に言われたくないですわ。バグ風情がほざかないで下さいませ」


 ケリドウェンの手数の多さに、思わず隙が生まれたカゲロウバグに、容赦なく降ってきた武器が次々と刺さった。

 それによりカゲロウバグの手の生成が弱まる。


 隙を見逃さないケリドウェンは、追加で武器群を召喚し、更なる追撃を落とした。


「やめろ……やめろやめろやめろ!」

 と、命乞いするカゲロウバグに、防ぎ切れなかった武器が刺さっていく。


 そんな姿を空から見下ろしているケリドウェンは言った。


「なぜ世界を恨むのか、先ほどの台詞から察しは付きますわ。わらわにもその気持ちは分からなくもないですけど……でも、其方は甘い。自分だけが不運だと嘆く前に、考えるべき事が沢山あったでしょう」


 ケリドウェンが長台詞を話してる間に、数十本の武器が刺さって戦意が失われたカゲロウバグがそこにいた。

 そこへ空から迫るのは隕石群。


「母さん……父さん……」


 消滅を悟ったカゲロウバグは、眼から赤い涙を流していた。

 それを見て、ケリドウェンは魔法を中断。衝突寸前の隕石群を即座に消し去った。


 そして、ケリドウェンはゆっくりと降下をしながら語り出す。


「カゲロウとやら。人の敵となりても、其方は生を受け、ここまで生きながらえて来た事を誇りに思いなさい。そしてわらわによって天罰を与えられる事を光栄と思いなさい。其方は今宵、その苦しみから解放されますわ」


 カゲロウバグのすぐ目の前まで降りて来たケリドウェンは、その手にグラムと呼ばれる神の剣を召喚。

 神々しい光を放つグラムの鋒を、ゆっくりとカゲロウバグの身体に刺し入れる。


 温かな光に包まれ、カゲロウバグは言った。


「オーメン……」


 神の手によって浄化される様に、カゲロウバグの消滅が始まり、そして煙のように消えた。

 そしてケリドウェンが召喚していた武器群も光の粒となって、消滅を始める。いつの間にか暗雲が晴れて星空一面となった神の島に、まるで白い蛍が舞うかの様な幻想的な空間が広がった。


 ケリドウェンが手に持っていたグラムも、役目が終わり、遅れて消えていく中、遠くから様子を窺っていたメイド達が駆け寄って来た。

 まずはナーテが頭を下げた。


「ケリドウェン様、申し訳ございません。本来、私たちだけで事を済ませるつもりが、こんな……」


 遅れて、ユウアール、ナギ、シェイムも頭を下げた。

 それを見て、ケリドウェンはカゲロウのホープストーンを拾い、倒れた樹木の上に腰を下ろしながら言う。


「クロギツネ、どんなものかと思っていましたけれど、アレは貴女達の手に余る相手でしたわ。まずは、無事で何より」


 メイド四名はその言葉を最後まで聞いた後、頭を上げる。

 ケリドウェンは続けて言った。


「少し疲れましたので、ここでしばし休みますわ。貴女達は動ける者からバグの残党狩りと、人間の捜索に当たりなさい。ユウアール、動けて?」

「大丈夫です! 傷は塞がりました!」

「よろしい。行きなさい」


 メイド達はもう一度頭を下げ、散開して森の中へと見えなくなった。

 それを見送ったケリドウェンは、先ほど拾った色を失ったホープストーンの欠片を夜空に掲げて、広がる満天の星空をしばし物思いに見上げる。


 しばらくして、ケリドウェンは支給されたイヤホンマイクを取り出して耳に付けた。





 BCU本部の司令室は、あまりにも圧巻なケリドウェンの戦いっぷりに皆が唖然としていた。

 敵も敵でかなりの手練れである事は確実だったのに、それを上から押し潰すかの如く、隕石まで降らせて、ビーム砲も放ち、傷一つ受ける事なく倒してしまったのだ。


 正直言って、あの隕石を落とされていたら神の島自体が地図から消えていた可能性もあるし、それを考慮して消してくれたのだろうか。


 ケリドウェンが手足の様に操っていた武器群も、あんなに大量にあって、中には伝説の武器にも見える物が沢山混じっていた。

 見ただけで学習して、我が物としてしまう能力。いったいどれほどの学習をすれば、あれほどまでの事が出来るのだろうか。


 一部始終を一緒に見ていた調査部の園田(そのだ)真琴(まこ)が呟く様に言った。


「神の御業みわざでしょうか……」


 そしてアヤノも、

「凄い……」

 と、空いた口が塞がらずにいる。


 アヤノの頭の上に乗っている小さいワタアメも、何やら複雑な表情でケリドウェンの映像を見ていた。


 そんな中で、ケリドウェンから通信が入る。


『終わりましたわ』

「お疲れ様」

 と、俺が答える。


『クロギツネの一味と、こうやって直接対戦するのは初めてだったのだけれど、彼らには彼らなりの理由があったみたいですわね』

「そうみたいだね。でもやって良い事と悪い事はある」

『それで、シッコクが消えたというのは本当でして?』

「うん」

『そう……惜しいブレイバーを亡くしましたわね』

「とにかく、後は人質を救出後、一度本部まで戻って来て欲しい」

『この礼は、サイカが好きだと言う、はんばーがぁーとやらを所望します』

「お安い御用さ」

『よろしい。夜の海水浴でも楽しんでから帰りますわ。それと、明月(あかつき)琢磨(たくま)

「ん?」

『ブレイバーの戦いは、貴方が終わらせなさい。今の貴方と、サイカならば、それが出来るでしょう』

「貴女に言われると、なんか複雑ですよ」

『ふふふ。そうかしらね』


 先程までの緊迫した空気が嘘だったかの様に、ケリドウェンはお上品に笑って見せた。





 ケリドウェン率いるエコーチームによる神の島救出作戦は、カゲロウの夢主を含む人質四名が無事に発見され全員の生存が確認された。ここでの戦いは、犠牲者無しの大勝利で幕を閉じたのだった。

 これにより、残るはテロ組織大蛇(おろち)の本拠地とされる福島県のセルーナホテルのみ。


 そして、今回の神の島で、カゲロウの夢主が救助され、ジーエイチセブンとケークンの夢主も無事に救助されている。

 残る行方不明者は……オリガミの夢主、増田(ますだ)千枝(ちえ)。アヤノの弟、飯村(いいむら)武流(たける)。配信者ココ太郎の池神尚文(いけがみなおふみ)。この三名のみ。


 自衛隊員の一人が司令室に入ってきて、俺に述べた。


「指揮通信車の準備ができました」


 俺は矢井田司令を見ると、矢井田司令は黙って頷く。

 次に小さいワタアメやアヤノを見ると、二人も頷いてくれた。


 俺はワタアメとアヤノを連れて、本部の地下駐車場へと足を運ぶと、そこにはジーエイチセブンとケークンの姿もあった。


「俺たちも戦わせてくれ」

 と、ジーエイチセブン。


「ミッティの仇はあたしが取る」

 と、ケークン。


 ワタアメ、アヤノ、ジーエイチセブン、ケークン。

 俺は彼ら四名のブレイバーと共にブレイバーリンク装置も搭載された指揮通信車と呼ばれる装甲車へ乗り込む。中には通信機器の調整をしている明月(あかつき)朱里(しゅり)下村(しもむら)レイの姿もあった。


 車が走り出すと、駐車場の出入り口では、ブレイバーブランの夢主である栗部蒼羽(くりべあおば)や、他の本部待機の夢主たちが見送ってくれていた。

 数名の自衛隊員達が整列して敬礼もしてくれている。


 皆の期待を背負って、俺たちを乗せた装甲車が向かうは福島県にあるセルーナホテル。


 増田千枝らがいる可能性が最も高く、逢坂(おうさか)吾妻(あずま)率いる大蛇との決戦場となるその場所は、今正に警察特殊部隊による人質救出作戦が開始されようとしている。






【解説】

◆神の島

 今回登場した島はフィクションであり、実際には存在しない場所です。


◆ブレイバーカゲロウ

 夢世界『ワールドオブアドベンチャー』ではシノビセブンの一人であり、レクス及び逢坂吾妻に従うブレイバー。緑の忍び装束と狐の面がトレードマーク。風魔手裏剣の使い手で、大きな手裏剣を自在に操る。

 彼は異世界で召喚された際、両手が動かせない不完全な状態で生まれてしまった。

 使い物にならないブレイバーであると人々やブレイバーから疎まれ、それでも懸命に生きていた彼の元にアマツカミがやって来る。

 レクスからバグの力を授かった事で、カゲロウは手を自由に使える喜びを覚え、バグ勢力に加担する事を決意した。


◆ブレイバーナーテ

 夢世界『キングクルセイダー(アクションRPG)』出身でメイド長を務めるナーテは、雷槍ヴァジュランダの使い手。彼女の槍投げの精度と、戦況指揮は天才的である。

 冬の国オーアニルで、戦後身寄りがない時に、ケリドウェンに拾われた最初のブレイバー。


◆ブレイバーユウアール

 夢世界『オーセンティックファイターエボリューション(格闘ゲーム)』出身のユウアールは、武器を使わず己の肉体で戦う女性ブレイバー。

 異世界では、強い者を求めて旅をしていて、空の魔女の噂を聞いて冬の国オーアニルへと足を運ぶ。

 そこでケリドウェンと決闘をするも、得意の格闘戦で敗北。それ以来、ケリドウェンを尊敬し、メイドとして働く事を決意した。


◆ブレイバーナギ

 夢世界『ゾンビサバイバー(サバイバルシューティングゲーム)』出身のナギは、オーアニルの戦争時代にケリドウェンによって仲間を全滅させられた過去を持つ。

 しかし、ケリドウェンはナギの粘り強い戦いっぷりを気に入り、彼女を自身の従者にならないかとスカウトした。


◆ブレイバーシェイム

 夢世界『バトルグラウンドモバイル(スマホFPSゲーム)』出身のシェイムは、冬の国オーアニルの雪山で遭難し、凍結して動けなくなっている所をケリドウェンに救われた。

 それ以来、命の恩人であるケリドウェンを慕い、ケリドウェンの従者になる事を決意した。


◆ケリドウェンのブレイバースキル

 異世界でのケリドウェンは、無能力として虐げられた過去がありながらも、唯一無二のブレイバースキルに目覚めた事で覚醒。

 それは、見た技を我が物として無限に貯蓄できる能力である。

 コピーのコピーはできないなど、一定の条件はあるものの、ケリドウェンは戦闘技術・夢世界スキル・夢世界の武具召喚をほぼ全てマスターしてしまう、正にチート能力の持ち主。

 その戦闘力の高さから、異世界では戦争の兵器として扱われていた時期もあった。

 バグ化の能力だけは、彼女であっても覚えることが出来ていない。


◆神の剣グラム

 数々の夢世界武器を召喚できるケリドウェンが、カゲロウへの手向けとして選んだ武器はグラム。

 北欧神話に登場する伝説の剣だった。


◆クロギツネ

 異世界での、シノビセブンの別称。


挿絵(By みてみん)

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