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ログアウトブレイバーズ  作者: 阿古しのぶ
エピソード4
88/128

88.悪人あればこそ善人も顕る

 全ての出会いと、全ての別れには意味があると言うけど、俺とサイカの別れにどんな意味があったのだろうか。

 俺は人では無くなり、サイカは記憶を失っても尚戦い続けて、もう二年経ったというのに、俺はサイカに何もしてやれていない。



 三二九・大蛇事件発生から六日後、二◯三五年、四月四日。

 この日、俺はBCUの最強ブレイバー部隊計画の最終候補、ブレイバーサイカと再会する。


 場所は東京都千代田区にある比延神社。サイカから指定された時刻は夜の二十一時。

 社殿の両隣に神猿像が置かれ、猿をモチーフにした絵馬やお守りが取り揃えられ、女性やビジネスマンのパワースポットとも言われるこの神社。約束の時間に合わせ、BCU所属の自衛隊員達による人払いがされ、何があっても良いように周囲は厳戒態勢。少し離れた所で、ブレイバー達も待機している。


 サイカと感動の再会は、少し物々しい雰囲気になってしまっているが、果たしてサイカは現れてくれるのだろうか。

 俺はバイクに乗って小さいワタアメと共に現場へ到着。出入口となる山王鳥居の所で先に到着していた仲介役のサムと言葉を交わす。


「琢磨。サイカは来てる。しっかり話し合ってこい」

 と、サムは恋のキューピットみたいな事を言って背中を押してくれた。


 サイカとの会話に参加を強く希望したワタアメを肩に乗せて、俺は表参道の階段を登る。

 緊張のせいか、脚が重い。全身が少し震え、冷や汗もかいてる。


 こんなに重苦しい緊張は初めてだ。

 そしてこの重さは俺だけのものじゃない。サイカとの交渉は、恐らくは明日、日本の明暗を左右する作戦に大きく影響を及ぼす重圧。俺の知らない真実を知る事になるかもしれないという不安感。


 サイカは話してくれるだろうか。

 サイカは俺のことをどう思っているのだろうか。


 社殿前の階段前、その真ん中でこちらに背中を向けて立っている女性が見えた。

 黒髪短髪で、白肌を多く露出させた黒の軽装鎧を身に付け、赤いマフラーを首に巻いて、狐面で顔を隠した女性。間違いなく、九州で会った時と同じ姿をしたサイカだ。アメリカの研究施設で防犯カメラに映っていたサイカだ。


 サイカも近付いてくる俺の気配に気づいて、振り返った。


 彼女まであと十メートル程まで近付いた時、

「それ以上近づくな」

 と、声を発してきたので思わず足を止める。


「サイカ、会いたかった。えっと……サムから話は聞いた。人類を守る為に戦ってくれてるって」

「……私は、人間を守ってる訳じゃない。人間が……醜く争う事を防いでる」

「戦争を? なら結果として同じじゃないか」

「違う」

「なら、なんで戦争を防ごうとしてるんだ。サイカは、何の為に戦ってるんだ」

「何の為に……」


 俺がそう聞くと、サイカは黙ってしまった。

 とにかく何か話しかけなければという思いから、別の話題を振ることにする。


「なあサイカ。こいつは、ワタアメだ。覚えてるか?」

 と、肩に乗せてる小さいワタアメの紹介を始める。


「今はこんな姿だけど、あのワールドオブアドベンチャーで沢山遊んだワタアメだよ。今まで色々あったけど、今はブレイバーワタアメとして一緒に戦ってくれてる。仲間なんだ」

「知ってる」


 サイカは今知ってると答えた。

 それはつまり、ワタアメとの記憶は残ってるということなのか、それともこの小さなブレイバーが仲間であると知っているということなのか、判断に困る返答だった。


「サイカ、俺たちと一緒に――」

 と、俺が思わず一歩前に出ようとした時だった。


 サイカが一瞬で風の如く詰め寄ってきて、素早く腰の刀を抜刀し、俺の首に向けて斬り掛かってきた。

 俺はそれを見抜き、上半身を少し反らして回避。首の皮一枚を刃が掠った。回避行動を取らなければ首を切り落とされていた攻撃。


 すぐ目の前、手の届くところにまで狐面のサイカがいるというのに、動きを封じる殺気に包まれた。

 サイカは言う。


「それ以上近づくなと言った」

「な、なあ、どうして……そんなに俺を警戒するんだ。俺は琢磨(たくま)だ」

「嘘を言うな。琢磨は死んだ」

「嘘じゃない! 俺はここにいる!」

「その異様な気配、私に見抜けないと思っているのか。お前は私の夢主ではない!」


 そう言って、再び剥き出しの刀を振るうサイカ。

 斬り殺すつもりの刀捌きを、俺は避けて避けて避けて、最後に後ろに飛んで距離を取る。


「正体を表せ偽者!」

 と、戦闘の構えを解かないサイカ。


 するとその様子を見ていたワタアメが、助言してきた。


「琢磨よ。サイカを相手に誤魔化しは効くまい。まずはこちらから真実を話すべきじゃ」


 そうか。やはりそうなってしまうのか。

 出来る事なら、俺は琢磨のままで、明月琢磨として、サイカと語り合いたかった。でも、そんな望みは、我儘だったのかもしれない。


 前にBCU施設の浴場で、ワタアメに鋭い質問をされ、ジーエイチセブンやクロードの前で話した事のある真実。彼女である増田(ますだ)千枝(ちえ)にも内緒にしている真実。

 それをサイカに話す時が来た。


 そう思うと、俺は思わず口元が緩み、笑みを浮かべてしまっていた。

 だってそうだろう。これから俺が言う事は、本当に頭の狂った怪物の言葉なのだから。



「ああ、そうさ。俺は……サイカの夢主、明月琢磨じゃ無い」



 その言葉を聞いたサイカの殺意が増した気がした。

 いつ再び攻撃してきてもおかしくない状況で、サイカは言ってきた。


「ふざけるな! いったい何のつもりだ! この世界はお前のいるべき所ではない!」

「それは心外だな。これでも、サイカと志は共にしてるというのに。キミの願いを叶え、今こうして助けに来てやったというのに」

「黙れ!」


 サイカは我慢できず再び詰め寄って来て、刀を振った所で、ワタアメが変身しながら前に出て応戦。

 その刀を短剣で受け止めながら、ワタアメは言った。


「そう焦るでないサイカ。お主はもう琢磨の存在を何となくでも思い出しているのだろう」

「分からない! 全然分からない!」

「琢磨、こいつとの対話はわっちが引き受けよう」


 ワタアメがそんな事を言い残したと思えば、サイカとの戦闘を開始。二人の女ブレイバーが、比延神社の敷地内を飛び交い、気の抜けない攻防を繰り広げる。

 社殿周辺でサイカとワタアメの対戦が始まり、衝撃音と金属が衝突する閃光、時には刀と短剣が夜空を舞った。


『こちら園田(そのだ)。交渉失敗ですか?』

 と、調査部の園田さんから通信が入ったので俺は答える。


「まだ分からない。待機を続けて」

『了解しました』


 ワタアメとサイカの戦闘は、ブレイバーの中でも強者同士の斬り合い。

 猫と狐。この斬り合いそのものが、二人にとっての会話にも見えた。


 サイカを蹴り飛ばしながら、ワタアメは言った。


「これで何度目じゃサイカ!」

「なにを!」


 サイカは受け身を取って、ハンドレールガンを手に召喚して撃つ。


「わっちは分かっとるぞ! 次元の狭間に取り残されたお主は、そのまま創作世界の迷宮に迷い込み、この世界に辿り着く為に多くの世界を渡り歩いたであろう!」

「それがどうした!」


 ワタアメはレールガンを避けながら、弓を召喚して放つ。


「そして、この世界でお主は何度世界を繰り返した!」


 中距離の撃ち合いを繰り返した後、ワタアメが銅製灯籠を蹴り、その勢いでサイカに近づき短剣で斬る。

 斬りながら、ワタアメは続けて言った。


「お主が今まで見てきた世界はどうじゃった! わっちは生きていたかえ? わっちはバグになり、お主に消滅させられる運命だったのじゃろう!」

「なんでッ!」


 サイカの剣筋に戸惑いが生まれ、ワタアメはそれを見逃さず襲い掛かり、サイカを地面に押し付けた。


「なんで分かるのか、不思議なんじゃな。それ程、サイカにとってもこの世界は想定外に溢れておる。琢磨を名乗る存在と、わっちの生存、BCUの結成、その全てがサイカの想定外じゃ」


 ワタアメはサイカに馬乗りになり、地面に押さえつけながら、短剣をサイカの首元に当てる。


「お主が本気を出せば、もう少し良い勝負じゃったろうに。迷いを隠そうとしても、わっちには通用せんよ」


 そう言われ、サイカの力が抜けた。


「……教えてくれワタアメ。私は何だ。私はなんでここにいる」

「答えはお主と琢磨の中にある。その仮面を外さぬ限り、お主はこの世界で前に進めぬよ」

 と、ワタアメはサイカの狐面を外そうと手を伸ばす。


 だが、サイカは夢世界スキル《空蝉》でワタアメの束縛から抜け出し、空かさず背後を取りながら強烈な回し蹴り。

 その蹴りをワタアメは咄嗟に片腕で防ぐも、飛ばされて塀に衝突。


 この時、サイカは思い掛けず半分バグ化をして、力が強化されていた。

 そうとは気付いているのかいないのか、サイカは更に速い速度で、ワタアメに対し追い討ちを仕掛けようとする。ワタアメもバグ化の力を発動させながら、体勢を立て直し、短剣を構えた。


 これ以上の戦闘は危険だと判断した俺は、前に出て二人の間に入り、サイカに向かって両腕を広げた。

 迫るサイカの鋭い突きは止まる事叶わず、俺の胸を貫く。


 サイカに俺の返り血が飛び散り、彼女の狐面が赤く染める。


 俺はその迷える刃を、この身を持って受け止めた。




 痛みを通り越して、何も感じない。




 サイカの刀に刺されるのは、これで二度目。




 俺はサイカを引き寄せ抱擁して、再び彼女の名を呼ぶ。





「サイカ」





 サイカはピクッと反応して、手が震えたと思えば、刀を持つ手が緩んだ。




「お前は誰だ」




「俺は……管理者。次元の狭間の管理者と明月(あかつき)琢磨(たくま)が融合した存在」

「狭間の……?」

「ああ。サイカは琢磨を刺してしまったあの時、望んだよね。この人を助けて欲しいと。それを俺なりに叶えてあげたのだから、悪く思わないでくれ」

「なら貴方は……」

「確かに俺は偽者だ。だけど半分は本物。琢磨の意思と感情は、俺の中にしっかりと残ってる」


 その言葉を聞いたサイカは、俺に突き刺さっている刀から手を離し.、狐面をずらして顔を見せ、そのまま寄り添うように身を寄せてきた。


「琢磨……私の夢主……琢磨……」

「サイカが失ったものを探していたら、こっちに来るのにこんなに時間が掛かってしまった。待たせてごめん」

「私は疲れたよ。ずっとずっと、琢磨を探して、琢磨の世界を見つけて、守ろうとして。琢磨の帰る場所を守りたくて……」


 俺の後ろで、ワタアメが武装解除しながら説明を始めた。


「サイカはかつてのわっちと同じ様に、狭間を彷徨ったのじゃろう。琢磨を探す過程で、次元世界の渡り歩きを行ったんじゃ。それが創作介入に繋がった。そしてサイカは、この世界に行き着いた。じゃが、そのサイカの様子から察するに、最初は琢磨のいない世界だったんじゃろうな。レクスに好き放題遊ばれる現実世界。そこでどれほどかは分からぬが、長い間、孤独に戦って来たのじゃろうて」


 サイカは答える。


「……数えるのを諦めるくらい、ずっと……私は――」

「もういい。言うな」

 と、俺はサイカの言葉を遮った。


 サイカはずっと頑張って来たんだ。

 記憶が欠けた状態で、当ても希望もない、そんな先の見えない道を走り続けて、今、俺の腕の中にいる。


 今こそ、俺がすべき事は……



 

「サイカ。君が失っていたモノを、返す」


 俺とサイカは光に包まれる。

 暖かい光の粒は、俺から溢れ出て、少しずつサイカに吸収される。


 この光は、サイカの失った記憶のピース。

 二年前、サイカがブラックハッカーのバストラによって消されたサイカの思い出。


 受け取ってくれサイカ。

 琢磨の願いと共に――――






『園田です。状況報告を』

「状況終了。もう大丈夫」

『了解しました。警戒及び閉鎖を解除。各員速やかに撤退を開始します。明月さんも気を付けて』

「了解」


 そんな通信のやり取りの後、BCUの部隊は撤収を開始。走り去る大型トラックや装甲車、人知れず立ち去るブレイバー達。

 十分も経たずして、何事もなかったかの様に、いつもの比延神社に戻っていく。もうしばらくすれば、手配した業者が、サイカとワタアメが行った戦闘の痕跡を修復しに来るだろう。


 そんな中、俺はサイカの顔をまじまじと見つめ、彼女の頬にそっと手を添える。いつも顔を隠していた狐面は横にずれていて、サイカの素顔がそこにあった。

 サイカの頬は人並みに暖かく、サイカの表情は安らかだ。


 サイカは失った記憶を全て受け取ってくれただろうか。

 俺の事や、ミーティアの事、全部思い出してくれただろうか。


 まず、その前に、

「サイカ。やっとちゃんと君に会えた。こうして君の温もりを感じれて嬉しいよ」

 と、俺は語りかける。


「私もだ……琢磨。会いたかった。思い出したかった」

「今までよく頑張ったね。もう一人で戦わなくていい」

「うん……うん……」


 俺に突き刺さったままだった刀がブレイバーの復元の力により消え、サイカの腰に戻っていく。

 傷口が露呈し、俺の胸や口から血が吹き出してくる。


 今更になって痛みが込み上げて来て、立ってるのもままならなかった。

 それを見たサイカは慌てて謝ってきた。


「ごめん。私、また……」

「いいんだ。大丈夫。これくらいの傷、すぐ治るから」

「琢磨……」


 サイカとワタアメに支えられながら、俺はゆっくり腰を落とし、その場に座り込む。

 ワタアメは背中側、サイカは正面から俺の傷口を手で抑えてくれてる。女性二人に挟まれて、何とも滑稽な光景。


 ぐうううう。と、サイカのお腹が鳴り、サイカは少し恥ずかしそうに視線を逸らす。


「こんな時に……」

 と、サイカ。


 見計っていたかの様に、遠くで様子を見ていたサムが何かの袋を持って近づいてきた。


 サムは俺たちに見せる様に片手でマックのMのマークが印字された袋を見せ、

「ほら、忘れもんだぜ」

 と、笑顔を向けてきた。


 やがて俺の出血も止まり、修復業者の邪魔にならないよう比延神社の稲荷参道前まで移動。

 そこでサイカの食事タイムとなった。


 よっぽど腹が空いていたのか、サムが買ってきたビッグマックバーガーを三個も食べている。フライドポテトは俺とサムで分けながら食べ、小さくなったワタアメは階段のところで眠っている。

 ハンバーガーを頬張るサイカの姿を見ながらサムは言った。


「どうなる事かと思ったけど、無事に仲直りできたみたいで良かった」

「ありがとう。こうやってサイカに会えたのは、サムのお陰だ」

「ま、今までの空白は、これからサイカとゆっくり話していけよ」

「ああ、そうだな」


 サムは夜空を見上げる。

 ここから見る東京の夜空は、星一つ見えない暗闇。そんな景色を遠い目で見つめながら、サムは語り出した。


「なあ琢磨。日本って良い国だよな。そりゃあアメリカと比べたら、狭くて複雑で、人混みばっかりだけどさ。安心して夜道を歩ける。悪い奴がとことん少ない」

「みんな平和ボケしてるんだよ」

「平和ボケは悪い事じゃない。むしろ良い事なんだろう。だから俺たちは今こうやって、決戦前夜だというのに、ゴールデンアーチのフライドポテトを食べてる。平和の象徴の国で、こんな普通じゃない戦い、早く終わらせないとな」

「ああ、分かってる」


 俺はそう言って、フライドポテトを一本、口に運んだ。

 口の中に塩味と、独特な油の味が広がって、それは今まで何度も食べたことのある物のはずなのに、初めて食べたみたいに、とても美味しい味だと思った。




 バイクにサイカとワタアメを乗せて、帰路に着く。

 BCUの施設に到着するまでの間、多くは語らなかったけど、サイカから色々話は聞けた。


 創作の神と呼ばれるほど、サイカが創作世界に介入してしまっていたのは、この世界に辿り着く為の旅行だった。

 この現実世界は本来、俺は狭間から還らぬ人となっていて存在せず、日本のBCUなんて組織も結成されていなかった。ワタアメもバグ化して東京で大虐殺をしてしまい、サイカがそれを食い止める筈だった。


 そして何より驚いたのは、俺やBCUがいなければ、国際平和連盟も設立されず、レクスの暗躍によってテロリストが蔓延り、最終的には第三次世界大戦が始まってしまう運命だったそうだ。

 バグの軍隊や核兵器による醜い戦争で、世界の半数が滅び、日本は滅亡する。それが、サイカが知っている現実世界のシナリオ。想像するだけで身震いしてしまう。


 サイカはそんな世界戦争を止める為に、俺が帰ってくる事を信じて、ひたすら、ただひたすらに戦い続けていた。

 死んだらまた二年前からやり直して、また死んだら二年前に戻って、彼女はRPGでゲームオーバーになったらセーブした所からやり直すみたいに、死に戻りを数百回と繰り返して、今、ここにいる。


 九州での戦いも、アメリカでの戦いも、サイカは何度も経験している事だと言う。

 一つの行動の違いで、変化はあるものの、終焉はいつも滅亡へと繋がる。それを数百回、本人も数えるのを諦めるほど、現実世界の戦争防止行動にその身を置いた後、俺が現れる世界がやって来た。


 俺にとっては一回目の世界で、これからどうなるかなんて分からない。サイカにとっても、異例過ぎて分からない。それが今の現実世界。

 やり直しができるかどうかも不明な世界。



 これが、俺とサイカの真実。

 これが、狭間から現実世界に戻ってきた俺の一回目の物語。

 それでもサイカは、俺から何も言わなくても、共に戦ってくれる事を誓ってくれた。






 三二九・大蛇事件発生から七日後、二◯三五年、四月五日。

 この日、逢坂(おうさか)吾妻(あずま)は増田千枝のスマホを使って、俺に電話を掛けてきた。


『やあ、明月琢磨。約束の時間だ。戦いの準備はできたか?』

「逢坂吾妻、千枝は無事なんだろうな」

『元気だよ。最初は騒がしかったから、監禁して昔みたいに戯れてやったら、すぐ大人しくなった』

「お前!」


 吾妻は千枝に端末を渡し、千枝の声が聞こえてきた。


『もしもし、たっくん?』

「千枝、今から助けに行く。待ってろ」

『ごめんね……ごめんね……私のせいだ……こんな事になって、みんなみんな不幸になっちゃう』

「弱気になるな。必ず俺が……俺たちが助ける」

『私のことはもう良いから。たっくんは無理しないで。私のことは忘れて。お願い』


 そう言う千枝の声は、酷く怯えていて、震えていた。

 この一週間、監禁されていた千枝が何をされ、どんな事を思っていたかを考えると、胸が苦しくなる。


 再び吾妻の声が聞こえてきた。


『元恋人との感動の会話はそこまでだ。千枝はもう俺の飼い猫だからね。返すつもりは無い』

「思い通りにはさせない」

『白貫トンネル、神隠しの森、富士溶岩洞穴、神の島。そして……セルーナホテル。待ってるよ。来なきゃ夢主を一人ずつ殺す。寄せ集めのブレイバーで、いったいどれほどの事が出来るか、見物させてもらうとしよう』

「お前は神様気取りの小悪党だ。その事を俺が証明してやる」

『そうでなくっちゃ戦い甲斐がない』


 そう言い残し、吾妻は通話を切った。

 執務室で電話をしていた俺の横で、昔懐かしい赤の忍び装束を着てキクイチモンジを腰に携えたサイカは、心配そうにこちらに顔を向ける。


「始まるのか。戦争が」

「ごめんサイカ。みんなともっとゆっくり話す時間を作ってあげたい所だけど、今はそんな余裕もない状況なんだ」

「奴の登場と、この戦いは、私も初めての出来事だ。どうなるか……予想できない。レクスが琢磨の存在に気付き、新たに仕掛けてきた罠で間違い無いと思う」

「レクス……レクスか。狭間から続いた奴との因縁も、ここで断ち切らないとね」

「それは私も同意見だ」


 執務室の自動ドアが開き、明月(あかつき)朱里(しゅり)が中に入ってきた。


「久しぶりだなサイカ。元気そうで何より。二人だけか」

 と、朱里。


 俺はその白衣を着た赤髪の小さな女性、朱里に部屋に来た理由を問う。


「朱里がここに来るなんて珍しいね。どうした?」

「二人にブレイバーリンク装置の説明に来た。と、言うのは表向きの理由で、内密に伝える事があって来た。二人しかいないのは好都合」

「伝える事?」

「大蛇との戦いが、勝つにせよ負けるにせよ、国際平和連盟は良からぬ事を日本政府に要求していて、日本政府はそれを承諾している――」


 人類は過ちを繰り返す。ブレイバーケリドウェンが懸念していた通り、朱里が持ち込んできた密告は、衝撃的な内容だった。






 日本政府が何をしようとしてるかは今は気にするべき事でなく、まずは囚われた夢主たちを救出する。人命が最優先だ。


【BCUがこの日の為に結成したブレイバー部隊】

 サイカ、ブラン、エオナ、シッコク、シロ、ルビー、ロウセンの七名に加え、ナポン、ナーテ、ユウアール、シェイムナギ。そして夢主を人質に取られ待機を本部で命令されているミーティア、ジーエイチセブン、ケークン。本部で琢磨の護衛をするアヤノ、ワタアメの合計十七名。


 習志野駐屯地に集結した十七名のブレイバーは、作戦決行に向け、滑走路を歩く。彼らを見送る自衛隊員達と、搭乗を待つ軍用ヘリがそこにある。

 作戦指示はBCUの本部の司令室から行い、作戦指揮は戦術部長の俺が担当する。


 作戦エリアは五つ。まずは五つのチームに分け、それぞれの作戦エリアに向かってもらう。

 ミーティア、ジーエイチセブン、ケークンの三名はBCU本部で待機。施設への奇襲に備える事とした。ブレイバーアヤノは今回の作戦に参加せず、俺の護衛として横に立ってる様に命じている。


 俺は生死を掛けた戦いに赴く戦士達に、通信で言葉を掛けた。


『みんな。今回、敵とするブレイバーは、こちらで把握している限りで、アマツカミ、カゲロウ、ハンゾウ、ミケ、そしてシャークと槍使いの男。いずれもバグの力を操る可能性のある強力なブレイバーだ。犠牲無しに勝利できるとも思っていない。だからこそ、俺は今、君たちに感謝の意を示さなければならないと思ってる。ありがとう。そして先に言っておく、俺たちは所詮は寄せ集め、俺に立派な作戦指揮なんてできやしない。正直言って不安しかない。だからこそ、己の力で、己の信念で、敵に勝ってほしい。よろしく頼む。以上だ』


 続いて矢井田司令からもブレイバー達に向けて通信が入った。


『我々は失敗が許されない立場だ。勝て。それしか君たちの夢主が、安全に暮らせる未来は残っていない。勝て。それだけだ』


 そんな激励を受け、最初にシロが発言した。


「僕に任せといて。全部狙撃して撃ち殺してやるから」


 クロードがそんなシロの頭にゲンコツをする。


「なーに言ってんだよシロ。俺が撃って良いと言うまで撃つんじゃないぞ」


 次にナーテが、

「ケリドウェン様。まさかこうして、再会できるとは夢の様です。何処までもお供する事を、我々メイドを代表してお伝えしておきます」

 と言い、四名のメイドはケリドウェンの側を離れようとしない。


「なに、わらわ達ならば、どんな敵でも相手にはなりませんわ。今度こそ、わらわがお前達を守ってみせましょう」

 と、ケリドウェン。


 その横で、エオナがシッコクに話しかける。


「シッコクさん、よろしくお願いします」

「エオナ。まさかこんな所でお前と共闘する事になろうとはな。無駄死にするつもりはない。背中は任せたぞ」


 二人の会話を聞いたミーティアが、

「エオナ、シッコク様の事、よろしくね」

 と、エオナに忠告する。それには思わずエオナも苦笑い。


 そして急遽召喚する事になったとは言え、すぐに協力要請に応じてくれた金の鉤爪に赤の甲冑鎧を着たナポンが、隣で歩くルビーに話しかける。


「なんだかよく分からないけど、あたいはルビーに会えて嬉しいよ。また一緒に戦えるなんて願ったり叶ったりじゃないか」

「そ、そうね。私も……なんだか夢を見てるみたい」


 戦場に出陣しようというのに、それぞれバラバラの会話で盛り上がる彼らを見て、ケークンは笑った。


「ほんと、ずっとあたしらだけで戦ってきたのにさ。急にこんなに仲間が増えて、頼もしいを通り越してよくわかんないや」


 その言葉にジーエイチセブンが応えた。


「こうやって強者のブレイバーが揃ったとなると、オールスターチームに思えなくもないな」


 そして、黒の軽装鎧のサイカが隣を歩くミーティアに言った。


「この前はごめん」

「え?」

「ミーティアの事、知らないなんて言ってしまって」

「ううん、大丈夫。こうやって思い出して、私達の所に来てくれたんだから、今はそれでいいわ」

「うん……」

「この戦いが終わったら、ゆっくり話しましょ。私ね、こっちで琢磨と二年も一緒にいたのよ。話したい事、沢山あるから。だからね、絶対、絶対、無事に帰ってきて。私より先に消滅したら、許さないから」

「ああ、楽しみにしてる」


 今度はサイカの後ろを歩くブランがサイカに声を掛ける。


「サイカ。お前とチームを組める事、俺は誇りに思う」

「ん? ああ、そうだな。今度は負けるなよ」

「そうだな。俺には、シノビセブンの皆を止められなかった責任がある」

「……あれはもう、仲間だと思っちゃダメだ」

「……理解しているつもりさ」


 そんな会話の横で、アヤノの肩に乗った小さいワタアメがアヤノに言う。


「分かっておるかアヤノ。わっちらは琢磨の護衛じゃ」

「う、うん……」

「そう緊張する事はない。三日三晩、その体に叩き込まれた技術を信じろ」

「そうですね」

「と、言うても、他のブレイバーに比べれば一番安全な場所じゃ。万が一の時、何がなんでも琢磨を守る。絶対に琢磨から離れてはならん。それだけ守れば良い」


 そうやって互いを励まし合いながら、ブレイバー達はそれぞれの思いを胸に閉まって、それぞれの持ち場に向かう。

 彼らに待っているのは、日本国にとって戦後かつてない戦場となるだろう。


 夢主を守る為、自分の夢を守る為、彼らは戦う。

 その先に、平和がある事を信じて。






【解説】

◆琢磨の正体

 狭間で命を落とした明月琢磨は、狭間の管理者と融合する事で蘇生をした。

 その為、今、現実世界に存在している琢磨は、半分は管理者、半分は琢磨と言う特異人物となっている。

 彼がサイカの記憶を持っていたのは、それこそが琢磨の願いであり、次元の狭間に彷徨う記憶のピースを拾い集めたからである。


◆サイカの軌跡

 ブラックハッカーのバストラによって一部の記憶を消されてしまい、暴走後に琢磨を誤って刺し殺してしまった。その後、狭間に取り残されたサイカは、生死も分からない自身の夢主に会うと言う目的の為、次元を彷徨い、様々な創作世界に介入した。

 結果として、最終的に自身の夢主が琢磨と言う名前である事を知り、琢磨がいた現実世界に辿り着いたのだが、そこに琢磨はいなかった。正確には狭間から還らぬ人となっていた。

 そんな中で、現実世界側で起きるバグを起因とした世界戦争と日本国滅亡に遭遇。彼女はそれを阻止すべく、回数にして五百回ほど、死に戻りを繰り返し、たった一人でレクスの野望に打ち勝とうとした。

 管理者と融合した琢磨が登場した現実世界は、孤独の戦いの末に巡り合った異例であり、サイカがどうすればいいのか戸惑う事となった。


◆大蛇との決戦におけるBCUチーム編成

A:サイカ、ブラン、ロウセン

B:ルビー、ナポン

C:シッコク、エオナ

D:クロード、シロ

E:ケリドウェン、ナーテ、ユウアール、シェイム、ナギ

本部待機:ミーティア、ジーエイチセブン、ケークン

琢磨の護衛:アヤノ、ワタアメ


◆マックのフライドポテト

 美味しいよね。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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