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ログアウトブレイバーズ  作者: 阿古しのぶ
エピソード4
76/128

76.大敵と見て恐れず小敵と見て侮らず


 ロールプレイングゲームのボスモンスターについて考えて見た。


 ゲームに登場する強いボスは強いインパクトがあり、それ故に強烈な個性で見る者に感動を与えてくる。そのようなインパクトある敵キャラの行動パターンと、どのような能力やスキルを所有しているのか、それを見て、考えて、プレイヤーは四苦八苦する。

 それがボス戦の醍醐味なんだと思う。


 ワールドオブアドベンチャーで言えば、かつて俺がサイカとしてワタアメ達と共に戦った『デストロイヤー』が俺にとっては記憶に新しい。

 プレイヤーを翻弄する攻撃力と、アイテムや魔法を使わせない動き、そしてHPが少なくなるとバーサーク状態になって手に負えなくなる。ワールドオブアドベンチャーで、二年前までは最強ボスの一角とまで言われていた。





 そしてこれから戦うドリュアスと呼ばれるボスモンスターはどうだろうか。

 ワープホールを通った先は、世界樹とも呼べそうな巨大な木。原生林の拓けた広場の中心で、高くそびえる様にして生えてるこの個体は、周りの木よりも一回りも二回りも高い。


 侵入者を拒むかの様に、晴れていた空は雲が厚みを増し、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした空模様へと変わった。BGMが止まり、嵐の前の静けさがワタアメ達を包む。

 巨大樹の前は走り回るには申し分ない広間となっていて、大きな岩が二つほどあるだけで障害物も少ない。正にボス戦をする為の場所となっていた。


 ワタアメ、ジーエイチセブン、リリム、エオナ、シロの五人が並ぶと、ワタアメが言った。


「さてさて、各自役割は分かってるよね。ジーさんはタンカー、リリムとエオナはアタッカー、私が後方援護、シロはアイテムサポート。準備よろしく」


 するとジーエイチセブンが、

「状況とボスの名前から察するに、風属性だろうな」

 と、メニューを操作して火属性の防具と武器に切り替える。


 次にシロ。


「えっと、ポーションはいっぱい持ってきてるから、じゃんじゃん使って大丈夫だから。とりあえず、バフアイテム使うよ」


 そう言ってシロが、攻撃力アップと防御力アップ、更にはリジェネ効果のある消費アイテムを全員に使用する。その横で、リリムがエレメンタルソードを抜剣。エオナも刀を鞘に納めたまま、いつでも動ける様に構えた。


「こういうん久しぶりでワクワクするっちゃ」

 と、エオナ。


「僕も」

 と、リリム。


 そしてワタアメが背中の弓ではなく、短剣を構えた。



 ✳︎



「待て琢磨! なんで短剣構えてるんじゃ」

「あ、ごめん。そう言えば弓だったね」

「……まさかと思うが、弓使った事が無いとか言わんじゃろうな?」

「使った事ないけど、短剣投擲とかと同じじゃないの?」

「違うわ!」



 ✳︎



 ワタアメは短剣を戻して、弓を手に持った。

 この弓は『シェキナー』というレア武器の一つで、最大まで強化されているワタアメの愛用武器。むしろこの弓こそが、ワタアメの努力の結晶。腰の矢筒に入っている矢もまた、このゲームにおいて最高級のボス特化アイテムである。


 BGMが不穏な雰囲気を演出する。


 それに合わせ、巨大木の前に一人の女がふわりと姿を現した。ドリュアスである。

 緑色の美しく長い髪に大きな瞳、薄着のその女は宙に浮いていて、モンスターというよりは大精霊の類に見える容姿。そんなドリュアスのレベルは百四十二。見た目に反してとんでもないレベルだ。


「おいでなすった」

 と、ジーエイチセブンは盾を構える。


 ドリュアスは挨拶代わりに風魔法スキル《ゲイルテンペスト》を速攻詠唱して、横直線状に竜巻を放ってきた。


「散開!」


 そんなワタアメの叫びで、各自が左右に走り、その竜巻を回避。ワタアメが矢を放つ中、ジーエイチセブンが盾を構えながら前進して行く。

 樹木の太い根が二本、鞭みたいに操られてジーエイチセブンを攻撃してきたので、彼はそれを盾で防御した。


「ぐぅっ!」


 盾で防いだはずなのに、HPゲージが思った以上に減らされる。

 二本の根は隙無く前方のジーエイチセブンを攻撃していく中、後方にいたシロが足元で起きた異変に気付いた。


 地面の土が盛り上がったと思えば、地中から細い根が飛び出して来て両足に絡まってきたのだ。


「うわっ! なにこれ!」


 ドリュアスの攻撃を防御しているジーエイチセブンの足にも根が絡まっていて、移動不能に陥っていた。

 流れる様にドリュアスは魔法スキル《ゲイルストーム》を発動。五つの竜巻を発生させてそれを自在に操って攻撃。動く事ができないジーエイチセブンとシロが直撃を受けた。


「そういう事か! みんな! 移動封じからの全体攻撃がこいつのコンボだ! 足を取られない様に動き回れ!」

 と、ジーエイチセブンが叫びながらポーションを使用する。


 シロもポーションでHPゲージを回復させ、足に絡んで来ていた根が時間で外れた瞬間に走り出す。

 そんな中、エオナとリリムが前に出て、交互に波状攻撃を仕掛けていた。エオナの連携スキル《月光・発》や《月光・開》、更に《月光・極》の攻撃スキルが炸裂。


 続けて前に出たリリムが、《マッチネスダンシング》と《マッドネスブレード》の合わせ技で、超高速のオーロラ連撃を叩き込む。

 そんな二人の連携技に対する反撃として、ドリュアスは再び《ゲイルテンペスト》を発動させたが、ジーエイチセブンが前に出てそれを盾で受け止めた。


 その間、ワタアメが放つ矢はドリュアスに命中していない。



 ✳︎



「何やっとるんじゃ!」

「いや、弓なんて扱った事無いし」

「ワタアメを汚すな。わっちを使うからにはもっと上手く使え」

「そんな事言ったってな」

「良いか。弓は武器を構えた状態でも移動速度が下がることはありんせん。大型モンスター戦では側面に回り込みつつ攻撃を避け、その後に射撃を仕掛けるのが基本的な立ち回りじゃ。溜めは四段階、最後まで溜めた場合、このくらいの距離なら真っ直ぐ飛ぶ。後はアシスト通りに狙えば良い。困ったら適当にスキルでも使っておけ」



 ✳︎



 急にワタアメの動きが良くなった。

 ワタアメの矢が次々とドリュアスに刺さり、HPゲージを少しずつ削っている。


 加えて、エオナの刀とリリムの剣による連携技、続けてジーエイチセブンも《シールドアタック》を混ぜながら火属性剣で更に追撃する。

 するとドリュアスは新しい行動を見せた。と、言うよりは、周囲の土の中から小型のトレントを召喚してきたのだ。ボスを護る『取り巻き』という奴が十体出現。


「これでもくらえっ!」

 と、ジーエイチセブンが聖騎士スキル《グランドクロス》を発動すると、十字架の形をした範囲攻撃が取り巻きごとドリュアスを巻き込んだ。


 ワタアメも続いて範囲攻撃の《アローレイン》で、矢の雨を降らせた。

 それらの攻撃で召喚された取り巻きであるトレントは一掃され、ドリュアスのHPゲージを五割以下まで削る事に成功した。


 ドリュアスは次の行動に出る。《リジェネレイション》と《グランドパニッシャー》を連続使用。

 《グランドパニッシャー》が地面を激しく揺らし、回避不可能の全体攻撃を広げたと共に、《リジェネレイション》によるリジェネ効果で自己回復を始めた。


 特に《グランドパニッシャー》が強力で、ジーエイチセブン以外の全員が瀕死にさせられ、それに加えてドリュアス自身は自然回復を始めてしまうのだから凶悪極まりない。


「面白い!」

 と、ワタアメが次の矢を放つ。


 そうやって、ワタアメ達とドリュアスの攻防は繰り返されて行った。



 ✳︎



 リビングの扉が開かれ、増田(ますだ)千枝(ちえ)が中に入ってきた。

 俺は激しいゲーム画面から目が離せない為、コントローラーを必死に操作しながら、ポーションを使用した事によるキャラの僅かな硬直中に話し掛ける。


「千枝。何してるんだ」


 気付かれない様に冷蔵庫へ向かおうとしていた千枝は、俺に話し掛けられたのでギクッと肩を揺らして、顔を引き攣らせた。その手には膨らんだコンビニ袋。


「あ、あーえっと、ちょっとコンビニに……」

「コンビニ? なんで今」


 千枝はこれ以上誤魔化すのも悪いと思ったのか、覚悟を決めた様に俺の横まで歩いて来ると、頭を下げた。


「ごめん! たっくんのプリンも食べちゃって、それで、その、コンビニのプリン買い占めてきた」

「買い占めって……別にプリンなんて、あとで一緒に買いに行けば良かっただろう。それにあのプリンは、千枝の為に買っておいたやつだ。俺の物でも、ましてや朱里の物でもない」

「へ?」

「だから気にするな。でもまあ、せっかくだから、あとで一緒に食べるか」


 その言葉に、千枝は改めて春の訪れのような心のときめきを感じた。それにより顔を赤く染めている千枝に、ゲームでのボス戦に夢中な俺は気付けていない。

 遅れてリビングに入ってきた朱里が、我が物顔で言ってきた。


「やっと戻って来たか。ほれ、わしにプリンを寄越せ」


 嘘を吐かれていた事を知って、苛立ちを覚えた千枝が朱里を睨み、守る様にコンビニ袋を両手で抱えて言い放つ。


「ダメ! これはあたしとたっくんのプリン!」

「何を言っとるんだ! わしが食べるプリンもそこに含まれとるだろう!」


 リビングで言い争いを始める千枝と朱里。


 ぎゃーぎゃーとあまりにも騒がしいので、

「プリン如きでなにムキになってるんだ」

 と俺が言うと、二人は顔を揃えて言ってきた。


「「如きじゃない!」」


 ほんとこの二人は、仲が良いんだか悪いんだか分からん。

 結局、千枝が買ってきてしまった様々な種類の二十個ほどのプリンは、みんなで山分けする事になり、その場は一旦落ち着いた。



 ✳︎



 リアルでの出来事に気を取られてしまったワタアメに、ドリュアスの《ゲイルテンペスト》が直撃。

 HPゲージが赤くなるまで失われ、シロの前まで転がってきた。シロはワタアメにポーションを使用して回復、そして自身の回復も行おうとしたが……それを狙っていたかの様に再び地面から根が伸びて来て二人の足に絡まってきた。


「やばっ!」

 と、ワタアメ。


 ドリュアスのコンボ技である《ゲイルストーム》が放たれる。

 地面を這う五つの竜巻が各自に迫り、ジーエイチセブン、エオナ、リリムの三人は回避したが、行動不能なワタアメとシロに竜巻が直撃。ポーションで回復途中だった二人のHPは大きく減り、シロに至ってはゼロとなり倒れた。


 ワタアメは何とかHP数ミリで生き延びる事が出来ている。


(あぶねぇ)


 俺がそんな言葉を漏らした時、この激しいボスとの戦場に舞い降りた一人のクノイチがいた。

 離席から戻って来て、ボス戦のフィールドに駆けつけた上機嫌なオリガミである。


「おっまたー! 鮮やかな恋せよ乙女、心は風に逆らう折り紙色、千と咲く手裏剣見せたろか! シノビセブンが一人、手裏剣使いのオリガミ、只今参上!」


 シノビセブンとしてバーチャル芸能活動をする時によく使う決め台詞を吐きながら、オリガミが颯爽と駆け寄って来て一気に最前線へ。


「みんな! 畳み掛けるよ!」

 と、オリガミは影分身でドリュアスの攻撃を拡散させながら、大きく飛躍する。



 二年に及ぶバーチャル芸能活動と、地道なゲーム生活で会得に至ったオリガミの必殺固有スキルが発動。

 その名は《千錯繚乱(せんさくりょうらん)華吹雪(はなふぶき)》。彼女が得意とした《百華手裏剣(ひゃっかしゅりけん)》と《念手裏剣(ねんしゅりけん)》を合わせた上位スキルに当たる攻撃技だ。



 オリガミから同時に放たれた百個の手裏剣が、それぞれ更に分身と分身を重ねて、千個の手裏剣となり、その全てがドリュアスを貫通。突き抜けた手裏剣は、空中で折り返してもう一度、二度、三度と貫通ホーミングといった動きで付き纏う。

 手裏剣による嵐の中心で、ドリュアスのHPゲージはリジェネによる回復速度が追いつかないほどに削られて行った。


 そこでドリュアスは再び《リジェネレイション》と《グランドパニッシャー》を連続使用する。


 《グランドパニッシャー》による地震が一同を窮地に追い込む中、エオナが捨身の覚悟で前に突進。

 ドリュアスを護る根を斬り落としたエオナは、そこでスキル《閃光列塵(せんこうれつじん)(ざん)》を発動。緑の女を閃光の如き連撃で斬り刻む。


 技が終わり、刃を鞘に納めたエオナが、

「リリム!」

 と、後方にいるリリムの名を叫ぶ。



 二年間、いや、もっとそれより前から、不遇と呼ばれ続けた魔法剣士を極め抜いたリリム。

 七色剣士とも一部で謳われた彼女が、会得するに至った固有スキルは《スラッシュベイン・サンダーブレード》。



 リリムが持つエレメンタルソードに電撃が宿り、バチバチと細かい稲妻を出しながら、青白く光る剣が彼女の半身を照らす。

 そんな稲妻が宿る剣を片手に、リリムは前へ。後退するエオナと入れ違いで、その剣がドリュアスを斬る。斬る。また斬る。その度に、落雷でもあったかの様な衝撃と煌めきが、厚い雲で薄暗くなっているこの場を明るくした。


 

 本当にリリムが使う技の数々は、芸術的に美しい剣技ばかりである。

 それよりも、雷属性なんてものは存在しないこのワールドオブアドベンチャーにおいて、この技はどういうダメージ計算になっているのかも、俺は気になった。


 《スラッシュベイン・サンダーブレード》のダメージ量は、目を疑いたくなるほど大きく、見た目の派手さによる期待を裏切っていない。

 こんなのをもし現実で実現したとしたら、斬ってる側も溜まったものじゃないだろうな。むしろ丸焦げになりそうだ。


 ドリュアスが可哀相に思えてくるほど、リリムの斬撃は凄まじく、最後の突きに至っては本当に空から落雷が降って来てしまった。

 一方で、ワタアメは何をしていたのかと言うと、弓を先ほど入手したばかりの『妖精狩人の弓』に切り替えた上で、固有スキル《サテライトアロー》を発動して、光を吸い込む矢を引いていた。この技、昼間は太陽、夜は月の光を吸収して威力と矢速が増す一撃必殺の狙撃技。先ほどまで見えていた太陽は雲に隠れて見えなくなってしまっているので、最大威力を出すとまではいかない。ただ、このボス戦のフィールドにおいて、狙撃とは言えない近い距離からこれを命中させれば大ダメージを与える事ができるはずである。


 そう見込んだワタアメは、地面から出てきた根に足を巻きつかれたが、気にせずチャージした。

 この時、ワタアメのHPゲージは残り一割、シロはHPが無くなり倒れているし、他のメンバーも全員三割を下回っている。対してドリュアスのHPゲージも三割と言ったところで、少しずつリジェネで自然回復してしまっている。


 この《サテライトアロー》でどれ程のダメージを叩き出すかによって、このボス戦の勝敗が決まるだろう。

 先ほど、安全奇岩のトコロテンに強気な発言をしてしまった以上、全滅なんて恥ずかしい姿を見せる訳にはいかない。


 何かのフラグが立ったのか、ドリュアスの周りに大量のトレントが出現。その数、三十。

 それに加えてドリュアス自身も強化された《ゲイルストーム》を発動させて、十の竜巻を地面に這わせてきた。


 それを見たジーエイチセブンは、《インペリアルソード》を発動して全身から眩いオーラを放ち、周囲を取り囲むトレントを地面に押さえつける。

 しかし無慈悲な竜巻が全員のHPをがつがつと削っていて、オリガミだけは空蝉を使って回避して上手く逃げ延びている中、ジーエイチセブンが叫んだ。


「やれ! ワタアメ!」


 その言葉を聞いて、ワタアメの手から矢が離れた。

 矢はまるでビーム砲にも見え、流星の様に光の速度で放たれる。ワタアメに向かっていた竜巻を消し飛ばしながら、ドリュアスに命中。ドリュアスのHPゲージは真っ赤に染まり、残り数センチのところで止まった。


 ぎりぎりのところで、仕留め損ねてしまったのだ。


 ドリュアスはバーサーク状態となり、荒れ狂いながら《グランドパニッシャー》を連続発動。《グランドパニッシャー》《グランドパニッシャー》《グランドパニッシャー》《グランドパニッシャー》と、デタラメに激しく地面全体を揺らされた事で、地割れが起き、土が陥没し、断層が露わになる。正に最終局面で絶望させてくるこの攻撃に、恐らく全員耐えきる事は不可能であり、早々にワタアメとエオナはHPが無くなった。

 そんな中、最後の足搔きとしてオリガミが爆発手裏剣を連投し、ジーエイチセブンとリリムが前へ出る。


 崩れゆく大地を飛び越え、親子による火属性剣を使った合わせ技、特にスキルという訳でもなく、ただの通常攻撃なのだが、この瞬間においてはまるでそういう合体技があるかの様な格好良さがあった。

 その最後の攻撃は、見事に、本当に見事に、ドリュアスの残り数ミリだったHPゲージの底を突かせた。



 そしてドリュアスは、悲痛の叫びと共に消滅した。

 後を追う様に、取り巻きとして出て来ていた大量のトレントも地面に還って行く。


 僅かなHPで立っているのはオリガミ、ジーエイチセブン、リリムの三人。倒れているのはワタアメ、エオナ、シロの三人。

 蘇生アイテムや魔法が存在しないこのゲームでの死は重く、死ぬと経験値の五十パーセントが失われ、所持金も半分になり、首都へ転送されるしかなくなる。更には首都での復活後、一時間だけ衰退と言う状態異常が付与されステータスや移動速度が下がる。なのでこの戦いで死んだプレイヤーはこのダンジョンまでやってきた二時間を戻された上に、多くのデスペナルティーを受けるのだ。


 それでも、各自の視界にはボスを倒した事による報酬が表示される。これだけ苦労しただけの価値はあったと思えるアイテムの数々が、そこにあった。

 ボスが倒された事で、この妖精の森というダンジョンは、ゲームのルールに則って明日になれば消える。広大な森が一瞬にして消えるというのは、ぜひその光景を見てみたいものでもある。


「うへぇ、やられたぁ」

 と、仰向けな状態で倒れているワタアメが、ボスの退場により晴れ渡った空を見上げながら満足そうに笑みを浮かべた。


(なんかごめん、もっと上手く使えてれば)


 俺がそんな弱音を吐くと、ワタアメが答えた。


「終わり良ければ全て良し」


 そこへ生き残った三人が、ポーションでHPを回復させながらワタアメに歩み寄って来た。


「ギルマスがそうやって倒れてるのを見るのも、懐かしいな」

 と、ジーエイチセブン。


「見世物じゃないよ。ほら、生き残ったあんたらはゼネティアまで帰れ帰れ」

「まぁ俺たちがここからゼネティアに戻るのも二時間掛かるからな。ちゃんとログアウトせずに待ってろよ。また勝手に消えたら、今度こそ許さないからな」

「……うん。あっ! 安奇の奴らがいたら、ご苦労様って伝えておいて」

「ついでに報酬で貰ったドロップアイテムも教えておいてやるよ」

「いいねーそれ」


 ワタアメは笑い、ジーエイチセブンも笑い、その横にいるリリムも笑った。遠くで倒れてるエオナやシロも笑っている。

 ただ何の話をしているのか分からないオリガミだけは、一人だけきょとんとしていた。


 こうやって俺とワタアメと、その仲間達のボス戦は幕を閉じた。

 ロールプレイングゲームというのは、やっぱりこうでなくてはならない。それぞれが自分のキャラクターという役割を演じ、育て、仲間と出会い、そしてダンジョンを攻略する。そこにはプレイヤーを翻弄するボスモンスターがいて、一人では絶対に倒せないそれを協力して倒す。


 一人で戦っていたらどうなっていただろう。

 安全奇岩というギルドに譲っていたらどうなっていただろう。


 そんな事を俺は少しだけ考えたけど、満足そうなワタアメと、嬉しそうな仲間達を見ていたらどうでも良くなった。



 ✳︎



 ゲーム内のワタアメはHPがゼロになったので、帰還を選択すると、ゼネティアの教会で復活した。当然ながら、衰退状態となっていて、ステータスは三分の一。走る事もスキルも使用できない状態である。復活の祭壇で起き上がったワタアメの周りには、同じく衰退状態のエオナやシロの姿もあった。

 互いの健闘を称え合いながらも、エオナとシロはボス戦の報酬を売る為にプレイヤーショップへと行ってしまったが、ワタアメは一人でギルドが所有している建物へと移動する。


 テレビ画面に映る、ログアウトブレイバーズのアジト内部を見たワタアメは、久しぶりの我が家に帰ってきたかの様な感動を覚えていた。

 そこは庭付きで室内に滝まである高級な邸宅とも言える建物で、内部にある広間に設置された大きい招き猫の形をした銅像。その銅像の頭の上がワタアメの定位置なので、そこまでひょいひょいと登って座る。


 あとはギルドメンバー達が集まるまで、ここで座って待っているというのがワタアメの基本スタイルだったと言う。

 なので俺もそれを再現する様にワタアメを動かして、定位置に座って放置する事にした。





 気が付けば、ダイニングに千枝や朱里の姿があった。

 まだかまだかとプリンをテーブルに並べて、俺とワタアメがゲームに一区切り付けるのを待っているといった様子である。


「ちょっと休憩するか」

 と、俺がワタアメを抱えてソファから立ち上がり、ダイニングへと移動する。


 既に朱里はプリンを食べ始めていたが、まあ沢山あるし気にしないでおこう。

 プリンパーティーの開始だ。飽きるまでプリンを食べ尽くす。


 俺が千枝の隣に座り、ワタアメをテーブルの上に置くと、ワタアメが向かい側で読書をしている高枝さんを見て言った。


「んで、この男は誰じゃ」


 そう言えば、まだ紹介してなかったか。


高枝(たかえだ)左之助(さのすけ)さん。えっと、ゲームマスター九号だった人だよ」

「ゲームマスター九号……あー、あのストーカー野郎か」


 思い出しながらも、そんな失礼な事を口にするワタアメだったので、俺が注意をする。


「そんな失礼な事を言うな。こうやって一緒に遊べたのは高枝さんが協力してくれたお陰なんだから」

「そうなのか? だったら見直してやらんこともないのう」


 高枝さんがどれだけ偉い人なのかも知らないワタアメは、あくまで上から目線。だけど、高枝さんは特に何も気にしていない様子で黙々と読書を続けていた。

 そこで俺は、高枝さんがさっきからずっと読んでいる本に目をやる。


「高枝さん、その本は?」

「ん? ああこれか」

 と、皮のブックカバーを外して、表紙を見せてきた。


 そこに記載されている本のタイトルは『プロジェクトサイカ』だった。著者として『藤守徹(ふじもりとおる)』の名前もある。

 タイトルのバックには柔らかい線のタッチで描かれ、美しい色彩が塗られたサイカのイラストもある。


「あ、それって藤守さんが書いてた本ですね。ついに発売されたんですか」

「そういう事だ。私も当事者だったから、こうやって客観的に、私が知り得なかった出来事まで赤裸々に書かれているのは面白い。今度、明月君も読んでみるといい。電子書籍でも発売されている」

「そうですね」


 すると、カスタードプリンの二個目を食べている千枝が聞いて来た。


「その藤守さんって、誰?」

「ジーエイチセブンさんの中の人だよ」

「えっ!?」


 あまりに意外な情報に、千枝は驚いてスプーンで口に入れようとしていたプリンの欠片をテーブルに落としてしまう。まあ、まさかさっきまで一緒にボス戦をしていたタンカーの男が、こんなを出版した張本人だなんて言われたら誰もが驚くよな。

 ちなみに後で調べて分かった事だけど、この藤守さんが書いた本は『二年前にサイカという存在が明らかとなり、仮想世界でウイルスと戦い、バーチャルアイドルになった経緯』等が書かれていて、週間ベストセラーの堂々一位に選ばれるほどの影響力があったそうだ。


 布巾で零してしまったプリンの欠片を拭き取る千枝の横で、ワタアメがふと思いついた疑問を俺に聞いて来た。


「そのフジモリとやらがジーエイチセブンの夢主と言うのなら、こうやってゲームをしている時、こっちの世界のジーエイチセブンはどうなっておるんじゃ?」

「それは俺も気になって、ブレイバーのみんなに聞いた事がある。やっぱり眠くなるらしいよ。寝るといつもみたいに夢でゲーム世界を体験するし、頑張って起きていようと思えば起きてもいられるらしい。そう言うワタアメはどうだったんだ?」

「わっちは全然じゃな。睡眠欲は来ておらん」

「それ、大丈夫なのか」

「心配ありんせん。何となくじゃが……琢磨の側にいるとエネルギーが回復してる感じがありんす。タクマチャージじゃな」


 ワタアメがオリガミみたいな事を言い出した時だった、ピンポーンとドアホンの呼び鈴が部屋に鳴り響いた。

 一階にいるコンシェルジュが何も言わずに通したという事は、関係者である事は間違いないけど、とりあえず俺はドアホン親機のところまで移動して映像を確認しながら通話ボタンを押す。


 ドアホン親機に映された映像には、四人の人物がいた。

 BCU調査部の園田(そのだ)真琴(まこ)、スペースゲームズ社の笹野栄子(ささのえいこ)、クロードの中の人で大学生となった黒川(くろかわ)和人(かずと)、そしてクロード。全員私服姿で何やら荷物を持っている。


「どうぞ」

 と、俺は玄関のドアロック解除ボタンを押す。


 早速、四人が玄関ドアを開けて中に入ってきた音が聞こえた。

 そして、ぞろぞろと四人がリビングへと入ってきた光景は、まるでこれからパーティーでも始めるかの様だ。いや、荷物を見るとスーパーの袋に入った食材が目立つので本当にやるつもりなのかもしれない。


「急にどうしたんですか?」


 俺が問いかけると、園田さんが答えた。


「せっかくの休みですし、みんな集まってるって聞いたので、パーティーでもしようかなと。みんなでご飯、美味しいですよ」


 やっぱりそうだった。

 すると、黒川くんと喋っていたクロードが何かを持って近づいてきて、俺の目の前でくつろいでいるワタアメの頭をぷにぷにと触りながら話しかけた。


「よおワタアメ。元気にしてるか」

「やめれ」


 馴れ馴れしい態度で接してくるクロードに対して、ワタアメは尻尾でビンタをしようとした。


「おっと、させねぇぜ」


 そう言ってクロードが盾にしたのがシーチキンと書かれた丸い缶だった為、寸前の所でワタアメの尻尾が止まる。ワタアメが最近気に入っている食べ物だ。


「今日は俺が有利な立場だ。こいつが欲しけりゃ俺に逆らわない事だな」

「だったら……奪い取るまでじゃっ!」


 ワタアメが飛び跳ね、クロードの顎にタックル。そして落下しながらも器用に尻尾を操ってクロードの手から缶を奪い、後ろに倒れるクロードの腹部の上で跳ねて、元のテーブルに戻ってきた。


「あいたぁ!」


 間抜けにクロードがすっ転んだので、周囲に笑いが生まれる。ほんとクロードは黙ってりゃ格好良いのに、お調子者感が否めない。

 そんなみっともないクロードを見た彼の夢主、黒川くんは言った。


「もう、やめてくれよ。俺まで恥ずかしくなってくるだろ」


 黒川くんはそう言って、クロードを起こしてあげてるあたり、この二人もちゃんと仲良くなっているのだという事がわかる。

 そんな中、笹野さんはテキパキと動いていて、高枝さんに挨拶をした後、食材を持ってキッチンへ向かっていた。園田さんもその後に続いて一度キッチンに足を踏み入れたが、何かを思い出した様で、ダイニングに戻ってきて、入り口に一旦置いていた重そうな紙袋を持ち上げ、俺の所まで来た。


「明月さん、これ、ご要望の品です。経費で買いました」

 と、テーブルの上に置かれた紙袋には大量の漫画本。


「なんだっけ」

「もう忘れたんですか。恋語り全巻と、ファスファン。それとマイノリティノートのアニメ版ストリーミングカード全巻です」


 袋を覗くと、少女漫画が二十冊、そしてゲームソフトが一本、更にアニメのストリーミング鑑賞カードが入ったパッケージが七本入っていた。よくもまぁこんなにきっちりと揃えてくれたものだ。


 プリンを食べ終わった千枝が身を乗り出してきて、

「あたし恋語り読みたい!」

 と、立候補してきた。


「いいよ。俺は千枝が読み終わったのを追いかけて読むから」

「たっくん、一緒に読も」

「漫画を一緒になんて読めないだろ」

「読める読める!」


 覚えてるだろうか。

 この園田さんが買ってきた作品の数々は、サイカが身に付けていた物が関わっている。恋語りはマフラー、ファーストファンタジーは鎧、そしてマイノリティノートというのはアメリカで発見されたサイカが武器として使用していたレールハンドガンという武器の元となっている作品だ。


 これを読めば、サイカに何か近づけるかもしれない、そう思った俺は、珍しくサイカの介入作品を見たいと園田さんに言った事がある。

 すっかり忘れていたけど、それが叶ったという事だ。



 ✳︎



 ボス戦を生き延びたジーエイチセブン達が自動走行で首都ゼネティアまで帰ってくると、オリガミは離席していて動かなくなっていた。なのでリリムと一緒にギルドアジトまで足を運ぶと、そこでも放置されたワタアメのキャラクターが定位置に座っていて反応は無し。エオナとシロに至ってはログアウトしてしまっていた。

 目的が達成したらさっきまでの連携が嘘だったかの様に、みんなバラバラになる。MMORPGなんて、こんなものである。


「落ちるか」

 と、ジーエイチセブン。


「うん」


 リリムが頷いたので、ジーエイチセブンはメニューを操作してログアウトを押した。



 ✳︎



 俺たちが集まって楽しい料理パーティーに洒落込もうとしている時、ジーエイチセブンの中の人、藤守徹の家は世にも珍しい状況となっていた。

 パソコンデスクから立ち上がった徹が振り返ると、そこにあるソファで私服姿のジーエイチセブンが眠っている。


 徹はそんな彼に近づいて、肩を揺さぶった。


 その揺れによりジーエイチセブンは目覚め、

「……もう終わりか?」

 と、眠気の残った声で言った。


「ま、解散だろうな。ワタアメも反応無いし、いつまでも待ってる訳にもな」

「そうか」


 電気も点けず、薄暗い部屋でジーエイチセブンはソファから起き上がり、背伸びをした。

 そこへ藤森司(ふじもりつかさ)が、廊下から部屋の扉をノックしてきたので、徹は言った。


「司、明月さんの家に行くから、準備しておけ」

「わかった」

 と、ドア越しに司の声。


 その会話を聞いていたジーエイチセブンが、ふとデスクの上に立てかけられた写真立てを見る。そこには若い頃の徹と、まだ幼い司、そして今は亡き妻の三人が映った家族写真があった。

 ジーエイチセブンはふっと笑う。


「息子とは上手くやってるみたいで、安心した」

「上手くはない。自分の子供とゲームを通してでないと話ができない親が、上手くやってるなんて言えるかよ」

「交流が出来ているだけマシだろ。家族の絆に、手段なんて関係ない。そうだろ?」

「お前、ズケズケと言ってくるな」

「当たり前だ。俺はお前に育てられた子供だからな」


 そう言って、ジーエイチセブンが部屋を出ると、リビングで着替え中の司がいた。

 筋肉が無い痩身の身体、あまり日光に当たっていないであろう白い肌、見方によっては女性にも見える十九歳男子。


「わっわわわわわ!」

 と、裸を見られた女子みたいに慌てふためく司。


「わりぃ」


 突然、体格の良い髭面男が中に入って来たのだから、慣れてない人は大体こうなるのだろう。

 気を使ってリビングを出るジーエイチセブンだったが、入れ違いで徹が中に入った。


「司、父さんちょっとシャワー浴びるから、ゆっくり着替えてていいぞ」

「あ、うん」


 司は親である徹に見られるのは平気な様で、反応が全然違う。この時、ジーエイチセブンは寂しさにがっかりする思いもあった。

 そんな藤守家とジーエイチセブンの休日。






 俺たちがそれぞれの休日を過ごしている時、残るBCU所属ブレイバーの女性陣は何をしていたかと言うと、調査部の下村(しもむら)レイの指揮の元で任務に駆り出されていた。

 時刻は二十時、現場は神奈川県伊勢原市の市街地。


 住宅地にある道路の真ん中で、絶命している一般人を貪り捕食している一体のバグがいた。

 バグは捕食に夢中で、まだ次の行動に移る気配は無い。そこへ数十人のアサルトスーツとヘルメット、タクティカルベストを身につけた警察の特殊部隊が包囲して、いつでも発砲を開始できる様に構えつつも、刺激をしない様に見守っていた。


 彼らにはまだ市街地での発砲許可が下りておらず、BCUの到着を待てという命令が下されている。

 怪我人が出た場合に備えて、救急隊員も離れたところで待機をしていて、正に一触即発と言える緊張感だ。


 人型で四つん這いになって人間を捕食しているバグの上空をオスプレイが通り過ぎ、そのローター音でバグは捕食を中断する。

 星が輝く夜空を見上げるバグは、二本の腕と脚、そして頭部と言える部分があるものの、人間とは全く異なる形相をしていて、紫掛かった黒色の肌と、赤い宝石の様な目を光らせている。その姿は何処か、寂しそうにも見えた。


 そんなバグにすぐ後ろから話しかけたのは、ケークンだった。


「よー、美味しいか」


 話しかけられるまでケークンの存在に気付けていなかったバグは、咄嗟に振り向いたが、そこにケークンの強烈な蹴りが炸裂。

 バグは頭部からくるくると回転して、すぐ横にあった民家のブロック塀へ衝突した事で、積み重なったブロック煉瓦が一部砕けた。


 消滅するまでに至っていない為、すぐにケークンは追撃。

 ケークンの拳で、ブロック塀に大穴が空き、砂埃と煉瓦の破片が周囲に飛び散った。が、バグはまんまとそれを避けており、攻撃直後で硬直したケークンの横を素早く通り過ぎて、飛躍して民家の屋根へ逃げ去っていく。


 すると、ケークンが片耳に取り付けているイヤホンマイクからミーティアの声が聞こえた。


『器物破損よ』

「勘弁してよミッティ。逃げられた。レイさん追える?」


 今度はBCU本部の監視室にいる下村レイから通信。


『捉えてる。ミーティア、回り込んで』

『分かったわ』


 ケークンも民家の屋根に飛び移って、逃げるバグを追う。

 思っていた以上に足が速く、夜の闇へと消えようと走るそのバグは、ほとんどケークンの移動速度と同等。つまり追いつくのが困難な状況である。


 逃げるバグ。

 バグにとって、今この時、脅威となるのは間違いなくブレイバーである。そこに恐怖という感情があるのかどうかは分からないけど、逃げるという事は勝てない事が分かっているからなのかもしれない。

 後ろから颯爽と追いかけてくるケークンも、上空からスポットライトを当てて追尾してくるオスプレイも、この市街地においてバグという存在を追い込んで煽って圧迫感を与えてるに違いない。


 急展開になった時に現れ、ザコ敵より強いモンスターのことをボスモンスターと言い、強さは作品やそのボスによって様々。中には、圧倒的な力を見せつけられ、負ける事が確定しているイベント戦だったりもする。そんな一筋縄では対応できないのがボスモンスター。

 では今、市街地で逃げ回るこの小さなバグにとってのボスモンスターとはいったい誰なのか。


 その答えは、山の森を通り、なんとかケークンやオスプレイの追尾を免れた時に訪れた。


 まんまと隣の厚木市にある山道へ出たところで、赤と青の双剣を持って立っている女剣士と鉢合わせする事になった。ミーティアだ。

 夜風になびく彼女の金色の髪が美しく、そして鋭い瞳がバグを睨んでいた。その姿はバグにとって、恐ろしさを通り越して冥途の女神か何かに見えたかもしれない。


 もう逃げられない事を悟ったバグは、手の爪を鋭く伸ばし、構え、そしてミーティアに飛び掛かる。が、次の瞬間には彼女の稲妻の如く剣捌きによって斬られ、バグは力無く消滅する事となった。

 声を上げる事すらもできないその姿は何処か儚く、蒸発して煙の様に空気と同化していった。輝きを失ったコアが地面に転がり、土で汚れる。


「任務完了」

 と報告したミーティアは、双剣を背中の鞘に戻した。




 これがゲームなのだとするならば、このバグにとっては負け確定のイベント戦であり、ミーティアは立ちはだかったボスモンスターと同義なのである。

 なんて事を言ったら、ミーティアは怒るだろうから、ここは冥途の女神って言い直しておこうと思う。






 討伐対象を排除したミーティアが合流地点へ移動している最中、ケークンから通信が入った。


『ミッティおつかれ。琢磨ん家でパーティー中らしいから、あたしらも行こうぜ』

「え、そうなの?」


 そこへ、レイが通信に入って来る。


『残念ながら、私達は朝まで本部で待機命令が出てる』


 それに抗議するケークン。


『アレだろ。なんて言ったっけ……ロウトーキジンホウ?』

「労働基準法」

『それだ! ロウドーキジュンホウがあるんだから、あたし達にだって休む権利があるだろ』

『国家公務員は労基法の適用外』

 と、レイ。


『まじかよ』


 ブレイバーが何処かで覚えた日本の法律は、役に立たなかった。

 なので、二人のブレイバーが当直勤務で活躍している中、俺たちは園田さんと笹野さんという家庭的な女性二人の手料理と、美味しいお酒に囲まれたホームパーティーを満喫した。悪いなミーティア、ケークン、この埋め合わせはまた今度。






【解説】

◆プロジェクトサイカ(本)

 藤守徹がこれまでのサイカの活動を客観的な目線で書いたノンフィクション書籍で、サイカやシノビセブンのウイルスとの戦いの軌跡が細かく記されている。


◆警察の特殊部隊

 警察の警備部に編成されている特殊部隊。 主にハイジャックや重要施設占拠等の重大テロ事件、組織的な犯行や強力な武器が使用されている事件において、被害者の安全を確保しつつ事態を鎮圧する戦闘のプロ集団である。


挿絵(By みてみん)

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