69.琢磨とサイカ
赤と黒が支配する空間で、銀色のサイボーグ達と、黒い悪魔が衝突していた。
『アマテラス、スサノオ、大破! 速いっ! なんて強さなの……プログラムサイカを援護に回します。ブレイバーブランは撤退を!』
(そんな事言われたって! こんな状況でどうやって!)
数で有利な状況であったのにもかかわらず、じりじりと斬り合いにおいて競り負け、アマテラスとスサノオが行動不能に陥った。
サイボーグ達は過去のオリジナルから複製された存在であり、成長したオリジナルに勝とうなんて無理がある。
「アヤノを一旦下に降ろす。プログラムサイカをアヤノの援護に回してくれ」
『まさかオリジナルサイカと戦うつもり!?』
「……あれはサイカではない。バグだ」
(久しぶりの再会だって言うのに……なんだよこれ。どうすんだよ)
ブランは抱えていたアヤノを地面に下ろし、そして剣を構え、飛ぶ。
「最優先保護対象と戦闘を開始する! 蒼羽、サポートを頼む」
(……そうだな。あれがブレイバーサイカだって言うなら、殴って正気に戻すしかない!)
『ブレイバーブラン! ミスターアオバ! もう! なんなのよ! この分からず屋!』
ブレイバーリンクで同調した2人は、クロエの制止命令を無視してアマテラスと共に悪魔へと向かって行った。残っていたツクヨミも不覚を取り片腕を持って行かれてしまい、それからはブランと悪魔との一騎打ちへと目まぐるしく展開していく。
そんな様子を映像で見ながら、クロエは別のところへ通信を入れていた。
『……ドクターシュリ、聞こえますか。映像は見て頂けましたか……ええ、こちらオリジナルサイカと交戦中で……そう長くは持ちません。……え? 間抜けな王子様が迎えに行った? 何を言ってるんですか貴女は!』
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宇宙は無重力空間だと言うけど、実際はどうなのだろうか。
僕は一度も宇宙になんて行った事がないから、その感覚は分からない。
でも、今、真っ暗で何も無い空間にふわふわと浮かんでいる僕はそれなんじゃないかと思える。息は……出来ているのか分からないけど、する必要も無い様に感じる。何よりも光が何も無い真っ暗な闇である事だけが、今この瞬間の不安要素だ。
勢いで飛び込んで来てしまったが、もしかしたらここは死後の世界と言うやつなのではないか。
死んだのか……僕は。
「琢磨」
声が……聞こえた。
「琢磨」
聞いた事のある声だ。
「……サイカ?」
僕が名前を呼ぶと、目の前に光の粒が現れた。
それはやがて四角い形となり、積み木を積み上げる様に小さなキャラクターの姿になる。まるで昔のゲームのドット絵みたいだが、サイカであると分かる色の組み合わせ。そんなドット絵サイカが、二等身の身体で少し動いていた。
こんな姿は初めて見る。
「サイカ?」
何も喋らないので、再び話しかける。
すると今度は少しずつ形が変わって、二等身から三等身へ変化。ドット絵もきめ細やかになって、より綺麗な色合いになった。
そのまま四等身へ変化して、まるでアニメキャラクターの様になった。
口が出来上がった所で、手が届きそうで届かない絶妙な距離にいるサイカはようやく口を開く。
「琢磨」
また、僕の名を呼んで来た。
「サイカ。どうしてこんな所にいるの?」
「待ってたんだ」
「待ってたって……僕を?」
「そう」
サイカはポリゴンチックな3Dキャラクターに変化する。
「サイカ。こんな所にいないで、早く帰ってきなよ」
僕がそう言うと、ポリゴンのサイカは少し笑った様に見えた。
するとサイカの身体がよりリアルなグラフィックへと変化して、ワールドオブアドベンチャーで慣れ親しんだサイカの姿へ変化する。
黒の短髪、額当て、赤の忍び装束。腰にはキクイチモンジ。
「琢磨」
「なに?」
「私を利用して、大金を稼いで、女の子に囲まれて、楽しい?」
和やかだったサイカの表情が、急に険悪な顔つきになった。
その目は冷たく、その言葉は僕の胸を貫く。
「……ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。僕は―――」
「私がバグになるのは、琢磨のせいだよ」
「サイカ……」
「だからもう、私の事は放っておいて。私の事なんか忘れて」
そう言うサイカは、更に表面の質感がリアルになっていき、まるでキャラクターではなく人間になったかの様な姿になった。
でも待てよ。
サイカがこんな事を本当に言うだろうか。
それにこの冷めた表情に薄らと見え隠れする違和感は、何かを企んでいるかの様だ。
「……違う。お前はサイカじゃない」
僕が否定すると、サイカはニヤリと笑った。
「勘がいいね。上手く演技したつもりなんだけど」
「誰だ!」
「そうだな……ワタアメは我のことを管理者と呼んでいたよ」
「管理者……サイカから聞いた事がある。確か狭間の……」
管理者はサイカの姿のまま、指をパチンと鳴らした。
すると周りに何かの映像が浮かび上がり、真っ暗だったその場所が一気に明るくなった。
映像に目をやれば、その1つ1つが別々の映像で、大量の動画を一度に再生ボタンを押した様だ。
そしてこの映像は全て誰かの目線であり、楽しそうに話す人物や戦ってる光景などがある。
「これは……?」
「これはサイカの記憶だよ」
「サイカの?」
「キミはサイカの片割れでありながら、サイカの事を何も知らない。サイカが今まで何を思い、何を感じ、どんなに苦しんだか……それを知らずして、キミはいったい彼女の何を語れるだろうか」
管理者はサイカの姿でそんな事を言う。
人は図星を突かれると腹が立つと聞いた事があるが、正にその通りであり、僕の中でこの管理者に対して怒りの感情が湧き立った。
「そんなに睨まないでくれたまえ。これでもキミとサイカに可能性を感じ、彷徨うキミを迎えにきてあげたんだよ」
「……貴方は味方なのか?」
僕のその質問に答える気は無いらしい。
管理者はしばらく間を置いたあと、こう続けた。
「今のサイカは闇に染まっている。それでもキミは、本当に救いたいと思っているのかい?」
管理者がそう言うと、サイカの異世界での思い出が走馬灯の様に僕の頭の中に流れ込んできた。
それはとても不思議な感覚で、僕の中にもう一人いる僕の記憶が芽生えたかの様だった。サイカの想いが、感情が、僕の一部となり勇気へと変換される。
だからこそ言える。
未知に立ち向かう言葉を口にするのは今しかないんだ。
「管理者。連れてってくれ。サイカの所に」
「……サイカの片割れも伊達ではないという事か。面白いね」
この管理者という存在は、サイカの姿で何処までも人を見下した態度で、からかっているのではないかと思えた。だからこそ、僕は苛立ち、そして声を荒らげる。
「いいから連れてけ! あの場所へ! 僕はどうなったっていい!」
「まあいいだろう。せいぜい私を楽しませてくれよ」
管理者は両手を広げる。
すると、宙に浮いている僕の体が何かの引力に引っ張られた。
気付けばすぐ後ろにブラックホールを思わせる穴ができていて、僕はそこに吸い込まれて行く――――
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人生には大きな転機が三回あると言うけど、きっと僕にとっての転機はサイカとの出会いに集約されているのかもしれない。
中学生の時、初恋をした女の子。名前は確か……さくらちゃん。結局、告白すらできなかったのだから転機と言うにはおこがましい。
小さい頃からずっと頑張っていた野球も、何かを成し遂げる前に高校で挫折してしまった。心がぽっきり折れて、それからゲームセンターに通う毎日だった。
そうやってただ勉強とゲームの毎日と、家族や友達との何気ないやり取りだけで、大きな夢も無く生きてきた。
社会人になり、ワールドオブアドベンチャーでサイカをクリエイトした。それから僕がサイカと共に過ごした4年間は、掛け替えの無い日々と思える。たかがゲームなんて誰にも言わせない。
だからこそ、サイカの異世界での記憶を吸収した僕は、知ってしまった。
ブレイバーとして召還されたサイカは、沢山の仲間たちに囲まれていた。
そしてレクスによって慕っていた仲間たちを全て失い、失意の底へと落ちた事もある。
ドエム、クロード、マーベルとの出会い。
育った町がバグに襲われ、その後ミーティアとの対峙。シッコクとの出会い。
運命を変えたマザーバグ戦で、初めて狭間に導かれた事が特殊能力に目覚める切っ掛けとなった。
そして僕との交流が開始されて、サイカはバグと戦う戦士として拍車が掛かる。
ルーナ村でルビーやナポンとも関わり、ミラジスタでサダハルやシュレンダー博士に出会い、スウェンとキャシーが起こしたテロ事件で奮闘の末に仲間を庇って捕まり、再び狭間へ。
狭間で飯村さんの魂を救うために戦うワタアメを目撃する。
そこからは、異世界でも夢世界でも、戦って戦って戦って戦って。
サイカの心はボロボロなのに、それでも僕の為に、僕との時間を守る為に、僕に会いたいという儚い願いを胸に、刀を振るっていた。
自身のバグ化の兆候に怯えながらも、サイカは休もうとしなかったのだ。
いつ消えても悔いが残らないように、僕に思い出話を語っていた時の切ない気持ちもあった。
僕は、今度こそサイカの気持ちに応えなければならない。
そう思った。
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僕は放り出された。
そこは動物の体内にでも迷い込んでしまったかの様な赤に染まった広い空間。
落下して衝突した地面は柔らかく、痛くは無かった。受身を取った膝や手に、ねちょっとした粘膜が付着する。
「ここが……狭間……」
サイカから話を聞いた時は真っ白な空間と言っていたが、全然様子が違う。
空を見上げれば、輸送船が無数に浮いていて、周囲でプログラムサイカの群れが飛び回り、バグと激しい戦いを繰り広げている。
そんな戦場のど真ん中だった。
その中でも、黒いサイカバグと二体の銀色サイボーグが激しい空中戦を繰り広げていて、交差する度に火花と衝撃波を放っていた。
プロジェクトサイカスーツを着た者同士が戦っているのだ。
「サイカ!」
僕は叫ぶ。が、周囲の音が騒がしくて声が掻き消されてしまう。
「サイカ! 僕だ! 琢磨だ!」
空中で戦ってる彼らに僕の声は届かない。
なぜサイカがここで戦っているのか、なぜあんな姿になってしまっているのか、管理者に見せられたサイカの記憶には無かった。
でもサイカバグの動きを見ていると、何か暴走状態の様にも見える。
「……ダメか。くそっ」
すると、僕はすぐ隣まで近づいて来ている人影に気づき、そちらに目を向ける。
そこには褐色肌の小柄な女性、アヤノが立っていた。
「せん……ぱい?」
と、アヤノは口を押さえて目を丸くしている。
「飯村さん?」
アヤノは琢磨の声を聞いて、その瞳が潤い、そして僕に向かって駆けてきて抱きついてきたのはすぐの事だった。
「先輩!」
「飯村さん、大丈夫なの? その……色々あったのに」
ぎゅっと僕の腰に抱きついて、頬を擦り付けたあと、アヤノは上目遣いで答えた。
「うん。なんか今、凄いスッキリしてる。お父さん……ううん、あの神様の中に吸収されてから、色んな事が見えたの。ゼノビアさんとか、キャシーさんとか、ほんと色んな人の思いと、出来事が私の中を駆け巡って……そしたら救出されて、こんな所に……でも、どうして先輩がここに?」
「うん、まあ、僕も色々あって……」
「でも嬉しい。私、先輩に会いたかった。伝えないといけないことがあったの」
「僕に?」
何を言うのかと思えば、アヤノは背伸びをしてその小さな唇を僕の唇に合わせてきた。
彼女の唇の感触は柔らかく、ほんの一瞬であったと思える。何をされたのか理解が追いつかず、僕は心に稲妻が駆け巡った気がした。
その時。
空中で激しく戦っていたサイカバグがツクヨミを斬り落とした直後、何かを感じ取って振り返った。その目線の先には抱き合う琢磨とアヤノの姿がある。
「なんだ」
と、ブランも動きを止めてサイカバグの目線の先を見る。
すると、サイカバグは超音波にも似た雄叫びをあげる事となった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
悲しみに満ちたその叫びは僕の耳にも届き、思わずサイカバグを見る。
サイカバグは刀を片手に、機械の翼を広げ、真っ直ぐこちらに向かって突進してきた。
強い殺気を感じる。
サイカバグは明確な殺意を向けながらこっちに飛んでくる。
僕は何となく、その理由が解ってしまった。
そう、サイカバグはもしかしたら嫉妬をしたのかもしれない。
今、アヤノが僕に口付けをしたから。
だからきっとサイカバグの標的はアヤノだ。
猛スピードで迫り来るサイカバグに対し、僕は言葉も忘れて、目の前のアヤノを両手で突き飛ばす。
「先輩!」
と、アヤノが背中から倒れる。
僕は両手を広げて、サイカバグを迎え入れた。
サイカバグが持つノリムネ改が、僕の胸を貫き、その勢いで串刺しにされたまま、僕はその場から連れ去られた。
サイカバグに僕の返り血が飛び散り、彼女の真っ黒な身体を赤く染める。
僕は彼女の苦しみを、この身を持って受け止めた。
痛みを通り越して、何も感じない。
ただ、彼女と共に何処までも何処までも飛んだ。
戦場が遥か遠くに見えるくらい、狭間の果てに行ってしまうのではないかと思えるくらい、串刺し状態のまま物凄い速度で移動する事となった。
段々と速度が弱まってきたところで、僕は再び彼女の名を呼ぶ。
「サイカ」
サイカバグはピクッと反応して、手が震えたと思えば、ゆっくりと速度が落ちてやっと止まった。
「誰ダ……ヲ前ハ……誰ダ……」
酷くカタコトな彼女の声が聞こえた。
「サイカ。僕だよ。琢磨だ。やっと会えたね」
「タク……マ……?」
「ああ。僕だよ」
「ワカ……ラナイ……」
そう言いながら、サイカバグの姿が徐々に解かれ、プロジェクトサイカスーツが消えて、サイカの姿が露になる。眉をへの字にした困り顔で、何かとてもいけない事をしてしまったといった様子で、サイカの白肌が見えた。
「どうしたんだサイカ。らしくないじゃないか」
「……ああ……私は……もう、何も……貴方の事……忘れちゃいけなかったのに……私は……」
サイカはノリムネから手を離して、頭を抱え、地面に座り込んでしまった。
何かを必死に思い出そうとしている。そんな様に見える。
「サイカ。悪い奴に何かされてしまったんだね。でも大丈夫。僕が……助けに来た……か……ら」
僕は倒れそうになる身体を必死に建て直し、そして苦しむサイカにそっと近づいた。
血が止まらない。もう指先の感覚が無い。
「うっ……さあ、帰ろう。みんなが待ってる」
事情は分からない。でもサイカは記憶に障害が起きている様で、僕の事が思い出せない状況にいるに違いない。
彼女は涙を流しながら、僕に悔しそうな表情を向けてくれた。
僕の意識が朦朧としてきたのは、きっと今も胸に突き刺さったままの刀と、傷口から流れる血のせいだろう。
でも弱気になってはダメだ。今のサイカにはもっと語りかけてあげるべきだ。
でも、何を言ったらいい?
そうだ、もし忘れてしまっているのであれば、改めて自己紹介をしてあげよう。
「僕の名はタクマ……これまでも、これからも、僕は……もう一人のキミだ」
「タク……マ……? もう一人の私……?」
「そうだよ。僕は……サイカだ。会い……たかったよ。映像越しなんかじゃなく……こうやって傍に……キミを……感じたかった」
僕は腰を落として、座り込むサイカに抱きついた。
刀が刺さったままで邪魔だけど、そんなの気にせず、とにかく困り顔のサイカを抱きしめる事にしたんだ。
「タクマ……タクマ……」
「そう、僕は琢磨」
「うう……私……私はっ」
「キミはサイカ」
思い出してくれただろうか。
サイカは今まで見たことがないくらい、泣いてくれてる様に感じるけど、僕の視界は霞んでしまっていてよく見えない。
「……私は、一緒に行けないよ」
どうして?
「今の私は……取り戻さないといけない事が沢山あるから」
なぜ?
「貴方を傷付けてしまった私に、そんな資格も無い」
そんな事ないのに。
「だから……ごめん」
ダメだ……サイカ。
僕はキミと帰る為にここに来た……か……ら……
ふと気が付くと、僕は倒れていた。
倒れた僕をサイカが抱きかかえて、悲しい顔を僕に向けてくる。
アヤノが真っ青な顔して何かを叫びながら、こっちに向かって走ってきてるのが見える。
先ほどまでサイカバグと戦っていた銀色プロジェクトサイカスーツのブレイバーがこちらに向かって飛んできている。
刀が刺さってる所が痛い。でもそれ以上に、凄く寒い。
僕は抱きかかえられたまま朦朧とする意識の中、サイカが必死に誰かを呼ぶ声が聞こえた気がした。
「近くで見てるんだろ管理者! 出て来てくれ! 頼む!」
そんな叫びだった。
ああ、かっこ悪いな……
映画のヒーローなら、強靭な精神力で立ち上がって、ヒロインの手を引っ張って、連れ帰る場面なのに……こんな情けない姿を晒して……ほんと、いつも僕は非力だ。
サイカの顔が薄れていく。
声が遠くなっていく。
寒いな……血も止まらない……口の中も鉄の味がする。
死ぬのか。
サイカは……思い出してくれたのだろうか?
僕はサイカの腕の中で息絶え、狭間での記憶と意識はここで途切れた。
僕とサイカの物語の始まりは、ネットゲームだった。
異世界と現実世界の狭間で、僕から生まれた彼女は戦い、仲間と出会い、たくさん苦しんで、それでもこんな凡人な僕の為に諦めなかったんだ。
最後の最期で、僕はサイカに何かしてあげる事はできただろうか。
何かを救う事は出来ただろうか。
巻き込んでしまった飯村さんも、どうか無事で……元の生活に戻ってほしい。
また、天真爛漫な笑顔を取り戻してほしい。
――――ああ、雪だ。ホワイトクリスマスなんて初めてだ……これはきっと僕にとって、最高で最悪なクリスマスイヴになる。
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『――――なによこれ! 無力化したオリジナルサイカ周辺から膨大な歪みが発生! ――――保護対象を共にロスト! 狭間が崩壊を開始! ――――ブレイバーブラン! ミスターアオバ! 即時撤退を! この光に巻き込まれないで! ――――逃げて!』
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『――――ああ、なんてこと……狭間が―――』
――――――ジジ……ジジジジ……プツンッ――――――――――――
<二章 終>
【作者のあとがき】
最新話までお読み頂きありがとうございました。これで二章は完結です。
実は今年の十月で投稿開始から一周年でした。一年も飽きずに連載を続けられるとは色んな意味で感慨深いと思ってます。
物語のスケールが大きくなるにつれ、私なりに書き方や表現に工夫を凝らしてみました。
ほんと感覚に任せて自由に書いていたので、読み難い部分も多かったかと思います。
本作ログアウトブレイバーズは、ここでようやく折り返し地点と言った所です。多くの事柄が繋がり、見えた物も沢山ありますが、まだまだ謎に包まれた部分が多く残されています。途中にあった悲しいシーンでは、私も心が痛くて筆が進み難かった部分もありました。
その中で、私がこの二章で大事にしたのは「登場人物全員に物語がある」と言うテーマでした。
これで二章は終わり、三章はきっと年が明けて新年を迎えてからの投稿になるかと思います。
それまでどうか、今後のログアウトブレイバーズを楽しみに頂けたら幸いです。
ログアウトブレイバーズの読者の皆様へ。
ここまで読んで頂けた事に、心からの感謝を込めて。
阿古しのぶ より




