51.アヤノⅠ
――あれ?
アヤノは不思議と痛みは感じなかった。
なぜか自分の両脚が地面から離れ、宙に持ち上がっている。
目線を下に向けると、鋭い槍の矛先が腹から飛び出しているのが見えた。
自身が刺されていると気付いた時には、何か熱い物が喉の奥から込み上げて来て、鉄の味がする赤い液体が口に溢れている。
同時にまるで失禁でもしてしまったかの様に、下半身が濡れていく感覚もあった。
――ああ、私刺されたんだ。
そんな風に思い、とりあえずこの刃を抜いた方が良いのではと、両腕を動かしたが上手く動かない。
指先の感覚も変だ。
涙で歪んでいく視界には、貴族ドレスの女と、ジーエイチセブンやエオナが戦っている姿が見える。
「勇者エルロイドは―――」
近付いて来たケリドウェンが、何かを言いながらアヤノのハーフマスクを外してきた。
「やはり冥魂―――済みましたわ―――降ろしてあげなさい」
途切れ途切れでケリドウェンの言葉が聞こえたと思えば、両足の裏が地面に着いた感覚。
すぐに槍が引き抜かれたのも分かったが、脚に力が入らず立つ事が出来ない。
そして両膝に衝撃。
受け身を取る為に腕を動かそうとするも間に合わず、上半身と顔が床に衝突した。
地べたの感触を顔面に感じると共に、今頃になって刺された傷口の痛みが伝わってきた。
目の前に見える自分の手は、血で染まっている。
――私、死ぬんだ……こんな訳の分からない世界で。ほんと、ツイてないなぁ。でももしかしたら……死んだら、向こうの世界に……戻れるかも。
✳︎
黒色の大きな手が1本、突然パソコン本体の側面から飛び出し腰を抜かす彩乃に向かって伸びた。それは彩乃の頭を鷲掴みする。
そして彩乃の視界が真っ暗になった―――
次に気が付いた時には、古びた教会の中。
周りにはファンタジー世界に迷い込んでしまったかの様な、立派な鎧に身を付けた兵士達。
アヤノは背中に感じる冷たく硬い床と視界に広がる天井を見て、自身が仰向けに倒れている事を悟る。
周りの床には、キラキラと輝くホープストーンの欠片が散乱していた。
目覚めたばかりだというのに、アヤノはとても眠たかった。
周りの兵士達が何やら驚いているが、アヤノは二度寝したいという衝動が強かったので、もう一度瞼を閉じようかと考えた。
そんな時、アヤノの視界に1人の人物が覗き込んでくるのが見える。
それは60代くらいだろうか、白髭の貫録ある男性。
豪華な装飾の付いたジャケットと、頭には立派な王冠を付けたその男は、優しい声で語りかけてきた。
「言葉は分かるかね?」
頷くアヤノ。
「名前は?」
「……アヤノ。イイムラ……アヤノ」
「イイムラアヤノよ。今はゆっくり眠りなさい」
そう言って、男は隣に駆け寄ってきた兵士から毛布を受け取ると、それを倒れているアヤノに掛けた。
温かい毛布の感触に浸りながら、アヤノはゆっくりと瞼を閉じる。
おぼろげな意識の中で、サイカと赤髪ツインテールの小さな女の子が何か話しているのが見えた気がした。
でもそれはただの夢。
次に目覚めた時はふかふかなベッドの中だった。
大分眠っていた様で、かなり目覚めが良く視界はハッキリとしている。
アヤノは上体を起こし、周りを見渡してみれば20畳はあるであろう部屋。3人は眠れるであろう巨大なベッドの上にアヤノはいて、ここは明らかに上流階級とわかる一室だ。
するとベッドの横に立っていた、ピンク色のローブを着た小柄な女性が言葉を発した。
「お目覚めの様ですね」
アヤノが声がした方を見ると、茶髪で大きな目が特徴的な女の子。
「えっと……あなたは?」
「私はスモモと申します。貴女と同じワールドオブアドベンチャー出身のブレイバーです」
「ワールドオブアドベンチャー……そうだ、私! パソコンがガタガタってなって! それで!」
そう言うアヤノに、スモモはきょとんとした顔になった。
「まだ混乱している様ですね……とにかく、グンター王に知らせて参ります。ここで大人しくしてて下さい」
淡々と感情がこもっていない口調でそう言い残し、スモモは部屋を出て行ってしまった。
1人取り残され静まり返った部屋を改めて見渡せば、本当に広い部屋だった。零れる日差しを見て、大きな窓の存在にも気付く。
アヤノはベッドから降りると、足の感覚に違和感を覚える。足元を見てみれば、見知らぬブーツを履いていた。
ブーツを履いたままベッドで寝ていたと言う事になる。
そしてアヤノにとって見覚えの無いブーツだった。
サイズはぴったりだけど、こんなブーツは持っていなかったはず……でも、見た事がある気もする。
そんな事を考えながらアヤノは立ち上がり、窓に近づいて外の景色を見る事にした。
広い中庭に沢山の王国兵士が警備をしていて、貴族の様な豪華な衣装を着た人が歩いているのも見える。
――コスプレ会場か何かかな?
アヤノがそう思った時、ぴかぴかに磨かれた窓ガラスに映った自分の顔を見てしまった。
額から2本の角が生え、綺麗な銀髪ロング、そして褐色肌。
見慣れた自分の顔では無く、WOAのキャラクターであるアヤノの顔が映っている。
「え?」
慌てて自分の両手を見ると、日焼けでもしたかの様な褐色肌がそこにはあった。
背も低くなっているし、服装もゲームキャラクターそのものだ。
「ええええええええっ!? 嘘! 何これ!」
部屋の隅に鏡付きの化粧台があったので、駆け寄って鏡を見る。
やはりどう見ても、WOAのアヤノの姿になっていた。
ただゲームのアヤノと一点違う所は、目の色が赤と青のオッドアイになっている事だ。ゲームでこんなクリエイトをした覚えはない。
もしかしたら夢かもしれないと、何を思ったが、アヤノは自身の胸に両手を持っていって、1回、2回と揉んでみた。
現実の自分より控えめに設定した小さな胸だけど、しっかりと感覚があるのが分かる。
ついでに頬も抓って痛覚も確認した。
――夢じゃ……無い。
次に自分の服装に注目すると、腰に短剣が携わっているのに気付き、たどたどしい手つきで鞘から短剣を抜いてみた。
まるで水の様な透き通った水色で、それでいて鋭い短剣。クリスタルダガーだった。
これがガチャで当たった武器である事はアヤノも覚えている。
本物なのだろうかと、その刃を指で触れてみる。
「いつっ!」
触れた指の肌が切れ、血が滲み出た事でこのクリスタルダガーが玩具でないという事が分かった。
しばらくその小さな傷を眺めていると、血はすぐ止まり、傷口が少しずつ塞がっていく。
ここでようやくアヤノは、段々と状況が理解できて来た。
異世界転移、又は異世界転生。
昔、日本で流行った小説やアニメにこの手のジャンルがあり、アヤノだって見た事はあった。
そんな創作物の多くは、事故に遭ったりして、何かの力によって現実世界から異世界へと転移や転生してしまうという物語だ。
そして先ほどいたスモモという女性が、ワールドオブアドベンチャーの名を口にしていた事を思い出す。
――ゲームの世界? それとも……
アヤノが様々な憶測を頭で巡らせていると、部屋の扉が再び開かれた。
見ればスモモと王国兵士数人が立っていた。
「グンター王がお呼びです」
部屋を出てしばらく歩くと、この建物はとても大きな城である事が分かった。
とりあえず言われるがままにスモモに付いていき、アヤノが連れて来られたのはそれこそRPGの世界に迷い込んだかの様な立派な玉座の間。王国兵士が綺麗に整列していて、レッドカーペットの先にある階段の上には、立派な椅子に王様が座っている。その横には大臣らしきふくよかな男性。
階段の下では、知った顔の2人が立っているのも目に入った。
大剣を背負った髭面の剣士、ジーエイチセブン。
その横には甲冑鎧を着て、鎖で巻かれた刀を片手に持ったエオナ。
アヤノが所属していたギルドのメンバーだ。
しかし話しかける雰囲気では無い為、とりあえずスモモや王国兵士の歩みに合わせて前進して、ある程度近付いたところで立ち止まる事となった。
連れてきた者達が跪いたので、アヤノも遅れてそれを真似する。
ゲームでもこういうシーンを見た事がある。
これはまるで、王様への謁見シーンの様だ。
アヤノが跪いた事を目視したグンター王は口を開いた。
「アヤノよ、よくぞ参った」
こんな経験は初めてなので、本物の王様に何と言えば良いのか、アヤノは言葉が思いつかなかった。
ただアヤノが覚えているのは、この王様が毛布を掛けてくれた事である。
「あの……えっと、すみません。まだ混乱してます」
緊張した面持ちを向け、震えた声でそう言うアヤノを見て、グンター王はしばし何かを考えている様だった。
そしてグンター王は、先に謁見していたジーエイチセブンに話しかけた。
「ジーエイチセブンよ。このブレイバーが、お主と……そしてワタアメの、知り合いなのだな?」
「はい。夢世界ではサイカとの繋がりも深いブレイバーになります」
「サイカ……マザーバグ討伐作戦でシッコクと共に戦ったと言うブレイバーの名だな」
するとグンター王の横に立つ大臣が言った。
「ルーナ村の騒動や、ミラジスタの事件にも一枚噛んでいるそうです」
「ほう」
サイカへの関心を示すグンター王を前に、ジーエイチセブンは別の話題を振った。
「それで、エルドラドの王よ。ワタアメは狭間に行ったんですね」
「そうだ。ワタアメはお前たちが来る事を暗示しておった。そしてワタアメが開いた入口から、アヤノが召喚されたのだ。さしずめそのアヤノというブレイバーは、ワタアメからの贈り物だな」
そう言われ、ジーエイチセブンとエオナは改めて跪くアヤノに目を向ける。
アヤノは好機と見て、疑問を投げた。
「あ、あのっ! ここは何処なんですか? ジーさん! 教えてください!」
アヤノが問いを投げているのは、夢世界のジーエイチセブンである。
そう思い少し複雑そうな顔になったジーエイチセブンは、この場では何も答えず、グンター王へ向きを変えてしまった。
「アヤノについては私とエオナに任せていただけませんか」
「無論、そのつもりだ。アリーヤからの避難民については、宣告通り王都ではなくモンダとディランで受け入れをする」
「ありがとうございます」
グンター王は次にアヤノへ声を掛ける。
「アヤノよ。そなたが勇者たらんことを望んでおるぞ」
何かを期待されているが、アヤノには何が何だかさっぱりわからなかった。
特に説明も無いまま、すぐに王への謁見は終わりとなってしまった。
王座の間を出るとジーエイチセブンに話しかけられ、何処か静かな所で話をしようという事で、アヤノが寝ていた部屋まで移動する事となった。
スモモはアヤノの警護役なのか、部屋の前まで付いて来て入口に立つ。
部屋の中に入った3人、アヤノはベッドに座り、ジーエイチセブンは窓際に立ち、エオナは部屋の入口付近で刀を壁に立て掛け床に座り込んだ。
そしてジーエイチセブンが窓の外を眺めながら言った。
「さて……何から話すべきか……」
何かを迷っているジーエイチセブンに向かって、アヤノは再度質問する。
「ジーさん。なんなんですかこれ、なんで私、こんな所に、こんな姿で―――」
「1つ言っておく。俺はお前が知っているジーさんでは無い」
「え?」
「お前、アヤノの夢主だな?」
「ゆめ……ぬし?」
「サイカから聞いたんだろ?」
そしてアヤノは思い出す。
琢磨じゃないサイカから言われた事、異世界での事、ブレイバーという存在。
目の前にいるジーエイチセブンも、確かに見た目こそゲームキャラクターそのものだが、妙にリアルで人間味が溢れていて、まるで本物の人間だ。これがゲームのCGキャラクターかどうかと問われれば、違うと言える。
「嘘……嘘っ! そんな訳ない! 冗談……ですよね?」
「俺が冗談を言っている様に見えるか?」
と、ジーエイチセブンは真剣な眼差しを酷い顔をしているアヤノへ向けた。
その話が本当であれば今この場にいるジーエイチセブンとエオナは別人で、ここは異世界という事になってしまう。
スモモって人も、さっきの王様も、鎧を着た兵士達も、コスプレでは無く本物。
アヤノは信じたくなかった。なので自分に言い聞かせる様に呟く。
「嘘。そんなはずない。私は違うの。違う。そう違う。これは夢。嫌よ……嫌、イヤイヤイヤ」
頭を抱えベッドの上で丸くなって震えるアヤノを前にしても、ジーエイチセブンは説明を止めなかった。
「いいか。ここはエルドラド王国の王都シヴァイ。お前も知ってるサイカが戦っている世界だ。どうしてこうなったのかは知らんが、お前はこっちの世界に来て―――」
「言わないで! 聞きたくない! やめて!」
と、両耳を塞ぐアヤノ。
錯乱を見せるアヤノを前に、ジーエイチセブンは呆れ顔でため息を1つ。
「そうかい。めんどくせぇ女だな。もう少し時間が必要か」
そう言い残し、ジーエイチセブンが部屋を出ようとしたので、エオナがそれを止めた。
「おい。何処に行く」
「少し外の空気を吸ってくる。エオナはここにいろ」
ジーエイチセブンがこう言う時は、かなり苛ついている時だとエオナは知っている。なのでそれ以上は何も言わなかった。
そのままジーエイチセブンは部屋を出て行く
それを見送ったエオナは、次にベッドの上のアヤノに目を向けると、そこには丸まって何かをブツブツと呟いているアヤノの姿があった。
それからひと月の時間が流れ……
アヤノが現実を受け入れるには、それだけの時間を有した。
王都の外、大きな外壁の向こうではバグとの戦いが過激化している事も知らず、毎日ブレイバーが必死に戦っている事も知らず、アヤノは城の中で過ごした。とは言っても、アヤノはそのほとんどを与えられた寝室に閉じ籠っている。
あれからジーエイチセブンはあまり顔は出さず、エオナだけ頻繁に様子を見に来てくれる。
そして世話役として雇われているブレイバーのスモモが、頻繁にアヤノの身の回りの世話をしてくれ、この世界の事も色々と教えた。
アヤノは睡眠を取らずとも眠気は訪れないが、それでも空腹は訪れる。それも現実世界より強い空腹感。
なので1日3回、定時になるとスモモがサービスワゴンに料理を載せて部屋へとやって来る。まるでお姫様の為に作られた様な料理の数々は、1ヶ月も経てばさすがに食べ慣れてきてしまった。
今日もとにかく食べなくては、この気持ち悪い感覚は消えないので、アヤノは羊のロースト肉をフォークで口に運んで行った。
少し獣っぽい匂いだけど、食べると豚肉っぽい。独特な臭いを消す濃い味ソースが、口の中に広がっていく。これはこれで美味しいのだが、やはり母親が作ってくれる日本食が恋しい。そんな風に思うアヤノだった。
まるで人間の様に、行儀良く料理を食べ進める姿を見ていたスモモが淡々とした口調で言った。
「あなた、本当に特別なブレイバーなのですね」
そんな事を言うスモモは、この1ヶ月間で一番言葉を交わしているブレイバー。いつもとても冷めた瞳で話す人だけど、アヤノにとっては何処か信頼できる雰囲気があった。
スモモが特別なブレイバーと言うのは、待遇だけでなく、こうやって空腹を感じて食事を取らなければならないという点が普通の存在では無いという事らしい。
アヤノは何も言わずに食事を続けたが、スモモは話を続けた。
「特別な力を持っていると言われたブレイバーは、この世界の歴史においても数多く存在しています。最近ではそうですね……マザーバグの戦いで奇跡的な復活を遂げ、今ではほとんどの夢世界でその名を轟かせている有名人、サイカでしょうか」
サイカの名前に、食事をするアヤノの手が止まる。
それをスモモは見逃さなかった。
「サイカと知り合いの様ですね。どれ程の仲なのかはわかりませんが……私も、夢世界でサイカに会った事があります。私にとってサイカは……命の恩人です。もっとも、それを知ったのはつい最近の事ですけど」
「へぇ」
「あまり興味ありませんか」
「……スモモさんは、向こうの世界に転移したいと思いますか」
「向こうの世界……夢世界の事ですか?」
アヤノは首を横に振る。
「では、夢主がいる世界……という事ですか。そうですね。夢主の話を聞く限りでは、戦いも無く、食文化が発達していて、遠隔での交流が誰にでも可能。とても安定して安全な世界と私は認識しています」
「大体合ってます」
「……とても理想的な世界ですね。この世界に不満を抱いている者であれば、誰もがその世界に逃げたいと思うでしょう」
「…………」
「でも私はこうも思ってます。幸福と不幸は衡平。形は違えど、何処に行っても弱肉強食です。異世界に逃げたとしても、郷に慣れてしまえばそこでの現実に直面します。それに適合できなければ同じ境遇を繰り返すだけ。なので私は、転移するかと問われたら、断るでしょうね」
「私だって、好きでこんな所にいるわけじゃないんです」
そう言ってフォークを握る手に力が入るアヤノ。
「……やはり特別なブレイバーですね。今までこの世界の基本的な事を教えて来ましたが、まだこの世界は不明瞭な事象が多く存在しています。だから特別なあなたは、希望は捨ててはいけません」
「スモモさん……」
「お喋りが過ぎました。また後で食器の回収に来ますので、食事を楽しんでください」
と、スモモは静かに部屋を出て行ってしまった。
言われた通り、まだ沢山残っている料理に手を付けるアヤノだったが、すぐに外が騒がしい事に気付いた。
何か強風による轟音の様な音と共に、窓ガラスがカタカタと揺れる。
アヤノはサラダを口に頬張りながら、窓の外に目をやった。
そこに見えたのは、空飛ぶ巨大な人型ロボット。
白い装甲に緑の光る目、完全に場違いなSFロボットが空からゆっくりと降下しているのが見えた。
全長20メートルはあるであろう、男子が大好きなロボットアニメの主人公機とも言えるロウセンが、ブースターとスラスターを器用に作動させ、ゆっくりと城の中庭に着地した。
アヤノが驚くのも束の間、ロウセンのコクピットハッチが開いた。
そこから金髪の女性とフードを被ったブレイバーらしき2人が出てきたと思えば、ロウセンの手で静かに地面へと降ろされる。
この日、家出に近い形で飛び出したソフィア王女が、約1ヶ月ぶりに帰還したのである。
そんな光景に見惚れていると、部屋の扉がノックされて開かれる。
見ればジーエイチセブンとエオナの姿があった。
「落ち着いたか?」
と、ジーエイチセブンが話しかけてきたが、アヤノは無視して食事の続きに入る。
相変わらず打ち解けてくれていない様子に、ジーエイチセブンはやれやれといった様子で頭を掻いた。
「めんどくせぇ女だな。お前に会って欲しい奴がいる。食事が終わったら出て来てくれ。外で待ってる」
誰かに会いに行くというのは、王様との謁見以来二度目だ。
エルドラドで一番の面積を誇るこの町は、3層の外壁に囲まれながら、いくつもの城下町によって構成されている。
ただしこの王都に貧民街が存在しないのは、選ばれた者しかこの町に住む事が許されないからとの事で、治安はとても良い。
そんな城下町には3つのブレイバーズギルドが存在していて、ブレイバー達は貢献に応じてブロンズ、シルバー、ゴールドでそれぞれこの王都の中だけで適用される格付けがあるそうだ。
アヤノがジーエイチセブンとエオナに連れられて向かったのは、城から歩いて大きな外壁を2つ超えた先のエリアにあるブロンズブレイバー用のギルド。そこにブレイバー診断士と呼ばれる人物がいるとの事だった。
馬車に乗って1時間は掛かる道のりを移動する事になったアヤノであったが、初めて経験する城の敷地外という事もあって、感動すら覚える景色を堪能する事となる。
賑わっているかどうかと言えばそうでもなく、道行く人々は少し寂しい感じはあるが、それでもまるでゲームの世界に迷い込んだかの様な人間や兵士の姿が見える。所々で派手な格好をしている人は、恐らくブレイバーなのだろう。
1つ、また1つと大きな門を潜って王都の外側へと進んでいくと、不穏な空気が段々と強まっていくのはアヤノも感じ取れた。
一般市民よりも、怪我をしたり疲労したブレイバーや王国兵士が目立つ。
するとエオナが言った。
「この国も……いつアリーヤの二の舞になるかわからんな」
「おいエオナ。不吉な事を言うな」
と、ジーエイチセブンが注意した。
そして何も言わずにただ流れる景色を眺めるアヤノに、ジーエイチセブンは質問する。
「おい。ショックなのは分かるけどよ、いつまでだんまりしてるつもりだ」
「………」
「これから行く所は、ブレイバー診断士っていうちょっと特殊な人間がいるところだ。そこでお前を見てもらう。そのまま大人しくしてろよ」
「……なんでもいい」
もう生きる意味すらも見失ってしまったかのような、力の無い表情を見せるアヤノ。
そのまま馬車は目的地であるブレイバーズギルドまで到着して、3人は中へ入って行くと、受付嬢に案内され地下へと下りた。ブレイバーズギルドの地下は、沢山のろうそくで薄暗くも怪しい雰囲気を醸し出していた。まるで占いの館に迷い込んでしまったかの様な、不思議な空間でもある。
丁度先客の診断が終わったのか、ブレイバーらしき人物と入れ替わりで、紫のカーテンを潜る事となった。
そこには男性の老人が1人、カウンターの向こうで椅子に座っていた。100歳近くでは無いだろうかと思えるほどの見た目で、腰も曲がっていて、伸びた白い眉毛により目は隠れてほとんど見えない。
「ブレイバー診断士のレギ・エスターだな」
と、ジーエイチセブンが話しかけると、レギの片目が見開かれたのが僅かに見えた。
「3人……今日は客が多いのぅ」
早速ジーエイチセブンが前に出て、カウンターテーブルの上に金貨を3枚置いた。
その金貨は特別な刻印があり、これは王族が使う金貨である事が一目で分かる様になっている。レギもそれが何を意味するのか、すぐに察した様だった。
「……どのブレイバーを見ればいいのかね?」
ジーエイチセブンが端に避けると、後ろに立っていたアヤノの姿がレギの視界に入る。
赤と青のオッドアイを見たレギは、片目を更に見開き驚いた様子を見せた。
そしてレギの目から一筋の涙が零れる。
「そうか……そうか……長生きはするものじゃな……」
長年の悲願が叶ったかの様な様子を見せる老いぼれに、ジーエイチセブンはなぜグンター王がここにアヤノを連れていけと言ったのか何となく察した。
ブレイバー診断士レギ。
その飛び抜けた洞察力により、迷えるブレイバーを教え導くという役割を担っている。それこそブレイバーが戦争利用されていた頃からで、英雄ゼノビアにすら幾度と導きを行ったという実績もあるとの事だった。
そんなレギが、これほど驚き、涙まで流すという事は、やはりアヤノは普通では無いのであろう。
近付こうとしないアヤノの背中を、ジーエイチセブンがそっと押した。
「どれ、少し手を……握らせてはくれんか」
アヤノはジーエイチセブンをチラッと見ると、言う事に従えと言わんばかりに顎で指示されてしまったので、アヤノは恐る恐る右手を出した。
シワの多い痩せ細ったレギの両手が、アヤノの右手の平をそっと包み込む。
最初冷たいと感じたレギの手だったが、段々と温かみが増した様に感じる。
そしてアヤノとレギの目が合い、見つめ合う形となった。
静かな時間が流れる。
するとレギがやっと口を開いた。
「名は?」
「……アヤノ」
「ふむ。アヤノは良い目をしておる。しかしお前さんのその目は、災いを招くじゃろうて」
「そんな事言われても……」
「すぐにでもお前さんがいるべき世界へ帰るべきじゃ」
「え? ……帰れるの?」
レギの言葉に僅かな希望が生まれ、アヤノの瞳に光が少し戻った気がした。
それを見逃さなかった、レギはアヤノから手を離しつつ話を続ける。
「ランティアナ遺跡。そこに求めている物があろう」
その言葉に、横で聞いていたジーエイチセブンが口を挟んだ。
「遺跡? 何処だそれは」
「冬の国オーアニル」
「オーアニル? 確かエルドラドの隣国だったか……その遺跡に何があるってんだ?」
「赤と青の瞳を持つ呪われし勇者は、その使命を果たしランティアナの地にて異世界へと帰還する。これは、先祖代々からの言い伝えじゃ。よもやわしの代で悲願が叶うとはのぅ」
「ふむ……呪われた勇者ねえ……」
ジーエイチセブンが何か考え込んでいる所で、もしかしたら向こうの世界に帰る事が出来るかもしれない。そんな希望を前にしたアヤノが言った。
「私……帰りたい」
そんな時だった。
何やら階段の上、ブレイバーズギルドの1階が騒がしくなったのが分かった。
「なんだ!?」
と、ジーエイチセブンが言うと、エオナが先に動き階段を駆け上がって行った。
「アヤノはここにいろ」
そう言い残してジーエイチセブンもエオナを追いかけ出て行ってしまったので、アヤノはどうするべきかと迷いを態度に見せる。
するとそんなアヤノを見て、レギは何やらカウンターの下でごそごそと物を探ったと思えば、何かを取り出してカウンターテーブルの上にそれを置いた。
取り残されたアヤノは、レギが取り出した物に目をやる。
それは顔の上半分、目元を隠す白いハーフマスクだった。
「もしオーアニルに行くのであれば、その眼は隠した方が良いじゃろうて」
アヤノは言われるがままに、そのマスクを黙って受け取った。
レギは続けて言い放つ。
「行きなさい。呪われし勇者よ。心のままに」
ブレイバーズギルドが騒がしくなったのは、外の通りで信じられない出来事が起きていたからだった。
建物からそう遠くない場所に教会があり、そこで連日行われているブレイバーの召喚儀式。今日も儀式が行われていたが、召喚されたのはブレイバーでは無くバグだった。
現れた巨大バグは護衛のブレイバーを吹き飛ばしながら、教会の壁を破壊して通りに出てきたのだ。
応戦するブレイバー達を蹴散らしながら、真っ直ぐブレイバーズギルドに向かって進行して来たバグとエオナが鉢合わせていた。
後からブレイバーズギルドを出てきたジーエイチセブンは、エオナの前に立ちはだかるバグの容姿を見て驚く事となる。
「こいつは……」
と、ジーエイチセブンが驚愕するのも無理は無い。
目が4つあり、鎧と二本の腕に持つ大きな黒い剣、まさにワールドオブアドベンチャーのボスキャラ、デストロイヤーを模った姿をしているからだ。その巨体はしっかりと鎧も再現され、それでいて真っ黒な全身に紫色のオーラの様な物を纏っているせいか、夢世界よりも遥かに禍々しい。
銃弾も矢も通さない強靭なそのバグは、両手に持った二本の大剣を豪快に振り回して暴れていた。
応戦したブレイバー達が次々と吹き飛ばされている。その場にいるブレイバーが誰も通用しないその強さから、恐らくはレベル4以上である事は間違いないだろう。
丁度ジーエイチセブンの横で、ビームソードの様な武器を構えるSFチックな見た目をしたブレイバーの声が耳に入った。
「またかよ。これで三度目じゃねぇか」
すぐにジーエイチセブンが食い付く。
「おい。三度目ってどう言う事だ」
「なんだ? あんた余所もんか?」
「いいから教えろ」
「ここ最近、ブレイバーの召喚に失敗してバグが出てくる事が増えたんだ。でも今回の奴は……やばそうな気配がするぜ」
その言葉に、ジーエイチセブンの脳裏にアリーヤ共和国でも似た様な事件が多発していた事を思い出した。
ジーエイチセブンはエオナの背中に向かって叫んだ。
「エオナ!」
「分かってる。こいつは私が」
そんな事を言って、エオナは左手に持つ鞘から刀の柄を右手で握ると、
「抜刀」
と、刀身をゆっくりと露わにした。
そんなエオナに向かってデストロイヤーバグが剣を振るうと、エオナは受け流す。と、思えばバグの脇に移動したエオナが一刀を入れる。
しかしまるで鉄の塊でも斬ってしまったかの様な硬さに、その刃は通らなかった。
それでも尻込みする事なく、エオナはデストロイヤーバグと斬り合っていくが、避け切れなかった攻撃を受けて吹き飛ばされる事となった。
その攻撃を刀で防いでいたエオナは、民家の壁に着地して受け身を取ると、そのまま壁を蹴って再び飛び掛かる。
刀と剣が空中で衝突して、勢いを利用して一回転したエオナはデストロイヤーバグの背後に着地。
空かさずバグが振り向きながら薙ぎ払って来たが、屈んで避け、胴体を縦に斬る。やはりその鋼の肉体に刃は通らなかった。
そこへもう一本の剣が迫るも、エオナは刀で受け止める。が、バグの力に押されまたも飛ばされてしまい、空中で姿勢を直し着地。
次にエオナは夢世界スキル《霞の構え》で刀を自分の口あたりで水平にして持ち、次のデストロイヤーバグの攻撃に備えた。
侍とバグの激しい戦いが始まった中、ジーエイチセブンはブレイバーズギルドの向かい側にある民家の屋根に人影を発見していた。
黒コートにフードを深く被って顔は隠しているものの、体型からして女性。ただフードの隙間から見えた顔は、何処か見覚えがある。
そんな怪しい人物が、屋根の上からエオナとデストロイヤーバグの戦いを高みの見物をしている様だ。
「ブレイバーか?」
と、ジーエイチセブンが謎の人物の正体について考えた時、デストロイヤーバグが動いた。
黒剣の刃が振り降ろされる中、エオナは《霞の構え》からの連携カウンタースキル《朧返し》で剣を受け流して斬り返す。そのまま更に連携スキル《月光・発》による突き技、からの連携スキル《月光・開》で3連撃を繰り出した。
そこからデストロイヤーバグの頭上へと飛躍して、連携スキル《月光・極》による縦一直線の一刀。
ようやくデストロイヤーバグに傷を付ける事に成功した。が、それでも全く怯む事のないデストロイヤーバグの反撃で、エオナは斬られ再び吹き飛ばされる事となった。
反射的に刀を盾にしたので直撃は免れたものの、エオナは民家の壁に叩き付けられてしまう。そこへ風の刃による追撃が、エオナ諸共に民家の壁を半壊させた。
相当な強さを見せつけた侍が呆気無くやられてしまった光景を見て、周囲のブレイバー達はこのバグがレベル5ではないかと恐怖させるに至る。
ジーエイチセブンもまた、その内の1人であった。夢世界のモンスターを模したバグなど初めて見たが、どうやらこのバグはデストロイヤーの特性をそのまま持っている様だ。過去に夢世界で戦った事であるとはいえ、その時は途中退場をしてしまったのでどうやって倒したのかを見ていない。
こんな事になるのであれば、詳しく聞いておくべきだったと後悔した。
ジーエイチセブンが一旦この場から逃げるべきかと悩んでいると、ハーフマスクを手に持ったアヤノがブレイバーズギルドから出てきてしまう。
「おい! 出てくるな!」
ジーエイチセブンが叫ぶ中、アヤノが現れた事を察知したデストロイヤーバグは、まるでそれが目的だったかの様に狙いを定めて大きく飛躍してきた。
「させるかよ!」
と、ジーエイチセブンが突然の出来事に驚き動けないアヤノの前に移動して、落ちてくるバグを迎え撃った。
ジーエイチセブンの大剣と、デストロイヤーバグの黒剣が激しく衝突を繰り返す。
アヤノにとっては初めて見るバグという異形の存在であり、今目の前で起きている事が何なのか理解ができていない。そんな中、アヤノの耳に聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「アヤノさん!」
声が聞こえた方向を向くと、こちらに向かって通りを走ってくるスモモの姿があった。
騒ぎを聞きつけたピンク色のローブを着たスモモが、右手に杖を持って、左手に買い物カゴを下げながら駆けつけて来た。
「スモモ……さん?」
と、アヤノ。
「また街中にバグが……加勢します!」
スモモはそう言いながら途中で足を止め、手に持っていた買い物カゴを投げ捨て小さな杖を構えた。
それを援護する様にスモモの後方に現れた灰色四脚ロボットブレイバーが、右手からビーム砲を放つ。
ジーエイチセブンと斬り合っていたデストロイヤーバグは、身体の向きを変えてそのビームを剣で防御した。
そこへスモモが夢世界スキル《メテオストライク》の詠唱を開始。
だが、ジーエイチセブンは覚えていた。
このデストロイヤーというモンスターの特性を……
「魔法はやめろ!!」
そんなジーエイチセブンの声も間に合わず、デストロイヤーバグはスモモに向かって大きく飛躍していた。
上空に高々と飛び上がったバグに、四脚ロボットブレイバーのビーム砲が再度放たれるがバグの横を通り過ぎてしまう。
落下する勢いを利用したデストロイヤーバグの攻撃により、詠唱中のスモモにまるで巨人が足で踏みつぶしたかの様な衝撃が襲う。文字通り、剣で斬られたと言うよりか、スモモは地面に激しく叩き付けられた様に見えた。
「スモモさん!」
と、アヤノが叫ぶ。
デストロイヤーバグは、そのまますぐに剣を横に振ったと思えば、発生した風の刃が後方にいた四脚ロボットブレイバーの胴体を真っ二つに切断。
ロボットブレイバーが放とうとした三発目のビーム砲は、明後日の方向に飛び、ブレイバーズギルドの屋根に穴を空けた。
そうやって無茶苦茶な強さを見せつけたデストロイヤーバグは、再びアヤノに目線を向ける。
ジーエイチセブンがアヤノの盾になる為、アヤノの前に立った。
「めんどくせぇ、夢世界の強さそのままってか。なんてバグだ」
「これがバグ……」
と、アヤノは戸惑いと恐怖で震えている。
すぐにデストロイヤーバグが突進。
ジーエイチセブンが再び大剣でバグの攻撃を受け止め、そして弾き返した。が、弾いた剣とは別のもう1本がジーエイチセブンを斬り飛ばした。
通りの向こうにある民家まで飛ばされたジーエイチセブンは、壁に衝突して地面に落ちる。
それによってアヤノを守るブレイバーは誰もいなくなり、周囲にいるブレイバー達も戦意を失って後退ってしまっている。
動けないアヤノを前にしたデストロイヤーバグは、右手の剣を地面に突き立て手放すと、そのままアヤノを掴もうと手を伸ばしてきた。
その巨大な手がアヤノに触れようとしたその時。
先ほどデストロイヤーバグの強烈な一撃を喰らったスモモが、ボロボロの身体で立ち上がった。
「させません」
そう言って杖を再び構え、夢世界スキル《メテオストライク》の詠唱を再開。
詠唱に反応したデストロイヤーバグはアヤノを掴もうとする手を引き、スモモの方へ振り返ると、突き立てた剣をもう一度手に取る。
そしてすぐに高々と飛躍した。
「逃げて!」
と、アヤノは叫ぶ。
上空からバグが再び襲ってくると言うのに、スモモの顔はなぜか穏やかに見えた。
そんなスモモとアヤノの目が合い、まるで時間が止まったかの様な一時が流れる。スモモの顔はまるで死期を悟ったかの様にも見えた。
空から隕石の如く襲い来るデストロイヤーバグの剣を、一旦詠唱を中断して避けたスモモは、目の前で詠唱を再開。
すぐに黒剣がスモモの胸を貫き持ち上げられる事となったが、それでもスモモは詠唱を続けていた。
そして詠唱は完了する。
夢世界スキル《メテオストライク》が発動され、デストロイヤーバグに目掛けて空から小さな隕石が1つ降ってくるのが見えた。
それを見た周囲のブレイバー達は慌ててその場から逃げ始める。
「スモモさん……」
ただ見ている事しかできないアヤノ。
デストロイヤーバグの剣が、突き刺しているスモモの血で染まって行く。
アヤノがこの世界で目覚めて、一番関わりが深いスモモは、この1ヶ月間で様々な事を教えてくれた。そんなスモモがアヤノの前で刺されてしまった。
スモモは薄れていく意識の中で、振り絞っても掠れてしまう声でアヤノに話しかけた。
「……もしも、もしもですよ。向こうで―――私に会ったら―――幸せをありがとうって―――伝えてください―――」
その隕石は、デストロイヤーバグに直撃。周囲の建物やブレイバーが爆風で吹き飛ばされ、スモモ諸共に眩い光の中へと消えて行った―――
人形の様に飛ばされたアヤノを、ジーエイチセブンが受け止める。
隕石による爆発が終わり静けさが訪れた頃、アヤノを抱きかかえたジーエイチセブンが上空を旋回して様子を窺っている巨大ロボットのロウセンを見つける。
次に先ほど謎の人物がいた屋根に目を向けるが、そこには誰もいなかった。
そんな中ワールドオブアドベンチャーでも最大級の攻撃魔法を受け、消滅したと思われたデストロイヤーバグ。どうなったのかと、ジーエイチセブンが小さなクレーターと地割れが出来た箇所に目をやると、そこにまだバグが立っていた。
上半身の半分が吹き飛ばされコアが剥き出しとなった原形の無い姿で、傷の再生を始めているのが見える。
だがそうはさせまいと、復帰したエオナが疾走していた。
再生中のデストロイヤーバグに十分な距離まで寄ったエオナが、夢世界スキル《一閃》を発動。
デストロイヤーバグのコアを見事に破壊した―――
アヤノ、ジーエイチセブン、エオナの3人が、王都シヴァイを後にして旅に出るのは、それから数日後の事である。
それとほぼ同時期、ブレイバー診断士レギが死体で発見された。
現場はブレイバーズギルドの地下にあるレギの仕事場で、血だらけの部屋に残された無数の手裏剣。現場を調べていた王国兵士がその手裏剣に触れた途端に消滅してしまった事から、犯人はブレイバーと断定される。
レギが何者かによって暗殺された事は、アヤノ達は知る由も無かった。




