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ログアウトブレイバーズ  作者: 阿古しのぶ
エピソード3
41/128

41.シロクロコンビ

 ジパネール地方、ゼネティアから北にあるアクレイル地方との境界線付近に渇きの洞窟と言うダンジョンが出現した。ゼネティアの交流広場で臨時募集されていた渇きの洞窟攻略パーティーに、商人であるシロは荷持ち役として参加していた。


 平均レベル90の12人のパーティーで約3時間に及ぶ攻略の末、シロのレベルは62に上がったと思えば、最深部のボスモンスターであるレベル128のデストロイヤーを前に、パーティーは呆気なく全滅してしまった。

 そのお陰でレベルも61に下がってしまい、パーティー全員はゼネティアまで強制的に戻される事となる。そしてシロが手際よく戦利品分配を行い、そしてそのまま臨時パーティーは解散となった。


 市場通りのプレイヤーショップに出品していたアイテムの売れ行きを確認しつつ、新しく手に入ったレアアイテムを出品した。

 その後は居住エリアに移動して、シロが所属しているギルド、ログアウトブレイバーズの拠点となる建物へと足を運ぶ。


 大きな石像が置かれた広間には、弓使いでレベル89のアスタルテが1人。


「こん」

 と、挨拶をすると裏作業をしていて固まっていたアスタルテが動き出す。


「シロさん。こんばんは」

「渇きの洞窟に行ってきました」

「へぇ。俺は行った事無いなぁ。ボスは何だった?」

「デストロイヤーでした。めちゃくちゃ強いですねあいつ」

「あーデストロイヤーね。それは運が悪い」

「他の人は?」


 そんなシロの質問に、アスタルテは残念そうな顔で首を横に振った。


「そう……ですか。とりあえず俺はこれで落ちます。お疲れ様でした」

「うん、おつかれー」


 シロはメニューを開き、ログアウトを選択すると、そのまま消えて行った。


 ✳︎


 高校二年生の小沼(こぬま)直光(なおみつ)が、シロと言う名前でワールドオブアドベンチャーを始めてもうすぐ半年が経とうとしている。


 ネットワークショックが起きたあの日、ジパネールはウイルスによる襲撃を受け、それにシロ達は巻き込まれた。

 空に穴が開き、謎のモンスターが迫る中、ジーエイチセブンがログアウトしろと言うので、ログアウトした。でも、あの場に残ったと思われるワタアメ、アヤノ、ジーエイチセブンの3人はそのまま襲われたらしい。


 ネットワークショックのほとぼりが冷める頃、ジーエイチセブンだけが運営会社に破損したキャラクターデータを復元して貰い復帰したが、ワタアメとアヤノはログインする事は無かった。

 あの時、何があったのか、ジーエイチセブンに聞いても何も教えてくれない。


 噂では、ウイルスにパソコン端末が侵食されると、パソコンが壊れる事もあるらしい。死ぬ事もあるなんて言われているけど、そればかりは信じられない。だってコンピュータウイルスで人が死ぬなんて有り得ないし、あってはならない事だと直光は思うからだ。


 あれから2ヶ月以上が経つ。ワールドオブアドベンチャーを始めて、最初のフレンドになった初心者仲間のアヤノが復帰してくれる事を待ち望んでいたが、どうにもその見込みも無い状況。レベルもアヤノに追いついてしまった。


 正直、ワールドオブアドベンチャーに対するモチベーションはもう無くなってしまっている。




 ゲームで徹夜してしまい、4限目の数学の授業をほとんど居眠りしていた直光は昼休みのチャイムと共にクラスメイトから起こされる事となる。


「直光! 直光!」

「……んぁ? もう休み時間か?」


 口から垂れていた涎を制服の裾で拭きながら、うつ伏せに寝ていた身体を起こし、声がした方に目をやる。そこにはクラスメイトでゲーム友達の黒川(くろかわ)和人(かずと)の姿があった。


「焼きそばパン買い行こうぜ」

「あいよ」


 寝ていたせいか空腹感はそれ程無かったが、とりあえず和人に付き合ってやる事にする。

 2階にある教室の窓から外を見ると、さっきまで晴れていたのに、雨が降り始めてるのが見えた。


 4階建て校舎の1階の端、購買部によるパンと飲み物の販売が行われている。

 1階は三年生の教室が多くあるお陰で、購入の列では三年生が幅を利かせている感は否めないが、そんなのお構いなしで二年生の直光と和人は列に並んだ。今日はいつもより空いているし、確実に焼きそばパンは買えそうである。

 並んで順番待ちをしていると、和人がゲームの話題を振ってきた。


「直光、まだワールドオブアドベンチャーやってんの?」

「ああ、まあ、やってるよ」

「ラグナレクオンラインとどっちが楽しい?」

「そりゃあ……ゲームとしてはワールドオブアドベンチャーかな。思い出としては、お前と一緒に遊んでたラグナレクオンラインだけど」



 直光と和人は中学校も同じで、中学一年生の頃から一緒にラグナレクオンラインと言うネットゲームを遊んでいた。

 ラグナレクオンラインを選んだ理由は、直光の両親がラグナレクオンラインで遊んでいて出会ったという話を聞いた事があったのと、親から貰ったお古の低スペックパソコンでも快適に遊べたからだ。


 ケルベロスサーバーと言うサーバーで、最初は同級生の5人で始めたが、長く続いたのは2人だけだった。直光はシロ、和人はクロードと言う名前を使い、1つのキャラクターをレベル200にするくらいまで約3年は遊んでいたと思う。

 ドエムさんと言うやたらと強くて金持ちの人がギルドマスターをやっているギルドに所属して、ギルドの人たちと毎日楽しく遊んでいた。


 でも高校生になりゲーム内でレベル200になった頃、先にラグナレクオンラインに飽きてしまったのは和人だった。


 家庭用ゲーム機で遊べるバトルグラウンドと言う戦争ゲームに浮気して、そっちばかりで遊ぶ様になってしまったので、友達付き合いもあって直光もその戦争ゲームを始める事となった。

 その頃からだろうか、直光もラグナレクオンラインの熱が冷めてしまって、次第にログインしなくなってしまったと思う。


 バトルグラウンドは初めてのFPSゲームではあったが、先に始めていた和人は驚くほど強かった。才能があるのは明白で、和人が操作するクロードと言うキャラクターはプロでは無いかと周りから勘違いされる程に上手かった。


 直光が操作するシロは、あくまでそんなクロードのサポート役として、突撃するクロードを後ろから狙撃で守ると言う役割だったが、クロードの功績に引っ張られ、大した腕も無いのにシロクロコンビとしてバトルグラウンドではそこそこ有名だった。


 それでも、直光はやはりMMORPGの方が好きだったし、バトルグラウンドの続編であるバトルグラウンド2の発売が発表される頃、直光は1人で流行りのワールドオブアドベンチャーを始めて見たというのがここまでの経緯である。

 高校入学祝いで両親に買って貰った新品のパソコン端末であれば、余裕でプレイができると分かったのも切っ掛けとして大きい。



 教室に戻り、直光は自分の席で買ってきた焼きそばパンを頬張っていると、横で同じく焼きそばパン2個目を食べる和人が再びゲームの話を振ってきた。


「バトルグラウンド2、発売されたぜ」

「知ってる」

「……久しぶりに一緒に遊ばないか?」

「えっ……でも、俺ソフト買って無いからな」


 その言葉を聞いて、和人は待ってましたと言わんばかりに嬉しそうな表情を浮かべた。


「それがなんと! サイカとのコラボ記念で、ダウンロードパッケージが50%オフなんだぜ!」

「へぇ。そんな事までやってるんだ、サイカって」


 サイカを直光は知っている。

 その正体はワールドオブアドベンチャーで、一応アヤノを通して知り合いでもあるサイカと言うクノイチ。

 まさかあの人が、こんな風にバーチャルアイドルとしてデビューしてしまうなんて思ってもいなかったし、それに新種コンピュータウイルスと日夜戦う戦士だなんて信じられない。

 知り合いである事を和人に自慢してやろうと思った時期もあったが、自慢できるほど仲が良いと言う訳でもなかったし、思い留まった。


「だからさ!やろうぜ!バトルグラウンド2、前作から色々進化してて面白いんだ!」


 和人がここまで推してくると言う事は、よっぽど一緒に遊びたいんだろうなと考える。

 確かに、今はワールドオブアドベンチャーでも色々あって、モチベーション上がらないし、息抜きに遊んでやっても良いかもしれない。


「分かった。やるよ」

「おお! マジか! じゃあ今日の夜な! 基本的な操作方法は前作とあんまり変わってないから、お前もすぐ出来る様になると思うぜ」

「分かったよ」

 と、直光は焼きそばパンの最後の一口を口に入れた。




 バトルグラウンド2。

 総勢100人のプレイヤーが、1つの島で銃火器を使って殺し合いをするという試合の基本ルールは、前作から変わらない。グラフィックが更に綺麗になった事と、島の種類が前作の4種類から、6種類に増えた事に加え、様々な装備も追加されていた。


 実際の試合では、4人まででチームを組む事も出来て、それぞれチーム毎に島のランダムの位置からスタートする。リスボーンは無い為、殺されたら終了。試合が終わるまで残ったチームメンバー視点で応援する事くらいしかやる事が無くなる。そして自分達のチーム以外を全員倒せば勝利となり、その試合の功績に応じたポイントを貰え、それで装備を買ったりカスタマイズできると言うシステムだ。

 和人曰く、このリスボーンが出来ないと言う緊張感が面白いとの事だった。


 このバトルグラウンドは、FPSでは珍しく体格以外は見た目を細かくキャラクタークリエイト出来る。なので前作同様、和人はクロードと言う名前で、金髪に迷彩柄の服、黒いマフラーと言う見た目を再現していた。なので直光もシロと言う名前で、なるべく前作の姿に寄せた銀髪に全身黒の迷彩、クロードと同じ黒いマフラーと言った見た目を再現してみた。


 今夜、シロクロコンビが復活する。


 ✳︎


 シロとクロードは2人でチームを組み、早速試合をしてみる。

 2人の記念すべき最初の試合会場として、ランダムで選ばれたのは荒野ステージだった。

 シロは初期から装備で選べるスナイパーライフルPSG1、クロードはアサルトライフルのSCARで試合に臨んだ。

 流石クロードと言うべきか、クロードの指示に従いながら移動しているだけで、次々と敵プレイヤーを仕留める事が出来てしまう。


 最初の試合でいきなり最後の方まで生き残ってしまった2人。残った敵プレイヤーは4人。

 時間で狭まっていく戦闘エリアの中心で、シロとクロードは5階建ての建物にある屋上にいた。


 シロは伏せた状態で、スナイパーライフルのスコープを覗き込み索敵をしていると、横にある給水タンクに隠れていたクロードが敵を発見した。


「シロ、2時の方向。岩陰だ」

「了解」


 シロは起き上がり、姿勢を低くしたまま移動すると、再び伏せてスコープを覗き込む。


 確かに300メートルほど離れた所にある、道路脇の岩に2人の人影が見えた。

 向こうも慎重になっていて、かなり周りを警戒している様子だ。


「どうだ?」

 とクロードが聞いてくる。


「2人いる。1人は行けそうだけど、2人連続ってなると厳しいかも」

「んじゃ、俺が行ってくるわ」


 そんな事を言い残しクロードは階段へと移動して、建物の1階まで降りると、建物を出て物陰に隠れつつ相手に近づいて行った。


 FPSゲームにおいて、確かに弾を相手に当てるというエイム技術も大事だが、どちらかと言えば如何にマップを細かく覚えているかと、相手に気付かれていない状況で相手を見つけると言う技術が一番重要である。


 その点においては、クロードはこのゲームを既にかなりやり込んでおり、この荒野マップを熟知している様だ。上手い具合に、相手の視界に入らない様に移動して、アサルトライフルで確実に狙える50メートル程まで進み、道路に設置されている車の陰に隠れた。


 まだ相手は岩陰に隠れていて、こちらには気づいていない事を確認しつつ、クロードが次の指示を出す。


「俺が手榴弾を投げたら攻撃開始。倒したら即この場から撤退しよう」

「了解」


 すぐにクロードが手榴弾を投げると、敵プレイヤー2人が隠れている岩にぶつかり、何度か跳ねて岩の向こう側へと転がった。

 それに気付いた相手は、慌てて岩陰から左右に飛び出す。


「ファイア!」


 クロードの声を合図に、シロはPSG1の引き金を引いた。


 その弾丸は1人の頭にヒットして吹き飛ばし、ヘッドショットにより即死させる。


【シロがナッチャンを倒しました】


 銃声を聞いたもう1人は移動しながらアサルトライフルのM4A1を構え、シロが伏せている建物の屋上に銃口を向けるが、車の陰から身を乗り出していたクロードが3点バーストを放ちそれを仕留める。


【クロードがゲジを倒しました】


 それをスコープ越しに確認したシロはすぐに立ち上がり、PSG1を背負ってハンドガンを持ち、走り出した。


 残った敵プレイヤーはあと2人。

 恐らく今の戦闘エリアの広さ的に、今の狙撃で位置はバレてしまっているはず。


 1階まで階段を駆け下り、ハンドガンを構えながら建物の外に出ると、丁度目の前をクロードが駆け抜けて行ったのでシロは後を追った。

 すると前方に人影が見えた。

 民家の壁に隠れて覗き込む様にアサルトライフルを構えている敵プレイヤーが、前方を走るクロードに向かって発砲。クロードは空かさず近くにあった壁に身を隠し反撃する間に、シロは目の前にあった建物の扉に駆け込む。


 だが、そこにはもう1人の敵プレイヤーがいた。

 同じ狙撃手の様で、背中にスナイパーライフルを背負ったその人は、僅か3メートル程の至近距離でハンドガンの銃口を入ってきたシロに向け、シロも銃口を相手に向ける。


 パンパンと乾いた2つの銃声が鳴り響いたのが聞こえたクロードは、前方の敵と撃ち合いをしながら、

「シロ! 大丈夫か!」

 と声を掛ける。


 しばらく反応が無かったが、やがてシロから返事がきた。


「なんとか大丈夫」


 結果から言えば、相手は手元が狂ってくれ、放たれた銃弾は頭では無くシロの肩に命中。対するシロが放った銃弾は相手の頭に運良く当たり、ヘッドショットで即死させたのだ。


【シロがジョンを倒しました】


 その後もう1人の敵プレイヤーは、クロードがわざと無駄撃ちする事で注意を引いてくれたので、シロが建物の裏口から外に出て回り込み、相手の死角から狙撃してヘッドショット。


【シロがレッドスターを倒しました】


 そしてこの戦場に残ったのは、シロとクロードのみとなり、目の前に大きく勝利の二文字が表示される。

 シロはバトルグラウンド2の初試合でいきなり勝利してしまった。


 何処かのロッカールームが再現された内装のロビーに転送された2人は、その喜びを分かち合う。


「やったな!」

 とハイタッチをしようと手を挙げるクロードの手をシロは叩いた。


「やっぱ凄いよクロ。FPSの才能あると思う」

「何言ってんだよ。お前の狙撃の腕もなかなかのもんだぜ」

「えっと時間は……うん、もう1試合くらいやろうかな」

「おっいいねぇ。んじゃ、マッチングすっか」


 クロードがメニューを開いて、次のマッチング開始ボタンを押すと、待ち時間40秒と表示され、カウントが始まった。


 その待機時間を利用して、シロは今貰った大量のポイントを使いPSG1のカスタマイズを軽く行いつつ、

「そう言えば、サイカとコラボって言ってたけど、こんな戦争ゲームでどうコラボするつもりなの?」

 と素朴な疑問を投げてみる。


 サイカはウイルスと戦うクノイチであり、バーチャルアイドル。

 みんな銃を持って戦うこのゲームにおいて、どんな風にサイカが関わるのか見当も付かない。


 するとクロードが呆れた顔で言う。


「なんだ公式の告知ちゃんと読んでねぇのかよ。なんでも、マッチングの時に低確率で101人目としてサイカが乱入してくるんだとよ」

「はぁっ!?」

「かなり低確率らしくて、まだ乱入があった試合は指で数えられるくらいらしい。サイカを倒したプレイヤーには、がっぽりポイントと、記念品装備のカタナが貰えるってんだから、燃えるよな」

「そんな無茶苦茶な……」


 シロが驚いたのも束の間。

 噂をすれば何とやら。


 マッチングがされたと思えば、警告音とエマージェンシーコールが鳴り響きシステムメッセージが表示される。


【サイカ乱入!】


 シロの記念すべき初試合初勝利の後、2試合目でサイカの乱入戦と言う特別試合となってしまった。

 対戦マップは特別マップと表記され。目の前に承諾ボタンと10秒のカウントダウンが始まった。


「ど、どうするのこれ。やるの? ほんとにやるの?」

 と慌てるシロを横に、ニヤけたクロードが、


「当たり前だろ! やってやろうぜ!」


 そう言いながら承諾ボタンを強く押した。




 試合開始。


 試合項目:サイカ乱入戦(バトルロワイアル方式)

 対戦マップ:首都ゼネティア(ワールドオブアドベンチャー)



 長いローディングが終わりシロの視界が明るくなると、そこはゼネティアだった。


「えっ……どういうこと?」


 いきなりヨーロッパを思わせる見慣れた景色が広がり、唖然としてしまうシロの横でクロードは感心した様に言葉を発した。


「へぇ。特別マップとは聞いていたが、まさかこれ、別ゲームの町を再現してんのか」


 2人のスタート地点は、首都ゼネティアの居住エリア。ワールドオブアドベンチャーだと、丁度ログアウトブレイバーズの拠点がある辺りだ。

 まるでワールドオブアドベンチャーにログインしてしまったかと錯覚する程に、リアルに再現された首都ゼネティアがそこにはあった。


 このサイカコラボは、向こうにとってもワールドオブアドベンチャーの宣伝も兼ねている為、サイカ乱入戦ではこの首都ゼネティアのマップデータをそのまま持ってきたかの様な場所で行われる。


 しばらく2人は周りの建物を見物する様に見回していたが、キルログが画面に流れた事で既に試合が始まっている事を思い出し、慌てて建物の陰に隠れる。


【サイカがアレックスを倒しました】【リーがキリトを倒しました】【サイカがリックを倒しました】【サイカがサイトーを倒しました】等と、もの凄い勢いでログが流れ始める。


 遠くで銃声や爆発音が鳴っているのも聞こえた。


 あっと言う間に、ゼネティアが101人の戦場と化した事を実感しつつ、周囲に敵プレイヤーがいないかどうか警戒するシロは、横のクロードに話しかける。


「ここでのサイカって中身はいるのかな?」

「中身?」

「CPUかどうかってこと」

「それは分からないが、SNSだとめちゃくちゃ強いって噂流れてたから、中身有りなんじゃないか?」

「そっか……サイカの武装は公表されてるの?」

「されてない。これも噂程度だが、刀と苦無が武器らしい」

「やっぱり銃では無いのか」

「それはそうとシロ、このゲームのプレイヤーだったら、このマップ知ってるんだろ?」

「知ってるも何も。活動拠点にしてる町だよ。庭みたいなものさ」

「そいつは頼もしい」


 そんな会話をしている内にキルログは流れ続け、画面に映る生存者数を見ると、まだ試合開始から5分と経っていないのに30人が倒され退場となった様だ。

 その内、10人はサイカに倒されている。


 居住エリアの大通りをスコープ越しに観察していたシロは、1人のプレイヤーが横切るのが見えた。後を追う様にもう1人、物陰から出てきて通りを横切ろうとしたので、迷わずスナイパーライフルのPSG1を発砲する。


 頭には当たらず胴体に当たったが、その衝撃でプレイヤーが倒れた。セミオートマチックのPSG1は、発砲と同時に弾倉から次弾が送り出されて薬室に装填される。シロはすぐにもう一度引き金を引き、2発目となる弾丸を発砲。再度倒れる敵プレイヤーの胴体に当てて倒した。


【シロがチョッパーを倒しました】


 それを横で見ていたクロードがシロを褒める。


「ひゅー。さすが」

「仲間がいた。こっちの位置もバレてるし、移動しよう」


 シロは居住エリアの裏路地へと走り出したので、クロードも黙って後に続いた。


 裏路地を物陰に隠れつつ慎重に進む2人は、時間で狭まって行く戦闘エリアをマップで確認する。エリア縮小の傾向を見ると、ゼネティアの教会を中心として円が段々と狭まっている事が分かった。


 この狭まる戦闘エリアの外に出てしまうと、徐々にダメージを受けて死んでしまうので、このエリア内で戦う事を強いられる。つまりこの縮小傾向から察するに、主戦場は教会周辺になると言う事だ。


 それを確かめた2人は顔を見合わせ、頷くと、教会がある方に向かって移動を開始する。

 物陰に隠れて移動しながら、ワールドオブアドベンチャーだと復活ポイントとされている教会が見える所まで移動して、近くの建物に入り2階へと上がる。


 階段を上った所でクロードがクレイモア地雷を設置しながら、2人は教会前の通りが見渡せる部屋へと入る。教会までの距離は500メートル程の所だ。

 窓際に隠れ、外の様子を確認する為に覗き込みながら、シロが言葉を発した。


「まさか、ゼネティアで銃を持って戦う日が来るなんてね……」

「そんなにこのマップ、よく出来てるのか?」

「そのまんまって感じ」

「運営も粋な事をしてくれるねえ」


 近くで激しい銃撃戦の音が聞こえるが、ここからでは何も見えない。方角からして市場通りの方面だ。


「どうするよ。俺はここのマップがサッパリ分からねえ」

「とりあえずここで様子見しよう。俺が外を見張ってるから、クロは階段を見てて」

「了解」

 と、姿勢を低くして移動を開始するクロードの背中に向けてシロは質問する。


「ねえ、そう言えば前作のバトルグラウンドってどうなったの?」

「どうって?」

「いや、続編が出たからサービス終了しちゃったのかなと」

「本当はしばらくサービス続ける予定だったらしいぜ」

「だった?」

「ネットワークショックの時、小さいネトゲとか古いネトゲが結構サービス終了したろ?」

「ああ、うん。致命的な被害を受けたり、環境の変化により維持できなくなったネットワークサービスがダメになったんだよね」

「その流れで、前作のバトルグラウンドは見捨てられたって訳だ」

「なるほどね」


 そんな会話をしていると、シロの目に教会の中から3人の人影が出てくるのが見えた。


「いた。教会前。3人。武器は……全員アサルトライフル」

「美味しく頂こうぜ」


 部屋の入口から階段を見張っていたクロードが、再び移動して窓際まで来た。


「いや、ちょっと待って。あれは……」


 シロは3人が出てきた教会の屋根に人影があるのが見えた為、スコープでそこを確認すると、やはり1人屋根の上に立っている。

 刀を持ち、赤と黒の忍び装束と狐のお面。


「サイカだ。教会の屋根」

「撃てるか?」

「やってみる」


 シロは窓ガラスを少し開け、PSG1の銃口を外に出すと、スコープを覗き息を止める。その照準がサイカに合わさる時、サイカは動いた。


 教会の屋根から飛び降りたと思えば、先ほど教会から出て大通りを散開した3人の近くに着地する。

 その音で3人が一斉に振り向いてサイカに銃を向けたが、サイカは目にも止まらぬ素早い動きで一番近くにいた1人を刀で斬り、その後2人から放たれる銃弾をくるりと宙返りして避けつつも、不規則な動きで瞬時にもう1人に接近して斬った。

 2人目の背後に回り、死体を盾にして連射される銃弾を防いだと思えば、1本の苦無を投げてヘッドショット。


【サイカがマダオを倒しました】

【サイカがマックスを倒しました】

【サイカがボンを倒しました】


 僅か5秒で3人がキルされた所を目撃しながらも、シロがサイカの頭に照準を合わせ発砲。

 サイカの頭に見事命中して吹き飛んだ様に見えたが、それはサイカのスキル《空蝉》の効果による幻影となり、サイカ本体は後方へと飛んでいた。


 シロはすぐにそれを追いかけ、次弾を発射するも、動くサイカに当てる事が出来ない。

 そのまま、サイカは教会の影へと消えて行った。


「ワールドオブアドベンチャーのスキルだ。サイカの強さの秘密はこれか」

「俺には当たった様に見えたが?」

「空蝉ってスキルで、1回だけ受けた攻撃を幻影で無効化できるんだよ」

「なんだそりゃ」


 すると、今の銃声を聞きつけたのか、シロとクロードがいる建物に誰かが入って来る足音が聞こえた。

 2人はすぐに窓際から部屋の出入り口まで移動して、階段を覗き込む。


 足音からして敵プレイヤーが2人入ってきた。


 やがて1人がサブマシンガンのMP5を構えながら、ゆっくりと階段を登って来た。だが先ほどクロードが仕掛けたクレイモア地雷を発見した様で、そのままゆっくり後退して階段を下りて行った。

 それを見たクロードは手榴弾を取り出し、安全レバーを握りながら安全ピンを口で抜き、2秒ほど待ってからそれを階段に向けて放り投げる。投げられた手榴弾は壁に当たって、階段の下へと転がり落ちて行く。

 そして爆発音。


【クロードがアズニャンを倒しました】

【クロードがライジングマウスを倒しました】


 キルログで階段下にいた2人のプレイヤーを倒した事を確認すると、2人は顔を見合わせアイコンタクトを取りつつ次の行動へ移る。

 クロードが設置したクレイモア地雷を回収している間に、シロがハンドガンに持ち替えて階段下を覗き込み、階段下に転がっている2人の死体を確認。


 シロがクロードにハンドサインを出し、クロードがSCARを構え警戒しながら階段をゆっくりと下る。1階をクリアリングした後、シロも階段を下った。

 そのまま建物の玄関へ移動して、外の様子を伺う。見える範囲で敵プレイヤーは見当たらない。


 今度はクロードがハンドサインでシロに待機の指示を出しつつ、建物の外へと足を踏み出した。


 それを待っていた敵プレイヤーが1人、物陰から伏せた状態でM60機関銃を出てきたクロードに向けて連射。

 クロードは咄嗟に横跳びして、近くにあった花壇の陰に倒れる様に飛び込む。それでも構わず撃ち続ける敵プレイヤーの方角をクロードがハンドサインでシロに教えると、シロは素早くPSG1に持ち替え、玄関扉の影から身を出して狙撃する。


【シロがゼロを倒しました】


 先ほどサイカが現れた教会方面を警戒しつつ、2人はすぐに移動を開始した。

 戦闘エリアが狭まってきている為か、至る所で銃撃戦の音が聞こえ、そんな中をシロとクロードは姿勢を低く保ちつつ物陰を移動していく。

 すると初心者訓練場の建物前へと辿り着いた為、2人は周囲を警戒しつつその中へと入った。


 ワールドオブアドベンチャーを始めたプレイヤーが最初に降り立つ初心者訓練場は、最初の基礎を教える多くのNPCキャラが配置されている場所だが、さすがにNPCの姿は何処にも無かった。1階建て(平屋)で受付カウンターや案山子等が設置されている広い内装に、周りには大きな窓が多い。

 クリアリングを済ませ、安全である事を確認すると、シロが空かさず窓際に位置取りをして、クロードは出入り口から外の様子を覗き見る。


 いつの間にか試合開始から20分が経っており、サイカ、シロ、クロードも含め残っているのは12名。


「あと10人か」

 とクロードが呟いた所で、初心者訓練場の前で数人のプレイヤーによる銃撃戦が開始されるのが見えた。


 その様子をスコープ越しに窺いながら、少し離れた位置にいるクロードにシロは話しかける。


「実を言うと、ワールドオブアドベンチャーでサイカと何度か遊んだ事がある。今ほど有名になる前だけど」

「へぇ。そいつは驚きだ。じゃあシロが顔見せれば、手加減してくれるんじゃないか?」

「ワールドオブアドベンチャーとは外見も全然違うし、シロってよくある名前だから、それは無いだろうね」

「そいつは残念」


 目の前で行われていた銃撃戦に決着が付き、恐らくはチームであろう2人が生き残って前方にある建物の2階窓から顔を覗かせている。

 そこに向けてクロードが射撃。


【クロードがスペンサーを倒しました】


 1人が倒された事で、もう1人は顔を出そうとはしなかった。恐らくは身を屈めて移動しているに違いない。

 するとそこに向かって走る人影が1つ。


 サイカが大通りを堂々と走り、花壇を踏み台にして大きく飛躍すると、先ほど敵が顔を覗かせていた窓の中に飛び込んで行った。


【サイカがリオを倒しました】


 普通のプレイヤーでは有り得ないその動きを見て、

「なんだよありゃあ」

 とクロードが苦笑いを浮かべるのも無理は無い。


 すぐにその建物の1階玄関からゆっくりと姿を現す狐のお面を付けた忍者は、左右に苦無を二本素早く投げる。


【サイカがゴニャを倒しました】

【サイカがスネークを倒しました】


 更に物陰に隠れていた2人のプレイヤーを倒しながらも、サイカは初心者訓練場に向かって真っ直ぐ腰のキクイチモンジを抜刀しながら歩いてくる。恐らくは2人がここにいるのが分かっているのだろう。

 こうなってしまうと、この建物は裏口などは存在しない為、正面衝突は免れない状況だ。


 この戦場に残るプレイヤーは5名。

 恐らくは、このサイカを倒せるかどうかがこの戦場での分水嶺だ。


 シロがそんな事を考えていると、同じ事を考えていたクロードが戦う意志を示す。


「やってやろうぜ!」


 その言葉に、シロも両手に抱えるPSG1を握り締め頷いた。


「やろう!」


 クロードが出入り口から上半身を出し、すぐにSCARの引き金を引いてフルオート連射。

 それに反応したサイカは身軽な動きで横に側転して弾を避け、道端の樹木の陰に隠れた。


 SCARの装弾数である20発を撃ち切ったクロードが身を隠しつつ、マガジンを取り出してリロードをする。


 そんな中、サイカが颯爽と樹木から飛び出し、初心者訓練場に向けて走ってきたので、シロがサイカの頭にPSG1の照準を合わせ弾丸を発射。

 パリーンと言う大きな音を立てて、目の前のガラスが割れると共に、その弾丸はサイカ目掛けて飛んだ。だがサイカは、走りながら顔を傾けた為、狐のお面の横を掠ってしまう。

 再びクロードが身を出して発射する頃には、サイカは大きく飛躍しており、シロの射撃で割れた窓からサイカが内部へと飛び込んできた。


 サイカが振るった刃を、シロは慌てて横跳びで回避しつつ、ハンドガンに持ち替えて入ってきたサイカに銃口を向けて発砲。身を屈めてそれを避けたサイカは、苦無を投げてシロの頭に刺した。


【サイカがシロを倒しました】


「こんにゃろ!」

 と、クロードがSCARを連射するも、エイムが追いつかない速度でサイカは左右に小刻みに動きその弾を全て回避。


 弾切れとなったアサルトライフルをクロードが投げ捨て、ハンドガンを手に持つ頃には、サイカがすぐ目の前まで急接近していた。


 そして、クロードとサイカの目が合う。


 刀を振り上げたサイカと、そのサイカの顔に銃口を向けるクロード。


 まるで時が止まったかの様なその瞬間、サイカの手が止まった。


 パンッ!


 初心者訓練場に1発の銃声が鳴り響く。


【クロードがサイカを倒しました】


 ✳︎


 ミラジスタにある宿屋エスポワールの中庭で、サイカはルビーと木刀による軽い模擬戦をしていた。


 衝突する2人の木刀は、激しさを増し、サイカの木刀を弾いたルビーが蹴りを行うもサイカは空中を舞ってそれを回避。

 着地した所を狙ってきたルビーの木刀を、今度はサイカが蹴りで弾くと、怯んだ所を狙ってサイカの木刀がルビーの首元で寸止めされた。

 サイカの顔を止めどなく流れる汗が、顎から零れて地面に落ちる。


「へぇ」


 サイカの成長に感心した様子で笑みを浮かべるルビーは、汗を流していなかった。

 日課となっている朝の戦闘訓練だが、今日の所は自然と終わりの雰囲気になったので、サイカは瞬時に手元へキクイチモンジを召喚して腰に備える事で装備召喚の上達具合も披露しつつ、お辞儀した。


「ありがとう」

「正直、ここまでやるとは思ってなかったわ」

 と、ルビーなりに称賛の言葉を口にした。


 朝の訓練を終え、サイカが向かったのはクロードの部屋だった。


 扉の前に立ちノックをすると、

「入っていいぞ」

 と声がしたので、サイカは扉を開ける。


 そこには左腕が完全に結晶化してしまい、左脚もつま先から膝まで結晶化が進んだクロードがベッドの上に座っていた。


「なんだサイカ。今日も来てくれたのか」

「ああ」


 サイカは無残なクロードの姿に、少し哀しい目を向けながらも部屋の中へ入り、ベッドの横に置かれた椅子にちょこんと遠慮気味に座る。


「ルビーとの訓練はどうだ?」

「ぼちぼち」

「そうか。アレからお前、毎日の様にこっちではバグ退治、向こうではアイドル活動してっけど、大丈夫か?」

「うん。なんとか」


 クロードの横まで来たにもかかわらず、特にサイカからクロードに話題を振ろうとしない姿を不思議に思いながらも、クロードは話を続けた。


「ごめんな。こんなになっちまって。不本意だが、俺はもうバグとは戦えそうに無い」


 そんなクロードの目線の先には、クロードの愛用武器であるアサルトライフルのSCARが虚しく立てかけられていた。

 サイカはそれを見ながら口を開く。


「クロードの夢世界、行ってきたよ」

「ん? バトルグラウンドか?」

「うん」

「続編の方か?」

「うん」

「そうか……どうだった?」

「銃を持った人たちがいっぱいいて、良い訓練になる」

「ははっ。訓練ってか」


 笑うクロード。


「そこで……」

「ん?」

「いや、なんでもない」


 何かを言い掛け、そして言う事を止めたサイカを横目に、クロードは言った。


「俺も夢世界でお前と戦えたら、幸せだったかもな」

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