4.夢世界
いつもはワールドオブアドベンチャーをやる為に真っ直ぐ帰宅する明月琢磨だが、今夜は会社の飲み会に参加していた。新入社員との交流を深めると言う名目で、鍋料理が有名な居酒屋にやってきている。
途中参加も含め集まったのは十二人程。全員ビールで乾杯と言いたい所だったが、約半数がお酒が飲めない若者達で、ビールと烏龍茶での乾杯となった。
仕事の話や、部長が好きな野球の話等で盛り上がり、約ニ時間ほどが経過。
コース料理は全てテーブルに並び、沢山の料理が中途半端に残っている。
WOAで徹夜した琢磨は、ビールを二杯ほど飲み終わったところで眠気に襲われていた。そろそろ隠すのも限界と感じ、席を立ってトイレに移動して洗面台で顔を洗う。
冷たい水道水が火照った顔を冷やし、眠気をある程度誤魔化してくれた。
琢磨が席に戻ると、隣の席にいつの間にか新入社員の飯村彩乃が座っており、オレンジジュースを片手に琢磨へ声を掛けてきた。
「あ、明月先輩おかえりなさい。眠そうですけど大丈夫ですか」
そんな事を言いながら、セミロングヘアーで黒縁眼鏡を掛けた愛想の良い彩乃は、ニコニコしながら冷たい水と氷が入ったコップを琢磨に渡す。
「あ、ありがとう、飯村さん」
「いえいえ」
琢磨は冷たい水を口に運び、
「ふぅー」
と、一息付いた。
「あの、明月先輩」
「ん、なに?」
「休日とか、普段は何されてるんですか?」
「それは……」
琢磨の頭にWOAをプレイする自分の姿が浮かぶが、ネトゲが趣味と言う事に後ろめたさを感じる琢磨は、正直に言うのを躊躇する。
するとその様子を見ていた向かい側に座る琢磨の先輩社員、立川奏太がほとんど空のビールジョッキを片手に話へ入ってきた。
「明月はゲームやってんだろ。なんつったっけ……ワールドなんちゃら」
「ちょ、立川さんそれは!」
前に琢磨は奏太にWOAの事を話してしまった事があり、琢磨は少し焦りつつも、幻滅したのではないかと琢磨は彩乃の表情を伺う。
そこには目を輝かせる彩乃がいた。
「もしかしてワールドオブアドベンチャーですか! 知ってます知ってます! あれですよね、剣でズバーって! 魔法でドバーってやるゲームですよね! 実は大学生の弟がいるんですけど、いっつもそのゲームで遊んでるんですよー。でも最近テレビCMとか凄いやってますよね! 駅にも大きなポスターあったりして!」
急に饒舌になった彩乃を前に、琢磨と奏太はあっけらかんとなる。
「い、飯村さん興味あるの? ワールドオブアドベンチャー」
と、琢磨。
「はい! 昔はゲームっ子だったんで、ドラクエとかエフエフとか凄いやってて、あ、でも就職活動の時にゲーム封印して、それからテレビゲームは遊んでないんです。でもネトゲってやつには興味があってですね――」
スイッチの入った彩乃のトークはその後もしばらく続き、飲み会がお開きになる頃には琢磨も奏太もぐったりする事となった。
居酒屋の前で現地解散となり、皆バラバラに行動を始める中、ほろ酔いの奏太が琢磨に話しかける。
「飯村ちゃん、普段大人しいのに、趣味とかの話になるとやばいんだな……」
「そうですね、ビックリしました」
琢磨は苦笑いしつつ彩乃に視線を向けると、女子同士で二次会の話をする輪にいた彩乃と目が合ってしまう。
すると彩乃は満面の笑みを琢磨に向け、
「今度、一緒に遊びましょうね」
と、軽く手を振ってきた。
琢磨も手を振って返すと、彩乃は再び女子グループの会話に戻っていった。
それを見ていた奏太は琢磨に肘を当てながら忠告してくる。
「別にプライベートの事だから何でもいいけどよ、うちの新人をあんまりゲーム漬けにすんなよ。これからって時なんだから」
そのまま女子グループは二次会へ、男子グループは解散となった。
女の子とゲームなんて大人になってからは一度もした事がなく、彩乃が何処まで本気で言っているのかわからない事もあり、期待と不安に包まれながらも琢磨は帰路に就く。
電車に乗るタイミングで、スマートフォンを取り出し時間を確認すると時刻は二十三時を指していた。
寝不足のせいもあり、電車で立ちながらウトウトしていた琢磨は、今日は帰ってそのまま寝ることを決意するに至る。
✳︎
サイカは夢を見なかった。
久しぶりに夢を見ずに目が覚めたサイカは、何となく夢を見なかった理由が昨日の塔を登るイベントが原因であると察した。
夢を見ない日は少し清々しい気分になるサイカは、すぐに服を着て部屋を出る事にする。一階に降りると、酒場では相変わらずエムがせっせと掃除をしていた。
「エム、行くよ」
サイカはそう言い残し、宿屋をさっさと出て行ってしまった。エムは慌てて掃除を切り上げ、レイラにお辞儀すると、サイカを追いかけた。
サイカは北門からディランの町を出ると、街道をしばらく歩く。周りにバグや他のブレイバーがいない事を確認しながら、動き回るにはうってつけの平原にやってきた。
「待ってくださいよー!」
サイカの早歩きに着いてこれず、小走りをして息を切らせるエム。
そんなエムがサイカに追い付く頃、サイカは平原に生える一本の樹木周辺に落ちていた手頃サイズの木の枝を拾い軽く素振りをしていた。
「あの……えっと……それでなにを?」
と、エムはサイカに問いかける。
「戦闘訓練だ」
サイカはいつも刀を構える時のように、エムに向かって枝を構え、戦闘訓練を開始。
しばらくエムと枝を交わえ分かった事がある。結論から言えば、エムの身体能力はかなり低い。
サイカの攻撃を一切避けれず、躓いてコケる、尻餅をつく、散々であった。手に持つ杖でサイカを殴らせても、その動きは鈍く軽かった。
いくらサイカが動き方やそのコツを教えても、覚える気が無いのかと思ってしまう程に進歩がなかった。
そして何の成長も見られないまま日が暮れ始めていた。
「ご、ごめんなさい……」
エムは申し訳なさそうにサイカに謝る。
ブレイバーの体力、運動能力、反射神経、学力や知識と言った能力は、全て夢世界のステータス等が影響するとブレイバーの間では言われているが確たる証拠は無い。
それでもサイカはエムが身に付けているローブや杖から察し、何となくこんな事ではないかと予想はしていた。
エムは魔法使い系のキャラクターで、魔法と言う特殊技術は使えるが、その分、身体は鍛えられていないのだろう。
「エム、魔法は使えるのか?」
「魔法?」
「その杖」
と、エムの不思議な形をした杖を指差す。
「ああ、これですか。えっと、スキルですね。使ってみます」
エムは杖を掲げると、すぐに杖の先端にある丸い魔石が輝き出した。
すぐにサイカは異変に気付く。
急に不自然な風が発生して、周囲の落ち葉が渦を巻き舞い上がると、フワッと何かに抱き抱えられる様に、サイカの身体が宙に浮かんだ。
「これは……」
「僕の夢世界では、物を浮遊させるスキルで、《ウインドウイング》って言います。色んなスキルを覚えてますけど、基本的に風属性の支援スキルが得意ですね」
サイカの身体はゆっくりと元いた位置に降ろされる。少し驚きはしたが、すぐに深刻そうな顔になるサイカ。
サイカはこの世界に来てニ年になるが、今までずっと一人で活動してきた訳ではなく、多くのブレイバーと関わってきた。
一緒にバグと戦う上で、こう言った特殊技能を持つ者もいたが、頭の賢いバグには真っ先に標的にされてしまう。
「サイカ?」
目の前で死んでいったブレイバー達を思い出し、少し耽ってしまっていたサイカをエムは心配そうに見つめていた。
「すまない、少し考え事をしていた」
ハッと我に帰ると、もう日が完全に落ちて辺りは暗くなっていた。
綺麗な星空が平原を照らしている。
「今日は帰ろう。訓練はまた今度」
と、サイカはエムの頭にポンと手を乗せると、町に向かって歩き出した。
エムは来た時の事を思い出し、慌ててサイカの後を追うが、帰り道のサイカはゆったりとした足取りで、エムは小走りする事はなかった。
ニ人が宿屋に着くと、一階の酒場は酒を飲み酔いしれるブレイバー達で盛り上がっていた。
自分たちの部屋に行くために、酒場を横切り階段を登ろうとしたところでサイカを呼ぶ声がして足を止める。
「サイカ!」
と女性の声。
声がした方向を見ると、そこには見覚えのある耳の尖ったエルフ族のお姉さんが優しくこちらに微笑み、手を振っていた。
長い茶髪で、サイカよりも背が高く大きな胸部が特徴的。そんな彼女の名はマーベル。サイカの知り合いだ。
サイカはマーベルの元に近づくと、マーベルの向かい側に座る迷彩服姿の男、クロードがいる事に気が付く。クロードもサイカを見るなり、
「三日ぶりってところか?」
と声を掛けてきたが、サイカは無視する。
マーベルは隣の空いた席に座る様に手で合図してきたので、サイカはその席にエムを座らせると、自分はもう一つ空いている席に座った。
するとマーベルの膨よかな胸部と、サイカの胸部を見比べたクロードは何かに納得した様に頷いている。
「知り合いだったの?」
サイカはクロードとマーベルを交互に見ながら聞くと、マーベルが答えた。
「いえ、今知り合ったばかりよ」
それを聞いたクロードは、マーベルにウインクして、
「美しい女性には目が無くて、ついね」
と、口説き文句を言うが、マーベルは無視してサイカと話す。
「聞いたわよ。最近、新米ブレイバーの面倒見てるって。この子が?」
「うん」
「安心した。サイカ、あの時からずっと一人だったから、もう仲間は作らないんじゃないかって、心配してたのよ」
サイカはマーベルにあの時と言われると、何も言わず俯いてしまう。
その様子が気になったクロードが口を挟んだ。
「大事な仲間がバグにやられたってところか」
するとマーベルはテーブルの下で、クロードの足を蹴りつつ、クロードの言葉を搔き消す様に話を続ける。
「サイカ、一人で突っ張るのも悪い事じゃ無いけど、たまには私も頼っていいからね」
そんな優しい言葉を掛けるも、サイカは俯き黙ったままだ。
先程から無視されてばかりでもめげないクロードは、蹴られた脛を痛がりながらも、気を使って話題を変えた。
「それで、この坊やは何処の夢世界出身なんだ?」
夢世界とは、ブレイバー達が夢見るもう一つの世界の事。サイカの場合はワールドオブアドベンチャーが出身地となる。
エムはまだその事がわかっておらず、何の事かわかっていない様子。
「まさか、聞いてないのか?」
クロードは呆れた顔をサイカに向ける。
夢世界の名前を聞くのは、ブレイバー達にとって重要な事であり、特に教育をする上では最初に聞かなければいけない事とされている。サイカもそれはよく知っているが、聞く事を恐れていた。
「そう言う貴方は、随分と珍しい格好をしているけど?」
とマーベルがクロードに問いかける。
クロードは、迷彩服に黒いマフラー、長めの金髪に青い瞳、そして背中に背負うアサルトライフルがかなり目立つ。
「俺か? 俺はまぁバトルグラウンドって言う、サバイバルゲーム出身だ。人間同士がチーム戦で殺し合う、エフピーエスとか言う部類の夢世界らしい。だからこの武器は、人殺しをする為の武器でもある。あんたはどうなんだ?」
ブレイバーが召喚される際はRPG系統から来る者が多く、クロードの様なRPG以外の夢世界から召喚されるブレイバーは比較的少ないとされている。
「私はファンタジースターよ」
「ファンタジースターか。最近よく聞く名前だな。んで、おまえは?」
今度はサイカに視線を向ける。
「ワールドオブアドベンチャー」
「やっぱりWOAか。なんつーか、服装のデザインからそうなんじゃ無いかと思ってたぜ。ま、最近じゃ一番の有名どころだな」
満足そうにクロードは手元にある肉料理を口に運ぶと、次にグビグビと酒を飲む。
エムは話について行けず、キョトンとした顔で三人をただ眺めていた。
マーベルはそんなエムの頭を撫でる。
「服装や武器から察するに、私と同系統の夢世界なんでしょうけど、少年ブレイバーは珍しいわね」
するとエムはようやく三人が夢世界の名前につい話し合っている事を理解して、唐突にその名前を口にする。
「僕の夢世界は、ラグナレクオンラインです」
その名前を聞き、場の空気が凍った。クロードの料理を食べる手が止まり、
「おいおい、マジかよ。三十年前に流行った夢世界じゃなかったか?」
クロードに続け、マーベルも口を開く。
「バグが大量発生したと言われる厄災前、まだ人間同士、ブレイバー同士が争っていた頃は多くいたって言われてる夢世界ね。私も会うのは初めてだわ」
エムはそんなニ人の言葉を聞き、悲しげな表情で語り出す。
「僕の夢主、前は大勢の仲間達がいました。毎日楽しくて、笑いが溢れてました。でも一人、また一人といなくなって、僕は……僕の夢主は、ずっと一人で……」
ブレイバーにとって、夢主の活動がとても重要視されている。夢を長く見なくなるのは危険な事。
つまり流行っている夢世界のブレイバーは安心できるが、流行りの終わった夢世界のブレイバーは危ういのである。
この事から、初めて会ったブレイバーの夢世界を確認する必要性を高めているのだ。
「名前はなんて言うんだ?」
と、クロードがエムに問う。
「僕は、ドエム」
「ド……え?」
何かの冗談ではないかと心配そうにサイカを見るクロード。
「私はエムと呼んでいる」
そんなやり取りを見たマーベルがフォローを入れた。
「別に珍しい事じゃないでしょう。不思議な名前を持つブレイバーは沢山いるわよ」
その言葉で納得したクロードは、再びエムに話し掛ける。
「じゃあエムくん、お兄さんがこの世界の事でアドバイスをしてやろう」
「はい!」
「俺たちブレイバーは夢世界から来た特別な存在だ。姿形こそ人間に似ているが、中身は大きく違う。歳も取らず衰えもないし、怪我もすぐ治っちまう。食べ物を食べなくたって餓死なんて事にもならない。だからこうやって飯を食い酒を飲むのは、ただの自己満足だ。美味いから食う、飲む、それだけだ。だが完全に不死身って訳でもない。俺たちはコアを破損すると簡単に死んじまう」
「コア?」
「ここだよ、ここ」
クロードはエムの胸の辺りを軽く叩くと話を続けた。
「俺たちの心臓、コアは召喚儀式で使われたホープストーンの欠片で出来ていて、俺やお前の力の源だ。傷が付けば即お陀仏」
「そう……なんだ」
「それでな、そんなコアよりも大事な事は夢を見続ける事だ。夢を見なくなったら隠すのでも逃げるのでもなく、必ず信頼できるブレイバーにそれを言え。できるな?」
そんな事を言いながら、クロードは急に真剣な表情でエムを真っ直ぐ見つめる。
エムは唾を飲み込み、答える。
「うん」
「男の約束だ」
今度は急に優しい笑顔になったクロードは、ハイタッチの構えをしたので、思わずエムはそれに合わせてクロードの手の平を叩いた。
「案外、男らしいのね」
マーベルがそんな事を言うと、すぐにクロードはニヤッと笑う。
「惚れたか?」
「ぜーんぜん」
マーベルはそっぽを向いた。
勝手に盛り上がる会話を黙って聞いていたサイカは、ふと最近起きた事件の事を思い出し、唐突にニ人へ話題を振る事にする。
「そう言えば、バグの巣での話は聞いた?」
「殲滅作戦に失敗したってやつ?」
と、マーベル。
「そう。レベル五のバグがいるかもって話だ」
「レベル五なんて、比較的安全なこの町周辺で……有り得ないと思うけど……」
「俺はいると思うぜ」
自信満々にそう言うクロードに対し、今度はサイカが質問する。
「なぜそう思うの?」
「そもそも、三十人も集まったブレイバーが全員未帰還になったってのが根拠の一つだけどよ。毎日町の外でバグ狩りをしている俺から言わせれば、ここ最近のバグ達の動きが妙だ」
「妙?」
「いないんだよ。この町の周辺が静かすぎる。いたとしても、何か偵察の様な行動を取っていて、ブレイバーが近付くと逃げるんだ。サイカがこの前倒したバグもそうだったろ」
サイカは思い出す。確かにそもそもバグは逃げると言う行為はあまりしない存在だ。この前倒したバグは、途中で諦めて攻撃してきたものの、確かに最初は一目散で逃げ出していた。
その話を聞いたマーベルが意見を述べる。
「つまり、レベル五の秀れたバグによって統率されている可能性がある訳ね」
「……嫌な予感がする」
と、クロードはより一層険しい顔をして、テーブルに置かれた料理の分厚い肉にフォークを刺した。
その後、クロードとマーベルは他愛も無い会話が弾み、たまにエムも混ざり、サイカはそんな様子をほとんど黙って眺めていた。
やがてクロードが酔い潰れ、テーブルにうつ伏せ眠ってしまった頃。エムも眠気を誤魔化すように眼を擦っていたので、サイカが部屋に行くように促した。
「おやすみなさい」
エムはサイカやマーベルにお辞儀をして、一人宿屋の階段を登って行く。その姿を見送りながら、マーベルが口を開いた。
「眠気が来てるのなら、まだ安心ね」
ブレイバーにとって眠気が来るのは、夢を見る前兆。夢主が夢世界に活動を開始した時とされているからだ。
気付けば真夜中、酒場の活気もなくなり、人気がほとんどなくなっていた。レイラが空いたテーブルの食器を片付ける作業に入っている。
そんなレイラを観察するサイカに、マーベルがほろ酔い顔で話しかける。
「ねぇサイカ。サイカの夢主は、どんな人?」
サイカは即答できなかった。
ブレイバー達の夢、夢世界での言動は全て自分では無い誰かによって操作されている。その主と思われる存在、恐らくは人間と思われるその存在をブレイバーは夢主と呼ぶ。それこそがブレイバーがこの世界に召喚される前も後も、経験と知識の元にもなっている。
だが夢主がどういった人かと問われると、結局はもう一人の自分がどう言った人物なのかと問われているようで、複雑な気持ちになってしまうサイカであった。
「どんなって言われても……」
「女の人?」
「男……だと思う」
「へぇ、男なんだ。でもどう言う訳か、女性ブレイバーの夢主は男って、珍しく無いのよね」
「マーベルは?」
「私は……たぶん女の子」
「そうなんだ」
「それがさー、どうしようもない構ってちゃんなのよ。まるでワガママお姫様」
「お姫様?」
「寂しさ紛らわせる為に、色んな男に媚びて、でもどっち付かずの微妙な態度。それでいて言い寄られると拒絶する。ほんと、それが夢世界での私なんだから……嫌気が指すわよ」
サイカにとっても確かに夢世界では、自分の思いとは反する自分の言動に対して苛立ちを感じる事は多々ある。でもそれは、自分と夢主が確かに別の存在である事を再認識する事でもあるのだ。
「大変なんだね」
「いつか夢世界で自由に動けたら、周りのヘラヘラした男共にガツンと言ってやるってのが私の目標よ」
「夢世界で自由に動く……か」
サイカもそんな事が実現できたら、何をするだろうかと考えてみた。
するとマーベルはまるでサイカの考えを読んだかの様に、
「サイカ、あなたは何か夢世界でしたい事はないの?」
と、目の前に置かれたグラスの縁を指でなぞりながら問いかけてくる。
サイカはしばらく沈黙して、今までの夢世界での出来事を思い出す。
色々な事を共に経験をした、名前も顔も知らない夢主。
もし叶うのであれば……
「私は夢主に会ってみたい」
それがサイカの果敢無い願いだ。
【解説】
◆夢世界
人間にとっての夢とはまた別になる。ブレイバー達から見たゲーム世界での活動体験で、自分の意思で動くことはできない。
そんな夢を毎日見せられると思ったら大変そうだけど、ブレイバー達にとってはそれが普通なのだ。
◆ドラクエ・エフエフ
あの作品かもしれない何かのゲーム。
この時代までシリーズが続いている願いを込めて。
◆ブレイバーの睡眠と眠気
現実世界でネットゲームにログインされると、そこでの活動をブレイバーは夢として見る。その為、睡眠欲がブレイバーに訪れるが、人間の三大欲求である睡眠とは別物である。
◆変な名前のブレイバー
ブレイバーは稀に変な名前の者がいる為、あまり名前については触れない事も時として必要な事だったりする。
ネットゲームやる時は、良い名前付けてあげないとね。




