31.未知への挑戦
ボス戦が終わり静まり返った盗賊アジトの最深部。
ワタアメに誘導されて、全てを話し終えたサイカに、アヤノの冷めた目線が突き刺さる。
「なんでそんな大事な事、言ってくれなかったんですか……もしそれが本当なら、私を騙していたんですよね……」
「違う! 琢磨はそんなつもりで隠していた訳じゃない!」
「琢磨って……呼び捨てなんですね。随分と仲が良いんですね!」
「勘違いしないでくれ。私は琢磨に作られて、琢磨と共に生きてきた。だから――」
「だから何ですか? 一蓮托生だから私に秘密にしても良いって事になるんですか? そんなに私のこと信用できませんか?」
「違うそうじゃない!」
嫌な出来事が重なった事もあり、火が付いてしまったアヤノは、溜まっていたものを全て吐き出すかの如く、ヒートアップしてしまっていた。サイカが必死に琢磨の擁護をしようとしても、聞く耳持たずといった状況だ。
そこへ火種を撒いたワタアメが入ってくる。
「サイカ。お主はバグと戦う道を選んだのじゃ。こんな所で友達ごっこなど、何の意味も無かろう?」
「ごっこ……だと?」
「お主が覚醒したあの夜から、とっくにこの世界は後戻りができない程に崩壊しているんじゃ。よもや今まで通り楽しく夢世界で遊べるなどと思ってはおるまいな?」
「そんなこと……」
ワタアメに指摘され、アヤノと楽しいひと時を過ごし、すっかりとガルム地方に出現しているイグディノムバグの事など忘れてしまっていた自分に気付いてしまった。
サイカはぐっと拳を握り、悔しさを表情に出す。
それを見たワタアメは、今度は動揺と苛立ちを隠せないアヤノに向かい口を開いた。
「聞いての通り。このサイカは、アヤノが知ってるサイカではない。つまりは偽物。キミが先輩と慕う者はここにはいないんだ」
アヤノを煽るような事を言うので、ワタアメに怒りを覚えたサイカが刀を抜く。
「いったい何が目的だ! なぜこんな事をする!」
その問いにワタアメは答える事はなく、サイカが反応するよりも早く、ワタアメの蹴りがサイカの顔を襲うが、サイカは咄嗟にそれを左手で防御する。しかしその衝撃でサイカは吹き飛ばされ、宝物庫の壁に激突して止まった。
だがサイカのHPバーは減っていない。
「くっ……」
サイカは起き上がりながら、激しく痛む左手を見ると、手首が変形しているのが解る。どうやら今の一撃で骨折した様だ。
こんな事が起こせると言う事は、ワタアメはブレイバーである事は間違いない。あっちの世界の存在なんだと確信を得るサイカだった。
吹き飛ばされたサイカを見て、少し心配そうな表情を見せるアヤノ。そこへワタアメは回り込むように正面に立つ。
「さぁアヤノ。私の所に来てみない?」
「え?」
「キミはここにいちゃいけないんだ」
「なんで私なんですか?」
「これは保護だよ。今度こそ守って魅せる。それに……アヤノは……私によく似ている」
「私は……」
ワタアメが意味不明な事を口走り、アヤノを誘惑している。サイカは本能的に止めなければと考え、叫んだ。
「ワタアメ! 何を言ってるんだ! やめてくれ! アヤノ!」
そんなサイカを見て、ワタアメは不敵な笑みを浮かべる。
こいつは何かよからぬ事を考えていると、そう感じたサイカは実力行使に出た。右手でしっかりとキクイチモンジを握り、ワタアメに一瞬で近づくと、躊躇する事なくその刃を振るう。
ワタアメも短剣を取り出して、それに応戦。刀と短剣の剣戟が繰り広げられ、サイカは右手一本で斬撃するが、ワタアメは奇妙な動きでそれを避け、時には短剣で受け流していった。
サイカが行った突きがワタアメの頬を擦ると、ワタアメはすれ違い際に短剣で反撃。
それはサイカの腹部を服ごと切り裂いたが、それに構わずサイカは振り返りながら縦に刀を振るう。だがそこにワタアメの姿は無く、ワタアメはサイカの背後へと回り込みながら、サイカの右腕を掴んで捻じり、刀を地面に落とさせて抑え込み、素早くサイカの喉に短剣を付きつけた。
「大人しくしておれ。残った右腕も折ってやっても良いのじゃぞ」
と、ワタアメがサイカの右腕を掴む手に力を入れ、サイカの右腕に痛みが走る。
そんなやり取りを見ていたアヤノが放った叫びが二人の争いに終止符を打つ。
「やめてください!」
サイカとワタアメはアヤノに顔を向けると、アヤノは話を続けた。
「私、行きます。ワタアメさんと行きます。だからもう……やめてください」
「アヤノ! ダメだ!」
「偽物さんは黙っててください! 先輩のキャラクターを……汚さないでください」
そんな事を言うアヤノの眼差しを見て、サイカの口が止まり力が抜けた。それを感じたワタアメはサイカの腕を放し、背中を蹴飛ばすとサイカは地面を転げた。
そんなサイカの無様な姿を見届け、ワタアメは満足そうに足を動かしアヤノに近づくと手を差し伸べる。
「さぁ行こうアヤノ。まずは私のギルドに招待しよう」
「ギルドですか?」
「そう。私のギルドの名前は……ログアウトブレイバーズ」
サイカは再び驚く事になる。
(今、何と言った? ログアウトブレイバーズ?)
「ワタアメ、今……何て……」
サイカは思い出す。
マザーバグと戦った後、シッコクから初めてログアウトブレイバーズの事を聞かされた時、何処かで聞いた名前だと思ったのはこれだったのだ。ワタアメがギルドマスターをやっているギルドの名前は……ログアウトブレイバーズ。
こんな大切な事を、サイカは失念していたのだ。これが偶然であるはずが無い。きっとこのワタアメが何らかの情報を持っている。
サイカは立ち上がりながら、ワタアメに問いかける。
「ログアウトブレイバーズ。なぜその名前を……」
そんなサイカの言葉を無視して、アヤノはゆっくりと手を伸ばし、ワタアメの手を握った。
止めなければならないと、本能的にもそう感じるサイカだが、アヤノ本人が望んでしまっている以上、身動きは取れなかった。偽物と言われ、完全にアヤノに嫌われてしまったサイカとしては、これ以上夢主である琢磨の指示無しに行動する訳にもいかない。
そしてワタアメは何をするのかと思えば、ワタアメの背後に突如として次元の裂け目の様なものが出現する。
テレポートなどの瞬間移動スキルやアイテムは一切存在しないこのワールドオブアドベンチャーにとって、異様な存在が当たり前の様に現れたのだ。
きっとワタアメが何かしたに違いないが、次元が違い過ぎて何をしたのかが解らない。その人がすっぽりと入れるほどに大きい裂け目の先は、紫色に怪しい光を放っていて、何処に通じているのか見分けはできない。
ワタアメはアヤノの手を引きながらサイカを見る。
「イグディノムバグ。倒せると良いな」
そんな事を言い残し、そのまま裂け目へと入って行く。
アヤノも手を引っ張られるまま、その裂け目へと足を踏み込みつつも、心残しでもあるのかサイカに目線を向けたので、サイカはアヤノに聞こえる様に言った。
「琢磨と話してくれ!」
その言葉が聞こえたかどうか、解らない程のタイミングで、アヤノはすっぽりと裂け目の中に入り、そのまま裂け目は閉じてしまった。
誰もいない盗賊アジトの最深部、静まり返った宝物庫に一人取り残されたサイカ。
琢磨が居眠りから起きるのは、それからしばらくしてからの事である。その頃には折れた左手首もすっかり完治していた。
カメラの映像にヘッドセットマイクを取り付けながら、琢磨の顔が映る。
(ごめん、寝ちゃった。あれ、アヤノさんは?)
「琢磨……すまない……私のせいだ」
(え?)
すると通知音の様な音が聞こえ、そのまま琢磨の顔がフレームアウトしてしまい、すぐにカメラが切られて映像が見えなくなった。
映像に戻ってきた琢磨は何かを悟った様で、険しい顔をしていた。だからサイカは今起きた事を話すべきだと思った。琢磨が寝てしまった後、盗賊アジトであった事全てを。
サイカが赤裸々に事情を話すも、琢磨の反応は薄く、聞いているのかどうかも、怒っているのか悲しんでいるのかもわからない。それでも、とにかくサイカは今起きた事を説明をした。
一通り話し終えた所で琢磨が言った。
(サイカ、わかった。もういい。今日は休んでくれ)
琢磨の操作によりメニュー画面が開かれ、ログアウトが選択される。
「ちょっと待っ――」
そこでサイカの意識が途切れる。
✳︎
サイカはベッドで目覚め、上半身を起こす。
宿屋エスポワールが何者かに襲撃されてから二日が経ち、サダハルが念の為にと気を使って紹介してくれた民家にサイカ達は泊めさせて貰っている。あれからシュレンダー博士は研究所に戻らず、行方が分からない状況だが、それは珍しい事でもない様で、宿屋の銀髪女による襲撃の件も含め、町で騒ぎになる様な事は無かった。
見渡すと部屋はまだ暗く、窓から刺す光の感じから、恐らく夜明け前と言ったところだろう。
サイカは夢世界、ワールドオブアドベンチャーで起きた事を思い出し、無力であった自分に腹が立つ。
「くそっ……くそっ……」
悔しそうに右手で自身の髪をくしゃくしゃと掻き乱していると、部屋の扉が開いてマーベルが入ってきた。真面目なマーベルは、あの襲撃があってからあまり眠ろうとせず、こうして他の皆が眠ってる間は見張り役をしてくれている。
「あら、起きたのね」
「マーベル……」
と、やつれた顔をマーベルに向けるサイカ。
「……何かあったの?」
「ログアウトブレイバーズを見つけた」
「えっ?」
「見つけたんだ。私の夢世界にあった」
「サイカの夢世界って言うと、ワールドオブアドベンチャーよね」
「そう。良くない感じだった。奪われてはいけない者を奪われた……そうだ、寝なくちゃ。もう一度夢世界に行って、琢磨と話さなきゃ……」
尋常じゃ無いサイカの様子を見て、慌ててマーベルがサイカに駆け寄ると、まるで我が子をあやすかの様に、サイカをぎゅっと両腕で抱きしめた。
「落ち着いてサイカ。目覚めたって事は、しばらくは夢を見る事はできないでしょ。焦らないで」
「でも……私のせいなんだ……私がもっとしっかりしてれば……」
「大丈夫。とにかく、クロードも起きてるわ。ログアウトブレイバーズの件、夢世界で何があったのか、私たちに聞かせてくれる?」
マーベルの暖かな体温に包まれながら、黙って頷くサイカ。
「じゃあクロード呼んでくるから。とりあえず服を着ておくのよ」
そんな事を言いながら、サイカから手を放そうとするマーベルの腕をサイカはそっと掴む。
「もう少し……」
サイカが珍しく我儘を言ったので、マーベルもそれに応える事にした。
「わかった」
王都シヴァイ。
エルドラド城の地下にある牢獄に、精鋭ブレイバー隊はバラバラに幽閉されていた。ブレイバーは何処にでも装備を呼び出せてしまう特性がある為、それぞれ両腕両脚と首や腰も全く動かせない様に壁に張り付けにされた状態にされていた。
その中でも隊長のシッコクは、牢獄の最深部、重罪人を入れる牢屋へ入れられていた。鉄仮面を取り付けられ、息苦しく、視界も狭い状況だ。
鉄格子の前には見張りの兵士が二人立ち、厳重監視されている状況の中、近づく足音が一つ。
煌びやかな青いドレスに身を包み、銀の髪飾りに金の長髪を揺らしながら、専属の護衛であるブレイバーを二人引き連れ静かに歩く女性。
足音が鉄格子の前で止まると、シッコクは鉄仮面により重たい顔を上げてその姿を確認する。
グンター王の娘、ソフィア王女である。
「やってくれましたね。シッコク」
「ソフィア殿下」
「マザーバグ討伐から帰還してから、少し様子がおかしいと思っていましたが、こんな事を企んでいたんですね。貴方らしくもない」
「……この様な見苦しい姿で貴女に会いたくは無かった」
「はぁ。将軍もいない今、貴方であれば一人で皆殺しくらいは出来たのではないですか? なぜみすみす捕まる様な真似をしたのです」
「皆殺しなどと、一国の王女がその様な事を口走るものではない」
「ロウセンを除隊して私の専属護衛としたのも、ミーティアさんを本人に内緒で除隊させていたのも、この為だったのですか?」
「ロウセンは少々規格外が過ぎるのでな、それに国に反する行為などあいつが許すはずもない。ミーティアも……同じ様な理由だ」
「こんな事知れば、ミーティアさんが悲しみますよ」
「ふっ。殿下、こんな格好で申し訳無いが、二つほど聞きたい事がある」
「なんでしょう」
すると隣に立っていた護衛のブレイバーが止めに入ろうとするが、
「良い。お父様には内緒にして下さい」
と護衛に命令をした。
「アリーヤ共和国で何が起きた」
その質問にソフィア王女はしばらく黙った後、やがてゆっくりと口を開いた。
「……戦争が起きました」
「なに」
「私が聞いた話では、突然レベル五のバグが五体同時に出現。首都が陥落したそうです。港町モンタ近くの沖に避難民を乗せた船が待機している状況で、現在受け入れ態勢を整えている所です」
「そうか」
「もう一つのの質問は何でしょう?」
「あのワタアメと言うブレイバー、何者だ。アリーヤ共和国の使者と言うのは少し違和感がある」
「……それについてはお父様も多くは語らないので、私も詳しい事は解りません。ですが、私は彼女を見た事があります。五年ほど前、この城で」
「いったいどう言う事だ……」
「わかりません。彼女については、私も出来る限り調べてみようと思います」
「気を付けろ。奴の腹の底が読めない」
「わかっています。それでは、また来ます」
ソフィア王女はそう言い残し、その場を後にすると護衛のブレイバー二人も、それに付き添って行ってしまった。
ミラジスタの最北部にある採掘地区は様々な鉱石を採れる事から、多くの従業員が働いている。その中でもホープストーン採掘場は規模が大きく、採掘エリアは複数個所存在していた。
その中でも地中に埋まったホープストーンが密集している場所が三段階評価でクラスAとされ、最も多くの人員が配置される。
ここで働く労働者はホープストーン採掘量による歩合制が適用されていて、そこそこ良い収入が得られる為、この町では人気の職種の一つでもあった。
そんなクラスAの洞窟で多くの剥き出しになって光り輝くホープストーンに囲まれながら、発掘したホープストーンを荷車で運ぶ従業員達を見守るのは、ブレイバーズギルドより依頼を受け警備の任を受けたブレイバー達。
「もうとっくに交代の時間過ぎてるんだけどなぁ」
そんな事を隣のブレイバーに話すのは、ディノザオリアーオンラインと言う恐竜や原住民と戦う夢世界出身で、身の丈よりも長い太刀を背中に背負った女ブレイバー。
その横で呆れた顔で聞いているのは、ゾルダートエックスと言うSF系対人戦の夢世界出身のアサルトライフルを腰に下げた女ブレイバー。
「まぁ仕方ないだろ。あたし達ブレイバーにとってこの依頼は退屈だから。お金も美味しくない、何も起きなくて暇、サボり目的の奴しか来ないさ」
そんな会話をする彼ら二人も、結局はボーっと労働者達を数時間眺めるだけの簡単で平和な任務を遂行中であり、太刀の女は大きく欠伸を漏らす。
「ふああああ。やっば、眠くなってきたわ」
「また? ほんと、あんたの夢主はイン率が高いね」
「ダイガクセイって奴で、暇なんだよ」
夢世界で夢主が活動を始める時、ブレイバーは夢を見る準備として睡魔に襲われる。普通であれば一日に一度の事が多いが、一日に何度もあるブレイバーもいるのだ。
太刀の女がウトウトとしていると、入口方面の通路が何やら騒がしくなった。走る足音が複数聞こえる。
「なんだ?」
と、アサルトライフルを腰に備える女ブレイバーが、アサルトライフルを両手に持ち音のする方に歩き出すと太刀の女もそれに続いた。
労働者の者達も異変に気づき、作業を中断してしまう者も多くいる。
まずクラスAのエリアの最深部、開けた場所に立ち入ってきた者達は十六人。皆が火縄銃の様な鉄砲を持ち、入ってくるなり散開してその銃口を労働者達に向けた。
「動くな!」「手を上げろ!」「大人しくしろ!」
そんな彼らの罵声が響き、状況が掴めないまま、武器を向けられた労働者達は作業を止め両腕を挙げる。
そして遅れて入ってきた者が三人、ボサボサ頭のスウェン、赤色ツインテールで白衣を着たシュレンダー博士、そして黒のドレスを着た銀髪の女である。
まずスウェンが手を叩きながら大きな声で告げる。
「はいはい、交代の時間でーす。今からここは、立ち入り禁止エリアとなりまーす」
ふざけた口調でそんな事を言うので、労働者の中年男性が怒る。
「おいなんだいあんた! 採掘所関係者じゃないな? いったい何の権限があってこんな事をし――」
一発の銃声と共に、中年男性の頭に風穴が空き、中年男性の言葉は途切れる事となった。
撃ったのはスウェン。中年男性が喋っている間に、素早く小型の火縄銃を懐から取り出しながら発射準備を一瞬で済ませ、そして撃ったのだ。
「はいはい、静粛にー。騒がなければ命までは奪わない。だが、騒ぐ奴がいれば皆殺しにしても構わない」
そう言いながら、スウェンは次の発射準備をくるりと小型火縄銃を手で回転しながら済ませ、そのまま片手で構えた。
そこでようやく騒がしかった労働者達もテロ事件が発生したのだと理解して、静かになって行く。
「物分りが早くて宜しい。それじゃあ、一人ずつ、静かにここから出て行って貰おうか。俺は騒がしいのが嫌いでね」
そんなやり取りを岩陰に隠れて覗き見しているアサルトライフルを持った女ブレイバーは、隣に隠れる太刀の女ブレイバーと作戦会議を行っていた。
「数は十九、内十七は銃を持っている。あの形態からして連射はできない銃だ」
「飛び道具かぁ。面倒だな。ブレイバーか?」
「三人を除いて、全員服装は統一されていて、武器も一緒。つまりブレイバーではないね」
「それは朗報」
「私が射撃を合図に飛び出して」
「オーケー。この場合、別に斬り殺してしまっていいんだよな?」
「ええ。遠慮なくどうぞ」
そんな二人の気配に気付いた銀髪の女が、スウェンに近づき耳打ちをする。
「左手奥の岩陰、ブレイバーが二人」
スウェンはそれを聞き、ニヤリと笑うと、
「さあそこに隠れてるブレイバーさんも、大人しく出ておいで。悪い様にはしない」
とブレイバー二人が隠れている岩に向かって銃口を向ける。
すると、アサルトライフルを構えた女ブレイバーが岩陰から顔と銃を出すと、そのまま発砲を開始。
パパンパパンと三点バーストで射撃をすると、最も近くにいた火縄銃を持った敵を的確に射殺した。それを合図に敵は一斉に火縄銃を岩に向け、誘う様に顔を出しているブレイバーに向けて次々と発砲、だがすぐに隠れられてしまい、その銃弾が当たる事は無かった。
そしてほとんどの敵が火縄銃の装填作業に入ると、岩陰から長い太刀を持った女ブレイバーが飛び出し、前進する。
発砲していなかった者が、待ってたかの様に太刀のブレイバーに向けて発砲するが、ブレイバーは走りながら小刻みに左右に飛ぶことでそれを回避。太刀の攻撃圏内まで詰め寄ると、一人、また一人と斬殺を開始した。それを援護する様にアサルトライフルのブレイバーも岩から身を出して構えると、三点バーストによる射撃を開始する。
太刀のブレイバーが、装填と発射準備を終えた敵の火縄銃に狙われるも、飛躍して空中を舞う事でその銃弾を回避。発砲した敵のすぐ後ろに落ちながら斬った為、敵も慌てて火縄銃を盾にするが真っ二つに割れてしまい、本人も頭から下半身に掛けて真っ直ぐに斬られて倒れる事となった。
その着地を狙って、もう一人が火縄銃を発砲しようとするが、アサルトライフルの銃弾に襲われて倒れる。
圧倒的な身体能力と、アサルトライフルと言う格上な武器を前に圧倒され、瞬く間に計八人が倒された。それを見て、スウェンは溜め息を吐く。
「キャシー」
名前を呼ばれた膝丈まであるスカートの黒ドレスを着た銀髪女は、表情を変える事なく、走り出してスウェンの横を通り過ぎた。手に武器の様な物は無く、手ぶらだ。
すぐにアサルトライフルの弾がキャシーに向けて三発発砲されるが、キャシーに当たる前に魔法障壁がそれを弾く。そして太刀のブレイバーが、急激に接近してくるキャシーを迎え撃つ為に構え、十分な距離まで詰めてきたところでその長い太刀を振るう。
しかし、その太刀の刃がキャシーに触れる直前で、キャシーの姿が消えた。
太刀のブレイバーは背後に気配を感じて、すぐに振り返りながら薙ぎ払うも、確かにそこにキャシーの姿はあったが、また刃が当たる前にキャシーの姿が消えた。
その後も、まるで太刀のブレイバーを弄ぶかのように、キャシーが周囲に現れるが、何度斬っても寸前で消えて移動されてしまう。そんな事を何度か繰り返した所で、キャシーが動き、太刀のブレイバーの腹部に右手の手根部を押し当てる。それは殴ると言うよりは、軽く当てた様に見えた。
だが当てられた太刀のブレイバーは、もの凄い衝撃波を腹部に感じ、そのまま吹き飛ばされて壁から剥き出しになっていた大きなホープストーンに叩き付けられてしまう。
そんな時、キャシーの足元にアサルトライフルのブレイバーが投げた手榴弾が転がる。
時間を調整して投げられた手榴弾であった為、キャシーが回避行動に移る前に手榴弾が爆発。
確実に爆発に巻き込んだ事を確認しながら、岩から身を出し発生した煙と舞う砂埃に銃口を向けて確認をするブレイバー。
視界が徐々に晴れ、キャシーの姿が見える頃、そこには無傷で左手を突き出し、小さな魔法陣を展開させているキャシーの姿が見えた。それと同時、その向けられた魔法陣か鋭い氷の刃が発射され、アサルトライフルのブレイバーの頭に命中。頭脳に損傷を受けた事で、意識を失い後ろに倒れた。
態勢を直しながらそれを見た太刀のブレイバーは、
「こんのおおおおおッ!!」
と再びキャシーに立ち向かい、太刀を振るう。
今度は消える事は無く、それをまるで攻撃の軌道を読まれているかの様に、するりと避けてくるキャシー。
二度、三度と、太刀の攻撃を避けたキャシーは、四度目の刃を今度は指で挟んで止めた。
「なッ!」
ブレイバーが驚くも、空かさずキャシーは手に氷の短剣の様な物を生成して、太刀を持つ右腕にそれを突き刺してきた。その痛みで思わず右手を放してしまうと、キャシーは残った左手を叩き、軽々と太刀を奪い取る。
奪った太刀をくるりと持ち替え、返すよと言わんばかりにブレイバーの腹部をその刃で貫くと、今度は身体を捻らせてブレイバーの頭をハイキック。
腹部に自分の武器である太刀が突き刺さったまま、ブレイバーはくるりと一回転して、そのまま地面に倒れた。
一人で二人のブレイバーを片付けたキャシーは、二人が再起不能になった事を目視で確認すると、そのままスウェンの元へ歩いて戻って行く。
そしてそれを見ていたスウェンはキャシーと入れ違う様に前に出ると、小型火縄銃を使い、倒れて苦しんでいる太刀の女ブレイバーの前まで来ると、その銃口をブレイバーのコア部分に向け発砲。
そのまま太刀のブレイバーは消滅した。
スウェンは小型火縄銃をくるりと回転させて瞬時に装填をしながらも、更に歩みを進め、岩陰で頭に氷が刺さって倒れているアサルトライフルの女ブレイバーも、躊躇する事なく銃弾でコアを破壊して消滅させる。
スウェンは言う。
「なんか面倒になったから、全員殺す事にしよう」
するとせっかくブレイバー二人の奮闘で八人ほどを倒した所であったが、それを見越していたかの様に、更に火縄銃を持った人間が追加で十人ほど中に踏み入ってくる。更に遅れて武器では無く何か厳重に密閉された大きな木箱を持った人間たちも数人入ってきた。
それと同時、その場にいた労働者達に向けて次々と射殺が開始され、大人しく手を挙げている者も撃たれ、立ち向かおうとする者も撃たれ、逃げ出す者も背中を撃たれ、腰を抜かして動けない者も容赦なく撃たれ、正にここは地獄絵図となった。
そんな光景を直視しない様に目を逸らすシュレンダー博士は、
「趣味が悪い」
と呟きながら、スウェンの元に近づきながらそのまま問う。
「こんな所でいったい何をやろうって言うんだ」
するとスウェンはシュレンダー博士の方へ振り返ると、お茶目な笑顔で両手を広げる。
「見てみろ。ここは俺たちにとって宝の山。あっちにホープストーン、こっちにホープストーン。研究材料として国から支給されるちっぽけなホープストーンでは出来ない事が山ほどあるだろう」
「だからと言ってこんな強引な手段、わしはやりたくなかった」
「この先にある物を見れば気が変わるさ」
そう言いスウェンが奥へと歩みを進めるので、シュレンダー博士は大人しくその後ろを付いていくと、木の板が打ち付けられて通る事ができない通路の前までやって来る。スウェンは小型火縄銃を懐に戻しながら、それを蹴り破り中へと進んでいく。
その先にあったのは、とてつもなく広い縦長の空洞と、その中央に聳える超巨大ホープストーンがあった。
「これは……」
とシュレンダー博士が目を丸くして驚くのも無理は無く、直径三十メートルはある恐らく世界最高記録と言っても過言ではない程の大きなホープストーンが光り輝いていた。
シュレンダー博士がそんなホープストーンを見て目を輝かせていると、その横でスウェンが語る。
「どうだ。これでもここに来る価値は無かったと言えるか? このホープストーンであれば、お前がやりたがっていた向こうの世界に行く実験も可能だろ」
「確かにこの大きさであれば、実験は可能だ。耐久性も問題無い」
そう言いながら、シュレンダー博士は目の前の巨大ホープストーンに手を触れ優しく撫でた。
「シュレンダー、お前の理論では実験成功には一歩足りない」
「なに?」
「お前の編み出した方法では、ただ次元の狭間を彷徨うだけだ」
「既に経験したような口ぶりだな?」
「ああ、正確には経験した奴を知っていると言うだけだが……」
「ワタアメか」
「だがその犠牲で解った事もある」
そんな事を悲しい目をして語るスウェンを見て、シュレンダー博士はこの目の前の男が思っていた以上の事を経験して今に至っているのだと解る。
「わしと別れてからいったい何があったんだスウェン」
その質問にスウェンは答えず、来た方向へ戻る様に歩みを進めてシュレンダー博士に背を向ける。
「とにかくだ、計画を始める。お前はここで転移の準備を始めておけ。俺たちは……もう一つの条件を揃える準備をしよう」
シュレンダー博士は振り返ってスウェンを見ると、ここにやって来た時は二人っきりだったのに、いつの間にか黒ドレスのキャシーがスウェンの横に立っていた。
その頃、ミラジスタの町は大騒ぎとなっていた。
採掘地区でテロ事件が発生、一部の採掘エリアがテログループに占拠されたと言う情報が、瞬く間に町中に広まっていた。
問題のエリアとなる場所の入口には、多くの王国兵士が集まり、何者も出てこない様に完全に包囲状態。ブレイバーズギルドから依頼を受けた、屈強なブレイバーも数十人待機している状況だ。
又、緊急医療所も近くに設置され、そこではこのエリアを警備していてテロリストに襲われ負傷した王国兵士やブレイバーの手当てが行われていた。
サイカ、エム、クロード、マーベルの四人も噂を聞いてその場に来ており、多くの野次馬の中に紛れて様子を窺っていると、「何とか逃げ延びて来た奴の話だと、中にいた人たち皆殺しにされたってよ」「警備のブレイバーは何やってたんだ?」「テログループの人数が結構多いって話だぜ」等と噂話が耳に入ってくる。
マーベルが物々しい状況を見ながら口を開く。
「タイミング的にも十中八九、宿屋を襲撃してきた犯人と関係がありそうね」
するとクロードが続く。
「じゃあ博士もこの中にいるって事か?」
「何となく……だけどね」
「いったい何の為だ?ここはホープストーンを発掘する場所なんだろ?」
「わからないわよ。でもシュレンダー博士はホープストーンの研究者、悪い奴らに利用されるって事も充分あるでしょ。何処かの国ではバグと戦争になってるって言うし、王都ではシッコクが謀反起こして失敗したって言うし、いったいどうなってるの……」
そこまで聞いたサイカは、
「中に行こう」
と提案するが、マーベルが反対する。
「入口に集まってる王国兵士とブレイバーの数を見て。こればかりは私たちの出番は無いわ」
確かに充分すぎるほどの人数が、このテロを対処する為に集められており、入口で王国兵士とブレイバー達による合同作戦会議の様な事も行われているのが見える。
今すぐにブレイバーズギルドに行き、依頼を受ければ正式参加する事は可能かもしれないが、そこまでする必要性があるとはサイカも感じなかった。
「そうか」
と、妙にしおらしいサイカを見て、エムが忍び装束の裾を引っ張りながらこの後の事を提案する。
「カレーパンでも買いに行きましょう」
そのエムの提案を切っ掛けに、四人はその場を後にする事となった。
【解説】
◆ブレイバーの夢
夢世界での出来事は、ブレイバーにとっては現実であり、人間が見る夢とは少し異なる。
蓄積された現実を見る為にブレイバーは眠る。逆に蓄積が無ければ眠っても意味が無い。それが彼らの命綱。
◆エルドラド王国の将軍
ソフィア王女が口にした『将軍』とは、シッコクよりも実力が上の人間である。現在は別任務で王国の地を離れており、これまで起きた事に関与はしていない。
◆アリーヤ共和国
エルドラド王国から西の方角、海の向こうにある国。戦乱の時代から、中立の立場と平和主義を貫いていた平和の国だったが、バグの大量発生と言う悲劇が起きたとされている。
避難民の乗せた船が、着々とエルドラド王国へとやって来た事で発覚した。
◆ミラジスタの最北部にある採掘地区
世界でも有数なホープストーンの発掘量を誇るミラジスタを支えている場所であり、千人近い従業員が働く規模の広さがある。
今回、スウェン達はここのクラスAとされるエリアを占拠した。




