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ログアウトブレイバーズ  作者: 阿古しのぶ
エピソード2
22/128

22.好敵手

 早朝、そろそろ日も登り始める時間帯にルーナ村へと侵攻するバグの姿があった。

 蜘蛛にも似た六本足で、四つの赤い目を光らせながら、早朝の森林をルーナ村に向けて前進している。

 岩を飛び、草を薙ぎ倒し、細かい木の枝は折りながらも、真っ直ぐ歩みを進めるバグの速度はかなり早い。

 一本の樹木の下をそのバグが通り過ぎた時、その樹木の懐にある太い枝にナポンの姿があった。


「レベル二……いや、三ってところか」


 バグを視界に捉えたナポンは、枝から枝へと飛び移り、バグを追跡していく。

 やがて順調に進んでいたバグは、小さな崖に突き当たり六本の足が動きを止めるが、すぐに迂回しようとその体を横へと向けた。


 その瞬間、ナポンは飛躍して上空からバグの胴体に着々すると、金色の鉤爪をコアがあると思われる箇所へ突き刺した。


 だが感触は無い。

 バグはすぐに足の一本を手の様な形に変形させ、ナポンを捕まえようとその手を伸ばす。


「おっと」


 ナポンは宙返りしてそれを避けると、バグの背後に着地。

 バグは手に変形した足を再び足の形態に戻すと、ゆっくりとナポンの方に振り返る。四つある目がナポンを捉えると、ニ人はしばらく睨み合った。

 そしてナポンはそのバグに語り掛ける。


「あんたはどうしてそんな姿になっちまったんだい?」


 そんな言葉を聞くや否や、バグは前方二本の足を再び手の形に変化させ、四本の足で前進、ナポンを捕まえようと手を伸ばしてきた。

 ナポンはそれを飛んで避け、樹木の枝に着地すると話を続ける。


「あんたはどんなブレイバーだったんだい?」


 バグは手を樹木の上に向け伸ばすが、ナポンはそれを避け、空中でくるりと回転しながらバグの背後を取る。


「今、楽にしてやんよ」


 金色の鉤爪が、バグの胴体を切り裂く。

 足も巻き込みながら、三つに裂けると、胴体内部の少し変わった位置にコアがあるのが見えた。

 バグは驚異的な再生力ですぐに修復を始めるが、ナポンの次の一撃で、コアを鉤爪が貫き、消滅した。


 そこへ樹木の影から様子を見ていたサイカが、夢世界スキル《ハイディング》のステルス状態を解除してナポンの前に姿を現した。


「バグに話し掛けながら倒すブレイバーなんて初めて見た」


 サイカがそう言うと、ナポンは爪に刺さったコアを抜きながら、

「なんだい見てたのなら、手伝ってくれればいいのに。ほら、やるよ」

 と、サイカに抜いたコアを投げ、サイカはそれを両手でキャッチした。


「貴女が盗賊をやってるのは、こうやってルーナ村を守る為か?」

「そんな大層な事じゃ無いさ。よく眠れたかい?」

「お陰様で。夢も見れた」

「そうかい。そりゃ良い事だね」


 そしてサイカは一つの疑問を投げかける。


「もしかして、寝てないのか?」


 ナポンはその質問に対し、少し黙った後、決心したかの様に口を開いた。


「あたいは、もう寝る必要が無いんだよ」

「まさか……」

「はっ。旅人のあんたらには関係無い話さ。そう言えば聞いてなかったけど、お前達は何処に向かってるんだい? ルーナ村に用がある訳じゃないんだろ?」

「ミラジスタの町に向かってる途中だ」

「ミラジスタに? 何の為に?」

「私達が探してる組織がそこにいたと言う情報があってね」

「ログアウトブレイバーズ……だっけ? なんなんだい、それは」

「話すと長くなる」

「ふーん。実はあたいとルビーもミラジスタには行った事があってね。その組織は見なかったけど、あそこは面白い場所がある」

「面白い場所?」

「この国で一番のホープストーン採掘場があるのさ。一度見に行ってみるといい」

「そんな場所が……」


 サイカは先程ナポンに渡された、そのホープストーンの欠片でもあるコアを見つめた。割れて完全に光を失っているが、これは確かにブレイバーのコアだった物である。

 ナポンが歩き出したので、サイカも黙って後ろを付いていくと、ナポンがサイカに質問した。


「サイカ……だっけ?」


 頷くサイカ。


「サイカはさ、この国だけで一日あたりどれくらいのブレイバーが召喚されてるか知ってるかい?」

「いや、考えた事もないな……」

「あたいは百体くらいだって聞いた。ホープストーンの消費量からそれくらいじゃないかって、どっかの研究者がね」

「少ないのか多いのかわからないな」

「十分多いさ。でもよくやるよ。何れはバグ化してしまう存在を世に出して、国を守ってるんだから。マッチポンプってやつじゃん?」

「私は世界がどうであろうが、興味ない」

「そうかい」


 そこで一旦会話が止まり、ニ人は無言で歩みを進めて行った。途中で野生動物の鹿の親子を見かけ、ナポンは鹿に向かって微笑みを向ける。そんな姿を横目に、サイカは再度話題を振った。


「そう言えば、ルビーが異能力が何とかって言ってたけど、何か知ってるか?」

「ごく稀に、夢世界のスキルでは無い超能力に目覚めるブレイバーがいるのさ。あたいはブレイバースキルって呼んでるけどね。ルビーの場合は、夢世界では存在しない眼帯の下がソレだったってだけ」

「初めて聞いた」

「それだけ稀な事なんだよ。ま、ルビーのブレイバースキルは、体験しない方が身の為だね」

「そうなのか……」


 夢世界で自由に行動できる様になったのは、その類なのだろうかとサイカは考えた。


 そんな会話をしながら、野営した場所まで戻って来たサイカとナポン。まだマーベルもエムも、馬車の荷台で眠っていた。

 ニ人は同じく荷台で眠るクロードを見ると、もうほとんど足は戻っており、回復が順調である事が分かる。


 それを見たナポンは、

「今日の昼に出発すれば、夜にはミラジスタに着くだろう。寄り道なんてしてないで、真っ直ぐ行きな。もう会う事も無いだろうけど、頑張れよ」

 と、言い残して去って行ってしまった。


 彼女はもう夢を見ていない事をほのめかしていたので、本当にもう会う事は無いのだろうと、少し寂しい気持ちでナポンを見送るサイカだった。




 昼下がり、クロードが目覚める頃には、マーベルとエムも起きていた。

 クロードは起きると、すぐに自分の下半身を確かめるが、そこにはしっかりと迷彩服を着た下半身が存在している。そして安心した様に深い溜息を吐くと、馬車の荷台を降りる。

 マーベルとエムが振り向いた。


「すまん。迷惑掛けたな」

 と一言言うと、エムが駆け寄って来た。


「クロード、良かった!」

「エムも無事か。俺は……どのくらい寝てた」


 その質問に対しマーベルが答える。


「一晩よ。あの盗賊の女が助けてくれたの」

「そうか……サイカは?」


 マーベルが顎で荷台の屋根の上を示したので、クロードが見ると、そこにはくるみパンを食べるサイカが座っていた。

 サイカはパンを口に運ぶ手を止め、ジト目をクロードに向けると一言。


「馬鹿」

「なんか微かにサイカの裸を見たよう……なっ!?」


 サイカが投げた短剣がクロードの頬を掠め、クロードの口が止まった。

 そんなやり取りを見て、呆れるマーベルと対照的に面白そうに笑うエムの姿があった。


 そこから、クロードに何があったのかを三人で説明する。

 エムが連れていかれたのはルビーのブレイバー狩りであった事や、ルビーの強さ、そしてナポンの乱入。

 クロードは終始悔しそうな表情を浮かべていた。


 説明が終わる頃にマーベルが、

「じゃあ出発しましょうか。ミラジスタへ」

 と、馬に餌をやっている御者のおじさんの元へ近づくと、馬を動かすように促した。


 そこへ、何者かが近付く足音に全員が気が付いた。


 一行は思わず武器を手に持ち構え、御者のおじさんは茂みに隠れる事となる。

 足音を出していた者はすぐに姿を現した。それは昨日相対した盗賊の男だ。


「あ、あんたら! ここにいたのか!」


 全速力で走って来たのか、汗をだらだらと滴らせ、血相を変えた男は、膝に手をついて息を整えている。

 それを見てクロードは、アサルトライフルを構えながら男に聞く。


「俺たちに何か用か?」

「はぁ、はぁ……姐さんと一緒じゃないのか……姐さんは……何処に……」


 サイカが口を開く。


「ナポンなら、今朝別れたところだ」


 それを聞いた男は、顔を真っ青にしながら大声を出した。


「なんで止めてくれなかった!」

「なんでって言われても……」

「昨晩、俺たちのアジトに、姐さんは置き手紙を残していなくなった。姐さん、ルビーと戦うつもりだ! 死ぬ気なんだよ!」


 サイカはハッとなって、ルーナ村の方角を見ると、すぐに馬車の屋根を飛び降りて駆け出した。


「待てサイカ!」


 そんなクロードの声は、サイカに届いていない。




 ナポンは夢を見なくなった。

 それはナポンの夢世界ネバーレジェンドでのバランス調整により、ナポンがリメイクされた事が起因である。

 近いうちにバグ化する定めとなったナポンは、長い間面倒を見てきた人間の盗賊団に別れを告げ、お別れの挨拶代わりに親友のルビーの元へ向かった。

 今回、サイカ達を助けるに至ったのは偶然でもあり、もしサイカ達がルーナ村に立ち寄っておらず、村の事情に巻き込まれていなければ、そのままルビーと対峙するつもりであった。


 ナポンは鼻歌を歌いながら、白昼堂々と金色の鉤爪を輝かせ、村の通りを歩く。

 村人達は怯えて建物の中へと隠れていくのが見える。

 ルビーが崇められている元教会前まで来ると、ナポンの来訪を事前に知らされていたルビーが鎌を持って立っていた。


「昨晩ぶりだな。ルビー」

「ナポン。あんな事をしておいて、よくも私の前に現れたわね」

「あれはついで。なぁルビー。久しぶりに戦ってみないか?」

「何よ急に。私とは絶交したんじゃなかったっけ? それより貴女、夢世界でリメイクされたのに、なんで見た目が変わってないわけ?」

「なんでだと思う?」


 含み笑いをするナポンを見てルビーは、

「……そう言う事……」

 と、少し悲しそうな目をナポンに向けた。それを確認したナポンは鉤爪を構える。


 気付けば、多くの村人達が集まってきており、ニ人は囲まれていた。


「なぁ、あたいが勝ったら、もうこんな事は終わりにしてくれルビー。お前はこの村にいてはいけない」

「ふふっ。何よそれ。ここの人間を見殺しにするって事?」

「そうじゃない。他にもやり方はあると言ってるんだ」

「……わかったわ。戦いましょう。私の手で葬ってあげる」


 ルビーは大鎌をくるくると回し、そして構えた。



 二人は同時に動いた。

 一気に距離が縮まると、ナポンの爪と鎌が衝突して火花が散る。

 その勢いを利用したナポンの後ろ回し蹴りが、ルビーの頭に直撃して、ルビーは空中で一回転。着地して、頭を片手で抑えながら鎌で薙ぎ払い、ナポンはそれを飛んで避ける。


 だがそれを見計らっていたルビーが、空中のナポンに鎌の柄の先で突くと腹部に命中、ナポンは吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされながらも、民家の壁に両足を着けて衝撃を和らげるナポンに、ルビーは飛び掛かって鎌で斬る。

 民家の壁を壊したが、そこにはナポンはいなかった。空中を待っていたナポンが、かかと落としで攻撃するが、ルビーはそれを避けて鎌を横に振るう。

 背中を反らして避けつつ、そのままルビーの顎に目掛け下から蹴りを入れようとするが、ルビーは後退して避けた。そのままナポンは一回転すると、手の平を地面に付けながら姿勢を低く構え、次の瞬間、物凄い速度で突進する。


 ガン、ガン、ガンと鎌と爪が衝突。


 押され気味のルビーに追い討ちを掛けるように、ナポンは夢世界スキル《サイレントスペース》を発動する。黒くて丸いブラックホールの様な空間がルビーを包み、ルビーの身体が拘束され動けなくなる。

 そこへナポンの鉤爪がルビーの身体を切り裂き、ルビーの身体に三本の傷が入った。


 傷が浅い為、ニ回目の爪が襲う時、《サイレントスペース》の短い効果時間が終わり、ルビーも反撃のスキル《カマイタチ》を発動。ルビーが鎌を振り、ナポンは避けたが追いかける様に無数の刃がナポンを切り刻んだ。そしてルビーは飛び、空から鎌を大きく振り落とす。


 ナポンは両爪を交差させてそれを受け止め、

「こんにゃろ!」

 と鎌を弾き返す。


 ルビーは弾かれた鎌に小柄な身体を持っていかれ、空中でくるくると回り、民家の屋根の上に着地した。

 空かさずルビーは夢世界スキル《デスサイズスロー》を発動して、紫色のオーラに包まれた大鎌を投げた。鎌はぐるぐると回りながら迫り、ナポンはそれを横飛びで回避したが、鎌は空中でUターンして再びナポンに迫る。


 避けきれないと悟ったナポンは、その鎌を両爪で受けるが、思った以上に重たい衝撃で吹き飛ばされ、民家の壁に叩きつけられた。そしてまるで生き物の様に、大鎌はルビーの手に戻っていった。

 ルビーは屋根から飛び降り、大鎌を片手でくるくると回しながらナポンの方へと歩く。


 ナポンは亀裂の入った壁に寄り掛かり、吐血しながらも、

「へへっ。こりゃ強いわ」

 と笑っていた。


 それに対し、ルビーは再び《カマイタチ》を使い鎌を振るう。

 ナポンは夢世界スキル《クレイジーボディ》を発動して、身体に赤いオーラを纏い、筋肉を増幅させると《カマイタチ》の刃に向かって突進。

 無数の風の刃に斬られながらも、それを抜け、ルビーに襲い掛かった―――



 夢世界ネバーレジェンド出身のブレイバーには、特定の夢主が存在しない。

 そのキャラクターを愛用するプレイヤー全てが夢主であり、対人戦の夢世界である事から、彼らは常に戦い続けていた。

 何度も何度も何度も、殺して殺されてを繰り返す夢世界。


 そんな夢世界の設定が影響しているのか、ルビーとナポンは戦場で出会う度に意識してしまう仲であった。それでも殺し合いの場なので、刃と刃で意思疎通をするしかない。味方になった時は、嬉しい気持ちもあった。


 ニ人がこの世界に召喚されたのは、異なる時、異なる場所であったにもかかわらず、何処かにいるかもしれないと、互いに互いを求め探す旅をした。

 巡り合ったのはエルドラド王国の王都だった。

 一目で解った。一言で通じ合えた。

 戦う事しか知らないニ人は、バグでもブレイバーでも、強い奴を求めて旅をする。それは決して楽な旅路では無かったけれど、楽しい日々だった。

 ルーナ村の騒動に巻き込まれるまでは……



 なあ、ルビー。

 お前は……狂気の振りをした優しい奴だよ。



 ―――ルビーの左腕を斬り落としたが、ナポンも肋骨が数本折れ、腹部を斬られ、吐血が止まらない状況となっていた。

 《クレイジーボディ》の効果が切れ、よろめくナポンをルビーは残った右手で鎌を振り、柄でナポンの頭を殴ると、ナポンは横に飛び、地面を転がった。

 立ち上がる力も無く、ボロボロになりながらも、ナポンは笑う。


「どうした……あたいを殺してみな……コアはまだ無事……だ……得意のブレイバー狩り……だろ……」


 ルビーは鎌の矛先を勢いよく倒れるナポンの顔近くへ突き刺す。


「ふざけないで。わかってやってるでしょ。突然いなくなったと思えば、盗賊団の仲間入りなんかしちゃって」

「へっ……あいつら……なかなか、面白いんだ……」

「夢はもう見てないの?」

「ああ」

「そう。じゃあ盗賊団の仲間にでも介錯してもらうことね」


 ルビーがそんな事を言った時、その場にサイカが到着した。


 ルビーの背後から飛び掛かり、刀を振り落とすと、ルビーは飛んで距離を取る。刺した鎌をその場に残す形となったが、ルビーが右手を掲げるとすぐに鎌が手に戻っていった。

 その様子を見たナポンが驚く。


「何をっ……してる! なんで来た!」

「あいつに借りを返しにきた」

「馬鹿……野郎!」


 サイカを止めようと必死に立とうとするナポンの横で、サイカは刀を構えた。

 それを見た左腕の無いルビーがクスッと笑う。


「なに? 私にやられに来たの? 命知らずなブレイバーさんね」

「今度は一瞬で決める」

「あら、そう。じゃあご要望にお応えして、私も貴女に絶望をプレゼントしましょう」


 その言葉を聞いて、ナポンが叫んだ。


「やめろルビー!」


 だがニ人は止まらない。


 サイカは夢世界スキル《分身の術》を使って四人に分裂すると、溜める事なく一斉に走り出す。

 ルビーは夢世界スキル《デスサイズスロー》を発動して、右手で鎌を横向に投げると、四人のサイカはそれを飛んで避け、そのままルビーに向かって夢世界スキル《一閃》を発動する。

 そのタイミングで、ルビーは右手で左目に付けたハートの眼帯を外す。その眼帯の下には、金色に光る瞳があった。


「何人に分身してようが関係ない。この能力は、目を合わせればいいのだから……」


 ルビーのブレイバースキルが発動する―――




 サイカはハッと気がつくと、周りに懐かしいブレイバーの仲間たちが前方に向かって武器を構えていた。嵐による横殴りの雨の中、すぐ目の前でサイカの教育係であるシャケマックスが、大剣を構えている。


「こいつ……レベル五のバグじゃねぇのか?」


 彼らの目の前には人型のバグが、ゆらゆらと立っている。

 仲間の三人をあっと言う間に消滅させたそのバグは、どんなに攻撃をしても攻撃が透き通り、ダメージを与える事が叶わない。

 全員が初めて相対するレベル五のバグは、まるで幽霊の様なバグだった。


 斧を持った仲間が、

「なんかやばい気配がしますよ。ここは撤退したほうがいいんじゃないですかね」

 と、シャケマックスに提案する。


「そうだな。俺が足止めするから、コウタロウ、サイカを頼む」


 大切な仲間を失い、涙が止まらないサイカはシャケマックスに向かい叫んだ。


「勝てっこない!みんなで逃げよう!」


 だがシャケマックスはサイカに背中を向けたまま、

「これが俺の最後の教えだ。生きろ! 俺たちの分まで! そしてお前はお前の夢を叶えろ!」

 と幽霊の様なバグに向かい、突撃していった。他の仲間たちもシャケマックスに続けて、バグに攻撃を仕掛けているのが見える。


 そしてサイカはコウタロウの肩に担がれる。


「ダメだ! みんな! ダメだ! コウタロウ! 放してくれ! みんなが死んじゃう!」


 もがくサイカ、だがサイカよりも力が強く体格も良いコウタロウは放してくれなかった。

 しばらくコウタロウに担がれて、走り続けたところで、崖っぷちに突き当たってしまう。崖下は嵐により大荒れとなった海。

 見計らったかの様に、シャケマックス達が戦っていたはずの幽霊の様なバグが、急にニ人の背後に現れた。


「なんなんだよこいつは!」

 と、コウタロウはサイカを肩から降ろすと、斧を構えた。


 サイカは手をガタガタと震わせながら刀を構える。

「みんな……やられちゃったの……?」


 すぐにバグが動いた。


 高速で左右に揺れながらも突進してくると、まるで紙の様な腕を自在に伸ばし攻撃してくる。

 コウタロウが斧でその手を叩き斬るが、なぜかもう一体同じバグがコウタロウの背後に現れ、コウタロウの腹部をバグの薄っぺらい腕が後ろから貫く。


「コウタロウ!」

 と、叫ぶサイカの後ろにも三体目となる同形態のバグが現れ、次の瞬間―――


 サイカの首が飛んだ。


「えっ……?」


 サイカの視界が空中でくるくると回り、刀を構えた自分の身体が見える。そして地面に落ちると、そのままコロコロと転がった。

 そんな姿を目の当たりにしたコウタロウは言った。


「シャケマックスさんに言われた。サイカを頼むって。だから、お前だけは生きてくれ」


 コウタロウは、腹部に穴を空けられながらも、頭の無くなったサイカの身体に体当たりをして崖から突き落とした。

 そしてコウタロウは、三体のバグに一斉に刺され消滅していくのが見える。


 信じられない。

 こんな事があってはならない。


 今日はいつもみたいに、みんなで楽しく、バグの討伐に出掛けたのに……なんで……どうして……


 だから―――



「「「「―――どうしたああああ!!」」」」



 四人のサイカはそんな幻覚を撃ち破り、ルビーに斬り掛かる。四本のキクイチモンジが、ルビーを捉え、そして斬った。


 血飛沫を上げて倒れるルビー。


 コアを外す余裕は無かった為、サイカは適当に斬ってしまったが、ルビーのコアは無事の様だ。

 どうやらルビーの言う異能力、左眼のブレイバースキルは、目を合わせた相手が見たくない物、過去のトラウマなどを幻覚で見せると言う物だった様だ。少し前までのサイカであれば、効果はあったかもしれないが、今のサイカは過去を乗り越えている。


 ルビーを倒した事で、《分身の術》を解いたサイカは刀を納刀する。そしてニつの強力な夢世界スキルを連続使用した事による立ちくらみがサイカを襲った時、先ほどルビーが投げた大鎌が《デスサイズスロー》の効果で背後から迫ってきていた。


「しまっ―――」


 鎌の気配に気付き、慌てて振り返りながら鞘を盾にするサイカの目の前に、ナポンが立ちはだかり、その大鎌を体で受け止める。

 鎌が胸を貫きながらも、ナポンは両足で踏ん張り、大鎌は止まった。

 その光景にサイカはナポンの血を浴びながら、言葉を失ってしまう。


 するとナポンはニコッと笑いながら、


「これで、貸し借り無しって事で……いい……よな……」

 と、そのまま崩れる様に倒れた。






◆マッチポンプ

 自らマッチで火をつけておいて、それを自らポンプで水を掛けて消すと言う意味で偽善的な自作自演の手法・行為を意味する。ブレイバーがバグとなってしまうのに、バグを倒す為にブレイバーを召喚しなくてはならない行為が、それに似ている。


◆ルビーのブレイバースキル

 左目の眼帯で隠している金色の瞳は、目を合わせた相手が見たくない物、過去のトラウマなどを幻覚で見せる事が出来る。それはブレイバーだけでなく人間や動物にも有効で、ほとんどの生命体を無力化できてしまう事が、彼女の最大の武器。

 邪眼の力をなめるなよ!

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