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ログアウトブレイバーズ  作者: 阿古しのぶ
エピソード2
18/128

18.旅立ちの日

 マザーバグとの戦いから一ヶ月が経った。

 エルドラド王国から復興支援の兵士達が続々と到着し、噂を聞きつけた心優しいブレイバーも沢山やって来て、ディランの町の復興は順調に進んでいる。

 それでも破壊された南門の工事も難航しており、バグ襲撃による傷跡は大きい。多くの住民が家族や家を失った悲しみは癒えずにいる。


 そんな中、大きな決断をしたブレイバーが四人。旅支度を終えて、東門の前に集合していた。


 見送りに来ている住民達や兵士、そしてブレイバーもいて、かなりの人数が集まった事に四人も驚きを隠せない。

 その中にはレイラの姿もあった。


「サイカちゃん。行ってしまうのね」

「うん。今までありがとう」

「これ、少しでも役に立てたらと思って、毛布とくるみパン。持って行って」

 と、レイラはサイカに大きな袋を渡す。


 そこへ泣きじゃくるエムを引っ張りクロードがやってくる。


「レイラさん。俺がきっちりサイカを守ってみせるんで。安心してください」


 サイカを嫁に貰う様なその態度に、サイカはクロードを肘打ちした。


「調子いいこと言うな。バカ」

 と言い残し、サイカはレイラにお辞儀をすると馬車に向け歩き出す。


 そこへ、突然一人の兵士がサイカの前まで走ってきた。


「サイカさん!」


 サイカはその兵士に見覚えがある。


「あなたは……」

「お礼言おう言おうと思ってたんですが、今日になってしまってすみません」


 そう言う兵士は、ディランの町をバグに襲撃された際、サイカが助けた兵士だった。


「無事だったんだな。あの子は?」

「はい、お陰様で。その、あの時助けた娘さん、私が面倒を見る事にしました。今はまだショックで閉じ篭もってる状況ですが、私が責任を持って立ち直らせます」

「そうか」

「本当にありがとうございました!」


 深々とお辞儀をする兵士に、サイカも会釈で返すと馬車の荷台に乗り込んだ。

 そんな様子を見ながら、クロードはレイラに話していた。


「あいつはまだまだこれからですよ」

「そうね。サイカの事、宜しくお願いします。エムちゃんも」


 そう言いながらレイラはエムを見る。

 エムは涙目ながらに応えた。


「ぐすっ、わかりました。短い間でしたけど……うっ……ありがとう、ございました……」


 そして、クロードとエムのニ人も馬車の荷台に乗り込んだ。

 屋根付きの荷台には、大きな木箱が三つ、地図を確認しているマーベルと、レイラに貰った袋を大事そうに抱えて座るサイカの姿。


 そして馬車は走り出す。


 大勢の人達に見送られ、旅立つ四人のブレイバー。サイカ、クロード、エム、マーベル。

 行き先は、ディランの町からずっと東にあるミラジスタと言う町。


 馬車が見えなくなるまで手を振ってくれる皆を見て感傷に浸っていると、やがてディランの町は見えなくなった。




 馬車は街道をひたすら進み、橋を越え、森を越え、大きな湖が見える所までやって来た。

 その景色全てが、ディランの町からほとんど出た事が無いサイカやエムにとっては新鮮で、つい景色に見惚れてしまう。

 そこで、サイカの胃袋が音を鳴らした。


「お前、さっきパン食べたばっかりだろ」

 と、クロード。


「うるさい」


 サイカはそう言いながら恥ずかしそうに頬を染めながら、袋からくるみパンを取り出し食べ始める。

 そんな様子を見ながら、マーベルがサイカに話し掛けた。


「サイカ。良かったの?シッコクの誘い断っちゃって……」

「興味ない」

「興味ないって……あんたがそれでいいなら。いいけどさ」


 そこへ一足先にディランの町を出て行ったブレイバー隊の人たちを思い出したエムが口を開く。


「そう言えば、あのミーティアさんって人。サイカを襲ったと思えば、消滅するのは許さないって言ったりしてて、なんででしょう?」


 それに答えたのはクロード。


「女心ってのは、空模様みたいに変わりやすいんだ。サイカ見てればわかんだろ」


 そう言われ、サイカはパンを食べながらクロードの脛を蹴った。痛がるクロードを見て、

「なるほどぉ」

 と感心するエム。


 そんなやり取りを見ていたマーベルは、改めてパンを食べるサイカに話し掛けた。


「それでサイカ、夢世界でまたバグが出たって本当なの?」


 サイカのパンを口に運ぶ手が止まる。


「うん。なんか尻尾がいっぱいある奴だった」

「そんな状況で、サイカの夢世界は大丈夫なのかしら……」

「事情解ってくれてる夢主と、夢世界の偉い人が協力してくれてるから、たぶん大丈夫」


 そう言うと、サイカは再びパンを齧った。

 するとクロードは馬車の荷台に積まれた木箱に目が行き、それが何なのか気になったので、御者に聞いて見る。


「なあおっさん。この荷物は何なんだ?」

「あー、それかい? ホープストーンの欠片だね。君たちブレイバーがバグから回収した物だよ」


 つまりバグのコアの破片と言う事だ。


「いつもブレイバーズギルドが金貨と交換してくれてるアレか。そう言えば何に使うんだろうな」


 その疑問に、マーベルが説明をした。


「溶かして、再利用してるらしいわ」

「マジかよ……」


 すると、クロードが話し掛けた事で気を良くした御者のおじさんが話題を変えた。


「いやぁ、でも助かったよ。最近は野盗も多くてね。私みたいな運び屋がこんな荷物運んでると、野盗に狙われちまう。だから旅するブレイバーでもいなけりゃこんな物は運べないさ」


 ホープストーンはブレイバー召喚儀式に使われる貴重品である為、その欠片であっても価値は高いとされる。


 他愛もない会話をしながらも馬車は進む。

 ミラジスタの町まで丸ニ日掛かる道のりになる為、道中にあるルーナ村に立ち寄り、一泊する予定だ。




 日が暮れる頃、ルーナ村まであと少しといった所で見通しの悪い崖に挟まれた道にやってきた。

 馬車が向かう方向に複数の人影が見える。

 明らかに盗賊と見られる彼らが道を塞いでいる為、馬車はゆっくりと減速してやがて止まった。

 剥き出しの剣を持った男が一人、前に出る。


「おおっと、ここは通行止めだぜ」


 御者のおじさんが周りを見渡すと、目の前には剣を持った者が三人、崖の上にも六人程が弓を構えているのが分かる。彼らには荷台の屋根により、中にブレイバーが乗っている事に気づいていない。


「ここを通りたければ、荷物は全部置いて行きな」


 だが、彼らの身なりを見てブレイバーではなく人間であると解った御者は、被っている緑の帽子を深く被り目元を隠しながら笑みを浮かべる。


「あんた達こそ、今すぐ立ち去るなら怪我しないで済みますぜ」

「はぁ? 何を言ってやがる」


 そんなやり取りを荷台の中で聞いていた四人。サイカが荷台から出ようとすると、クロードがそれを手で止める。


「俺が行こう」


 クロードはアサルトライフルを両手に持つと、荷台から降りた。

 屋根で中を確認できなかった荷台から、現れた銃を持ったブレイバーが現れた事で、盗賊達は動揺する。


「ちっ、ブレイバーか。お前ら、ブレイバーからやっちまえ」


 盗賊の一人がそう言うと、全員が武器を構えた為、御者は慌てて荷台に隠れた。


 すぐに矢が放たれ、クロードは走ってそれを避けつつ、近くの岩陰に隠れアサルトライフルを構える。

 狙うは崖上の弓を持った盗賊達。

 三点バーストで、一人一人を確実に撃ち倒すクロードを剣を持った盗賊三人も岩陰に隠れて見ていた。


「なんだあの武器は。反則だろ」


 そんな事を言っていると、三人が隠れていた岩陰に、上から手榴弾が落とされる。

 見るのは初めてだが、何かやばい物だと感じた三人は散開する様にその場から逃げるが、その爆発でニ人が吹き飛ばされ、意識を失った。

 一人は爆風に背中を押され倒れながらも、間一髪で助かり、すぐに次の岩陰に隠れる。

 見ると崖上の弓を持った者達は全滅していた。


 圧倒的すぎる実力差に、一人残された男は死を覚悟して、手が震えていた。


「くそっ、くそっ!」


 そこへ崖上の草むらから新たな人影が現れる。


「あーあー、ブレイバーがいたら迷わず逃げろって言ったのに。ほんと言う事聞かないんだから」


 その声がした方向に銃を構えるクロード。

 すると人影は崖から飛び降り、真っ直ぐにクロードに向かって落ちてきた。

 スコープ越しにその姿を確認したクロードは、肩や腰に赤い甲冑を着けながらも、肌の露出が多い服装と、下着の様な胸部の布と膨らみが見え、


「女っ!?」

 と思わず銃弾を外してしまう。


 その女は金色に輝く鉤爪を両手に装着しており、その爪がクロードに襲い掛かる。回避が間に合わない為、クロードはアサルトライフルを盾に爪を防ぐ。

 三本の爪がクロード自慢のアサルトライフルを三つに割った。


 爪の女はそのまま地面に着地すると、素早くクロードに連続攻撃を仕掛ける。クロードはそれを後ろに下がり、回避して行くが背中に大きな岩が当たった。

 好機と見た爪の女は、渾身の一撃を放つが、クロードは横に飛んで回避。


 すると、その岩も三つに割れた。

 それを岩陰から見ていた盗賊の男が叫ぶ。


(あね)さん!」


 クロードはハンドガンとナイフを取り出し構えるが、姐さんと呼ばれた爪の女は、

「遅い!」

 と、クロードの側面に回り込んでいた。


 その爪がクロードを捉えたその時、爪の女は馬車の方向から殺気を感じる。

 見ると、サイカがすぐ目の前にいた。

 爪の女は防御態勢を取り、サイカの刀を両爪で受け止める。


「ちっ! まだいたのか!」


 爪の女はそのまま後ろに飛躍して、バク転を何度かした後、十分に距離を取ったところで止まった。

 それを狙っていたクロードが、ハンドガンで銃弾を一発撃つも、爪の女はその銃弾を爪で斬る。

 銃弾を斬られる経験がニ度目となるクロードは苦笑い。


「おいおい、銃弾斬るの流行りなのか?」


 するとサイカは刀を爪の女に向けて構えながらフォローを入れる。


「私は斬った事ないから安心して」

「お前なら初見でも斬っちまいそうだけどな」


 そんな無駄話をするニ人を前に、爪の女は姿勢を低くして爪を構える。


「あたいを相手にして、無傷で済むとは思わないでよね」


 すると馬車の荷台から、エムとマーベルが降り立ったのを見え、そしてサイカの刀をまともに受けた爪が数本折れている事に気付き苦笑い。


「あらら、こりゃ分が悪いね」


 それを見たクロードが、銃口を向けたまま爪の女に話し掛ける。


「もう勝ち目は無い。降参しろ」


 しばらく緊迫とした雰囲気が場を支配した。



 膠着状態を解いたのはクロード。


「お前の仲間達、急所は外してある。すぐに治療すれば命は助かるかもしれないぞ」


 その言葉を聞いた爪の女は、構えを解くと、両手を挙げた。

 そこへ武器を置いた盗賊の男が、


「姐さん! すんません!」

 と駆け寄ってくると、爪の女は男に一言。


「馬鹿野郎」


 そこへクロードが質問を投げかけた。


「お前、ブレイバーだな? なぜこんな事をしている」

「そう言うあんたらも荷運びの馬車に四人もブレイバーがいるなんて普通じゃ無いね。そんな重要な物でも運んでるのかい?」

「ホープストーンの欠片だ。俺たちは移動手段として乗せてもらっている。俺はクロード、お前の名は?」

「……あたいはナポン。もうお前達の邪魔はしねぇよ」


 そう言うナポンを見て、戦闘の意思はないと判断したサイカは納刀すると、ナポンに質問する。


「私はサイカ。ナポン、ログアウトブレイバーズと言う名前に聞き覚えはあるか?」

「ログアウトブレイバーズ? なんだいそれ。かっこ悪い名前だね」

「そうか」

 と、サイカは一人馬車の荷台に戻って行った。


 すると今度はナポンが質問する。


「あんたら、何処に行く気かしんないけど、この先にあるルーナ村に寄るつもりかい?」


 クロードが答える。


「その予定だ」

「それはやめときな。あたいからの忠告だ」

「なぜだ?」

 するとナポンは薄っすらと笑いながら、それでいて真剣な眼差しをクロードに向ける。


「あの村は普通じゃない」




 そんな出来事があってから、数時間後、四人を乗せた馬車はルーナ村に到着した。ナポンの話によれば、この村には一人のブレイバーがいて、そいつに会って話せば分かるとの事だった。

 村に入ると、確かに何か不穏な空気が漂っている事に気付く。村人達は馬車を見るなり、何かをヒソヒソと話し合っているのが目に付く。


 そんな様子を見て馬を進める御者は、

「このまま通り過ぎるかい?」

 と問いかけると、クロードが応える。


「いくらブレイバーだとは言え、女子供がいるのに初日から野宿ってのは許したくないね」

「そうかい。じゃあ宿を探すとしますかね」


 宿屋らしき建物の前まで来ると、馬を繋ぎ場に置き、御者は馬の世話を始めた。四人は宿屋の中に入るが、やはり周囲に見た村人達はヒソヒソと何かを話している。

 宿屋の中に入ると、店主らしき中年男性がカウンターに座っている。

 サイカが前に立つと、話し掛けた。


「ブレイバー四人と、大人一人だ」


 何かを怪しんでいる様なしかめっ面を見せる店主。


「あんたら、ルビー様には挨拶したのか?」

「ルビー様?」

「まだなのか。じゃあ泊める訳にはいかねぇな」


 不思議な事を言う店主に顔を見合わせる4人。


 宿主にルビー様と呼ばれる人物に会える場所を教えてもらい、御者のおじさんに事情を説明して、一人は村の中央にある教会を改装した様な建物の前までやってきた。

 そこまでの道中でも、やはり村人はヒソヒソと何かを話しているのを見かける。

 マーベルが周りの様子を窺いながら口を開いた。


「気味が悪いわね」


 するとクロードも一つの異変に気付いていた。


「この村、王国兵士が一人もいない。ブレイバーもだ」


 建物の入り口に立つ村人がニ人、話し掛けてきた。


「ルビー様に面会希望者か?」


 サイカが答える。


「旅の途中で立ち寄った。宿に泊まるにはルビー様に会えと言われたので来た」

「ブレイバーか。武器はこの場に置いて、中に入れ」


 四人はそれぞれの武器をその場に置いた。


 ブレイバーの武器は誰かが持てば勝手に持ち主に戻る為盗まれる心配はないが、逆に言えば誰かが触れなければ元に戻るのに時間が掛かる。その特性をよく理解している様だ。

 だが、サイカは短剣、クロードはハンドガンとナイフを隠し持ったまま、建物の中に入る。


 中に入ると、そこでも異様な光景があった。

 やはり教会を改装した様で、縦に長い道が続いているが、その両側で大勢の村人達が祈りを捧げている。

 その先には椅子に座る一人の少女、ルビーがいた。金色の短髪に緑の瞳、赤ずきんの様なフードを被り、片目にハートの眼帯を着けている。そんなルビーは、退屈そうに椅子に座ってアクビをしていた。

 椅子の後ろに立てかけられた、ルビーの身体よりも大きいと思われる巨大な鎌が目立っている。

 四人は話が出来る距離まで近付くと足を止めた。


「へえ、ブレイバーの客人とは珍しいわね」

 と、金髪の少女が言うなり、サイカはすぐに本題を口にした。


「宿に泊まらせて欲しい」

「宿に? ふーん、貴方達、夢世界の名前を言ってみなさい」

「ワールドオブアドベンチャー」

 とサイカ。


「私はファンタジースターよ」

 とマーベル。


「俺はバトルグラウンド。宿に泊まるのに何の関係がある」

 とクロードがルビーに聞く。


「いいから、黙って答えて。貴方は?」


 ルビーの冷たい目が、見た目は彼女と同い年くらいに見える少年エムに向けられた。エムは怖がってサイカの後ろに隠れながら答える。


「ラグナレクオンライン……です」


 その時、その場にいる村人達が一瞬騒ついた。だがルビーはそれを気にする事なく話を続ける。


「ラグナレク? へえ、珍しい顔触れね。私は……ネバーレジェンドよ」


 クロードはその夢世界を知っていた。


「ネバーレジェンド? 確か……アメリカとか言う場所で最近流行っている対人戦の夢世界だな。モバ系とかなんとか……」

「そうよ。よく知ってるわね」

「俺の夢主がその手の話をよくしてるんでね」

「ふふっ。まあいいわ。宿なら好きに泊まっていきなさい」


 何か厄介ごとが起きると予想していた四人は拍子抜けするほど、あっさりとルビーの許可を貰ってしまった。

 武器も無事に返して貰え、特に何事もなく宿屋に戻る一行。気が付けば、日も暮れて夜になっていた。




 サイカとマーベル、クロードとエムと御者のおじさんのニ組に分かれてそれぞれ部屋を借りる事となった。


 部屋に入るなり、サイカは早速忍び装束を脱ぎ始め、マーベルは呆れ顔になった。


「サイカ、話には聞いてたけど、あなた本当に裸族なのね」

「この方が楽だ」

「覗かれてたらどうしようとか、そう言う羞恥心みたいなのは無いの?」

「見られて恥ずかしいと思わない」

「あなたがそれで良いなら止めはしないけど、クロードやエムちゃんの前で絶対やめなさいよ」

「なぜだ?」

「クロードは調子に乗るし、エムちゃんには教育に悪い。それだけ」

「そうか」

 と、全裸でベッドに飛び込むサイカは、そのままマーベルの方を見ると、少し嬉しそうに微笑んだ。


 マーベルがサイカがこんな表情をするなんて珍しいと思いながら、話しかける。


「なによ」

「なんか、こうやって誰かと同じ部屋で寝るなんて、久しぶりだなと思って」

「そう言えば私もそうね。それじゃ今夜は夢話トークで盛り上がっちゃいましょうか」


 そんな事を言いながら、マーベルもベッドで横になり、サイカに微笑み返した。



 一方、男部屋では、疲れで眠ってしまった御者のおじさんを横に、クロードが壁に耳を当てている。


「何してるんですか」

 と、エムが問う。


「ここの壁、耳を当てると向こうの声が微かに聞こえる。エムもどうだ?大人の女の話に興味あるだろ? サイカは裸族らしい」

「サイカは寝る時、裸ですよ」


 そのエムの言葉を聞き、クロードは壁では無くエムに食いついた。


「お前見たことあんのか! どうだった?」

「どうって?」

「ほらアレだよ。大きさとか形とか!」

「そ、そんなとこ見ませんよ!」

「はあ!? お前それでも男か!」

「ぜ、全然興味……無い……ですから……それに、クロードさんだってマザーバグ討伐戦の時に一瞬でしたけど、見えたはずですよ」

「あ、確かにな……って、あれはそう言う状況じゃなかったろ! そんなとこ見てねぇよ!」


 顔を赤くして目をそらすエムを見て、クロードはニヤリと笑う。


「ははーん。お前、名前に負けず、ムッツリスケベってやつだな」

「ち、違いますよ! 僕はもう寝ますから!」

 と、エムは杖をベッドの横に立て掛けて、すぐに横になって毛布を顔まで被ってしまった。


 クロードもベッドの上で胡座をかいて座ると、アサルトライフルを手に持って、分解と手入れを始める。


「それにしても、あの女盗賊ブレイバー、ナポンって言ったか。なかなかの上玉だったな。あんな出会い方じゃなきゃ口説いてたぜ」


 そんなクロードの話を聞いたエムは、布団から顔半分を出す。


「クロードって、本当に女の人が好きなんですね」

「それが男って生き物だからな」

「でも、なんであの人は、ブレイバーなのに盗賊なんてやる必要があるんでしょうか。ブレイバーなら仕事なんていくらでもあるのに……」

「理由は本人にしか分からないけどよ、用意されたレールの上を進むだけってのも退屈と感じる奴もいるって事だ。人間より寿命が短いブレイバーなら特にな」

「そう言う考えもあるんですね」

「多分、俺たちがこれから探すログアウトブレイバーズと言う組織も、そう言った組織だ。何が起きても驚かない覚悟は必要だろうな」

「そう……ですね」


 女同士、男同士で交流を深め、旅を始めた初日の夜は更けていくのであった。






【解説】

◆ホープストーンの再利用

 ブレイバーの召喚に利用される魔石はホープストーンと呼ばれており、その欠片はブレイバーやバグの心臓部、コアと呼ばれている。本来は青透明の石だが、生命が宿ると光り輝く。それが傷付いた時、輝きが失われるが、高熱で溶かして融合させ、充分な大きさにすると再利用が可能となる。

 これにより循環資源として成り立っていて、貴重なホープストーンを不足させる事なく、各国の経済貢献とブレイバー召喚が滞る事なく行えている。それが分かっているブレイバーは、バグを倒した際にコア(ホープストーンの欠片)を回収して、ブレイバーズギルドや商人に渡している。


◆野良ブレイバー

 ほとんどのブレイバーがバグの討伐や護衛任務などの人間の安全を守る使命を遂行して生活を送っているが、ブレイバーの中にはそれを良しとしない者もいる。ブレイバーズギルド(ブレイバー国際連盟)に所属せず、自由気ままに活動するブレイバーの事を『野良ブレイバー』と呼ぶ。

 そう言ったブレイバーは、家無き放浪者、盗賊、海賊、山賊と言った存在になってしまう。

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