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ログアウトブレイバーズ  作者: 阿古しのぶ
エピソード5
124/128

124.最強を阻む者

 巨大なホープストーンが大神山にあるという情報を聞き付けたキャシーとスウェンは、その地に足を踏み入れようとしていました。

 遠くからでも見えるそれ時代が一つの山にも見える青色の巨大鉱石『大和の核』と、そこから発生している光の柱は遥か上空で拡散して国を包む結界の中心部となっています。


 その規模の大きさにスウェンは感動していました。


「まるでホープストーンで出来た山じゃねえか……あれだけ大きければ百人は狭間に行ける大きさ。世界にこんな物がまだ残っていたなんてな」

 と、希望に満ち溢れた声をあげこう続けます。


「それにホープストーンから巨大な結界を生み出す技術。どうやってるのか分からないが、戦争利用できる代物だ。なぜこれが今まで外国に流出していなかった……」


 ブツブツと独り言を呟いたスウェンは、未だに狐面で顔を隠し物言わぬキャシーに話し掛けます。


「一緒にアレで狭間に行こう。向こうでシュレンダーが俺たちを待ってる」

「…………」


 やはりキャシーは何も答えません。しかし、スウェンの指示や提案に逆らう事なくここまで行動を共にしてくれた事から、彼女もあの森林に囲まれた巨大ホープストーンに用がある事は違いは無いようです。

 二人の視界に立ち入り禁止を示す立て札が見え、この大神山の事を教えてくれた農民の言葉をスウェンは思い出します。


『あそこは神将様がお守りになってる神聖な土地だべ。絶対に中に入ろうなんて考えんなや』


 そう忠告されました。


「この先に何かがいるらしい。注意して進むぞ」


 スウェンがそう言うと、キャシーは手で止まるように指示しました。


「どうした?」


 キャシーは八本の浮遊黒刀と、一本の長い黒刀を手の内に召喚して戦闘態勢に入りながら、手振りでスウェンにここで待つように伝えます。


「待て、一人で戦う気か?」


 彼女は頷きます。


「俺も……」

 と、同行する旨を伝えようとしたスウェンでしたが、先日の彼女が見せた殺戮を思い出し考え直します。


「分かった。気をつけろよ。終わったら必ず迎えに来てくれ。ここで待ってるから」


 スウェンはその場に座り込み、キャシーは浮遊して立ち入り禁止の区域へと踏み入れます。

 すっかり日も沈んだ夜の山、キャシーがしばらく空中を進むと、開けた場所に男が立っているのが見えたので、ゆっくりと降下して少し離れた所の地に足を着けます。


 まるでここでキャシーが来るのを待っていたかのように、仁王立ちで立っている男。白を基調とした煌びやかな全身鎧にフード付きの薄汚れたマント、金髪の髪に青い瞳、手元には地面に突き立てられた大剣があります。

 男は真っ直ぐな目でキャシーを見つめ、話し掛けてきました。


「ここが禁足地と知っていて入って来ましたか」

「…………」

「私は十二神将の甲斐(かい)。ここで会ってしまったからには、貴女を退治しなければなりません。それが私達がこの世界で任されたお役目です」

「…………」

「戦う前に、お訊ねしましょう。大和の核に何用でしょうか。誰の命令ですか」

「…………」

「答える気はありませんか」


 甲斐は剣を地面から抜き、構えます。


「私の中に眠る夢世界の先代勇者達の誇りと共に、今一度、悪を斬らせていただきます!」


 そう決め台詞を吐く甲斐でしたが、直後、遠くから放たれた遠距離光線弾一発がキャシーの死角から襲い掛かります。

 頭に直撃して蹌踉めくキャシーでしたが、倒れませんでした。それに百メートルほど離れた場所でスコープを覗いていた女も驚きます。


 驚いていたのは甲斐も同じでした。彼はこれから正々堂々と戦おうとしているところに水を差された事に不快感を感じていたのです。


懺悔(ざんげ)か! 余計な事を!」


 そう言いながらも甲斐は前に前進、疾走しながら術を使います。


「詠唱省略! 《勇儀(ゆうぎ)の二十八・聖縛(せいばく)》ッ!」


 キャシーの足元に動きを制限する魔法陣が現れ、彼女が行動を封じます。


「唸れ《王者の剣》ッ!」


 甲斐の剣が眩い光を放ち、そして圧倒的な威圧感と共に飛び込んで斬り掛かります――――


「なにっ!?」


 強力な行動封じの魔法陣が音を立てて消滅し、さらにキャシーが手に持つ黒刀が甲斐の重い一撃を止めました。しかも片手です。

 轟音と共に周囲の木々が薙ぎ倒されるほどの衝撃波が広がりました。


 キャシーの周りに浮遊していた八本の黒刀も展開して、戦闘を開始。キャシーの反撃が始まります。

 甲斐も負けじと応戦し、激しい斬り合いが始まりました。キャシーの合計九本の刀による攻撃は手数が多いですが、甲斐は反射神経でそれに反応して防ぎ、斬り返しますがキャシーもそれを刀で防ぎます。


 二人はあちらこちらに移動して斬り合い、木々を倒し、岩が砕け、地面に亀裂を入れました。

 衝撃波の発生源は移動して、鉄の衝突音が響きます。


「《セイクリッドランス》ッ!」


 甲斐の術により光の槍の雨が空から降り注ぎますが、キャシーはそれを全て弾き返します。

 今度はキャシーがその攻撃方法を真似たかのように浮遊する八本の刀を飛ばし、甲斐もそれを剣で弾きました。


 間髪を入れずに詰め寄ってくるキャシーに対し、最初は勢いがあった甲斐も防戦一方となりつつありました。


(この女、速いッ!)


 夢世界でも見たことが無い大地をゆさぶるような圧迫感と、まるで自身が赤子のように遊ばれていると感じた甲斐は焦りを見せました。

 先ほど長距離狙撃をした十二神将の女武士・懺悔が援護狙撃を連続で行いますが、浮遊した黒刀が何発か弾き、キャシー本人も首を傾けて回避。完全に見切られています。


 その隙に甲斐は距離を取り、頭から血を流しながら言いました。


「私は人々の想いを受け継ぎ、世界を救った勇者! 私の存在を! 私の誇りを! そんなデタラメな強さで愚弄しないで頂きたい!」


 彼は左手を突き出し、切り札となる術を発動します。


「詠唱省略! 《勇儀の秘奥(ひおう)・セレスティアルスターソード》ッ!」


 巨大な魔法陣。そこから巨大な光の剣が飛び出し、キャシーに向かって一直線に突撃します。

 全ての悪を貫き、世界に平和をもたらす剣。甲斐が夢世界で人々を苦しめた破壊神の心臓に突き刺しトドメを刺した切り札。多くの仲間の犠牲を経て会得した最終奥義。


「これで終わりです! 消えてください!」


 キャシーを押しつぶしてしまいそうな巨大な光の剣が、轟音と地響きと共にすぐ目の前まで迫って来ても、キャシーは平然と立っていました。


 次の瞬間、光の剣がピタリと止まります。


 セレスティアルスターソードを防がれるという経験を一度もした事がない甲斐は、信じられない光景に目を疑います。あまりにも現実とは思えない光景に言葉を失い、目が釘つけとなってしまいました。

 キャシーは、片手でソレを止めていたのです。手に持っている刀で受け止めるでもなく、黒く染まった手の平でその強力な光の剣を受け止めていました。そして物体を超能力で空中操作するように、光の剣を弾き返し、空中で爆散させます。


「有り得ない! 何なんですか貴女は!」


 焦りを見せる甲斐。相手が猛者であると見極め、地形すら変える自身の最終奥義を出したはずでしたが、それを軽々と防がれてしまった事は、彼にとって恐怖そのものでした。

 しかし甲斐は戦意を失った訳ではありません。再び剣を強く握り、迫るキャシーを迎え討とうとしました。


 そこから甲斐が心臓を刺されるのは、時間の問題だったといえましょう。


 丘上から援護狙撃をしていた懺悔は、長距離ブラスター銃のスコープ越しに戦況を見守っていました。

 甲斐が激闘そいていましたが、ちょうど木々によって射線が切れてしまい、状況が掴めなくなっています。


(相当な手練れね。戦況はどうなって――――ッ)


 移動する為に匍匐姿勢から立ちあがろうとした懺悔でしたが、先ほど甲斐とキャシーが戦っていた方向から電磁気力によって発射された弾丸が飛んできて懺悔の上半身を吹き飛ばしました。

 懺悔の下半身が崖を転げ落ちながら消滅します。


 遠くで狙撃していた十二神将の懺悔を仕留めたキャシーは、コアが破壊され消滅を開始した甲斐を蹴り飛ばし地面に転がします。

 すると今度は大きな影がキャシーを覆い、彼女が上を見るとそこには迫る巨大な岩がありました。


 キャシーが岩を真っ二つに一刀両断すると、岩と岩の間から褐色肌で上半身裸の男が現れます。


「ゴートゥーヘル!」

 

 男の拳がキャシーに直撃して吹き飛ばされます。何本かの木を折って、勢いが収まったところで体勢を立て直すキャシー、

 そこへさらにビームソードを持った男が横から飛び込み斬りをして来た為、黒刀でそれを受け止めますが、男は超能力による見えざる力でキャシーを更に吹き飛ばします。


 キャシーは吹き飛ばされながらも浮遊黒刀を飛ばしてビームソードの男を攻撃。男はビームソードを回してそれを軽々と弾き、即座に前進して追いかけます。

 追い詰められるキャシーは、更に上空から降り注ぐクリスタルウェポンや、マグナム弾による四方八方から迫る追撃を回避して、浮遊することで空へと距離を取ります。


 しかし、空には黒い翼を羽ばたかせた男が待ち伏せをしており、悪魔を具現化したような男が禍々しい鎌で斬り掛かってきました。

 空中でキャシーと激しい斬り合いを繰り広げ、八本の浮遊黒刀が悪魔の男を包囲し動きを止めます。が、今度は光が束となって上空から降り注ぎ、超広範囲を攻撃する術がキャシーに迫ります。


 多勢に無勢。先ほど倒した甲斐同等かそれ以上の強さを持つ十二神将がその場に集結していました。

 複数の襲撃に対応したキャシーは最後に神の雷とも思える強力な攻撃を浴びせられ、跡形も無く消滅させられたと思われました。


 最後の一撃により大神山で火災が発生している中、キャシーはほぼ無傷でそこに残っていました。浮遊黒刀を自身のところまで戻し、前方に集まる九人の十二神将を狐面越しに睨み付けます。


 先ほどの褐色肌で拳を武器としている男、光るビームソードを片手に持った男、黒髪で何も持たず軽装の青年、サングラスに葉巻煙草を加えマグナム銃を持っている男、黒い翼と鎌を持つ悪魔のような男、如何にも魔術を得意としていそうな立派な杖とローブを身に纏っている男。

 黒と青色の髪の長い少女、レーザーポインター付きのサブマシンガンを手に持ち左腕と左目がサイボークとなっていてタクティカルスーツを着た女、何処か異世界の学生の制服姿で細剣を持つ少女。


 男六人、女三人の十二神将が、キャシーの前に立ちはだかっています。

 すると黒と青の長髪の女が前に出て来て、キャシーに話し掛けてきました。


「もうやめましょう。私は命の尊さを知っています。ここで無駄に争わずとも、共存の道はきっと――」


 タクティカルスーツの女が出て、言葉を遮ります。


「我々の任務はこの場の絶対死守。生かして逃せば見えない敵に手の内を晒すようなもの」

「ですが、戦わずに済むのであれば、貴重な仲間を失わずに済みます」

法玄(ほうげん)に感化されたか? しっかりしろ」


 次にビームソードを持ってる男が言いました。


「あの女武士からは邪悪な気配を感じる。この国の者では無い……夢世界も我々と同じか……とにかく得体の知れない武士だ。迂闊に近付かない方が良い」


 サングラスの一番前まで出て来て、半笑いしながらキャシーに話し掛けます。


「黒い姉ちゃん。何処の家来だ? 天瀬(あませ)か?」

「…………」

「ここが何処で、誰に喧嘩を売ってるか、分かっているか?」

「…………」

「たまにいるんだよな。お前みたいな命知らずの武士が。腕試しのつもりなのかもしれないが……俺たちは特別な武士。全員が夢世界で百戦錬磨の英雄、神殺しだっているんだ。俺の言っている意味が分かるか?」

「…………」

「ちっ、こいつもだんまりか。俺たち全員を相手に、勝つつもりかよ」


 やはりキャシーは何も言わないまま、浮遊黒刀を自身の背中で円形にゆっくり回転させ、そして刀を両手に構えます。ここに来て初めての構えを見せた彼女に、何かオーラが纏い、威圧感が増します。

 空気をピリピリと振動させ、周辺一帯の重力が強くなったかと錯覚する気配。凄まじい殺気。


「何か来るぞッ!」

 と、褐色肌の男が叫びます。


 次の瞬間、キャシーが四人に分身しました。八本の浮遊黒刀も十六本に増加。

 その全てから向けられる殺気と威圧に、十二神将達はこれが単なるハリボテでは無いことを悟ります。全員が武器を構え、戦闘体勢に移行。


 タクティカルスーツの女が手榴弾を三つ同時に投げながら、

「状況開始! 全員散開! 怒喜(どき)、領域結界を頼む!」

 と、指示を出しサブマシンガンを乱射。


 キャシーが弾丸を斬り防ぐ中、手榴弾が空中で爆発。爆発で砂煙が巻き上がる中、ローブの男が杖で領域結界を発動。術者を中心に景色が変わり、山中ではなく複数の巨大な扉だけがある殺風景な場所へと戦場が移る。

 景色が変わる中、八本の浮遊黒刀を円盤カッター状に回転させた凶器が四つ、砂煙を突き破り接近。十二神将の九人はそれを回避しながら散らばります。


 タクティカルスーツの女は銃弾を撒き散らせながら黒と青の長髪の女の手を引いて後退、タクティカルスーツの女がステルス迷彩装置を起動させて姿を消しました。

 入れ替わるようにビームソードの男と細剣の学生女が前に出て、次の攻撃に備えます。


 四人の狐面が砂煙から飛び出し、それぞれが別々に激しい攻撃を開始。

 今、特別な武士とされる九人の武士と、四人のキャシーによる戦いの幕が切って落とされました。十二神将達は決して弱い存在ではありません。そして十二神将達が有利に戦える結界の中で、狐面の彼女は臆する事なく立ち向かったのです。






 その頃、ヤマトから遠く離れた場所、オズロニア帝国と新エルドラド王国の国境でも激しい戦闘が起きていました。

 新エルドラドのバグ軍の進撃が一時オズロニアの首都まで及びましたが、ケリドウェンの敗北を切っ掛けにオズロニア軍の反撃の勢いが増す事となりました。


 文明力の高いオズロニアは、ブレイバー部隊と機械兵器ガンドール部隊を中心に蒸気機関銃を武器とした兵隊がバグ軍を押し返しました。

 オズロニアの兵力はおよそ十万。二十の軍団がブレイバー、機械兵器、騎兵隊、銃歩兵隊などに分かれ、数で勝るバグ軍団を逆に追い詰めていきました。クロギツネも幾度となく戦いましたが、数で対抗され撤退を余儀無くされました。


 首都が包囲されていた状態から、国境付近まで追い詰めるに至ったのは、若き軍師、オズロニア帝国第二皇子で帝国宰相のシュゼルクス・ウル・オズロニアによる戦略指揮も大きく貢献しています。

 モニターに囲まれた狭い部屋で、戦場を映す地図の上でチェスの駒を動かしており、その補助として帝国第二皇女、ミイラ・ネイ・オズロニアが敵軍の駒を動かします。


 戦況をコントロールしていたシュゼルクスは、国境付近で進軍が停滞してしまっている状況を見てこう言います。


「北から押せば前もってそこに兵力を集中させ、誘き出そうにも釣られず、伏兵も奇襲も役に立たない。まるでこちらの動きが読まれているようだ」

「貴方以上の指揮官がバグ軍にいるの?」

 と、ミイラ。


「ロウセンとあの空の魔女を従えている事を考えれば、そうなんだろう。意志を持った大群は厄介だな。それに空の魔女もあれから動きが無いのも裏がありそうだ」

「こちらも兵糧と弾薬がもう少ないわよ。そろそろ士気低下を懸念するべきじゃないかしら」


 しばらく考え込むシュゼルクスでしたが、手に持っていたルークの駒を中央に置き、他の置かれていた駒を両サイドに移動させながら言いました。


「読まれているのなら、小細工はしない。北と南に兵力を集中させ、中央をドール小隊とエリートブレイバー中隊で突破。一気に敵大将を狙う。これが最後の一手だ」

「勝負に出るのね?」

「ああ、これで少なくとも国境の外に追い出す事はできるはず」

「空の魔女はどうするの?」

「ブレイバージェイに自由行動させる。彼なら空の魔女の気を引き、あわよくば仕留めてくれる」

「了解。私はクティオスドールの修理に回る。相手に反撃の隙は与えないわ」

「助かるよミイラ」


 ミイラはシュゼルクスの額に軽く口付けをして、部屋を出ていきました。






 戦場が一望できる山頂付近で、ブレイバーロウセンの左肩に座って戦況を見守るブレイバーケリドウェンがいます。反対側の右肩には合流したダリスが立っていて、一緒に激しくぶつかり合うオズロニア軍とバグ軍の戦闘を見ていました。

 ケリドウェンは手元に置いていたティーポットを手に取って。カップに少し緩くなった紅茶を注ぎながら言いました。


「皮肉なものですわね。バグに対抗できるあれほどの軍事力があるのであれば、人類の希望でしょうに」

「文明レベルが数段上じゃないか。ケリドはアレと戦ったというのか?」

「危うく死にかけましたわ」

「どちらが世界征服の権利を得るか……今、私たちが見せられてるのは、そんな戦争だ」

「そうですわね。エルドラドの元お姫様も、よく粘ってると褒めるべきかしら」


 ダリスは険しい表情で、オズロニア軍の大きな動きとそれに対応するバグ軍の動きを見据えながらこう語ります。


「戦術としてはまだ未熟だ。未来予知の目で先読みはできていても、ただ相手の動きを封じているだけに過ぎない。ここまで押し込まれてるのが良い証拠だな」

「ダリスが指揮を取れば勝てると?」

「そうは言っていない。ただ……」

「ただ?」

「従えてるのが意思無きバグだからこそ何とかなっているが、人間やブレイバーであればもう負けてる戦いだ」

「……オズロニアには優秀な指揮官がいるようです。オズロニアの指揮官はそろそろ気付いてるでしょうね。相手の指揮官の能力に」


 二人がロウセンの肩の上で話し合っていると、ケリドウェンの背後に突如として人影が現れます。

 躊躇無く振り下ろされる大鎌。背後の死角から迫る刃をケリドウェンは振り向く事なく、平然と紅茶を口に運びながら盾を宙に盾を召喚して受け止めます。


 突然後ろから襲い掛かってきた赤頭巾のブレイバールビーでした。彼女は引き攣った笑顔でケリドウェンに話しかけます。


「どうして貴女がこんな所にいるのかしら」

「あら、来たのね」

「あら、来たのねじゃないわよ! バグの仲間として戦うんじゃなかったの」

 と、ルビーは手に持った大鎌を引いて、ケリドウェンの横に立ちます。


「待機命令が出ていましてね。穏やかな高みの見物をさせて貰ってるところですわ」


 ルビーは先で行われてる集団戦を見つめ、眉間にシワを寄せながら言います。


「まさかバグがここまで押されてるの?」

「ええ。良い勝負……といった所かしら」

「何があったのよ」

「……空の魔女を手玉にする戦力を人類が持ち合わせていたわ」

「なによそれ。笑えないわね」


 すると、黙って戦況を見守っていたダリスが何かに気づき口を開きました。


「相手が仕掛けてくるぞ。手薄になった中央に主力部隊が来る」


 その言葉に、ケリドウェンとルビーは会話をやめて戦場を注視します。


 最前線にまで出ていた帝国第五皇子ラタトウス・ネイ・オズロニアが、四足歩行自律戦闘機械兵器ガンドールの隊長機から身を乗り出して号令をしています。


「今が好機! ブレイバー隊! ガンドール隊! 突撃せよ!」


 壊れたガンドールやオズロニア軍兵士の死体が転がる戦地、戦火により荒れ果てた進路を突撃するのはガンドール五十機と、見るからに強者感のあるブレイバーが三十人ほど。遅れて銃を手にした歩兵が百人ほど続きます。

 対するは、百体あまりのバグ集団と、ヴァルキリーバグ及び、零の始皇帝の近衛でもありヴァルキリーの十三槍でもある一番から三番の騎士です。


 ヴァルキリーバグは上空から火の玉を降らせて空中爆撃を行う中、三番の女騎士が津波を起こし、二番の女騎士が雷を纏った剣でガンドールと対峙、一番の男騎士が剣を振るうと敵のブレイバーが消し飛ぶ姿が見えます。

 ケリドウェンは十三槍の一番、二番、三番が戦っている姿を初めて見ました。相変わらず数字の描かれた兜で顔は隠していて素顔は分かりません。しかし、ケリドウェンは一番の戦い方やその容姿に既視感を感じておりました。


(あれは……)


 そんな時、ケリドウェンはもう一人気になる存在がオズロニア軍側のブレイバーにいる事に気が付きます。

 尻尾付きの漆黒の鎧を見に纏い、武器は何も持たず拳だけでバグを殲滅している男騎士。十三槍の騎士とは対照的な鎧で、こちらも兜で顔を隠し、凄まじいオーラを放ちながら大暴れしている者がいたのです。


 漆黒鎧の男は戦いながら叫んでいます。


「空の魔女ォォォォ! 出てこい! 俺はここにいる!」


 明らかに目立っているその漆黒鎧の男に、近くにいた二番の女騎士が勝負を挑みますが、二番の女騎士の魔法剣が彼に届く事叶わず、スピードで圧倒されて強烈なパンチで二番の女騎士が吹き飛ばされる結果となりました。

 地面を転がる二番の女騎士に、三番の女騎士が駆け寄り治癒魔法を掛ける姿が見えます。


「弱い弱い! 弱すぎる! 空の魔女出てこい! いるのはわかってる!」


 戦闘をしながら大声でケリドウェンを呼ぶその漆黒鎧の男は、オズロニア軍のシュゼルクスが差し向けたジェイという男ブレイバーです。

 その勇猛果敢な姿を見て、ロウセンの肩の上で座っていたケリドウェンは立ち上がります。


「貴女のファンかしらね」

 と、ルビーが期待に胸を膨らませたように言います。


 ケリドウェンも満更では無いようで、少し嬉しそうに微笑みながら、

「新しい玩具がわらわを呼んでいますわね。面白い」

 と、空を飛びました。


 ケリドウェンが向かう最中、ジェイは一番の騎士、そしてヴァルキリーバグにすら一撃を加えており、まるでその場にいる猛者で戯れているかのような暴れっぷりを見せていました。自分の行動の邪魔になるようであれば、味方でさえも殴り飛ばす始末です。彼はこの場において、最も戦闘力の高いブレイバーでしょう。

 その姿は狂気であり、敵味方全員が怖れを覚えジェイから距離を取ります。やがて誂え向きな戦場がジェイの周囲に完成したところで、上空からゆっくりと近付いてくるケリドウェンが彼の視界に入ります。


「空の魔女ォォォォ! 来たなァ! この時を待っていた!」

「……随分と五月蝿いハエですこと」

「さあ俺と戦え空の魔女! 俺はお前に復讐をする!」

「復讐? はて、何処かでお会いしたかしら」


 漆黒鎧の男はゆっくりと兜を手に取り、素顔を晒します。深紫色の髪、色白の肌、その目には憎悪に満ちた闘気が宿っており、ケリドウェンを睨みます。

 知り合いかと思われましたが、ケリドウェンはその顔に見覚えがありませんでした。


 男はケリドウェンを指差しながら言います。


「三十年間、俺はお前を倒す為に今日まで生きてきた!」

「三十年……では、オーアニル戦役の生き残りでして?」

「信じられないって顔してやがるな」

「いいえ、物珍しいだけですわ。今までどうやって生き延びてきたか、お話ししましょうか」

「断る! 俺が望むのはお前の消滅のみ!」


 ジェイには恨みがありました。

 彼はエルドラド軍側の人間兵器としてオーアニルとの戦いに参戦した経歴があり、エルドラドの英雄となったブレイバーゼノビアとも知り合いでした。


 空の魔女とゼノビアが死闘を繰り広げる中、火山の噴火と大地震が発生。この時、限界ギリギリで戦っていたゼノビアを助ける為にジェイは仲間達と共に空の魔女を襲いましたが、圧倒的な実力差を味わい全滅。

 ジェイは多くの仲間を失いました。ケリドウェンが放つ武器の雨が、無惨に彼の全てを奪い去って行ったのです。その中には彼が恋心を抱いていた女性ブレイバーもいたのです。もはや死を願望するほどの絶望の中で、彼は命辛辛に意識を失ってしまったのでした――――


 そして、彼が次に目が覚めると火山灰に埋もれていて、戦争よりも残酷な現場でした。エルドラド軍は天変地異から逃走し、残されたオーアニル軍はブレイバーが反乱を起こし、人間が次々と虐殺されていたのです。

 降り積もる火山灰と、それを真っ赤な血で染めるブレイバー達。それはそれは地獄絵図のような光景がそこにあり、ジェイはその場から逃げました。その際、またしてもケリドウェンが暴走するブレイバー達を一掃する姿が遠くに見えました。逃げる彼を追いかけてくるブレイバーもいましたが、ジェイは無我夢中で逃げて逃げて逃げて逃げて、灰で全身が真っ白になりながらも、オズロニア帝国の国境まで逃げ延びます。


 逃走してる時、彼はケリドウェンが無差別に殺す現場の幻覚を何度も見ました。空から武器が降ってくる感覚に怯え、恐怖に押し潰されそうになった時、自害も考えたほどでした。ですがジェイは、それができませんでした。


 ジェイは国境検問所で力付き、オズロニアの兵士に拾われます。

 オズロニアでまだ新設されたばかりのブレイバー収容所に収容されたジェイは、そこで戦争に勝つ為の訓練を受ける事となりました。


 彼は、ここに至るまでの約三十年、ケリドウェンに勝つ事だけを考えて鍛錬を重ねてきたのです。途中、幾度となく挫けそうになっても乗り越え、結晶化の症状も克服し、今この場にやって来たのです。

 そんな空の魔女との戦いに執着する彼こそが、オズロニアのシュゼルクスが持っていたケリドウェンに対抗する秘密兵器です。


 ケリドウェンはジェイが放つ凄まじい闘気を感じ取り、嬉しそうな笑顔を見せながら言います。


「良いでしょう。では、どちらの三十年が重いか、今ここで確かめるとしましょう」


 空中で召喚されるケリドウェンの千を超える武器群。ケリドウェンはそれを躊躇無く放ち、一点集中狙いで多種多様な武器を発射します。

 ジェイはニヤッと笑い、迫る武器を拳と脚で迎撃。凄まじい速度でケリドウェンの武器群をジェイが攻撃すると、武器はジェイに触れられた瞬間に消滅しました。弾かれるでもなく、叩き落とすのでもなく、消滅したのです。


 これは彼が会得したブレイバースキル。触れたブレイバーの夢世界武器や夢世界スキルを条件無く消滅させるという能力。ケリドウェンの悪夢を打ち破るに打って付けのスキルです。

 極限まで鍛え上げられた速度で動き、ケリドウェンの武器を全て叩いて消滅させていきます。


 しかし、ケリドウェンに驚く素振りは無く、継続的に武器群を放ち続けます。彼女は自身が絶対的に有利であることを理解していて、空から一方的に攻撃を仕掛けるのみでした。

 ジェイは次の手に出ます。武器群による雨のほんの一瞬の隙を突いて前進し、大きく飛躍。空中でもケリドウェンの武器を打ち消しせながら、宙に浮くケリドウェンに迫ります。


 ケリドウェンは冷静に距離を取りながら、魔法系の夢世界スキルを連発発動。落雷が落ち、光線を発射し、そして無数の火の玉も飛ばしました。ジェイはそれらを全て打ち消して、空中でブースト。流星の如く紫色の線を描きながらケリドウェンに接近します。

 勢いと速度で圧倒されたケリドウェンは、とうとう防御に入ります。シールドと複数の盾を召喚して、身の回りを固めながら両手に銃を召喚。ダブルハンドガンを発射することで応戦しますが、銃弾ですらも彼の手に触れた瞬間に消滅しました。


「俺がお前を倒す! 今ァ! 俺がァ! ここでえェェェェェェッ!」


 防御の為に召喚したシールドも盾も、全て夢世界装備。彼にあっという間に打ち消され、そして瞬間移動で逃げようとする動きを瞬間移動で追いかけたジェイの踵落としがケリドウェンに直撃しました。

 その瞬間、ケリドウェンの浮遊能力ですら打ち消され、彼女は勢いよく地面に叩き落とされる結果となります。


「まだまだァ!」

 と空中で腕に仕込んでいた装置を起動させるジェイ。


 ジェイの左手が変形して、放射口のような形になると、広げた手の平にエネルギーが溜まっていきます。

 彼の夢世界スキルとブレイバースキルを混合技。それにオズロニアの兵器技術が合わさった物で、オズロニアの首都を守るクティオスドールが放ったビームを人の規模に小型化した兵器のようなものです。


「終わりだ空の魔女ォォォォォ!」


 陥没した地面に埋まるケリドウェンを狙って放たれた眩い光線は、この世ならざるモノを全て消し去る光。ジェイのブレイバースキルを増大させ、ブレイバーという存在すら葬るであろう砲撃です。


 ――――絶体絶命のケリドウェンを救ったのはバグでした。

 状況を見兼ねたヴァルキリーバグがバグの群れに指示を出し、複数のバグがケリドウェンの盾となり消滅していったのです。


 空かさずヴァルキリーバグが火の剣で炎撃を飛ばして来たので、ジェイはそれを避けます。


「邪魔をするなァ!」

 と、落下しながらヴァルキリーバグに向けてもう一度光線を放つジェイ。


 ヴァルキリーバグはそれを避けて、攻撃を仕掛けようとジェイに向かって飛ぼうとしたその時でした。


「待ちなさい」


 そんなケリドウェンの声が聞こえ、ヴァルキリーバグは止まりました。


 ケリドウェンは服装をドレスから勝負服でもある軽装の戦闘服に着替え、立ち上がっていました。

 地面に着地したジェイは左腕の砲撃モードを解除しながら、地面に立つケリドウェンを見て嘲笑います。


「ははァっ、無様だな空の魔女。この俺に為す術なくやられる気分はどうだァ! 空から引き摺り下ろしてやったァ!」


 釣られてケリドウェンも笑います。


「ええ、血が滾る思いですわ……わらわは、別に負け知らずでここまで来た訳ではありませんの。其方のような強い相手が少ないだけで、本気を出せる相手が少ないだけで、だからこそ其方のような相手が出て来てくれるのは嬉しいですわ。少し眠気が覚めました」


 そう言いながら、久々の本気モードに切り替わったケリドウェンからは凄まじい赤いオーラが湧き出ます。

 これはかつて好敵手であった一本角の悪魔、エルドラドの英雄ゼノビアが戦いの最中に見せた事のある夢世界スキル。彼女の経験上、エルドラド軍との戦いで二度見せた姿。


 ジェイも見覚えがありました。かつてゼノビアが同じ能力を使っていたのを彼は見た事があるからです。

 その為、ジェイの中の怒りも膨れて、こう言い放つのです。


「ゼノビアの能力を使うかァッ! だがそれがどうしたァ!」

 と、先に動いたのはジェイでした。


 先ほどの攻撃で自信を得たのか、ジェイは果敢に攻めます。今度は空中では無く地上戦となり、ケリドウェンは武器や盾を召喚することなく素手で応戦。

 ケリドウェンは戦闘の最中であっても、ジェイが見せる動きを学び、ジェイが使う移動スキルをも利用し、殴り合いの攻防戦となりました。


 二人の激しい格闘戦はほぼ互角。ケリドウェンは先ほどの砲撃をもう一度使わせないように、距離を取ることを許さず、前へ前へ詰め寄ります。ケリドウェンはゼノビアオーラの力も最大限に使いこなし、段々と速度でジェイを超えていきました。

 それでも互いに素手の勝負では致命打を与える事ができず、互いに苦戦し、先に体力が尽きたほうが負ける持久戦になっています。


「消えろォおおォォォォッ!!!」

 と、叫ぶジェイ。


 心配して近くまで見に来ていたロウセン、ダリス、ルビーにも見守られる中、ゼノビアオーラとジェイオーラが競り合い、女と男が殴り合い、互いに傷付きながらボロボロになりながらの攻防戦が繰り返されていました。

 この時、ケリドウェンの天敵ともいえるジェイを前に、生き残る為に必死となった彼女は、もしかしたら私の頼みも叶えようとしていてくれていたのかもしれません。


 始まった瞬間移動の読み合いを制したケリドウェンの蹴りがジェイに直撃、ケリドウェンは先ほどのお返しと言わんばかりに空中で一回転して踵落としをジェイの脳天に直撃させます。


 そこへ彼らの戦いに感銘を受けたヴァルキリーバグが、

「これを使え」

 と、自らの剣をケリドウェンに向けて投げました。


 刀身が燃え盛る炎の剣を受け取ったケリドウェンは、それを振りかざします。

 蹌踉めいていたジェイは体勢を立て直しながら、真っ直ぐ振り下ろされる炎の剣を手で打ち消そうとします。


(俺には効かな――――ッ!?)


 ケリドウェンが持っている剣は、ジェイのブレイバースキルで打ち消す事ができませんでした。ヴァルキリーバグはブレイバーではない為、当然その武器は夢世界武器ではなく、この世界に存在する武器だったのです。

 漆黒の鎧ごと斬られたジェイは、炎に包まれながらその場に倒れます。


 仰向けに倒れたジェイの腹部に炎の剣を突き立ててジェイを動けなくしたケリドウェン。この時、ジェイの身体が有り得ない速度で結晶化を始めていました。

 そのケリドウェンですら見た事のない異様な現象を前に、彼女は空中に浮遊して再び千の武器群を召喚しながら、こう言い放ちます。


「その奇跡的な復讐心で耐えてみせよ。哀れな隠者よ」


 至近距離から一斉に放たれる武器群。ジェイの断末魔すら聞こえない最期は、地面に武器による華が咲きました。

 華の中で結晶化したブレイバージェイは、砕け散って消滅します。




 この時、体力をかなり消耗したケリドウェンは目眩を覚えながらも、空から周囲を見渡します。

 いつの間にか一番から三番の騎士がオズロニア勢力の兵器と兵士を粗方始末しており、残る残存勢力はこの現状に恐怖し逃走を図ろうとしていました。


 ケリドウェンは地上にいるヴァルキリーバグに、炎の剣を投げて返し、そして再び武器群を召喚します。


「……この勝利の美酒は、さぞ美味しかろう」

 と、疲弊しながらの笑みを浮かべるケリドウェン。


 部隊を指揮していた帝国第五皇子ラタトウス・ネイ・オズロニアは、恐れをなして後退命令を出していました。

 必死にこの場から撤退しようとする彼らに、千の武器群が降り注ぎます。





『シュゼルクス……作戦は失敗だ……空の魔女は止められない……帝国に栄光あれ――――ッ!』


 それが、参謀シュゼルクスの元に入ったラタトウスの最期の通信でした。


 シュゼルクスは薄ら笑みを浮かべ、

「最期まで役立たずの弟だったな」

 と、ルークの駒を指で弾いて倒しました。


 戦況は劣勢。中央部隊は壊滅し、両翼の攻めもクロギツネ率いるバグの群れに阻まれこう着状態となっていました。


「全軍に告ぐ。クティオスドールの射程圏内まで後退せよ」


 そう通信機で指示を出したシュゼルクスは、堪えていた怒りが込み上げてきたのか、盤の上に置かれた駒を乱暴に腕で払い飛ばし、頭を抱えました。

 驚異的な勢力を前に自身の未熟さを痛感し、悪戯に兵力を消耗させてしまった事で自分を責めながら独り言を呟きます。


「もはやこの戦いは敗北も無ければ勝利も無い。しかし楽園計画にはサイカの力が必要だ。次元を超越した者が……バストラ、何をしている……」






【解説】

◆スウェンとキャシー

 大和の核とされる超巨大なホープストーンを利用し、狭間への移動を画策する二人。

 スウェンは先に別世界へと移動したシュレンダー博士と合流し、世界の真実を追い求めていた。

 狐面の女・キャシーは相変わらず口を閉ざしているが、その計画に大人しく従ってくれており、狭間へ行くという利害は一致しているようだ。

 目的地であるヤマトの大神山にどんなブレイバーがいるかも知らず、無謀にも二人はそこへ足を踏み入れていた。


◆十二神将の夢世界

 通常とは異なる夢世界を持つというのは、ネットゲーム出身では無い事を示している。

 彼らは非常に稀な存在で、ネットゲーム以外の多種多様な創作物から生まれたブレイバーであり、それぞれが物語の主人公だった存在。

 ヤマトはそんな彼らを狙って召喚する技術が有り、不可侵区域を守護する目的でのみ代々その特殊召喚がされている。

 ちなみに彼らは、それぞれの体験を辿るように同じ夢を何度も見るという特性も他のブレイバーとは違う点である。作品のファンがいる限り夢世界を失う事がほぼ無い事から、恐らくケリドウェンよりも上の長寿ブレイバー達である。


◆十二神将・甲斐

 名作ゲーム『ファーストファンタジーⅢ』出身のブレイバーで、本名はアルス。ヤマトでの武士名は甲斐。

 コンシューマーゲーム作品の主人公であり、人々を苦しめる魔王を仲間達と共に倒し、闇の世界で破壊神ですら討ち滅ぼした伝説の勇者。

 完全クリア後の夢世界から召喚されていて、能力・装備・スキルも彼の夢世界では最上級の状態であった。

 しかし対峙した狐面の女に敗北し、消滅する結果となった。


◆十二神将・懺悔

 名作映画『スペースウォーズ』出身のブレイバーで、本名はシェネック・デューン。ヤマトでの武士名は懺悔。

 映画作品の中で登場するヒロインで、賞金稼ぎの凄腕スナイパー。夢世界の主人公のサポート役を最後まで務め生き延びた。

 SF作品なのでブラスター銃などの未来武器を扱い、銃の腕では一流の彼女だったが、狐面の女に遠距離から狙撃されて瞬殺された。


◆十二神将・その他

 ・褐色肌の強靭な肉体で、拳を武器としている男。

 ・光るビームソードを持ち、物体を操作する超能力も使える男・

 ・黒髪で何も持たず軽装の青年。

 ・顔に刺青が有り、サングラスに葉巻煙草を加えマグナム銃を持っている男。

 ・黒い翼と鎌を持つ悪魔のような男。

 ・如何にも魔術を得意としていそうな立派な杖とローブを身に纏っている男。

 ・気が弱そうな黒と青色の髪の長い少女。

 ・サブマシンガンを持ち、左腕と左目がサイボークとなっていてタクティカルスーツを着た女。

 ・何処か異世界の学生の制服姿で細剣を持つ少女。

 彼らは全て特別な夢世界で主役級の登場人物達であり、大神山の絶対守護をお役目として生きるブレイバー。各々が強力な戦闘能力を持っている。

 又、今回は登場しなかったが、裏切り者とされる法玄という人物もいる。


◆オズロニア帝国軍とバグ軍の戦い

 一度は首都まで攻め込まれたオズロニアはそこから反撃をして、バグ軍を国境付近まで追い返す快進撃をしていた。

 優れた文明とシェゼルクスの指揮により戦略で勝るオズロニアと、物量と零の始皇帝による未来予知で対抗するバグ軍。この戦争は、世界征服の権利を得る為の戦いであると、元オーアニル軍師のダリスは言った。


◆十三槍の一番の男騎士、二番の女騎士、三番の女騎士

 バグ軍の総大将・零の始皇帝の近衛兵である彼らが最前線に出ていたのは、それだけバグ軍も追い詰められていたという証拠である。

 今回、戦場で戦う姿を初めて見せたが、数字の描かれた兜で顔を隠しているため正体は不明。しかしブレイバーケリドウェンは、一番の騎士の戦い方や身なりに何処か既視感を感じていた。


◆ブレイバージェイ

 オズロニア軍が持っていた対ケリドウェン用の秘密兵器。

 実はドエムと同じ夢世界『ラグナレクオンライン(MMORPG)』出身のジェイは、ケリドウェンに匹敵する長寿ブレイバー。

 元々はエルドラド軍に所属していたブレイバーで、英雄ゼノビアとも面識があった。悲劇的な歴史とされるオーアニル戦役にも参加しており、その際にケリドウェンと戦い敗北した経験を持っている。仲間や恋人を全てケリドウェンに殺されながらも何とか生き延びて、オズロニア帝国に亡命しており、ケリドウェンに強い復讐心を抱きながら今日まで生きてきた。

 彼の夢世界物を打ち消すブレイバースキルが発現したのはオズロニア帝国に拾われた後の事で、その能力は正にケリドウェンの天敵と成るものだった。

 しかし彼の実態は既に夢世界を失っており、彼は狂気にも似た精神力で結晶化を抑え延命していたようで、ケリドウェンとの戦いで敗北が決定した時、有り得ない速度で結晶化する様子が窺えた。それを除けば、世界最高齢ブレイバーとされていたケリドウェンとほぼ年齢は同じである。


挿絵(By みてみん)

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