120.真実に近い国
元エルドラド王国とオズロニア帝国の国境付近にそびえ立つ大きな壁は崩壊し、周囲に何やら巨大な機械兵器が壊れたまま放置されているのが見えます。
激しく大きな戦闘があった痕跡が残りつつも、人影一つ見当たらない静かな戦場跡をケリドウェンとヴァルキリーバグは空から見下ろしながら通り過ぎていきました。
そんな時、ヴァルキリーバグはこんな事をケリドウェンに言います。
「我には理解できない。ブレイバーケリドウェン、なぜそこまで協力的になれる。あまりに易しい対応だ」
「愛しの人を守るため……と言ってしまえば聞こえが良いのだろうけど、一つ、気になる事がありましてね」
「気になる事とは?」
「エルドラド王国を数日で攻め落としてしまうほどの其方達が、何故、オズロニア帝国に手を焼いているのか、その理由にありますわ。大方、其方達はオズロニア帝国という国が、いったいどんな国なのかを理解しないまま、徒らに兵力を出しただけでしょう。人間の知恵を借りようとしないからそうなる。零の始皇帝様も、元々は上に立つには早すぎた小娘だからそうなる。力と理想はあっても、知識と経験が足りませんわ」
「難しい事だ。それで、いったいどんな国なんだ?」
「其方は、言葉が喋れるだけでなく、知識欲までもあると……面白い」
ケリドウェンはそう言って、これから戦う国の説明を始めました。
隣国のエルドラドとオーアニルが戦争状態となっている中、豊富な武力で睨みを効かせていたオズロニア帝国。当時、大厄災さえ起きなければ戦争で弱った両国に対し漁夫の利を狙っていたとも言われています。
オズロニア帝国は、独自にホープストーンからエネルギーを抽出する技術や、蒸気機関の開発により、未来的技術革新を進めていた国です。
手に入れたブレイバー召喚技術をも利用し、ブレイバーによる人間兵器部隊の設立を積極的に行っていました。他国に勝る機械兵器や砲台の大量生産と、強さで選抜されたブレイバー部隊により、実は戦争を本気で始めていたら世界征服も可能と言っても過言では無い力を得ていたのです。
しかし、オーアニルの大厄災と時を同じくして、ブレイバーのバグ化が発覚。オズロニア帝国内ではバグとの内戦が起こり、首都が一時火の海になるなど壊滅的な打撃を受けた事で、戦争どころではなくなった事から、今まで特に大きな動きを見せませんでした。
世界中を震撼させた融合群体デュスノミアバグの侵攻を受けた際、オズロニアはデュスノミアバグの弱点を最初に見抜き、勝利した国としても有名です。その際、今は亡きブレイバーエンキドの活躍があった事は、また別のお話です。
結界で退いた和の国ヤマトを除けば、世界を滅しかねないデュスノミアバグを最初に消滅させたという事実は、ただの奇跡ではありませんでした。それほどの戦力を、それほどの兵器を、蓄えていたのです。
「つまり、我々バグがいくら物量で押しても崩せない相手を見てみたいと、そう言うか」
と、ヴァルキリーバグ。
「オズロニア帝国は明らかに文明レベルで他国を優っていますわ。まともに戦争をしていたら、オーアニルもエルドラドも負けていたかもしれません。わらわは、そんな国がこんな世界で何処まで戦えるのか、その圧倒的な武力を従える皇族がどれほどの実力者なのか、興味があります」
「趣味趣向で戦争に身を投じるのか。そうやって、我の部下とも戦ったのか」
「別に、好きで戦ってる訳ではなくてよ。いずれは戦う事になるだろう相手ってだけですわ。其方、わらわに部下を殺された事、根に持っているのかしら?」
「根に持つとは?」
そのヴァルキリーバグの無垢な返答に、ケリドウェンは笑いを堪えるに至りました。
そしてこう返すのです。
「恨み。復讐心。これだけは言っておこうと思っていたのだけれど、わらわは其方や零の始皇帝様がダリスの命を落とさずにくれた恩を返す意味も込めて、協力するのであって……前線で戦っているクロギツネと仲良くするつもりはありませんことよ」
「何故だ?」
「クロギツネには、わらわの部下を殺された。わらわは其方と違い、それを許すつもりが無いと言っています。だからと言って戦おうとはしないのだけれど、隙あれば見殺しにする程度には考えていますわ」
「死んだ仲間を、大切に思っているのだな」
「わらわは、単独で戦況を判断し、動きます。そちらの作戦には従いませんわ。それでも充分でしょう?」
「分かった。我だけでも、なるべくお前の援護をしよう」
「余計なお世話ですわ」
やがて見えて来たのは待機中のバグの大群。その先に大きな鉄の壁に囲まれた巨大な都市がありました。
侵攻するバグ群と、争うオズロニア帝国の兵器。飛び交う砲弾と銃弾の嵐と、時よりブレイバーが放ったと思われる魔法もあり、バグの多くは壁に辿り着く前に消滅に至っており、強固な守りが立ちはだかっていました。
その様子を戦場を見下ろすように、高台から見下ろしているのは侵攻作戦の指揮を取っているクロギツネの五人。全員がプロジェクトサイカスーツを装着して臨戦態勢であるものの、その姿は傷だらけであり、ブレイバーオリガミに至っては脚や腕を負傷しているらしく、ブレイバーミケに応急手当を受けているところでした。
そんなクロギツネ達の上空を澄ました顔で通り過ぎ、戦場へと向かって行ったのはケリドウェン。そしてヴァルキリーバグは降下して、クロギツネと合流しました。
「状況を」
と、ヴァルキリーバグがブレイバーアマツカミに問います。
「飛行バグは壊滅。地上バグも損害は甚大。今の戦力ではここまでが限界だな。あの壁を越える事はできない」
「壁の向こうを見たか?」
「空から攻めた結果、ご覧の有様だ。奴ら、ブレイバーだけでなくバグに対抗できる兵器がある」
「そうか。こちらの戦闘は決着し、今、第二陣がこちらに向かっている。総力戦だ」
「……何故、あのブレイバーがここにいる」
そう言うアマツカミの目線は、最前線に飛んでいくケリドウェンの背中を見ていました。
ヴァルキリーバグは説明します。
「取引の結果、今は味方だ」
「味方? いったい何をしたんだ」
一方で、鉄の壁の上から機関銃や砲台で応戦しているオズロニア兵達は、空中を進行してくるケリドウェンの姿を目視で確認していました。
沈む夕日を背に、ゆっくりと接近してくるドレスの女。その光景を見た者は、誰もが自身の目を疑いました。
「何か来るぞ!」
と、兵の一人が叫び、壁の防衛部隊が騒がしくなります。
「また奴らか! 懲りずによく来る!」
「いや、何か違う……ドレス……女……あれは……別のブレイバーだ!」
「相手は一人だ! 撃ち墜とせ!」
ケリドウェンに向かって放たれる無数の弾。しかしケリドウェンは盾を複数召喚して、それらを防ぎ、防ぎきれない盾は全身を丸く包む魔法障壁で弾きました。何も通さぬ鉄壁の守りで、悠々と前進して来ます。
更に得意の武器群を召喚したケリドウェンは、武器の雨を降らせ、生身のオズロニア兵達を瞬殺していきました。
しかし、壁の上に現れた動く四足歩行の機械兵器には、武器群による攻撃が通用しませんでした。
硬く分厚い装甲に武器が刺さろうとも、装着された砲台から次々と砲弾を放って来る機械兵器を前に、ケリドウェンは少し驚いたような表情を見せた後、戦法を切り替えます。
ケリドウェンが放ったのは、大量の火の玉。しかし、機械兵器の装甲は魔法にも耐性があるようで、あまり有効打にはなっていません。
次にケリドウェンは、小隕石を落とし、壁諸共の破壊を試みます。壁は崩壊、機械兵器も吹き飛ばし、大きな突破口を開く事に成功しました。
「な、なんだこいつは!」
と、腰を抜かし戦意を失っている兵士に対して、ケリドウェンは無慈悲な一撃を加えます。
隕石による攻撃から逃れた機械兵器達は、ケリドウェンから距離を取る為に後退を開始したので、ケリドウェンは追いかけるように壁の向こう側へと侵攻します。
壁の向こうで、上空からオズロニア帝国の都市を一望したケリドウェンは、異様な光景を見る事となりました。
鉄と混凝土で出来た建造物に埋め尽くされ、至る所で登る白い煙、夜に備えて灯された色取り取りの蛍光灯の光、そして線路の上を機関車が走り、道路の上を自動車が走行しています。
非常事態を知らせるサイレンの音が鳴り響き、各所に設置された監視塔からスポットライトがケリドウェンに向けて照射されます。
そして待ち構えていた機械兵器が約五十機、一斉にケリドウェンを包囲して、攻撃体勢となります。これが、先に空からの侵攻を試みたクロギツネ達を阻止した彼らの圧倒的な戦力になります。
しかし、ケリドウェンはそんな危機的状況であっても冷静で周囲を観察していました。地上ではケリドウェンを見て逃げ惑う人々がいて、完全武装の兵士達が銃を構え、そして各所にブレイバーと思しき人影もあります。ブレイバーはさておき、明らかにケリドウェンが新たな人種を目撃した感覚がありました。
そして何よりもケリドウェンが気になったのは、遥か遠く、この巨大都市の中心部に当たる場所にある大きな影。最初は城にも見えましたが、そうではなく、人の上半身に近い形状をした巨大な機械兵器があったのです。まだ稼働はしていないものの、二百メートルはありそうな巨大兵器が聳え立っているのです。
そんな異様な光景を前に、ケリドウェンは呟きました。
「世界の真実に最も近い国かしら」
と。
すぐに始まるケリドウェンに対する一斉射撃。ケリドウェンはそれをすいすいと避け、武器群による雨を再び降らせると、両腕から強烈な電撃を放ちながら移動を開始します。それは雷神の如く、突き刺した武器を避雷針にして、次々と周辺の機械と人間を無力化していきます。
羽根付きのブレイバー達が空を飛び襲い掛かってくるも、何者も寄せ付けぬ大量の武器群がケリドウェンを守り、そして電撃による予測できない攻撃が敵ブレイバーを撃退しました。
無限の夢世界武器と夢世界スキルを使い、空を侵攻する女ブレイバーを見て、それが何か気付く者達が現れました。
「まさか……オーアニルの空の魔女なのか! なぜここに!」
と、顔を真っ青にしたのはオズロニア軍の将校でした。すぐに耳に装着している通話装置を使い、周辺部隊に指示を出します。
「全部隊に告ぐ! 怯むな! 全力で撃ち続けろ! ブレイバーの力は無尽蔵ではない!」
その頃、都市の中央にある巨大兵器の下にある施設内では、ケリドウェンの襲来により慌ただしい雰囲気となっており、立派な軍服に身を包んだ皇族達が皇帝の元に集まって来ていました。
皇帝の間で、椅子に座っている中老の男性はオズロニア帝国第三十九代皇帝、ルドラー・ビス・オズロニア。その横に立っているのは、第一オズロニア帝国皇妃のマリー・ウル・オズロニア。
その他、軍部に属し皇位継承権を持つ皇子や皇女が二十名ほど集結しており、この緊急事態に際して状況報告とそれぞれの意見と意向を述べていました。
帝国の象徴といえる存在のルドラーは、しばらく黙って聞いていましたが、まとまらぬ意見に不満げな表情を浮かべ、やがて人差し指で椅子の肘掛を叩くと、騒がしかった場が瞬時に凍りついたかのように静寂となりました。
ルドラーは言います。
「エルドラドが堕ち、ブレイバーがバグの群れを連れて来たと思えば、次はオーアニルの亡霊か。ヤツが言っていた通りになったという訳か。レクスはとんでもない置き土産を残していきよった」
すると一番手前に立っている皇子の一人が発言します。
「陛下、此度の事態、このラタトウスにお任せください。私であれば、必ずや夜明けまでに空の魔女を撃退してみせましょう」
「……帝都内で起きる戦闘について、統括指揮はシュゼルクスに一任している」
「しかし!」
「問題は亡霊に破壊された南シュルーゼル区の守護壁にある。このままでは外にいるバグ共が雪崩れ込んで来るのは必然。壁の修復及びそれまでの陣頭指揮をやってくれるか、ラタトウス」
「この私が……ですか」
「なんだ、不満か」
「……いえ」
と、下唇を噛むラタトウス。
ルドラーは不服そうなラタトウスの様子に気付きながらも、続けて言いました。
「ブレイバーの流行り病を耐え、デュスノミアバグをも撃退した我ら帝国は、今再び大きな災厄を迎えている。だが、あの日とは違う。この日を待ち侘びていた。愚かにもバグに滅ぼされた諸国と我々とでは、格が違う。覚悟が違う。亡霊共々、王を失った残党など恐るるに足りん。我らの勝利に揺らぎはない。マフネス・オズロニア」
『マフネス・オズロニア!』
皇帝の言葉に続いて出た喝采の後、解散となりました。
各自が急ぎ足に自分の持ち場へと向かう中、悔しくてたまらないという顔つきで歩くラタトウスという青年。その後ろから一人の女が話し掛けます。
「そんな態度を見せているうちは、あいつは超えられないわよ」
そう言うのは、帝国第二皇女のミイラ・ネイ・オズロニアでした。
ミイラはラタトウスの肩をポンと叩いて励ますと、そのまま颯爽と歩き出し、通話装置を片耳に装着。通信を繋げるや否や通信相手の男が質問を投げて来ました。
『ミイラ。父上は何と?』
「レクスの置き土産には必ず勝てと。オーアニルの空の魔女が来たというのは本当?」
『どうやら本物のようだ』
「なぜ……まあいいわ。戦況はどうなってるの」
『クティオスドールの起動が必要になる』
「本気? 相手は一匹よね?」
『切り札は出してこそ切り札なりうる。相手が誰であろうとね』
「分かったわ。配置に付く」
『行動が早くて助かるよ。ミイラ』
ミイラは階段を登り、吹き出す蒸気を潜った先に、クティオスの最終調整を兵器管理の作業員達が行っている場所に到着しました。
動力部の整備をしている機械工長を見つけ、ミイラは声を掛けながら操縦席へと足を運びます。
「クティオスは動かせる?」
「またですか。調整は済んでますが、エネルギー砲の最大出力は出せませんぜ」
「ブレイバーを一匹、消炭にするだけよ。エンジン起動!」
と、ミイラは操縦席にある各スイッチを入れ、電源を入れると外部映像がモニターに映し出されます。
オズロニア帝国が誇る革新的技術。それは燃料を燃焼させ発生した蒸気をエネルギーに変換する蒸気機関技術による機械仕掛けの道具や兵器から始まり、近年ではホープストーンからエネルギーを抽出し、より高度な機械技術になります。
先ほどからケリドウェンと戦っている機械兵器・ガンドールは、蒸気エネルギーとホープストーンエネルギーを併用したオズロニア工廠製、自律戦闘機械兵器の量産機。四足歩行で対バグ滑腔砲を標準装備し、小回りの利く次世代兵器であり、搭乗者数は一人。この兵器は多くのシリーズに派生して様々な機械兵器が開発されていますが、今のオズロニアではガンドールが主流の兵器となっています。
そして、ミイラが搭乗したクティオスドールは、帝都の中央に聳え立つ超巨大な人型機械兵器です。人型とは言っても、上半身だけで、それ自体が固定要塞であり城でもある巨大建造物になっており、移動はできません。動力源はホープストーンの欠片を集め溶接した巨大ホープストーンであり、各所に様々な武装が搭載されていますが、何よりも目立つのは両腕にはる巨大エネルギー砲になります。ホープストーンエネルギーを変換して放つその武装が、帝都の外に向けて放たれれば一面が焼け野原になる強力な兵器です。
その頃、モニターに囲まれた狭い部屋で一人、外の様子を映像越しに目視しながらテーブルの上に置いた帝都全域の地図の上で駒を動かす青年がいました。
オズロニア帝国第二皇子で帝国宰相のシュゼルクス・ウル・オズロニア。彼は先ほどまでミイラと通話していた男で、政治、軍事的策略と決断力を兼ね備え、次期皇帝に最も近い存在です。
シュゼルクスは僅かな笑みを零しながらも、クイーンを示す駒を移動させ、周囲にあるポーンの駒を除外し、そして新たなポーンの駒でクイーンを包囲します。
「シナリオ通りであれば、今頃ブレイバーサイカが来るはずだった。バストラめ、しくじったか。それとも……オーアニルの魔女、お前が代わりとなるか。いいだろう」
と、ナイトの駒を取り出し、二方向から挟み撃ちにするように配置しながら通話で指示を出します。
「クティオスが動く。スレイブとラクシオンは直ちに出撃せよ。敵ブレイバーをシュルーゼル工業区に誘導。残存ガンドール隊は悟られぬ様に砲撃は継続し前に出るな。工作隊はシュルーゼル大煙突に爆薬を仕掛け待機。ここで仕留めるぞ」
そう言い切った後、手慣れた手付きで駒の移動を済ませたシュゼルクスは、ほくそ笑みました。
「さあ、どうする」
暴れるケリドウェンに向け、飛び出したのはブレイバーロウセンと同じ、人型の巨大ロボットのブレイバーでした。しかも二機で、黒のボディがブレイバースレイブ、青のボディがブレイバーラクシオンです。
ブースターを吹かせ、勢い良く飛び出した二機のロボットは散開し、前方に見えるケリドウェンを挟み込むように飛行します。
ケリドウェンは新手が来た事に気付き、一旦武器群を消し、ロウセンのシールドを召喚。
更に先手必勝、ケリドウェンの両腕から光の光線が放たれ、スレイブとラクシオンに攻撃を仕掛けます。
ケリドウェンの攻撃を避けた二機は、手に持っているビームライフルで反撃。ケリドウェンはそれをロウセンシールドで防ぎます。
そこから二機のロボットと、一人の女性ブレイバーによる激しい空中戦が繰り広げられ、ケリドウェンはまるで遇らうように動き回りました。スレイブがサーベルで斬り掛かり、ラクシオンが肩にあるミサイルポッドから誘導小型ミサイルを連射。それに対し、ケリドウェンはロウセンシールドで防御しながら自身も高速で移動し、火、氷、岩、雷、光、あらゆる色の夢世界スキルで対抗します。
ミサイルが空中爆発する中、ケリドウェンはスレイブと同じサーベルを召喚して、それをスレイブの胴体に突き刺しました。ケリドウェンはスレイブが使用していた巨大なサーベルをそのまま模して、その規格外のサーベルを対抗武器にしたのです。
これにはスレイブも驚き、刺されたサーベルを抜きながらケリドウェンから距離を取りました。
そこへ地上にいた機械兵器ガンドール隊の砲弾が撃ち込まれましたが、ケリドウェンは悠々とそれを回避。反撃として落雷を落とし、ガンドール数機を破壊した事で、ガンドール隊も後退します。
ケリドウェンの視線がガンドール隊に向けられた隙を狙い、ラクシオンがバズーカランチャーを発射。しかし、ケリドウェンは手にハンドガンのデザートイーグルを召喚し、その銃弾でロケット弾を空中で爆破させました。
「機械との戦闘もまた一興」
と、ケリドウェンは見開いた目に異様な光を宿しています。
ケリドウェンが次に取った行動は、先ほど利用したスレイブのサーベルを複製召喚。七本の巨大サーベルを出現させ、それを自身の周りに展開。円を描くようにくるくると回転させ、更に加速。勢いを付け、弾丸の如く発射速度でサーベルを放ちました。
狙われたのはラクシオン。しかし、スレイブがラクシオンを庇い、三本のサーベルが貫通しました。スレイブが墜落する中、続けて来る四本のサーベルをラクシオンは損傷しながらも何とか回避。即座にビームライフルを構えましたが、そこにケリドウェンの姿がありませんでした。
コツンと、音を立ててラクシオンの頭部に着地するケリドウェンは言います。
「チェックメイト」
ラクシオンはケリドウェンの手から放たれる電撃に麻痺れ、そして先ほど避けたはずのサーベルが全て旋回して戻って来て、ラクシオンの体に全て刺さりました。
火花を散らしながら落下するラクシオンの頭部を蹴り、再び浮上するケリドウェン。刺されたラクシオンはコアを損傷しており、墜落しながらゆっくりと消滅していきました。
しかし、その様子をモニター越しに見ていたシュゼルクスは、
「今だ!」
と、ミイラに指示を出していました。
ケリドウェンがロボットブレイバーと戦闘してる最中、帝都の中央に聳え立つ巨大兵器クティオスドールの起動が完了し、その腕にあるエネルギー砲の照準をケリドウェンに合わせていたのです。
クティオスドールの動力源である巨大ホープストーンが眩い光を放ち、そのエネルギーが左腕のエネルギー砲に伝達、変換された後、その膨大なエネルギーを溜め、そして発射されます。
クティオスドールを操縦しているミイラは、
「避けれるものなら避けてみな!」
と、トリガーを引きました。
発射されたエネルギー波を、ケリドウェンは咄嗟にロウセンシールドで防ぎます。が、ロウセンシールドはその温度に耐えられず、融解を始めます。
ケリドウェンはすぐにロウセンシールドを複製召喚し、それを重ね掛けする事で耐え抜こうとしました。
しかし指揮を取るシュゼルクスは更なる追い討ちを指示します。
ケリドウェンのすぐ横には、巨大な大煙突があり、その下に仕掛けられていた爆弾が爆発。
それにより巨大な煙突が音を立てて傾き、そして倒れる混凝土の煙突がケリドウェンを襲いました。横からは巨大な混凝土の塊、前方からは高出力のエネルギー波、対応できずに巻き込まれるケリドウェンを映像で確認したシュゼルクスは、強気の姿勢でこう言い放ちます。
「こちらのエリートブレイバーを撃退したのは見事。しかしそれだけ夢世界スキルを使ったとなれば、活動限界だ。その上、その状態では夢世界スキルも使えまい」
シュゼルクスは手に持っていた懐中時計をテーブルに置き、クイーンの駒を指で弾き倒しました。
クティオスドールのエネルギー砲も止まり、崩壊した大煙突の瓦礫が飛び散りながら砂埃を上げ、先ほどまで規格外の戦闘が行われていたのが嘘だったかのように、場は静まり返りました。
しかし、ここからシュゼルクスにとって誤算が起きます。
巻き上がった砂埃の中から、飛び出した影があったのです。
翼を羽ばたかせ、気絶したケリドウェンを抱き抱えて飛行するのは、救助に駆け付けて来たヴァルキリーバグでした。ギリギリのところでケリドウェンを救出し、逃亡しようとしているのです。
「なんだと!」
と、思わず立ち上がるシュゼルクス。
「逃すな! ミイラ!」
シュゼルクスからの通信を受け、クティオスドールの操縦席に座るミイラは逃げるヴァルキリーバグに照準を合わせ、トリガーを引きます。
「外さないわ!」
クティオスドールの腕から再び放たれようとするエネルギー砲。エネルギーが充填され、発射さるその瞬間でした。
空から急速に落下してくる白い人型の物体。雲の上から、ほとんど垂直に落下してきたソレは、ビームソードを手に持ち、そのままクティオスドールの目前に着地すると同時、エネルギー砲の砲身を斬り落としました。
方針を失った事で暴発したエネルギー波は、明後日の方向、空の彼方へと消えていきます。
急な出来事に、シュゼルクスとミイラは開いた口が塞がりませんでした。
オズロニア帝国が誇る超巨大兵器クティオスドールの目の前に現れ、その最大の武器を斬った白い人型ロボット。それはブレイバーロウセンでした。
ケリドウェンの後を追いかけるように空を飛んできたロウセンが、オズロニアの帝都に到着したのが今。ケリドウェンが危機に陥ってる場面だったのです。
「機械ブレイバー! 何処から!」
と、ミイラは慌てて破壊された腕とは逆の右腕のエネルギー砲でなぎ払います。
巨大なロウセンよりも、何倍も大きいクティオスドールの腕を後退しながら避けるロウセンは、自身に全身武装アーマーを召喚。フル武装となったロウセンによる、全弾発射が行われます。
ビームが2本、小型ミサイルが十六発に加え、バルカン砲も放たれます。
「クティオスを舐めるな!」
クティオスドールにも全身に迎撃用の連装砲、連装高角砲、連装機銃、あらゆる手段を用いて放たれた小型ミサイルを撃ち落とします。しかし動けないクティオスドールは、ビームの直撃を受け被弾。胴体の一部が爆発炎上しました。
被弾しながらもクティオスドールは右腕にまだ残されているエネルギー砲で、ロウセンを狙い撃とうとします。
しかし、ロウセンはフルアーマーをパージし、フルスロットルで上昇。巨大なクティオスドールが対応できない速度で上昇したロウセンは、再びビームライフルを構え、クティオスドールの頭部を撃ち抜きます。
メインカメラの映像が途切れた為、ミイラはすぐにサブカメラの映像に切り替えながらも、出鱈目にロウセンがいた方向に対空砲を連射しました。
しかし、映像を切り替えてる隙にロウセンは一気に後退しており、帝都外に向かって飛びながら、コクピットハッチを開いてヴァルキリーバグとケリドウェンを回収していました。そしてロウセンは自身の夢世界スキル《フォーミュラシステム》を発動させ、飛行速度を更に加速させました。
逃げるロウセンに向けて、エネルギー砲が一発放たれますが、察知したロウセンは回避行動を取りながら上昇。まんまとエネルギー波を避けてみせ、そのまま遥か上空へと逃げ去っていきました。
作戦指揮を取っていたシュゼルクスは、思わず司令室から飛び出し、クティオスドールの真下にある建物の縁から一部始終を見ていました。
逃げ去るロウセンの機体を見て、シュゼルクスは驚愕から喜びの表情へ変化させつつ、独り言を言います。
「オーアニルの魔女を、ヴァルキリーバグとエルドラドのブレイバーロウセンが助けた……はは、冗談だろ。これはさすがに予測できる訳が無いじゃないか」
そこへクティオスドールの操縦者、ミイラから通信が入ります。
『シュゼルクス、すまない。不覚を取った』
「それは俺の台詞だ。だが収穫もある」
『収穫?』
「世界に名高いブレイバーケリドウェン。奴には勝てる。そして、レクスの置き土産は、ブレイバーと協力関係にある」
『戦えるのか、私たちは』
「ああ、こちらの武力は示した。逃げたということは、これ以上の驚異は持ち合わせていないということだ。クティオスドールの修理を急げ。次はこちらから打って出る。我らオズロニアの楽園計画にとって、最大の障害を排除する」
そう伝えたシュゼルクスは、足早に持ち場へと戻り、被害状況を映像で確認しながら、各所へと次の指示を出しました。
ケリドウェンが切り開いた壁の穴からバグの軍勢が押し入りますが、ラタトウス率いるガンドール隊が防衛。夜通しの戦いを経て足止めに成功しており、お互いに甚大な被害が出ましたが決着に至りませんでした。
夜通しの防衛戦の最中、シュゼルクスはデスの駒を取り出し、それをそっと地図の上に置きながらブレイバー収容所に通信を入れました。
「……ブレイバー収容所のエリートクラスを出す。いくつ出せる?」
『三部隊編成可能かと』
「それでいい。ブレイバージェイはまだ健在か?」
『ジェイですか? ええ、大人しくしていますよ』
「俺の所に連れてこい」
『しかし、奴は……』
「空の魔女が現れたと、そう伝えれば従ってくれるさ」
『あっ! なるほど。了解しました』
「頼んだ」
地図の上で、ケリドウェン等が逃げた方向に置かれたクイーンの駒。そちらにデスの駒の向きを合わせ、そしてこれから起こるだろう戦いを想像し、含み笑いをするシュゼルクスでした。
オズロニア帝国で激しい戦闘が起きている中、和の国ヤマトでは浜辺に打ち上げられているドエムとレイシアの姿がありました。二人は気絶していて、動きません。
そこへ笠をかぶり薄汚れた着物と帯だけの着姿で近くを通り掛かった男が、浜辺に倒れている二人を見つけ、救助していました。まだ嵐は通り過ぎておらず、強い雨と風が吹き荒れる中、男はドエムとレイシアを担いで移動し、長い階段を上り、悲壮感漂う廃墟の寺へと入って行きました。
【解説】
◆オズロニア皇族
帝国第三十九代皇帝、ルドラー・ビス・オズロニア。
帝国第一皇妃、マリー・ウル・オズロニア。
帝国第五皇子、ラタトウス・ネイ・オズロニア。
帝国第二皇女、ミイラ・ネイ・オズロニア。
帝国第二皇子で帝国宰相、シュゼルクス・ウル・オズロニア。
以上、軍事に関わる皇位継承権を持つ皇子や皇女だけでも約二十人以上が在籍し、オズロニア帝国内での政権を揺るがなせない絶対的体制を築いている皇族である。彼らは常軌を違した文明レベルと、まるでレクスやバストラと知り合いかのような言動が見られるが、その真相は後に語られる。
◆オズロニアの機械兵器
独自の蒸気機関技術とホープストーンエネルギー技術により、ドールシリーズと呼ばれる機械兵器を扱う。
その中で、量産機であるガンドールは数百機以上配備しており、ブレイバーに頼らずにブレイバーやバグに対抗する手段を完成させている。
又、今回登場したクティオスドールは、帝国最大最強のドールであり、その破壊力はどんなブレイバーの夢世界スキルにも勝る。ただしその巨体の移動させる事までは、実現には至っていないようだ。
更にオズロニア帝国が扱う兵器は、ホープストーンのエネルギーや、ホープストーンそのものを使った弾丸が採用されており、バグと戦う手段が豊富である。
◆ブレイバースレイブ
ロウセンと同じ夢世界『アーマーギルティⅤ(ロボット対戦ゲーム)』出身のブレイバーで、機械仕掛けの人型巨大ロボット。
黒のボディを特徴とするブレイバーで、主要武器はビームライフルとサーベル。主に日本刀のようなデザインのサーベルを用いた近接戦闘を得意とするサムライスタイルのブレイバーである。
オズロニア帝国ではエリートクラスに属するブレイバーで、ロウセン同様に言葉を発する事はできないが、仲間思いで情に厚い性格である。
◆ブレイバーラクシオン
夢世界『ウルトラロボット戦記(シミュレーションRPG)』出身のブレイバーで、機械仕掛けの人型巨大ロボット。
青のボディが特徴的で、ビームライフル、ミサイルポッド、バズーカランチャーなど、多種多様な遠距離攻撃を得意。
スレイブと同じくエリートクラスに属するブレイバーで、言葉を発する事はできないが、ブレイバースレイブとは互いに切磋琢磨した仲である。
◆ブレイバーロウセン
夢世界『アーマーギルティⅤ(ロボット対戦ゲーム)』出身のブレイバーで、機械仕掛けの人型巨大ロボット。
自由にカスタマイズしてオリジナルロボットでの戦いが楽しめる夢世界出身で、ロウセンの主要武器は片手持ちで連射可能なビームライフルと、背中に背負った大きな剣になる。
状況に応じて左腕にシールドを装着できる事や、頭部にバルカン砲を仕込んであるのは夢主のこだわりでもある。
又、彼の奥の手として搭載されている『フォーミュラシステム』は、著しくエネルギーを消費する代わりに、しばらくの間、機動力が格段に上がる能力である。それが終わると、エネルギー切れでまともに動けなくなる。
◆オズロニアの楽園計画
皇帝より軍事の統括補佐と国政を一部任せられているシュゼルクス・ウル・オズロニアは、楽園計画という言葉を口にしていた。
今回の戦いを最大の障害とも発言しており、オズロニア帝国にとっても、予ねてより準備を進めてきた計画を行う上で山場であると認識している事は間違いない。
◆オズロニアのブレイバー収容所
オズロニア帝国は、機械兵器によりブレイバーを必要としない軍備体制を整えているが、ブレイバーを利用しない訳ではない。
収容所でブレイバーを管理し、そこで戦闘訓練を積ませる事で成長を促し、そして階級分けで使えるブレイバーとそうでないブレイバーを選別している。
バグ化したブレイバー、又は結晶化が始まったブレイバーを、同じ収容所内のブレイバーに処理させるなど、それすらも戦闘訓練の一環として扱っている。
エリートクラスと呼ばれる、最高階級に属するブレイバーは帝国にとっても切り札となる兵器である。
そんな収容所内に、ブレイバーケリドウェンと何か因縁のあるブレイバーが存在している事をシュゼルクスは示唆していたが……




